97:港街アルン
「海って、なんか凄いね」
丘の上から見えた景色を見て思った率直な感想だ
学園から馬車に揺られること2日。イヴちゃんの両親に会うために港町アルンへとやってきた。景色が良いということで、街に入る前に降ろしてもらったのだ
眼下に広がる街並み、その向こう側には何処までも広がる青い海。太陽の光を受けて、輝いて見える
「ふふっ。フー君、語彙力ないね~」
「うぐっ」
イヴちゃんの的確な返しで精神ダメージをくらう。けれど笑顔は可愛い
「でもその気持ち、分かるよ」
海の方を向いてはいるが、その表情はどこか此処ではない場所を見ているような、そんな表情
「さ、早くいこ! フー君のことウチに自慢させて」
そう言ってイヴちゃんは僕の手を取り進み始めた
僕はさっきの表情が気になりはしつつも転ばないように足を動かす
イヴちゃんのお父さんとお母さんはどんな人かな
そこに思考が及んで思い出した。自分はイヴちゃんの彼氏で、紹介されるのだと。なんか急に緊張してきた。もし、「交際は認めんぞー!」とか言われたらどうしよう。世の娘を持つお父さんは、みんなそうだって聞くし
そんな不安が心中で渦巻き始めたが、門に到着した
するとイヴちゃんは誰か知り合いを見つけたようで手を振りながら声をかける
「マークさーん!久しぶり~!」
イヴちゃんが声をかけたのは門番の人
凄く親しげに声をかけたが、マークさんと呼ばれた人は、とてもゴツイ。髪は短く刈り込まれ、服装はかなり楽なもので焼けた肌が見え、槍を持っている。門番なのだろうが、その格好は騎士とか兵士には見えない。けれど凄い迫力がある。表情から、とても頑固な性格をしていそう
が、その固く引き結ばれた口元は声を掛けてきたのがイヴちゃんだと気付いた瞬間に緩み、表情は正にデレーンと表現するに相応しいものになった
「おー! イヴじゃねぇか! 学園は夏休みか?」
そうイヴちゃんに返事を返し、街の中に「イヴが帰ってきたぞー」と声をかける。すると、人がわらわらと集まりだした
そんな光景を見てイヴちゃん人気者なんだな~と思ってイヴちゃんとマークさんが話しているのを待っていると
マークさんがこちらを向き
「それよりそっちのちっこいボウズは誰なんだ?」
いや、僕は普通くらいの身長だよ? クウガやソウマは僕より大きいけど。え、普通だよね? チビじゃないよね?
ちっこいと言われ何故か不安になっていると
「ちっこいのじゃないよ!イヴの彼氏のフー君だよ!」
イヴちゃんがそう言った瞬間に集まってきた人たちでがやがやとなっていたのが静まり返り
「マジでか!」
「何ー!?」
「我らが天使に彼氏だと!?」
「この小僧が!?」
「いい子そうじゃない~」
「可愛い子ね~」
「さ、先を越された……」
ざわめきが広がる。驚愕であったり色んなことを色んな人が口々に喋っている
イヴちゃんは落ち込んでいる女の人の元にいき、挑発をかまして頭をグリグリと反撃されている
「おい」
ん?
声を掛けられたのでそちらを向けば男性が多数、怖い顔をして立っていた。いや、なんか泣いてる人もいるんですけど
「我らが天使を泣かせたらぶっ飛ばすからな」
手を合わせ、ゴキゴキと音を鳴らしながらそんな脅迫じみた事を言ってくる
非常に怖い
まあ、それがイヴちゃんを思ってだと分かるので不快な気分ではないかな。怖いけど
「は、はい」
ゴンッ
「いてっ! 何すんだよマークさん!」
「うるせぇ! 子供を苛めてんじゃねぇよ! しかも、お前ら、仕事はどうした仕事は!」
「「「「「いや、そのぉ……」」」」」
「いいからはよ持ち場に戻れ!」
「「「「「はい!」」」」」
すたこらさっさー、とマークさんに怒られて行ってしまった
「サナもイヴに構ってねぇで仕事あんだろうが。それに早く婿見つけてこい」
「うっさい! クソ親父!」
イヴちゃんをグリグリしていた女の人はマークさんの娘さんだったらしい。マークさんに言われて街の中へと戻っていった
「悪りぃな、フー君。イヴはこの街じゃ人気者だからよ」
「はは、大丈夫ですよ。あ、僕はフレッドって言います」
「おう、俺はマークだ。あいつらじゃねぇがイヴのこと頼むぜ。それと、頑張れ」
肩に手を置き、何故か憐れむような表情で激励をもらった
「頑張れってなにを」
「フー君、ウチの家行くよ~」
「あ、ちょ、ま」
何を頑張るのか聞こうとしたらイヴちゃんに手を引かれ聞けなかった
マークさんは此方に手を振り、門番の仕事に戻っていった
街の中を進んでいるとあちこちからイヴちゃんは声をかけられる。本当に人気者だ
そして、必然的に一緒にいる僕も視界に入る訳で、凄い視線が痛い
イヴちゃんに手を引かれ歩くこと10分くらい
「とうちゃーく! ここがウチの家だよ~」
ようやく着いたようだ。見た感じは周りにある家と変わらないいたって普通の家だ
正直にいうとここまでが辛かった。あんなに好奇の視線を浴びせられたことは初めてだった
いや、学園でクウガ達といる時も視線は感じるんだけどここまでではなかった。あれは、クウガ達の方が興味の対象だったからなのだろう。此処ではイヴちゃんといる男は誰だ!? っていう感じらしいので僕が対象だからこんなに違うのだろう
これを思うとクウガやソウマは凄いな~と感心する
「フー君入るよ?」
「あ、うん」
髪は変じゃないか、服装は乱れてないかをさっと確認。鍵を開けて入っていくイヴちゃんに続く
「ただいま~」
「お、おじゃまします」
中も外見と同じく普通の家って感じだ
中を見渡していると誰かが来るのが分かった
「お帰りなさいイヴ。あら、そっちの子はもしかして」
イヴちゃんと同じ緑色の髪。後ろに一括りに纏められている。親子なだけあってイヴちゃんととても似ているけど雰囲気は大人の女性で、そこが全然似てないかな
「そうだよ! ウチの彼氏! 自慢しにきた!」
お母さんにそう言いながら腕に抱きついて来る
「え、えっと、フレッドって言いましゅ」
あ、緊張して噛んじゃった~
「ふふふっ、緊張なんてしなくてもいいのに。私はイヴの母のヒルデよ、よろしくね」
「は、はい、よろしく、お願いします」
恥ずかしすぎてなんかこう、普通にやれない!
「フー君可愛いでしょ~お母さん」
「そうね~、でもこの子強いの?」
え?
「うん! フー君はウチより全然強いよ~」
「精霊さんを呼んでも?」
「直接戦った訳じゃないけど多分ね」
彼氏になるには強くなきゃいけないんですか?
「まあ、お父さんがやってくれるだろうからいいわ。お昼まだでしょう? 今から作るから少し待ってて」
「やった! お母さんの料理~。今日は何作ってくれるの?」
親子が和気藹々としながら家の中に消えていく
えーと、この後何があるの!?
まさかイヴちゃんのお父さんと戦うとか?
マークさんの頑張れってそういう事!?
「フー君どうしたの? 上がって上がって~」
「う、うん」
ふ、不安だ
「「ご馳走様でした」」
「はい、お粗末さまでした」
いやー、さっきまでは不安な事で悩んでたんだけどお母さんの料理が凄い美味しかった
学園にある学食に匹敵するかも
あそこの料理もとんでもなく美味しいんだけどイヴちゃんのお母さんの料理も美味しかった。魚はあまり食べる機会がなくてそこまで好きじゃなかったけど。大好きになったよ
お母さんは洗い物をしに台所へ、イヴちゃんはこっちを見ながらニコニコしている
「ん?」
「フー君どうかした?」
なんだ? 何か凄い速さで向かって来る気配が
「凄い速さでここに何かが向かってきてる」
「あー、お父さんかな」
バァン!
「おらぁ! うちの娘を誑かしたクズは何処だ!?」
うわーお、マークさんと同じくらいゴツイ
だがこちらの方が筋肉量は上。そして、決定的に違うのは顔。ガタイに似合わずかなりのイケメン
てか、怖いよ。本当にこの街なんなの?
「お前か!」
うおーい、そんな憤怒の形相で拳を握られても~
「うるさい」スパァーン!
「む、なんだよヒルダ。今このクズをボコのボコにして放り出すところ」
スパァーン!
「あだっ」
「まずうるさくて近所迷惑。それと走ってきたみたいだけど迷惑かけてないでしょうね? あとイヴの大切な子なんだから傷つけたらイヴに嫌われるわよ? あと約束あったでしょう?」
「確かに。迷惑はかけてないぞ。多分。約束? ……あー、あったなそんなのも」
約束ってなんだ?
「いや、でも結局俺と戦って勝ったら認めてやるって話じゃなかったか?」
え? タタカウノ?
キギィっと軋むような音が聞こえそうな感じで首を回しイヴちゃんを見れば、頑張ってと声を出さずに伝えてきた
「そうだけど家の中でやる馬鹿が何処にいるのよ」
「はい、すいません」
なんかこう親に怒られる子供みたいになってる
「ほら、庭行くわよ。ただし、周りに迷惑はかけないこと」
「おう」
「フレッド君もよ」
「は、はい」
何でこうなった




