92:窮地
パンパンパンパン
戦闘音が消えて静かになっていた広場に乾いた音が響く
「実に見事であった。前に来た者も凄かったが、お前達もここに招かれるだけのことはある。だが、まだ全てを出し切ってはいまい」
今まで沈黙していた王だ
その動作、声、表情、どれをとってもゴーレムや人形には見えない。だが、35層の天使や30層の火龍も本物にしか見えなかったから、事実人形かゴーレムなのだろう
しかしだ、何か引っかかる言い方じゃなかったか?
「招かれたってのはどういう事だよ」
それだ
俺達は自分からここストーンパレスにやって来たのだ、招かれたという言い方はおかしい
「それは此処がストーンパレスの40層、その2つある内の1つだからだ」
「というと、先程の言い方からしてこちらは本来の40層ではないと?」
「そういうことになるな。ああ、だが安心しろ、我等を倒せばこの迷宮を攻略した事になり、報酬も与えられる」
まあ、それなら特に問題は無いか、目の前の敵を倒す事には変わりないのだから
「だが、我等に勝ち、生き残ることが出来たならばの話だがな」
そう言うと王は突然立ち上がり、警戒を全員が強める
が、それは意味を成していなかった
「お主等は下がっておれ」
一瞬。王が言葉を発した瞬間に俺とソウマを抜いたラキア達の姿が消えた
何だ、何が起きた
油断だ、強さが計れないことから油断が生じていた。騎士の強さがハッキリとしていた分、余計だ。やっぱりまだまだ甘い
しかし、幸いな事に今回は移動させられただけの様だ、背後の離れた所に気配がある
「動揺が少ないな精神面も優秀ときたか」
動揺が悟られている。この王、人の機微を感じ取る能力に長けている。だが、それは王にとって必要な能力だ持っていて当然かもしれない。人の機微が分かるというのは人を見る目や自分を理解する事に繋がるからだ
この国の王様なんかもそこ等へんは鋭い
それに観察して分かった事だがこの王様、強い。先程まで分からなかったのも巧妙にこちらを欺いていた様だ。実力を隠すのではなく、錯覚させる
言葉で表すのは簡単だが、容易に出来ることでも無いはずだ
これは、かなりマズイか
ソウマに念話を……? 飛ばせないな
「ああ、今何かやろうとしても無駄だ。此処は我の領域だからな」
くそ、最初の魔法陣の時に気付くべきだった。この広場の主人はあの王なのだと
「お主達には我等とそれぞれ1対1だ。生きたくば、己が力で勝利を手繰り寄せよ」
途端に押し寄せるプレッシャー、可視化する魔力
更に、王の手に現れる漆黒の槍
あの感じは、心象具か!
王に続く様にして騎士が剣を地面から抜く
そして、王の槍がソウマに、騎士の剣が俺に向けられる
「さあ、力を示せ」
分からないこと、聞かねばならないこと、色々とあるが今は戦わねばならない。目の前の格上の敵と
気合を入れろ、感覚を研ぎ澄ませ
経験、力、全て向こうが上にある。つまり、此処は死地。己に言い聞かせるように心の内で言葉を作る
右手に持つ剣を、こちらに向けられる切っ先と同じように敵に向ける
ソウマも同じように自分の槍の穂先を敵へ
「そんなに俺達の力が見たいのなら」
敵の圧力に対抗するように魔力を高め、言葉を紡ぐ
「見せてやるよ。俺達の力を!」
重なる俺とソウマの意思
「「行くぞ!」」
戦いの幕が切って落とされた
格上との戦いで勝つための方法は幾つかある
己の持てる力全てを用いて敵の想像のつかない奇策で打って出ること
己の限界を超えて、戦いの中で成長すること
敵の油断や不意を突くこと
そして相性と勢い
他にもあるが俺が成したことがあるのはこれ等
これ以外にも奇襲があるが、既に場は整えられ、正面からの戦い。奇襲は成立しない
かといって魔法などの遠距離で攻めるのも愚策だろう。ギュル爺にすらそれは通用しないのに、ギュル爺よりも上だと感じられる目の前の騎士を倒せるとは思えない
であるなら接近戦によって不意でも油断でも、技でも使って倒すしか無い。向こうの手の内は分からないがそれは向こうも同じだ
まあ、何だかんだ考えても一先ず、俺の剣が何処まで通じるか試してみたい
戦いに特化した心と体、恐怖はなく、緊張もない。ただ、強い敵と戦えることに喜びが生まれる
そして勢いよく
前へ
魔力の循環率を最大、身体強化もフルで使って【縮地】を併用し、一息の間で間合いの内へ飛び込む
そして左側面から襲い来る敵の斬撃
左の剣で受け流し、右の剣で斬撃を見舞おうとした
しかし、左の剣と接触する瞬間に敵の剣が加速し、タイミングを外される
はっやい!
「っ!」
しかもおっもい!
受け流すのを不可能と判断し、体を宙に踊らすことで衝撃を逃がす。そんな所に追撃の斬撃。切り返しが早い。剣では、間に合わない
グリーヴに太めの刃を生成し、迫る剣の下側から叩き、剣の軌道をズラすことで回避
けれど、そこからまた剣が素早く切り返され俺に襲いかかる
地面への着地を待っては間に合わない、【空歩】で足場を確保し、あの威力に対抗するために両の剣で迎撃
広場に凄まじい音が轟く
両の剣での迎撃でも押される、やはり、レベルの差がある。技量もとんでもない
何とかして剣を逸らし、魔法を行使
光による目くらましを食らわせつつ、風の爆弾で吹き飛ばし、一旦距離を取る
つもりだったのだが、光が炸裂し、視界を奪った筈が、同じタイミングで放った風の爆弾が斬り裂かれた
その剣の振りの速さは先程よりも速かった
両手に持つ剣で斬りかかる
袈裟、逆袈裟、水平、唐竹、突き、全て弾かれ、流され、避けられる
だが、向こうの反撃をさせまいと攻撃を途切れることなく繋いでいく
もっとだ
もっと速く
この騎士の剣よりも速く! 強く!
ガキーン!
剣が思わぬところ、思わぬタイミングで弾かれた
体勢が崩れる
目の前に剣が迫っていた
~~~~~~
カン!
あー、どうなってんだよ
このダンジョンちょっとおかしくね?
色々ありすぎて困るんだが、どうなってんの?
しかも、目の前のこいつはやべぇ
カン!
父さんやあの人位のプレッシャーに、隙のない立ち振る舞い
更にあの鋭い眼光
これに勝てだって?
燃えるじゃねぇか
カン!
俺はもっと強くなるんだよ
この目の前の強敵を俺の糧とする
集中 集中 集中 集中
カン! カン! カン! カン!
クソが、見せつけるように突きを突きで防ぎやがって。正面から防ぐ為に毎度立ち位置まで変えやがって
いや、俺も出来ないことは無いんだが、結構難しいんだよあれ。それを平然と当たり前のようにやりやがる
舐めんなよ
ギャリン!
当たる寸前に回転を加えることで槍を逸らすことに成功する
そして、槍を引き戻さずに持つ場所を変えながら俺が前に出る。槍を短く持ったのだ
敵の槍の間合いの内側に潜り込む
持ち手を前にずらしたことで攻撃に支障はない
畳み掛ける!
槍に風を、穂先の両側に炎の槍と雷の槍を魔法によって作り出し、突きを放つ
突きは敵の胴に吸い込まれる
これで結構なダメージが
「甘い」
ドスッ
「ごふっ」
口から血が溢れ出す
貫かれたのは俺だった




