第3ー6話 血をすする少年
トラウマを呼び起こし、その場から動くことが叶わなくなった仁。眼の前の男「山下庄司」、今まで倒してきた魔人とは一線を画すその凶暴さ。
ギリアムに切断された右腕は、傷口から吹き出る膨大な血液が形作り、元の通り修復されてしまう。
「俺は血液さえあれば無敵!!それにこの2ヶ月間何人いや…何百人喰らったと思っている!!血液のストックはまだまだ有るぜぇぇぇぇっ!!」
いきり立ち飛びかかる、繰り出される無数の拳打はギリアムを襲うが、庄司の気配・目線・拳の流れ等がハッキリ見えており、何一つギリアムには掠りさえしない。
徐々に苛立ちを表す庄司の攻撃が、今まで少々大振りになったのをギリアムは見逃さなかった、迷わず洗練された拳を庄司の顔目掛け放つ。
「攻撃も防御も全くのド素人…それに、感情を表に出しすぎだ。やれ魔女」
ギリアムの合図と共に、リューコの魔力で形成された炎の矢が庄司の左目を襲う。完全に深い所まで刺さり、傷口から延焼を始めていく。
「一度殺して死なないなら、死ぬまで何度も殺すだけよ。アスタちゃん!お願い!」
数歩下がり左目の激痛を堪える庄司、その彼の後ろには先程までリューコと同じ後方に居たアスタが居た、体を逆さにし両足での首へ「拘束」、少女とは思えない筋力での締めは、庄司の喉など簡単にへし折れる。
口から血液の泡を吹き、苦しそうに悶える彼は完全に力負けし、足の力は徐々に失われていく。
「アスタ今すっごい怒ってるんだから…」
一度強く地面へと叩きつけられ、その反動で庄司の体は宙へと舞っている。その一瞬を彼女は見逃さない、全身の筋肉を強化し、体を捻り構えを取る。その後はその場にいる誰一人、ギリアムですら視認が不可能な速度の一撃、背中で敵に激突し衝撃を伝え吹き飛ばす「鉄山靠」、ギリアムも構えややり方等は熟知しているのだが、アスタの様な破壊力は生まれない。
彼女は一瞬、ほんの一瞬だが全身を魔力で強化と自身の体に掛かる負荷の軽減する為の鎧を作り、光以上の速度で動く。
「(なっ!何が起こ…ったってん…だ)」
アスタの本気の一撃を喰らい、庄司が壁に激突するまで約0.03秒。周りの誰にも察知する事も出来なければ、防ぐ事すら不可能だ。
だが大きなデメリットも有る、この一撃が失敗で終われば体に乗った速度は行き場を失い、アスタ自身の体を壊してしまう。それに今回の様に成功したとしても、非常に多くの運動エネルギーを使うため、異常なまでの徒労感と空腹に襲われ、戦闘不能に陥ってしまう。
「…もう無理~…」
ペタッとその場に座り込むアスタ、庄司はと言うと壁に激突し通常の人間等比にならない程の、おびただしい量の血液を体から噴出している。
「(アカイワは、チビになんつー技教えてんだよ…)」
ギリアムは同じ場所で暮らし始めて、約2年程になるアスタの本気を目の当たりにし、若干引いていた。
壁に叩きつけられ再起不能となった、庄司にトドメを指すべくギリアムは彼に視界を戻すが、一瞬目を離した隙に庄司は残った左手を使い、屋根から地面へと転げ落ちていくが、ギリアムはそれを見逃さず追跡する。
「逃さねぇぞ…クソガキ」
「くくく…ギリアムつったか?普段から「良い行い」ってのはしておくもんだよなぁ…運が俺に回ってきたぜ…周りをよく見ろ!ここはごった返す人で溢れてるんだぜ!」
最初はただのカマかけかと思ったギリアムは、表情を全く変えずに庄司に近寄っていくが、突如後ろから人の悲鳴と、風を切る何かが近づいてくる音が聞こえ、その場に身を伏せ間一髪逃れる。
遠くに離れていた筈の、彼の大剣が男女問わず5人程の人を貫き、庄司の元へと帰ってきた。絶命した死体から滴り落ちる血を全身に浴び、狂気の入り混じった笑顔で自身の体が治る感覚に酔いしれている。
「流石は魔人…と言った所か。生命力を少し侮っていた」
ギリアムは目の前の死体が、血をすすられ風化していく様を見て、今まで以上に大剣に注意を払う。
「魔人?あーんな雑兵如きと一緒にするなよ。それにあんな奴ら幾らでも作れるし、何より失敗作!俺はこの世界最強「赤岩順」という男を、いずれは超える存在!全ての生態系!人類!の頂点に君臨する男だ!!」
風化した死体を、剣から振り払い塵にした所でギリアムに再び襲いかかる。
その大振りの大剣からは考えられぬ、斬撃の速度はギリアムの想定を大きく上回っていた。先程より格段に威力も、速度も上がっている。
先程までは完全にギリアムの優勢だったが、今となれば少しづつギリアムが押されつつあった。
「(血を吸う度に学習している…いや、強くなっている…が、アカイワには遠く及ばない…奴の鬱陶しさには遠く及ばん!!)」
ギリアムは身を翻し、庄司の腹部に向け強烈な蹴りを放つも、庄司は大剣の腹で衝撃を受け止める。
2人の攻防がより激しさを増した頃、庄司の背後に人一人は入れる様な大きさの闇が現れ、闇の中から艶の有る若い女の声が聞こえてきた。
「ショージ…お食事は終わったかしら?そろそろ戻ってきなさい」
「ちっ…まぁお前らと戦うのはまだ血液の量が足りなさそうだ、だがな…次に会う時は必ず「殺す」。」
庄司は闇の中へと姿を消して行き、その追跡は不可能となる。その闇を目の当たりにしたギリアムは珍しく、表情を変え驚きを隠しきれなかった。
「なぜ…何故あいつが生きてる…」
To Be Continued




