93:ゼーレ
ドゴッ
辛うじて防御が間に合ったものの、吹き飛ばされて壁に激突する
「ぐっ」
何だ、何が起きた!?
先ずは体勢を
バガーンッ!
騎士の斬撃というよりも叩きつけといった打撃のような一撃が俺が先程までいた場所を破壊する。体勢を崩してできたこの隙を騎士は見逃してくれないようだ、怒涛の追撃が俺に迫る
攻撃を避ける、避ける、避ける
受けや反撃は迂闊にすることは出来ない。先程と同じことをされればやられる。だが、何が起きたのかすら分からない。剣が弾かれたことは確かだ、けれどもその瞬間に俺の剣に騎士の剣はおろか、鎧にすら触れていなかった、空中で急に何かに弾かれ軌道を変えられた。魔力や魔術、魔法であったなら対処は容易。しかし、その軌道を変えられた瞬間には魔力の動きは感じられなかったし、そんな動きも見えなかった
何らかの武器か? スキルか? それとも……
武器の可能性は低い。いや、限りなく無い方に近い
あの瞬間、騎士は両手で剣を握っていた。体のどこかを動かして何かしていた様子も無かった
あー
分からないものはしょうがない
それに、剣のみでどこまで戦えるかやりたかったが向こうにその気がないのならこちらも魔法やスキルを使うとしよう
幻剣
ガキィーン!
上からの振り下ろしを作り出した2本の幻剣を交差させて受け止める
幻剣ならば俺の筋力などで支えているわけではなく、事象干渉力だ。事象干渉力が相手の膂力を上回っているみたい。相手の膂力も凄いので俺に負荷がかかってはいるのだけどね
そこから攻撃を繰り出そうと一歩足を踏み出そうとしたときに、首筋の辺りがチリチリとなり、攻撃をやめた
この首筋のチリチリ。本能的なものや、経験などから弾き出されたような危険信号のようなもので、これが案外あてになる
ブォン
そして、俺の前を何かが通過した
風を切る音がしたのだ
だが、それは俺が初めて感じるもの。魔力ではなく、魔素でもない。空気の塊というわけでも、見えない武器でもない
いや、だけどこの感じ、何処かで感じたことがあるような
「ほう、今のを避けるか」
低い声が聞こえた。騎士の声だ
騎士は剣を下げながら距離を取る
「今のは何だ」
「この状況で聞かれて教えるわけがなかろう」
いやー、そうなんだけどね。分かんないことは聞くのが一番早いわけでして。それに馬鹿や傲慢な奴なら喋って教えてくれるからね
「だが、お前にはこれを習得して貰わねばならん。それが私の成すべきことだからな」
「は? それはどういう」
「お喋りはここまで、本気で行く」
騎士はそう告げると剣を己の前に両手で持つ
すると、騎士の魔力が突如として膨れ上がり、赤色の魔力を剣と自分に纏わせた。だが、剣に纏わり付いているものは魔力だけではない。膨大となった今なら確実に感じ取れる。あれは魔力とは別の何か。スキルなどで生み出されるものではない
そう、あれは
バガッ!
目の前には騎士の姿。騎士の元いた場所は地面が割れ、砕けた破片が宙を舞っている
俺が意識すると共に知覚速度が引き延ばされ、思考が加速する
とてつもない威力を秘めているであろう剣を上段から振り下ろす騎士
常なら受け流し、反撃するのが最善だが
今回はあの謎の力が厄介だ。どのような影響があるか分からない。受け身になって流れを持っていかれるのは避けたい。避けるだけでは俺に成長はない
それにさっきあの騎士は何と言った?
この力を習得してもらわねばならないと言っていたのだ。つまりこれは訓練によって会得する技術、もしくはスキルだということだ
今、俺と騎士の間には力量差が確実に広がっている。単純に身体性能、レベル、剣術、そして、あの謎の力。レベルに関しては俺の感覚なので確かなものではないが
この中で身体性能やレベルはあまり気にしなくても良いことだ。問題は他の2つ。その内、今すぐに覆す可能性を持つものは後者
今ここであの力を使えるようにしなければならない
その為には見ることだ。感じることだ
この攻撃、真正面から迎え撃つ!
両手の剣を手放し、アイテムボックスへ。リンガが幾度も強化してきた剣で強力ではあるが大元の素材が魔鉱石である為、今から纏わせる魔力に耐えれそうに無かったからだ
そして、俺はアギスを顕現させる。切っ先が地面スレスレの振り上げる体勢。俺は魔力を解放し、アギスへ。銀に輝く魔力が俺から溢れ出し、アギスと俺を包み込む
迫る剣へ向けてアギスの能力を発動し、剣を軽くし、敵の剣へと振り上げる
「フンッ!」「フッ!」
気合の篭った騎士の声と俺の鋭い呼気が重なり
剣がぶつかり合う
威力はやはり俺が少し弱い。魔力だけなら俺が圧倒している
しかし、やはりと言うべきかあの謎の力で向こうの方が僅かに強い
俺が少し後ろに押される形で互いの剣が弾かれる
剣戟が始まった
この状態でなら受け流すことが可能だったので、受け流しを使う。あの謎の力は怖いが萎縮してしまっては最悪だ、反撃も入れていく。幻剣でも攻撃を加える
まだ魔力は上げられるが、それは向こうも同じはずだ。やはり鍵になってくるのはあの力
そして、今の衝突からの剣戟で分かったことが1つ。俺はあの力を何回か感じている。それを確信した。だが、感じたことがあるといっても多いわけではないことも分かった
袈裟の斬撃を受け流し、アギスによって可能になった剣の理を越えた切り返しでもって反撃の逆袈裟をお見舞いするが、剣によって弾かれる
幻剣による攻撃も同時に入れているのだが避けられるか鎧で逸らされてしまう
アギスによって俺の剣を振る速度が上がったためか、騎士も剣速が上がって剣戟の応酬スピードが速くなっていく。だが、騎士の剣速はアギスを振るう俺もよりも速い
俺よりも技術が上の存在を前にして悟る。俺にはまだ無駄がある、まだ技術を磨くことができる。それを確信した
剣戟が加速し、銀の魔力と赤の魔力が空中に軌跡を残す
そして、再び繰り出されたあの謎の力による攻撃。俺が振り切ったタイミング、俺が体勢を崩す場面で衝撃が俺を襲う
だがしかし、今度はしっかりと感じた
その正体も分かった
攻撃は避けれなかったが来ることが分かっていればその後の対処ができる
体勢が崩されても慌てず冷静に敵の攻撃を幻剣にて対処する
その間に俺は後方に跳び、距離を取る
そして俺は確信をもって己の内に感じるその力を引き出した
~~~~~~
目の前にて、銀の魔力と銀のゼーレを纏うこの者は、本当の意味で天才であったか
当時、天才と呼ばれた私ですら、初めてゼーレを感じ、引き出すのに半年は要した。だが、目の前にいるこの少年はほんの少しの戦いの中で引き出してみせた
戦慄し、脅威に感じたのと同時に頼もしさを感じる。ただ残念なのはこの少年を最後まで面倒を見てやれないことだ
しかし、今現在でさえ、これほどの実力を持っているのだ。きっと素晴らしい師がいるのだろう。彼の使う技からは、積み重ねられた歴史と確かな技術を感じ取れた
此処での私の役目はもう終わった。後はこの少年と決着をつけ、伝えるねばならない事を伝えるのみ
少年は今引き出したばかりのゼーレを当たり前の如く使っている。完璧に使いこなせているとは言い難いが今は充分だろう
構えは大上段、魔力とゼーレが剣へと集まり、途轍も無いエネルギーを秘めている
凄いの一言だよ。君ならきっと……
ならば、私も全霊を持って応えよう
構えは大上段、私の赤い魔力と青いゼーレを剣に螺旋のように纏わせる。2つの力が相克を起こし、エネルギーを生む
一瞬の間を置いて、お互いの剣が振り下ろされた
振り下ろす最中、私は気づいた
彼の魔力とゼーレが同じ色であることに




