第5-11話 三つ巴
翌朝、昨夜は皆で夕食を済ませ後に眠ったが、朝方になり不思議と目を覚ましたデューク。二度寝でもしようかと、布団の中でゴロゴロしていたがどうも寝付ける気配がなく、自分も歳かとぼやきながら体を起こし屋敷を探索する事に。
中庭の方面に出てくると、窓から中庭を走り込んでいるギリアムとジンが目に入る。朝一番だと言うのに、既に二人の額からは大粒の汗がこぼれている。
呼吸の乱れを感じさせないギリアム、それを後ろから一定の距離を保ち走るジン。
~~~赤岩家・中庭~~~
「おっはよ~、なになにお二人さん朝から元気ねぇ~」
「あっデュークさん、おはようございます!」
ジンは挨拶をキチンと返すが、ギリアムはデュークの方を見ると「フンッ」と呼吸を放ち、そのまま走り去っていく。
「ギリアムちゃん、朝から平常運転なのね」
「まっまぁ、あれがギリアムさんですから」
それからと言うもの、彼らは基礎体力がメインのトレーニングを済ませると、互いに一定の距離を保ちつつ組み手稽古に入った。
「よろしくお願いします!ギリアムさん!」
「この一ヶ月でどんだけ力付けたか見てやる。遠慮は要らん、来い!」
殺気と言うにはまだ幼く、放たれるオーラはギリアムよりも確かに希薄で相手に飲まれてもおかしくはない。
だがそれは殺気での話しだ、今のジンが彼に向けているものは殺気ではなく闘志なのだ。
技を教わった師へ対する尊敬、自分を出し切るという決意。それらを込めてジンはギリアムの間合いを確かめ、ひっそりひっそりと歩を進め距離を詰める。
「そうだ。相手の実力を知っていようと、知ら無かろうがいきなり攻めるのは愚策。二流のすることだ」
「はい。これもギリアムさんが教えてくれた事ですもんね」
ジンは深く踏み込み先手を取りに行ったかと思いきや、最初の行動は靴に付けた泥を蹴り上げ、ギリアムの視界を潰すというチンピラのような行動だ。
「ふっ、やはりそれで来たか」
「相手の五感、その中でも目と耳の情報量は際立って高い。ならまずそれを潰すのが……」
「「定石!!!!」」
泥を回避しジンの顎を狙ったアッパーカットは、蹴り上げられた足をそのまま拳に直撃させ、互いに膠着状態を見せたジン。
今までの彼ならば食らっていたであろう一撃、それを見越しての行動には見ているデュークも称賛を送らざるを得ない。
「ヘタレ、今の一撃を防いだのは良い。だが胴ががら空きだ!」
間髪入れずにギリアムは、鋭い拳打を横っ腹に向け振りかぶるもそれすら読んでいたジン。踏みつけた拳を足場に、宙へ高く舞い上がり一度距離を取る。
遠距離戦は少しジンに軍配が上がるのか、ジキルによる乱れ打ちにより着地までの追撃を完全に牽制している。
全弾を華麗に回避したうえに、一切の呼吸の乱れもない。直ぐ様構えを取り直し、ジンに攻めてくるよう促す。
それを理解したジンは、拳・蹴り・掴み全てを取り入れた乱打を繰り出すが、どれも決定打にならず捌ききられる。
「……良い攻めだ。的確に急所を狙いつつ、自分のペースに持ち込み相手の行動を制限していく。随分仕上がったじゃねえか」
「ありがとう御座います!」
それから5分程だろうか、二人は楽しそうに打ち合っていたが、起床してきたジュンに朝食だから家に入るよう言われると、互いに「あそこをこうすれば」「あのタイミングは良かった」と、これからを視野に入れた指示やトレーニングメニューの改善などを話し合っていた。
「ん?おっさんもう起きてたのか?」
寝ぼけ眼のジュンは朝刊のチラシを何枚か持ち、寝癖の暴れる頭を掻きむしりながらデュークにも声を掛ける。
「おっジュンちゃんおはよ~。あの二人って毎朝あんな事してんの?」
訓練風景の事を説明し、組み手は今日久しぶりにしたという事などを聞いていると、ここでジュンから意外な言葉が。
「そうだなぁー……ギリアム、ちょっとおっさんと組み手してみ」
「あぁ?何で俺が?それに朝食なんだろ?」
朝一番だと言うのにこの男は楽しそうに、そしてなにやら怪しげな思惑を匂わせるように、ギリアムにデュークと組み手するようコソコソと話している。
「お前もぽっと出のおっさんに喧嘩負けるほど弱かねぇだろ~。それにおっさんの実力見切れるよう立ち回ってくれたらよ、ミアに頼んで昼飯と晩飯ちょっとグレードアップしてやっからさ」
「確かにその通りだが、俺はこの後飯食って仕事が残ってんだよ。主にお前がミスった書類の訂正がなぁっ!」
「うん……それはゴメンね。じゃあさおやつも少しグレード上げる、勿論リィナちゃんの分も」
「よし、乗った」
妹のことが絡むと突然にチョロくなるこの男は、ジンと組み手する時以上に気合を見せ、デュークに早く準備するよう怒号を飛ばしているではないか。
「えーと……ギリアムちゃん、手加減してねおっさん腰痛持ってるし」
「知らん!リィナの楽しみが掛かっているんだ、手を抜くことは出来ん。それに……テメェみたいな狸野郎相手は手加減しねぇ位がちょうどいい」
うなだれながら着物の上をはだけ、上半身を楽にするとストレッチを開始する。彼のマイペースぶりには、若干イライラしているギリアム。
先制はギリアムが取ったが、ジンの様に素早い回避ではなく舞いの様に、ゆるりぬるりと避けるデューク。
「ちょっと~ギリアムちゃん手加減してって~」
「ったく!面倒くせえおっさんだ!」
ギリアムはデューク飄々とした態度とは裏腹に、常に腰に構えられた左手が気がかりであった。
格闘技や武術に精通しているものは、構えや脚さばき、引いては体幹の角度にまで細やかな癖が出るものだ。
デュークの癖というのは少し異質でしか無い、まるで舞いを踊るダンサーの様にしなやかな体幹、だが脚さばきや視線の配り方は剣士そのもの。
放たれる拳の軌道を読み、風に流れる桜の花びらの様にゆるりと流れ避けている。
「仁君、これどういう事かわかるか?」
「えーとギリアムさんが攻めていて優勢に見えるんですが、なんかちょっと違和感があるような」
「じゃあ例えばよ、この間合いでおっさんが刀を持ってたら?」
「………はっ!もしかして、ギリアムさんに確実に一撃を入れれるタイミングを探している!それも最小の体力消費と最短の距離を維持したまま」
「そういう事。だから武器がない前提の、この組み手じゃギリアムも攻めれるが、もしこれが本当の殺し合いならどっちが勝つか俺にもわからん」
わかりやすく二人の実力が拮抗しているという事を、ジュンはジンに解説を交え物の見方を促している。
ギリアムはそれ気付いていたのか、拳で仕掛けると見せかけ足払いを繰り出す。一瞬の出来事で並の格闘家ならば、まず反応は出来ないのにデュークは恐るべき反射神経で回避してみせたのだ。
「ったく~、おっさん格闘は苦手なの!ちったぁ手加減してよギリアムちゃ~ん」
純粋な力のみでは一歩劣るが、変幻自在の動きに加えて長年培った勘。
それだけ素晴らしい物を持ちながらも、一向に打ち込もうとしないデューク。何度も打ち込めるタイミングは有ったが、どれも避け続けるだけで挑発してるのか、はたまたギリアムの事を警戒しているのか、それとも単にやる気がないのか。
ギリアムが打ち込みそれを回避したデューク、顔を仕留めるように狙った拳は宙を殴り抜けた後、即座に腕を引き後頭部を狙った肘での一撃。
それをも避けると両手での腹部を掌底で撃ち抜くデューク、見ている二人からすれば大した威力も無い筈、それなのにギリアムを吹き飛ばし胆力の塊の様な彼すら膝を地に付けた。
「やっぱ剣が無いとタイミング測るの時間が掛かるなぁ」
「てめぇ……何しやがった」
組み手という条件でなければ、きっと今の一撃のみでギリアムは再起不能にまで追い詰められていた。
デュークが行ったのは相手の鼓動と筋肉の機微から発するタイミングを捉え、その真逆の振動を送り伝える特殊な技法。まともに喰らえばまず無事では済まない、体中の筋肉繊維を破壊することも可能なこの技。
「それまで!今回はおっさんの勝ちだ」
体制を立て直したギリアムは即座に反撃に出ようとするが、ジュンの号令とともに静止を余儀なくされる。
「ギリアム……お前今回ちょっと油断しすぎだ」
「だが今回でおっさんのデータは取れただろ。勝つのが目的じゃねぇならこん位でちょうどいい」
受け取った水を飲みながらも、今回のデータや戦ってみた感想等をジュンと共有していく。
「ねぇジンちゃん、あの二人って本当に仲悪いの?」
「悪いようには見えませんけどね。デュークさんお水どうぞ」
しばらく休憩しつつも情報共有が済んだジュンとギリアムは、朝食の時間のため二人を連れ屋敷に戻っていく。
デュークふと違和感を感じ、後ろを振り返ってみるが中庭の様子は何も変わってはおらず、自分の気のせいだと3人の後をついて行く。
「(あのオヤジこの距離で気付いたッスか……でもバッチリ見せて貰ったッスよ。またまたとんでもな化物が加入したッスねぇ~こりゃウチも戦力増やさないとキツそうッス)」
赤岩邸からかなり離れた崖上から、朝の稽古風景を双眼鏡で見ていたルナは自分が居ない間に加入していたデュークの戦闘力を図っていたが、赤岩家の主要戦力の三人に匹敵するとロザミアに報告する資料を書き上げていた。
だがそれ以上に気がかりなのは、ジュンに悟られないよう月日を費やし見つけたこの場所を、あのダメそうなオヤジに見つかったかという疑念。
「これは今夜にでもロザミア姉さんに……」
「私に何か言いたいことがあるのかしら~?」
「うわっ!居たっすか姉さん!」
険しい表情で今回の情報を纏めていたルナは、いつの間にか隣で笑みを浮かべながら佇むロザミアに驚くが、即座に収穫を手渡す。
「あらあら貴方があっちに帰ってまだ1日も経ってないのにこの情報、本当にいい子ね~」
「ありがたいっす。でも本当にこのまま放置して良いっすか……魔王サマはアタシ達を潰す為に本気で戦力増やしてるッスよ」
「いいのよ~最後に勝つのは私達だし。それにいい協力者も手に入った事だし」
不敵な笑みを崩さないロザミアは、暗闇から取り出した果実を絞ったドリンクをルナに差し出し、これからの動き等をルナへ伝え指示も含め伝えていく。
「姉さんその協力者って、どんな奴なんすか?ショージみたいに下品じゃないほうが良いんすけど~」
「ふふっショージも嫌われたものね。1つ目はディストリア現国王よ、色ボケ国王だから落とすのには苦労しなかったわ。本当に楽で仕方なかったわ」
「あ~やっぱ男ってそんな生き物なんすね、どいつもこいつも同じッスね。1つってことはもう一つもあったり?」
「あら少し馬鹿な方が可愛いし扱い易いものよ。勘が鋭いわねぇ~、そうよ2つ目の方が重要なの」
色気と共に不気味な笑みは更に気配を増し、同性であるルナですら妖艶さと美しさには唾を飲んでしまう。
「2つ目はディストリア最強の男・別名『太陽』。その潜在的戦力は魔王様にも匹敵するわ」
「マジっすか!……ん?ならそっちを魔王にした方が……」
「嫌よ~私はあんな性欲が強そうないかにも雄って男はタイプじゃないのよ~。魔王様みたいなイケメンが好みなの」
「姉さん結構面食いなんすね……」
「まぁ冗談はさておき、器になれないのよあの男じゃ」
恋する乙女のようにキャーキャー言っていた女とは別人のように、表情を締め直しルナに語る始める魔王の器の概要。
「魔王となる人物の特徴のまず1つ。圧倒的な怒りや憎しみの激しい負の感情、並大抵の物じゃまず器になれないわ。もう一つ生まれ持った『武人』としての超人的才覚」
「激しい憎悪を持った武人、探せばこの世界にも居そうッスけどねぇ」
「そうね~。でも最後のこの項目が一番重要なの、闇の魔力への圧倒的な適正。今まで何人も試してきたけど、全てが一致したのはあの『アカイワ ジュン』というあの男、ただ一人なのよ」
「闇の魔力の適正……」
「そうそれが一番大事なの。今回の協力者はその真逆、光の魔力を宿していたから魔王の器にはなれなかったのよ」
ジン以外にも光の魔力を有する者がいるという事を聞き、伝説級の存在が同じ時代に二人も居ることに驚きが隠せないルナ。
「じゃあ決戦の時には……」
「えぇ。その男にも出張ってもらうわ。だからルナ、貴方にはそれまで魔王様達の身辺情報の収集をこれまで通りお願いね」
これを伝えるとロザミアは来た時と同じように、暗闇の中へ姿を消していきその場から離れた。
オーバーコートを追う赤岩家一行、その裏ではロザミア達の計画が一手一手着実に進められていた。
不穏な空気が漂い、各々の目的が動き出す。
To Be Continued




