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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第5章 20年の終止符
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第5-10話 しんどい時は美味い飯食ってりゃだいたいなんとかなる

  会議が開始し約3時間程経ったが、何一つ良案は思い浮かばず会議室は死屍累々としていた。

「あー……良い案出ねぇなぁ、どうすっかなぁ」

「ねーししょー、アスタ飽きた」

 この二人に至っては、もうやる気など微塵も残っていない。


 城下町を片っ端から聞き込むなど、もう一度事件が起きた場所や施設を洗い直すの他にも幾つか案が出ていたが、どれもいまいち効果を望めそうに無かった。

「もうそろそろ夕食の時間ですね、すみませんジンさん少し手伝って頂けませんか?」

「あっはい!じゃ赤岩さん、失礼します」

 ジンはジュンに礼をすると、ジュンは力なく手を上げる。ジンはミアの後ろを付いていき会議室を後にした。


「ミアさん、赤岩さんはどうしてどの案にもいい反応を返してくれなかったんでしょう」

「それはですね、理由は2つ程ありますね。一つはジュンさんの『15%』で2発掛かって仕留めそこねた。これがどういう意味を持つかわかりますか?」

 ジンの質問に対し、笑顔を崩さずに明確な答えは出さずジンへ逆に質問を返し、自分で気付かせようとするがどうもピンと来ていない彼に言葉を続ける。

「ジュンさんの『15%』というのは、普段魔人と戦っている時の約5倍に値する力なんです」

「という事はあの男は、魔人よりも格段に強い……」

「そうです。それだけでジュンさんからすると十分に警戒する相手、生半可な策は通用しないと睨んでいるんです」

「じゃあもう一つの理由……って言うのは?」


 一度深く呼吸をし、ミアはもう一度笑顔を作り直す。

「デュークさんの事です。相手が深い因縁のある相手なら、ジュンさんはどうにか彼に討たせたい。そう思っているっているから選択肢も、デュークさんが起点となった案を用意する他ないから幅も格段に狭まる。という事ですよ」

「やっぱり赤岩さんって、優しいんですね」

「ふふっそうかも知れませんね。そういう所が……」

 ミアが言葉を続けようとした所で、中庭の方角から屋敷全体を揺らす衝撃が幾度か放たれる。廊下で談笑をしていた二人は、いつもの事かと別段止める気配は無い。

「ジンさん、今日の夕食はサンドイッチですね」

「ですね。魚の方は予備有りましたっけ?」


~~~~赤岩家・中庭~~~~


 中庭の中心では互いに上着を脱ぎ去り、打ち合いを繰り広げるジュンとギリアム。

 拳と拳、蹴りと蹴り、頭突きと頭突きが交わりながら、二人はこれからオーバーコートをどうするかという話し合いが続けられていた。

「ギリアム的にはどう思うよ」

「あぁ?相手の行動パターン・思考・拠点、他にも足りねぇ情報が山程ある。んで相手は死体の中に入るか着るかしらねぇが、擬態能力が有んだろ。そんな状況で見つけるなんざ雲を掴む話しじゃねぇか」

「そりゃあごもっとも。なんかこう、上手いこと釣れるような餌さえあればなぁ……」

 辺りは日も落ちすっかり夜、その光景を見ながらリューコは唇を尖らせ、新作の魔術道具を弄っている。


「リューコちゃん隣、良いかい?」

「勝手にすれば」

「厳しいねぇ。んじゃ勝手にさせてもらうよ」

 彼女の隣に腰掛けると、持ってきていた清酒を一杯口に運んでいき、二人の会議の続きを見ているデューク。

「ねぇリューコちゃん、あの二人はいっつもこんな感じなの?」

「そうよ。いっつもなんか有る度に喧嘩か稽古かしらないけど殴り合いしてんのよあの二人、ってか臭!おっさんどんだけ飲んでんのよ」

 離れろと言わんばかりに、リューコは手で払うと一人分位のスペースを開け座り直す。


「酷くないリューコちゃん……おっさんまだ瓶一本しか飲んでないよ」

「そんだけ飲めば十分よ!というかこんな時間から飲んでたら後でミアちゃんに怒られるわよ」

「そりゃあ……怖いねぇ……、でもまぁ二人共よく鍛えてるなぁ。こりゃおっさん敵わねぇわ」

 二人の人間離れした殴り合いをしながらの、言葉を交わす余裕がある事にデュークは軽口を叩いて入るが、別段驚いてる様子は無い。


「……おい、アカイワそう言えばよ襲われた奴になんか特徴とか、共通点とかねぇのか」

「そうだなぁ1件目は近いうち結婚するって言ってたカップル、2件目は商売が軌道に乗り出した商人、他にも色々有るけど別段共通点は……」

「そんだけターゲットもまばらだと通り魔的なモノか。起こってから行くしかねぇか」

「んー……おっ!いやギリアム、共通点有ったぜ!」

 朗報だと言わんばかりに満面の笑みを浮かべ、ギリアムと会話を続けていたがそのタイミングで、ジュンのボディーブローが良い角度で入ってしまう。


 見ていた二人は同時に「うわぁ……痛そう」と声を漏らすが、食らった当人のギリアムはダメージなど無い。

「ジュンさーん、ギリアムさーん。ご飯出来ましたよ。一度切り上げてくださーい」

 勝手口からタオルと冷水を持ったミアと、その後ろからカゴ一杯に作られたサンドイッチを運ぶ仁とアスタ。タオルを渡すと二人は汗を拭きながら、カゴからサンドイッチを取り出し口に入れていく。

「なぁアカイワさっき言ってた共通点だが」

「あぁあれな、全員……最後のおっさんが居た宿の女将さん除いて、全員がちょうど成功や幸せを掴んだタイミングだったんだよ」

「そういう連中をターゲットにしていたというわけか」


 全員が話しも交えながら食事をしている最中、デュークはと言うと混ざりきれないのか、少し寂しげな表情で月を見上げながら清酒を口に運んで行く。

「ほらおっさん行くわよ、あの馬鹿コンビ相手に躊躇してたら晩ごはん食べそこねるよ」

「いや、おっさん腹はあんま減ってないからいいよ」

 自分は声かけたからといい、食事の場に一人歩いていくリューコは彼を無理やり連れて行くでもなく、食事の場に混ざりジュンやギリアムとサンドイッチの取り合いを繰り広げている。

「ほんと若者は元気だねぇ、ほんとに……」


 昼の会議でジュンに言われたことや、己の考えを纏めていようとすると、仁が幾つかサンドイッチを持ち隣に座った。

「おいおいジンちゃん、こんなおっさんに気を使ってないで、みんなと一緒に食べておいでよ」

「ははっ、赤岩さんがこれ持っていけって言ってたので」

 笑いながらも仁が一切れを渡すと、突き返す訳にもいかないのでそれを受け取り口に運ぶ。


「おぉっこりゃ美味い。揚げた魚の切り身に、このドロッとしたソースがよく合うね。いやぁジュンちゃんが羨ましいねぇ、こんな美味い飯作れる子が奥さんで」

 口に運んだサンドイッチが美味い、ただそれだけの事なのに深呼吸したように心が落ち着いてゆく。

「それ……実は作ったの僕なんです」

「えっまじで!?ジンちゃん料理上手いんだねぇ、こりゃ将来料理人も夢じゃねぇよ」

 酔いが回り美味いつまみを食し、隣の少年と言葉を交わしていると、昔アイツともこうやって飯食って馬鹿笑いしてたと思い出が頭を駆け巡る。


「デュークさん「悩んだ時、苦しい時、考えが纏まらない時、そんときゃ美味いもん食って寝れば大体何とかなる!」らしいですよ。赤岩さんからの受け売りですけど」

「はははっ何だそりゃ。まぁでもそんなもんかも知れねぇな世の中。なぁジンちゃん……君から見てジュンちゃんってどんな男なんだい」

 このタイミングで彼に食事を持ってこさせたジュンの配慮、全て見通せる男相手に完敗したと思い、彼の事をより一層知ってみたくなった。


「赤岩さんですか?んーそうですねぇ、良くも悪くも雑な人です。たまに書類放おって遊びに行きますし、酔っ払って玄関で寝てる日も有りましたし」

「なんだそりゃ、だめじゃん」

「ははっ、でもそんな雑な人だからこそ、皆気を使わず会話したり色んな人が慕って付いてきてくれるんだと思います」

「確かにねぇ。ジュンちゃんは本当に男も女も口説く、天性の人たらしだよ」

 自分の憧れであり、目標の師でもあり、命の恩人であった彼の事を仁は楽しげに語っている。


 

 ひとしきり眼の前の少年の話を聞いていると、夕食の時間も終わりのようで各々片付けに入りっていた。

 ミアやリューコに混ざり、食器や持ってきていた机などを片付ける仁を見つけた二人は口元を拭きながらも、今回の料理は殆ど彼が作った事をミアから聞いていたのか、3人で楽しげに再度談笑を始めていた。

「仁君今日の飯美味かったぜ。最近料理の方もメキメキ腕上げてるな」

「ヘタレまた今度さっきのソース作れ、なかなか癖があるが気に入った」

「ん~ギリアム~、作ってもらう側なのに何でそんな偉そうなんですか~?もしかしてツンデレっすか~?最後の一切れ本気でアスタと取り合いしてた男の貫禄は違うっすわ~」

「あん?なんだてめぇ?喧嘩売ってんのか?あぁ?最後の取り合いテメェも混ざってたろ、俺とチビだけみたいな言い方すんなや」

「ちょっと二人共やめてくださいよー、赤岩さんもそんな小学生みたいな挑発しないでくださいよ」


 そんな光景を見るとなんだか、自分だけが肩が張りこれからの出来事に身構えすぎていたのかと、悔しくもさっぱりとした気持ちになってしまう。


「ジンちゃん、オタクも相当な人たらしだぜ」


To Be Continued

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