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第1-2話 精神的月面着陸

 昨日はハナちゃんと、カイルさんのご厚意に甘えさせてもらい、温かい食事に温かいベットを使わせてもらった。

 地球に居た頃は、親は二人共家を空ける事が多く、毎日の食事はコンビニ弁当で済ませる事の方が圧倒的に多く、食卓はテレビの音と自分の咀嚼する音、無機質で冷たい食事だった。

 2人は自分に話しかけてくれ、僕自身「うん…」「はい…」みたいな言葉しか返事は出来なかったが、ハナちゃんは笑顔で、カイルさんは時々怒って「もっとシャキッとしろ」と怒鳴って来たけど、カイルさんも笑顔で話しをしてくれた。


 そして僕は次の日の朝、カイルさんに起こされた時刻は何時くらいだろう、スマホは事故の時の弊害か、液晶は割れグシャグシャになっており、とても使えたような状態では無かったんだが、カイルさんに太陽の角度で大体の時間は把握出来ると教えてもらい、今日は晴れで畑仕事にはうってつけの日和と言い、鍬を持ち畑仕事に向かっていった。

 ハナちゃんは、キッチンでカイルさんの食べた後の食器を鼻歌を歌いながら洗い、楽しげに家事をこなしていた。

「お…おはようございます」

「あっおはよう!昨日は良く眠れた?」

彼女は聖母の様な眩しい笑顔を此方に向け、朝の挨拶を返してくれた。

「カイルったら、食器も下げずに畑に行っちゃうんだもん。ほんと酷いよねー」

ハナちゃんは頬を膨らませ、一つ愚痴をこぼした所で僕の背を押し、作りたてかまだ暖かい食事の並ぶ机へと案内してくれた。

「ぼ…僕、朝は…」

「もう!何言ってるの!朝ごはんをちゃんと食べないと元気になれないんだから!」

 そう言われると、僕はいつ以来だろうか並べられた朝食を少しづつ食べ始めた。パン・卵・レタスのサラダ、どれもとても美味しかったんだ。


 僕の食べる向かいに、ハナちゃんは紅茶の入ったカップを持ちながら席に着く。

「仁君は何処から来たの?見たこと無い服や顔立ちだけど」

「えー…と、に…日本から来ました…」

ハナちゃんは少々ピンとこないみたいで、小首をかしげ悩んでいた。

「えっと、日本っていうのは…えーと、赤岩さんの出身国でもある国なんです」

 僕はこの世界で最も有名な、赤岩さんの名を借りて自分の出身国の説明を軽くすると、ハナちゃんは驚きのあまりに瞳を見開かせ、パクパクと口を開けていた。

「あの…あの、最強ザ・ワンさんと同じ出身なの?!それじゃ仁君も物凄く強かったりするのかな?」

 カイルさん程では無いが、ハナちゃんも瞳をキラキラと光らせ更に質問をしてくれた。

「え、あ、いや、僕は、…僕は格闘技とか何も出来ないし、むしろ運動とか下手だし…」

「えーとなんかゴメンね、私何か嫌なこと聞いちゃったかな?」

 慌てた様に僕に気を使ってくれる彼女は、本当に優しい心の持ち主なのだろう、あたふたと肩を落とした僕に何度も元気をくれる言葉をくれる。


 こんな時地球で過ごしていたら、飛んでくるのは「罵詈雑言」「嘲笑」「嫌悪」だけだった、だが彼女はそんな人物達とは全く違った反応を見せ、僕からすればある種「違和感」だった、とても心地の良い腹の底をくすぐるような「違和感」。

「は…ハナちゃんと、カイルさんは何故2人で?お…お父さんやお母さんは?」

僕はただの好奇心でこの質問をしてしまった、その質問は彼女の表情を少し曇らせたが、彼女は語ってくれた。

「私達のお父さんとお母さんはね、死んだんだ。2年前に」


 禁句を聞いてしまったと思い、僕は直ぐに謝罪をするも彼女はさっきまで見せてくれた笑顔で、「ううん、大丈夫」と言い続きを聞かせてくれた。

「2年前、私とカイルは14歳だったんだ。私とカイルは双子の兄弟で、私の方がお姉ちゃんなんだけどね。いつもみたいに、お昼にお母さんの家事手伝っている時、突然「荒野の鷹」って名乗る盗賊団に村が襲われたんだ。その時お母さんは、私をクローゼットに隠した後に目の前で殺されたの。カイルも同じ、畑で仕事をしてて襲われたって聞いた。カイルを庇って背中からね。」

 彼女は震える手でカップを握りしめ、言葉を繋げていく。

「その時お父さんの血で塗れたカイルを連れて来てくれたのが、「アカイワ ジュンさん」だったんだ。とても悲しい目をして、連れていたメイドさんに私達を守るように言った後、どこかに走り去っていったの。その2時間後位かな、あの人は盗賊団の主犯格を全て捕獲して、憲兵に引き出していった。」


 赤岩さんの「最強」たらしめるその理由、それは彼の心の奥底にある「優しさ」そのものだったんだと思う。

「村の皆はね、家族を殺された人も少なくなかったから、皆で復讐にもならないけど足元の小石を投げつけてた。もちろん私も投げてた、父さんと母さんは何も悪い事してないのに、殺されたんだもん、悔しくって悔しくって、でもアカイワさんは言った」


「俺は盗賊団こーゆうやつらが嫌いだ。だがどんなクズにもやり直すチャンスを与える必要はあると思う。でも皆ここで、こいつらに「たかが小石」を投げつけてなんになる。皆が出来るのは、こいつらを村総出で許すな。こいつらに一生消えない罪悪感を植え付けてやれ。それがこいつらのチャンスであり、贖罪だ。でもそれでもダメで、また悪さをしたのなら今度は俺自らがこいつらに「地獄バツ」を与える。」


「それがアカイワさんの言葉だった、一言一句忘れず覚えてる。私は当時アカイワさんの言っている事を理解できなかったけど、今なら少しわかる気がするんだ、」

 僕は正直、彼女たちに困惑した。僕の人生より辛い思いをしてるのに、なんで笑顔を絶やさず、毎日を頑張れるのか不思議だった。

「赤岩さんは、は…ハナちゃんとカイルさんの、ひ…ヒーローだったんだね」

「うん、だから私とカイルだけじゃなくて、村の皆はアカイワさんの事を尊敬してるし、大好きなんだ。」


 僕はそんな凄い人物に命を救ってもらい、この2人に出会えた事に感謝をしていた。そしてより一層僕の中で「赤岩さんに会って、その人物ものがたりを見たい」という気持ちが、大きく、具体的に、形作りほんの少しだけ、勇気をくれた。

 この時灰色だった僕の心に、「憧れ」という色が加わり、胸の奥が熱くなったのを今も覚えてる。


 すっかり冷えた朝食も、僕は残さず腹に押し込み自分の意志で、カイルさんの畑仕事を手伝う事決め、家を出たんだ。

 畑ではカイルさんに、こってり怒られながらも農具の使い方を教えてもらい、畑の横の川辺で一緒に昼食を過ごした。一人分の昼食を2人で分けると、やはり少々量が足りないか、夕暮れには2人共腹の虫を鳴らし、そこでも笑いあっていた。

 「ハナー、飯だ飯まだか?」

「もうカイル!一言目に「飯」?!行儀悪いってば!」

「いやーもう腹減って仕方無ぇんだよ」

「はぁ…もう、すぐご飯にするから待ってて」

カイルさんと、ハナちゃんの会話を聞いた時自然と3人で笑い、久し振りに「ただいま」といった。可笑しいかな、と思ったけどハナちゃんは優しく「おかえり」と返してくれた。


 僕達は3人皆で食卓を囲い、楽しく談笑をしていた時に、カイルさんは「こいつに農具を持たせるのは怖い」とか「へっぴり腰で情けなかった」とか「小さな毛虫で尻もち突いてた」とか、ハナちゃんに色々面白おかしく話し、僕は顔から火が出そうになっていた。

 その日の夜、僕はカイルさんと合い室の寝室で、隣で布団を被りカイルさんに自分から話しかけた。

「か…カイルさん」

「ん?なんだ?」

「ぼ…僕、赤岩さんに会ってもっと話ししてみたい。それに助けてもらったお礼をしたいんだ」

「…そうか。まぁでもお前みたいに農具すらまともに使えないんじゃ無理だな」


 カイルさんは笑いながら、憎まれ口を叩くも、地球で嫌という程味わった「否定」は感じなかった。

「あ…あはは、でも赤岩さんに言ってもらったんだ「君の決断で、未来は何色にも変わる」って。だ…だから、初めてだけど僕は決断、し…してみたんだ。どうかな?」

「プッ…あはははははは!何だよ「どうかな?」って自分の気持ち何だから自分で決めろよ。でもまぁそれなら俺もこの村から応援してるぜ。」

「あ…ありがとう、カイルさん」


 そんな僕の弱くて、直ぐにも折れそうな決断だったけど、カイルさんやハナちゃん、それに憧れの「赤岩さん」に勇気を一杯分けてもらえた気がしたんだ。



 アポロ11号に乗って月に行った、宇宙飛行士はこう言った「これは人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」と。

 この物語の主人公「岡野仁」にとって「赤岩順」とい存在は、仁を精神的に成長させた「大きな飛躍」となったのかも知れない。


To Be Continued

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