第2ー1話 入社1日目
僕がトクルの村から旅立ってから、約4時間程した頃、途中休憩を挟みながらも赤岩さんの操るバイクで、目的地の「赤岩探偵事務所」という看板の掲げられた、お屋敷へと到着した。
周辺には街や村等は無く、視界に映るのは森・山・川と言った自然だけだった。
その中に景観など全くの不釣り合いな「大豪邸」、屋根は青みの掛かった緑に、壁は白いレンガ調で組み立てており、周りには地球の学校のグランドなど比較にならない程大きな庭。
軽く200人は住めるだろう、いや…もっと入れるかもしれない。
赤岩さんは門をくぐると、バイクを止め手で押しながら玄関の前へと2人で脚を進めていく。
堅牢に閉じられた大きな開き戸は、家主を迎える様に開き赤岩さんと僕を迎えた。そこには赤岩さんと同じ位の年齢の、メイド服を着た女性が立っており赤岩さんにお辞儀をする。
「おかえりなさい。ジュンさん」
「あぁ。ただいまミア。俺が居なかった二ヶ月になにか進展はあった?」
「いえ、めぼしい情報は特に。それと完了済み案件が32件、ジュンさんの最終決算待ちの書類が15件と言ったところです。」
「助かるよ。書類はまとめて書斎に置いといてくれる?あっ…後これが手紙で言ってた「岡野 仁」君だ。これから住み込みで働いてもらうから、何か着れそうな服とか用意してあげてくれ」
「はいはい、それなら確かジュンさんの着なくなった服がクローゼットに何着か…」
「それでいいかな仁君?」
「は…はい!」
赤岩さんは、メイドのミアさんと呼ばれていた方に一通り指示を出した後に、彼女の肩に手を置き僕の方へと振り返る。
「仁君!赤岩探偵事務所へようこそ!そしてこれが俺の妻!ミアだ!」
ミアさんはただのメイドではなく、赤岩さんの奥さんだったのだ。
「これからよろしくおねがいしますねジンさん」
~~屋敷内・衣裳部屋~~
僕はあの後、ミアさんに連れられ屋敷内での生活リズムや、各施設の説明や場所を一通り教えて貰った後、この衣裳部屋にきて新しい服へと着替えていた。
「こ…こんな、上等な服…僕が着ても良いんですか?」
「ふふっ、良いんですよ。それに申し訳無いですが、全てジュンさんのお下がりですから。」
僕のように服の知識がない者でも解る、手触りはまるで羽衣の様な軽さの布地に、真っ白なワイシャツ。
上は深い茶色のジャケットに、下は深い濃紺のジーンズだ。
何故この様に地球で馴染みのあった服が有るのかと、ミアさんに質問をするとどうやら、赤岩さんの趣味の一環で作った自作品との事だった。
僕用にあしらえた様にサイズは丁度で、動きにくさも一切なかったのが不思議だ。(赤岩さんが作る時にサイズを間違えたらしく、作った後に気づいたと)
「あら。とてもお似合いですよジンさん」
「あっ…ありがとうございます」
ミアさんは物静かで、笑顔のとても似合う可愛らしい女性だ。そんな人に褒められると、照れずにはいられない。
彼女に連れられ、僕は赤岩さんの居る書斎へと脚を運ぶために部屋を出る。
~~屋敷内・書斎~~
部屋の前の付くと、中から何か言い合いをする声が聴こえる。
「だ~か~ら!お前のやった書類に、ミスが多いと何度言ったら解る!その修正するのはいつも俺だろうが!」
「はいはいは~い、っていうかうるせぇっ!耳元で騒ぐな!」
「おいアカイワぁ…人が大人しく言ってる内にいう事聞いとけよオイ!ぶっ殺すぞ」
「あぁ!?やれるもんならやってみろコラぁっ!」
「はぁ…あの2人は顔を合わせたら喧嘩しか出来ないんですか…」
ミアさんは部屋の前でため息を一つ付いた後、僕に会釈をし部屋に入っていく。
「はいはい、お二人ともジンさんの準備出来ましたよ。喧嘩は一旦終わりにしてくださいね」
「「ふん!!」」
赤岩さんと白いコートを着た青年は、喧嘩を止めそれぞれ定位置の座席に腰掛けていく。
赤岩さんは書斎の中央の窓側にある大きな机の所に、白いコートの青年は部屋の中央に設けられた長机の周りの椅子の一つへ。
そしてミアさんは赤岩さんの隣へ、座るわけではなくただ付き添うように立っている。
「ミア、悪いけどアスタとリューコ呼んできてくれるか」
「すみませんジュンさん、アスタちゃんは今遠征中で屋敷から離れてて。それにリューコさんは、魔術学会での発表があると、2日前からゲリュオーンに戻ってまして明日には戻るかと」
「そっか、なら今居るこのメンツだけでも自己紹介しとくか」
赤岩さんはミアさんと軽く会話をした所で、この場で自己紹介をするよう2人に指示をする。
「そうですね。では失礼ながら私から。私は「ミア」と言います。ここの家事やジュンさんの居ない間の仕事一式を任せれています。これからよろしくお願いしますねジンさん」
ミアさんは手を前で組み、頭をゆっくりと下げ一礼をする。
次はいつの間にかタバコを吸い、脚を長机に掛けながら書類に目を通している青年が口を開いた。
「ギリアム。ギリアム・ツェッペリンだ。」
それだけだった、書類に目を通しながら此方に一切目を向けず簡単すぎる自己紹介を彼は終えた。
「あ~…、ははっここに問題児が一人いるけどこれが俺含めたこの屋敷の半分だ。」
「自分が問題児とは、よくわかってるじゃねぇか。偉いぞアカイワ」
「お前だよ!ギリアム!」
「あぁ!?今なんつったコラ!」
一触即発・犬猿の仲・水と油、と言った所かこの2人は直ぐに再度喧嘩を始めようとしていたが、赤岩さんは僕に視線を戻しこれからの事を説明する。
「仁君、これから君には1週間毎に講師を変えて、計4週間の内に基礎を学んでもらう。」
「い…一ヶ月…だけで、ですか」
「そうだ。それにそれがクリア出来て初めて次のステップへと移れる。」
タバコを加えたギリアムさんは、ここで赤岩さんを遮り僕を睨みつけながら口を開く。
「フー…、それすら出来ん様ならヘタレ、遅かれ早かれお前はそこで死ぬだけだ。」
ヘタレ、ヘタレって僕の事ですか…。当たってるだけに、何も言えない。
「まぁ、キツイ言い方で申し訳ないが。こればっかりはギリアムの言う通りだ。俺達も戦場で常に君を守れる訳じゃない。そして君も鷹のアジトで見ただろう、俺達が相手にしているのは普通の人間じゃない。気を抜いたり、技量が足りなければ此方が食われる。そんな世界だ」
そうこれから赤岩さん達が、いや僕達が相手にするのは「魔人」そんじょそこらの魔物や人間など比にならない、怪物たちだ生半可な実力じゃ殺される。
「だから君には最短で、戦闘経験・実力・基礎的筋力・応用力・そして…この研修期間で自信を付けて欲しい。」
赤岩さんはニッコリと微笑み、僕に覚悟を再度有るかどうか確認して来た、その時僕には認めたくないが「逃げる」という選択肢が頭をよぎった。
だがそうは問屋が卸さない、ギリアムさんが僕の前へと歩いてくる。
「決めたぞアカイワ、最初の一週間俺が引き受けてやる。おい、ヘタレお前に地獄を見せてやる、逃げようと思うなよ。」
「壊すなよ…」
「ふん…壊れるかどうかはこいつ次第だ。最初の一週間で潰れるならそれまでの覚悟ってだけだ。それにアカイワ、お前は甘過ぎる任せられん。そんなんじゃこのヘタレは甘えるだけだ」
「言いたい放題言いやがって…はぁ、いいよもうギリアム任せた。」
ギリアムさんは、赤岩さんとひとしきり会話を終えると僕の方へ語りかけた。
「ヘタレ…明日の明朝から訓練を始める。遅れてきたらぶっ殺すからな。」
と、とだけ言い彼は書斎から僕の返事を待たず出ていった。
これから仁を待つのは、地獄すら生ぬるい鬼の研修期間の始まりだった。
第2章 研修期間 ここに始まる
To Be Continued




