クリスマス プレゼントボックス
クリスマスとプレゼントボックスを題材にしたBL超短編です
わんこ系先輩×中二病眼鏡後輩です
二人にはいろいろ設定ありますが
気になった方は「フリーゲーム 中二病学園シリーズ」や「中二病スクールナイト」で検索してください
もはやいつ書いたのか思い出せないのですが
パソコンのフォルダの中にあったので供養します
「一分……いえ、三分待ってください」
誰もいない鏡君の家に遊び(という名目でイチャイチャし)に来て、鏡君の部屋の前でそう言われた。
「三分待って、それからこの部屋に入ってきてください」
「? どうして?」
なんでだろう。よくわからない。見られちゃまずいものがあるのかな?
いやでも鏡君なら俺を家に招き入れる前に片付けるだろう、そういう律儀な子だから。
「えっと……三分経ったら部屋で自由にしていいので……待ってもらえますか?」
確実に何か隠しているが、その様子から後ろめたさは感じない。むしろ……照れてる?
「うん、いいよ。待ってる」
俺は笑顔でそう答えた。自由にしていいと言われたその言葉を忘れやしないよ。
「すみません」
そう鏡君は一言、素早く部屋に入っていった。一瞬過ぎて部屋の中は見えなかった。
とりあえず三分……することもない俺は腕時計を見つめる。
待ってる間、部屋からはごそごそ音がしていた。何をしているのだろう。
ふと可能性を考える。世間はクリスマスの時期で、もしかして鏡君なりのサプライズを用意してくれているのかもしれない。
そう思うと楽しみだが、単純にプレゼントを用意するなら三分待たせる必要は無いのでは。
ならば、なんだろう。人に見せたくなくて、部屋で密かにするもの。
……着替えとか?だとして何に着替える?わからない。
そして三分で着替えなんて……いや、彼なら可能だ。あのいつもの魔術師服を学校で早着替えできるのだから。
しかし鏡君自ら「クリスマスプレゼントは俺です」だなんてするとは思えないし。
もしかしたらあの女たらしの鏡君の兄(仮)の男から余計な知識を吹き込まれて、良い感じのコスプレ……するわけないか。
人一倍照れ屋の鏡君がそこまでするわけないしなあ。そういうコスプレなら俺が強制的に着せ替えてあげ……。
いやいや俺は何を考えている。いつから『推理』から『妄想』に移行してるんだ。馬鹿か。
そんなことをモヤモヤ考えていたら針は三周していた。
「入るよ?鏡君」
俺はそのドアをゆっくり開ける。
そこには。鏡君はいない。
そのかわりに目を引く大きな箱があった。
プレゼントの箱だと一目でわかる装飾をされてるそれは、人が入れるくらい大きい。
いやいやいや。ちょっと待て。
窓は開いてないので鏡君が逃げたとも思えないし。
あと、箱から小刻みに音がする。てかちょっと動いてない?気のせい?
いやしかし、それを推測するには十分なわけだけど。ありえないだろうに。
「……」
箱を、開けるしかない。それが俺へのプレゼントという可能性を信じられないまま。
箱はラッピングされてるわけではなく、簡単にふたが開けられるようになっている。
俺はその異様な大きな箱のふたを、手に持ち、恐る恐るふたを上に持ち上げた。
「メリークリスマス、会長」
そこからはかわいらしいサンタ服を着た鏡君が現れるのだ。
…………
唖然。予想してなかったわけではないが、それがあまりにも信じられないので言葉が出なかった。
「……」
ちょっとぎこちない笑顔だった鏡君は、次第に自分の行動に顔を赤くして引っ込むように箱の中に戻ろうとした。
「待って待って待って鏡君待って!」
俺はそんな鏡君を抱きしめるように掴んで箱から引きずり出す。
「うわわわ」
箱に入っていた鏡君はバランスを崩し、箱ごと倒れて俺の胸の中に。
「鏡君!!!可愛いよ鏡君!!!嬉しい!!!こんなサプライズを用意するなんて!!!鏡君すごいよ!!!嬉しいよ!!!」
俺は興奮を抑えられず叫ぶように思いを吐き出し、鏡君を思いのまま強く抱きしめた。
嬉しい、鏡君が、人一倍照れ屋の鏡君が!俺にこんなサプライズを用意してくれたんだ!嬉しい!嬉しすぎて言葉が出ない。
「ちょ、会長!苦しい!苦しいって!」
俺が鏡君を解放すると鏡君は拗ねた表情をするが、同時に顔を赤くして照れていた。
「鏡君ありがとう」
二人の距離がとても近い。鏡君を見つめながら、優しく感謝の言葉を伝えた。
「…………めちゃくちゃ恥ずかしかったんで……勘弁してください」
鏡君は目をそらす。俺は優しく鏡君を抱きしめた。
「嬉しいな~。その服も可愛いよ、鏡君」
「……」
鏡君は答えない。俺に抱きしめられるまま、おとなしくしていた。
「ねえ、鏡君。プレゼントの箱から出てきてくれたってことは、鏡君自体が俺へのプレゼントって認識でいいのかな?」
その耳元で意地悪に囁いた。鏡君は耳まで赤くして。可愛い。
「……会長へのプレゼントは別に用意してありますが……会長が望むならもう勝手にしてください」
その声はわずかに震えていて。
この愛らしいサンタさんを美味しく頂こう。そう思うには十分すぎた。
「メリークリスマス、鏡君」
「……メリークリスマス」
クリスマスって、こんなに嬉しくて楽しいんだなぁ。鏡君がそう教えてくれたんだ。
とても、幸せな夜の始まりである。
「……」
その日帰ると家には大きな箱があった。
「ああ、おかえり~鏡」
リビングに放置されてるそれは異質なもので、その包装からクリスマスのものと思われる。
「愚兄、これは……」
「ああ、これ?女の子からもらってね。その大きさだと人が入るだろ?つまり」
「結構。それ以上語るな」
そういう戯れに使ったという事か。実に愚かな。この神聖な我が家を乱れたものにしないでもらいたいものだ。
もっともこの愚兄の前では無意味……ああ、俺も人のこと言えないってかあれは会長が悪いんだ会長が悪い俺は悪くない。
俺が頭を抱えているとそれ以上に悩ませる愚兄の発言。
「この箱いらないから鏡にあげる」
「こんなもん俺もいらぬ!」
「なら適当に処分しといて」
そう言うと愚兄は俺のことなど関心を持たず、テレビに視線を戻すのだ。
「……」
さてどうしよう。とりあえずリビングにあっては不快なので自室に退去させてみたものの。
正直この箱は邪魔である。しかしクリスマスらしく立派なもので。この大きさを用意するのも大変だっただろう。
どうにかできないものか。
人が入れるくらい、つまり俗に言う「私がプレゼントだ」みたいなことができると。愚兄の女がそうしたのは容易に想像できる。
……この箱、麗子さんにでも献上するか?いやあの麗子さんならこのくらいの箱の用意は造作もないだろう。てか渡しに行くの面倒だ。
「ふむ……」
箱と睨めあう。
プレゼント。ふと会長を思い出した。なぜ思い出したのだろう。
そういえば会長にクリスマスプレゼントを用意しようと「欲しいものありますか?」って聞いたら「鏡君が欲しい!」と返答が来たのでとりあえず一発殴ったんだっけか。
「冗談じゃないよ~。鏡君がいるだけで嬉しいんだよ~」
告げられた言葉が頭をかすめる。会長は物質的なプレゼントよりも、俺だけで十分だと。
「……はぁ」
溜息が一つこぼれる。その会長の言葉とこのプレゼントの箱が重なったのだ。
単純に、俺がプレゼントに、なればいいと。そうこの視界に映る景色が囁くのだ。
阿保か。阿保じゃねえの。愚直にもほどがある。
でもそんな素直な会長の喜ぶ姿が思い浮かんで。
…………。
一応プレゼントは別に用意しておくとして。
俺は悪くない。この浮かれたクリスマスの雰囲気とこの箱と会長が悪い。俺は悪くない。クリスマスが俺を狂わせたんだ。
さて、まあ愚かにも箱に入るとして、だ。服装どうしよう。プレゼントとして捧げる以上中途半端にはしたくない。
だからと言って会長が望むような淫らな服は着たくない。この前女性下着を着てくれとい言われた時には全力で蹴りをお見舞いした。
……サンタ服。まあそのくらいなら良いだろう。元々独特な衣装を着るのは嫌いではない。会長の望む性的なものを除けば。
そうとなったら早急に計画しよう。馬鹿らしいが、それに身をゆだねてしまえばいいのだ。
……会長が悪いんだからな!