第0-1話 プロローグ
此処は地球の日本、東京という世界から見れば豆粒の様な大きさの都市だ。
その東京のZX市「花島大学院」という、小中高大まで合併した巨大な一貫学校で、その学院に通う「岡野仁」という少年。
彼の登校姿はとても弱々しく、背中を曲げ、カバンを抱きしめるように周囲をオドオドと見渡し、毎日何かに怯えるように登校していた。
身長は150cm後半だろうか、平均的な男子高校生を少し下回り、髪は染めた訳では無いが、赤みの掛かった茶色。この髪のせいで小学生の頃は周囲から虐げられ、人に怯える様になったのだ。
「よぉ~、仁くんおはよ~う」
仁の背後から肩を組むように、より掛かる絵に書いた様な爽やかな笑顔の「男子学生」に声を掛けられた、だが仁は顔を真っ青に染め口をパクパクとさせ、猛烈な吐き気に襲われている。
「や……やぁ、庄司君お……おはよう」
「そんな怯えなくてもいいじゃないか~」
彼は肩をバシバシと叩き、快活に笑ってみせる。彼の名は「山下 庄司」、成績は優秀で上から数えると必ず5位には入り、整った顔立ちで女子から人気は高く、品行方正な言動からは教師陣からの信頼も厚い。
スポーツマンの様に整えられたツーブロックの真っ黒な髪に、まるで15の少年とは思えないような「映画俳優」の様な顔つきに、身長は既に170を越えている。
クラブはバスケットボール部に所属しており、生徒会役員と掛け持ちでこなす「超優秀」な学生だ。
そんな非の打ち所が無い彼に、何故仁が怯えるのかと言うとそう皆さんも察した通り、「イジメ」だ。
20xx年、青少年の凶悪犯罪の数だけで前代未聞の45%の増加、性犯罪や違法薬物の立件数も例年に比べ格段に増えている。
水面下で東京だけでは無く、日本全国で起こっている事実だ。
TVに出演した壮年の評論家を気取った男は「ゲームやインターネットが原因で、若者がおかしくなっている。全て禁止するべきだ!!」と、声高らかに謳っていた彼が、未成年児童との淫行により書類送検などの事件も、今の日本じゃよくある話だ。
そうそんな日本で過ごす彼らも、「仁君」と、「庄司」の関係だ。
暴行や恫喝は当たり前。それを目撃したものは居らずその話をした所で、信頼のある彼の事だからそんな事はない。君の被害妄想だ。と言わるのが関の山だ。
そんな生活を仁は6年も送っていた、人に怯え、信用することを恐れ、涙も枯れ果てた。
「おい仁、俺の事周りに喋ったら今度は殴るだけじゃ済まさねぇからな……」
庄司は仁の耳元で、耳打ちをする様に呟いたら爽やかな笑顔で取り巻きの元へ走り寄っていく。
「おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!」
通学路の横にある、裏路地に仁は入り嘔吐物を地面に吐いてゆく。
寒くもないのに脚が震え、焦点も合わず、昨日だか一昨日だか殴られた腹部の内出血の後が痛む。
「もう…もう…、こんな生活嫌だ…助けてよ…誰かぁ…」
嘔吐物を気にすることもなく、その場に座り込み流したくもない涙をボロボロと流す。だがそんな彼に誰も声をかける筈もなく、ただ通り過ぎていくだけ。
酷い者は「ゲロに座る妖怪ゲロ男」などの見出しで、ツ◯ッターやイン◯タグ◯ム等にハッシュタグを付け、面白おかしくネットで有りもしない誹謗中傷をして、玩具にするのだろう。
仁自身もわかっている、自分は弱者でこのまま負け続けていくだけの人生なんだ。と
こんな自分が嫌いで、醜くって、逃げ出したくって仕方がない。
そんな事を考え、制服を交換しに一度家に戻ろう。いやもう今日は学校休んじゃおう。なんて考えて自身の脚を見つめ、歩き出して横断歩道に差し掛かったその時、激しいブレーキ音と人の悲鳴が仁の耳に入った。
もう遅かった。音の方を見た時一台の真っ赤な車が、彼の目と鼻の先まで来ていた。「あぁ、轢かれるんだ」
グシャアァァァッ。
車は仁をフロントに当て、彼を乗せたまま壁に激突し、仁の下半身は上半身と切り離された。臓物は溢れ、目の前は車の赤と、自分の血の赤で染まっていた。
仁は生気のない瞳から涙を零し、こう考えていた。
「神様もしどうか居るなら。僕にもっと勇気が欲しかったです。次の人生ではどうか…」
そう考えた彼はここで絶命する、今回のこの事故を起こした人物は、ただのサラリーマンで歳は30代前半だろうか、泡を口から流し「あはは…うへへ…」と笑い、目の焦点も何処に行っているか解らない。
これは近年裏で、横行する「違法薬物・Z」の症状だ。効果自体は麻薬に類義しており、使用者には猛烈な幸福を味わわせ、正常な判断ができなくなるという薬物だ。
同級生からは虐められ、彼女なんかもロクに出来なかった、そして最後は薬物中毒者に轢き殺され。なんてツイてない人生だ。
彼の魂は神話の世界の神の元へ送られ、第二の人生の輪廻へと入る。だがここで異常が起こった、魂だけになった仁だが背後から急な引力を感じ、何かに引っ張られた。
そして気づくとそこは辺り一面森の中、空気は澄み渡り、葉の揺れる音に小鳥の囀りも聞こえる。
一体全体何がどうなっているのか、仁には全く理解が追いつかず、ただ呆然としていた。
異世界の語り部~僕は主人公じゃない。
物語は気弱な少年「岡野 仁」の成長物語が、今ここから始まる。