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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第3章 獣人国・宝物蔵の守護者編
36/111

第3ー11話 2つの物語が交わる時

 ここは霊孤山・国主館本殿の中庭、朝一番の自主トレーニングを終了しそこから、今はサブローさんの剣術稽古の時間だ。

 彼の指導を受け始め、あれからもう3日が過ぎようとしていた、時にはリューコさんの買い出しに付き合わされ、時には晩御飯のおかずを巡り喧嘩をするアスタちゃんと九尾様の喧嘩をたしなめたり、時にはギリアムさんに字や文学を教わったり、毎日大忙しだ。

「仁殿今日からこれを使ってみるでござるよ」

 サブローさんは僕にいつもと違う得物を渡してきた、普段は普通の木刀なのだが先日「ジキル&ハイド」が、小型の二刀になることを説明したのだが、今回彼は小太刀位の大きさの小さい木刀を2本渡してくれたのだ。

「稽古であっても、自分の武器に近い物を使うのが1番でござる。」

 そういった彼は小太刀を使う方法、それを実際に僕にやって見せ詳しいコツや構え等は、それを構えた様に振る舞い口頭で事細かに説明してくれる。


「へぇ!刀剣でも長さや重量で構えや、リーチが変わるのは必然としても、基礎的な所は同じなんですね!」

「そうでござる、剣でも生きるにしても何事も基礎が一番大事という事でござる」

 サブローは思ったよりも、仁の飲み込みが早く教えるのが楽しく、仁自身もサブローとの稽古は本当に楽しくて仕方なかった。


 暫く基礎訓練をした後、サブローさんと共に階段に座り込み、水を飲みながら談笑を楽しむのは、実に楽しかった。休憩の時間を見計らうと、アスタちゃんとキュウビ様それに、リューコさんも庭まで来て皆で会話をするのも楽しいんだ。

「あははやっぱりジン君は飲み込み良い方なんだって!そのうちギリアムなんか越えちゃうかもよ~」

 からかうリューコさんに対し、赤面で照れる僕はいつぞやの如く頭に鉄拳を食らっていた。

「誰が俺を超えるって~?千年早ぇえよヘタレ」

「…ったた、あれギリアムさん、今日は街に行くって言ってませんでしたか?」

「ん?あぁ事情が変わったんだよ、ほらアカイワから手紙だ」


 事前に飛ばしていたらしい鳩の返信が今、ギリアムさんの手から僕へと手渡される、中を開封すると書かれている内容を順に僕は声を出して読み上げって言く。


「拝啓 仁君。そっちの魔人の件はギリアムからの手紙で大体把握した。皆健康で元気にやってるみたいで少し安心したよ、だがこっちでも問題が少し発生した。俺はミアと一緒に獣人国に向かうので、皆そっちに待機していて欲しい。PS お土産楽しみにしててね」

 と実に彼らしい、短い手紙だったが彼も無事で良かった。でもあの赤岩さんが問題と言う程だ、向こうでも何かあったのは明白。

「赤岩さんこっちに来るみたいですね、ギリアムさん到着はいつ頃になるんでしょうか?」

「指示書によると、出港したのが3日前だから、大体今日の深夜から明日の朝って所だな。」

 それを聞いた九尾様は、過去のトラウマか自慢の大きな尻尾を腹に抱える様に抱きしめ、ガタガタと震えている。

「こっ来ないで欲しいのじゃ…、もう怖いのは嫌なのじゃ…」


 震えた九尾様は、隣に佇む様に座っているナナさんの尻尾に潜り込み、自身の安全を確保しているがその震えはまだ収まっていない。

「はっはっは!九尾様は弱虫でござるなぁ、過去は過去、きちんと謝ればアカイワ殿も許してくれるでござるよ」

「むっ!うるさいぞ!サブローのバーカバーカ!我は悪くないし!悪いのは赤磐の方じゃ!ちょ~~っとふざけただけじゃのに、本気で怒りおって、「大人げない」と言うやつじゃ」

 彼女は必死に強がるも、その蒼白な顔は恐怖していると主張が見て取れる。


 まるで年の離れた兄妹の様に、言い合いをするサブローさんと、九尾様を見るとやがて皆は笑いに包まれ、庄司君の事は忘れた訳では無いが、頭の奥の方へ姿を消しトラウマも薄れていったんだ。

「おい、ヘタレ。魔導銃を取れ、稽古の成果見てやる」

 階段に座り皆で談笑していると、ギリアムさんは初めて僕に対し笑いかけてくれた、いつも何か考え事をしたような重い表情か、怒った様な表情だったが、口角を少し上げ口に咥えたタバコは空を向いている。

「はい!お願いします!」


 ギリアムさんは白いコートを、リューコさんに預け中の黒いシャツの袖をまくり戦闘態勢に入る、サブローさんから投げ込まれた木刀を迷うこと無く構え、サブローさんが両手で構えるのとは別に、ギリアムさんは片手だ。

 利き手である右手一本で構えると、切っ先をクイッと上げ「かかってこい」と僕に合図をする。

 左手で構える「ハイド」は小刀モードへ、右手で構える「ジキル」は銃のままにし、魔弾を発射しながらギリアムさんとの距離を詰めていくと、ギリアムさんはその身を華麗に操り、牛の突進を交わす闘牛士の様にかわしていく。



 サブローさんは剣道のすり足という、地面に足を付け攻めたり引いたりするのに対し、ギリアムさんは曲芸師の様に宙を舞ったり、剣を地面に突き立てそれを重心に側転等をいとも容易くやってのける立体的な動き、サブローさんとはまた違った経験だ。

「そこです!」

 そんな動きを見て体が追いついてきたのか、ギリアムさんの着地するタイミングが薄ぼんやりと解った。そのタイミングに合わせ、後ろを振り向きジキルの銃口を向けるとギリアムさんの背中が写った。

 僕は「取った!」と確信したその時、ギリアムさんはブリッチをする様に体を反り、僕の方へ向き顔へとタバコの煙を吹きかける。

「ぐぁっ!けっ煙が目に!」

「油断すんなバカタレ」

 姿勢を戻したギリアムさんからの、木刀での後頭部への痛烈な一撃。


「…ったぁ…、」

 頭を抑えるとやっぱり大きなコブが出来ている、ジンジンと熱を持ち痛みが響いている。

「ふん!俺から一本取るなんざ百年早えよ。もっと鍛錬しろヘタレ」

「…はい」

 そういうとギリアムさんは、リューコさんから上着を返してもらい赤岩さんに渡す資料を作る為と言い、何処かへと歩いていった。


「いたたた…リューコさん、もう少し優しくお願いします…」

「何を言ってんのよ、男の子でしょ。まぁでもギリアムとあれだけ打ち合える様になったら、ちょっとは進歩じゃない?やるじゃんジン君」

 リューコさんに治癒魔法を掛けてもらいながらも、今回の稽古風景を見たリューコさんから称賛の声を貰い、やっぱり照れてしまう。

 そうして皆と共に、夕方過ぎまで稽古や談笑しより一層親睦を深めれた気がする。


 汗をたくさん掻き、皆より少し早めにお風呂を頂いてる僕は、一人大きな古風の湯船に身を浸し、一日の疲れを溶かしていった。

「ふぅ…、もっと強くならなくっちゃ…」

 手に視線を移すと、赤黒く変色したマメが目に入った…「これは僕が、頑張った…証」、自分でも毎日こんなにハードな特訓をして、正直キツイ・辛い・辞めたい、何度考えたことか…でもその度に赤岩さんやギリアムさんの背中が眼の前に現れるんだ。

 そして赤岩さんの人生を見てたい、と思っていた僕だったけど最近新しい目的…いや「夢」が出来た。


「赤岩さんやギリアムさんと肩を並べて、同じ光景を見てみたい」


 そう前よりももっと貪欲に、明確に、ハッキリと僕は夢を描いた。その為には日々努力しかない!それが最短で最速の道だと信じる。

 

~~~シシリアルから獣人国までの船の上~~~


「あの手紙の様子だと、ギリアムは上手いことやってくれたみたいだな~。それに俺の思惑通り事も運んでるし」

「思惑ですか?」

 船上でゆっくりと、潮風を浴び佇むジュンとミアは遠い獣人国の地を見ながら、彼らの話題を上げ楽しそうに話している。

「そう、ギリアムはあんな態度だろ?いっつも俺と喧嘩しちまうからな~」

「解ってるなら少しは控えてくだいよ…もぉ」

「はははは、ごめんごめん。でもな俺はあいつとの接し方を変えたら、対等じゃないと思ってるしあいつもそうだと言うと思う。んで仁君も大分変わったよ。」

 涼しげに笑うジュンは、普段喧嘩しかしないギリアムの事も、気にかけており仁の事も弟の様に可愛がっている。


「えぇ。ジンさんも変わりましたね、たった1週間だけだったのに。」

「最初はビビってただけだったけど、見てるとギリアムともよくコミュニケーションを取ってくれる、その事でお互い理解を深めつつ有る、俺はそれがすげぇ嬉しい」

「私も皆が仲良くなるのは、嬉しいですよ。でもジュンさんがジンさんや他の皆にばっかり気にしてるから、私…少しヤキモチ焼いちゃいますよ」


 結婚して約3年程経つが、未だに仲睦まじい夫婦はジュンの転生した時の事を思い出し、遠い昔の事の様に少し寂しさを覚えていた。

「あの時は大変でしたね…」

「あぁ。でもあれがあったから俺は自分に慢心せず、人として正しい道を選べた気がするんだ。さぁってと、仁君には先輩として色々仕込んでやらねぇとな」


 ジュンはもたれかかるミアの肩を寄せ、少し照れくさそうに笑っている。

 それからも2人を乗せた大型客船は、ゆっくりと獣人国へ向け遊覧を続けていく。



To Be Continued

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