85:大天使
「封じられていた我が力、とくと味わうがいい!」
先程までの怒りの表情は鳴りを潜め、代わりに慈悲がその顔に満ちている。それにかなりの余裕があるようだ。それだけ封じられていた力とやらに自信があるのだろう
正直な話をすれば、現在の状況は想定外だ。あの大天使の強さは本来のここのボスの力とは桁が違う。肉体スペックはレベルが500を超えている俺と同等だろうか。それくらいの圧を感じる。フレッドが危険すぎる。しかも相手のあの自信からくる余裕には何かがあると考えて然るべきだ。フレッドには周りの天使を減らしてもらおうと考えていたが止めよう。今のフレッドじゃあ、何かあったら死ぬ
相手の技量が未知数だが、油断は出来ない。そんな中でフレッドまで面倒を見れるか分からない。向こうの目的もイマイチ分からないのも痛いな。フレッドはラキア達に任せるか
『ラキア、フレッドのことは頼むよ』
『はい、お気をつけて』
『ボクも守るよ!』
『分かった。ルルも頼んだぞ』
念話によって話をつけ、ラキアとルルを召喚する
「ほう、幻獣か」
ラキアとルルを見てすぐさま大天使が言葉を発した
「理を超越した者同士ということだな」
そう小さい声で言うが、生憎と耳がいいので聞こえた
でも理を超越した者ってどういう意味だ?
同士ってことは俺とラキア達の事を言っているのか?
まあ、その事は置いておこう。目の前には強敵。それもとびっきりな相手
フレッドの事も気にしなくていい。となるとテンションが上がってしまうのもしょうがないよね
宙に浮く7つの星と連結剣を己の周りに配置し、【碧雷】を発動する。両の手には双剣
そこから心の内にあるスイッチを切り替える。魔力を循環、増幅し、敵を見据える
その前にフレッドに言っておかないと。顔だけフレッドの方に向けて伝える
「フレッド、大人しくしてろよ。今回お前は足手纏いだ」
む、ちょっとキツかったか?フレッドの表情が歪んでしまった
「気にすんなよフレッド。今回はイレギュラーだ。まあ次までには頑張っとけよ」
「うん」
ふー、相変わらず俺はこういう所で注意してないと駄目だな。毎度ソウマに助けられる
そして俺は大天使に向き直り、告げる
「待ってもらって悪いね。始めようか」
「いいや気にするな。こちらの準備もあったからな」
そう大天使が言いながら槍の穂先を天に向ける
すると、槍の穂先に大天使の2倍くらいある魔法陣が出現した
「封印は久々に解いたのでな。先ずは小手調べだ。簡単に死んでくれるなよ?」
口端を上げてニヤッと笑みを浮かべて槍を俺たちに向けて振った大天使。魔法陣が光り輝き、光の極大光線が放たれた。光線はビカッという喧しい音と共に物凄い速さでこちらに向かってくる
そんな光の光線を見ながら思うのは
此奴、本当に天使なのかという疑問である。神の使徒の筈なのだが、性格悪そうだし、短気だし、偏見持ちだしで、いつ堕天してもおかしくない気がするのは俺だけだろうか
堕天って言うのは神とか天使とかがこっちの神さん達がいる所から追放されたりする事を言う
そんな事を思いながらも光線に対処する
対処するといっても【七星】の力を使うだけなので簡単だ。敵さんからしたら結構な大技のようだが俺らにとってはそう大したことはない。【七星】が強力なのも理由の1つだが
使う星は正八面体
【七星】の星にはそれぞれに能力が備わっている
そして、正八面体の星の能力は吸収、増幅、放出の3つ。3つと言ってもこれでセットみたいなもんだね
「なにっ!?」
大天使の驚く声
その3つの能力を使い光線を吸収、中で反射させて増幅
そして
「ほら、ボケっとしてないで。返すよ」
これで死ぬことは無いだろうが死なれたら興醒めもいい所なので声をかけ、光線をお返しした
星により増幅された光線は細くなったが威力が増幅された分と圧縮した分、更に上がっている
「小癪な!」
大天使はそう叫びながら片手持ちだった槍を両手に持ち替えて魔力を纏わせた槍の横薙ぎで迎え撃つ
大天使はかなり全力に近い様子で槍を振り、光線を逸らした。逸らされた光線は進行方向にいた天使達を消滅させた。今ので30は殺したかな
「今度はこっちから行くぜ!」
ソウマがそう告げてちょっと疲れた様子の見える大天使に向けて突きを放ち、雷を飛ばしながら宙を駆けて大天使に肉薄
大天使は雷を弾くのではなく避け、ソウマと対峙。怒涛の攻防が始まった
互いに得物は槍
互いに突きを繰り出し、叩きつけ、薙ぎ払いと攻撃を行い、槍を巧みに扱って防御を行う
一進一退の攻防にも見えるが、ソウマの方が技量は上のようだ。ソウマは余裕があるが大天使に余裕がない
見ているだけではつまらないので俺も参加する
【縮地】で一瞬の内に距離を縮め、ソウマの突きを上半身を右に傾けて避けたところに右に持つ剣を振り下ろす
大天使はそれを槍で受け、重力に逆らわずに落ちる
そこにソウマの追い討ちのファイアバレットと俺の操る連結剣が迫る
空中で体勢を立て直し、ファイアバレットは拳大の光の球で迎撃、連結剣は1度避けられた後に槍によって弾かれた
自信に溢れていただけあってそれなりに技量はある模様。まあ、それでもそれなりとまでしか言えない程度。レベル制度があるが故の弊害ともいえる技術の拙さ。力押しが目立つ
開いてしまった距離を大天使が追い討ちに対応している間に詰めて攻撃を開始する
左の剣で太腿を狙い突きを繰り出し、続けて右の剣を斜め上から振り下ろすように繰り出す。更にソウマの連続突きが放たれた。俺の突きは躱され、振り下ろしの斬撃も奴の肌を掠める程度。ソウマの突きは3発ほど掠めた
そして、大天使が俺とソウマの攻撃で手一杯の中。俺の操る【七星】の1つ、ねじれ双角錐が大天使の死角である後方上空から放った
だが、何らかのスキルか、はたまた勘か。迫る星に気づき、捉え。俺の放った横薙ぎを迫る星に向かって大きく跳躍しながら躱し、交錯
大天使が交錯した瞬間に突きを放った。その突きは見るからに大量に魔力が込められ、槍から溢れて見える程に濃密な魔力を纏っていた
恐らく、大天使は破壊するつもりだったのだろう
だが、実際はその槍は星に当たらなかった。星は軌道を変えて大天使の右太腿を貫通した
理由はねじれ双角錐型の星の能力にある。それは、運動の自由と貫通。運動の自由は風、重力に左右されずに動け、操作する俺次第。これによって槍を避け、太腿を貫通した。貫通に関しては貫き通せぬ物は無いってところ。実際のところどこまで効果があるか分からないんだけど
そして、右太腿を貫通されて体勢を崩した大天使に槍の振り下ろしをソウマが繰り出した。大天使は吹き飛び、地面に激突
この俺達と大天使が離れたタイミングで今まで手出しできなかった天使達の攻撃が降り注ぐ
光の矢、炎の槍、風の刃などの魔術魔法。遠距離武器である弓の矢が飛んできた
ソウマと背中合わせになり、互いに後ろを任せる。ソウマだから、迷いも躊躇いもなく背中を預けられる
敵の攻撃の1つ1つを補足、照準。無駄な消費を無くす為に丁度相殺する威力で魔法を展開。属性は闇。使うのはダークバレット敵の攻撃と同じ数だけ俺の目の前に出現させ、放つ
実を言うとこの闇の属性については全てを把握できていない。そもそも闇って何? というところから始まってしまうのだが今は置いておこう
敵の攻撃とこちらの迎撃で小さな爆発がたくさん起きる。その余波で飛ばされたり、爆発をくらって破壊される天使達
この際だ。余計な邪魔者は片しておこうか
両手を反対の肩に持っていくように動かし、【魔纏】で剣に炎を纏わせる。そして勢い良く両手を広げ、炎の斬撃を繰り出した
飛んでいく斬撃は姿を変えていき炎の鳥と成る
炎の鳥は群れる天使共に突進し、自身に触れた天使から焼き尽くしていく。鳥は俺の指示の下、宙を飛び天使共を一掃して消えた
「バカな……この私が、負けるのか?」
顔を俯かせてボソリとそう零す大天使
本当に此奴何しにきたんだよ。俺達のこと聞いた上でこっちに来たんじゃないのか? それに、あの自信はどこいったんだよ
「ふふふっ、良いだろう。こうなったら何としてでも勝たねば私の気が済まん。光栄に思うが良い! 神に与えられし、我が最大の力を見せてやる!封神眼!」
俯かせていた顔を唐突に上げて高らかに言葉を発したかと思えば目を見開き俺とソウマを視界に収めた
ゾクッ
その瞬間だ。大天使が目を見開いて俺達を視界に収めた瞬間に背筋に言い知れぬ悪寒が駆け上ってきた。咄嗟に魔力障壁を全力展開。更にエクストラスキルの【領域の支配者】を発動した
すると、妙に覚えのある感覚を感じ魔力障壁が強制的に解除された。【領域の支配者】はそのままだが。それに【空歩】で宙に留まっていたのだが。足場まで解除された。直ぐに魔力を足下に張って立て直したが
これはまさか
「ふふふっ、はははっ!これで貴様らはスキルが使えんぞ!」
やはりか
「さあ!死にたくなければ命乞いをしろ!跪け!この私に許しを請うのだ!」
ゲッスイ笑声をあげながらそう言葉を発する大天使
もう、絶対こいつ堕天の1歩手前の奴だろ。どの神の差し金か知んないけど、魂消し飛ばしちゃっても問題ないよね?
それに馬鹿なんだろうか。俺達が空中に留まっている事の意味を理解していない様子だし
「で? それがどうしたんだ?」
ソウマが呆れた様子で大天使に問う
「は? 何をそんなに余裕をかましている。今の危機的状況すら理解出来ないほど馬鹿なのかな?」
うわー、痛いよ。見てるこっちが恥ずかしい。大天使はこちらを馬鹿にしているつもりなのだろうが、自分が1番間抜けなことしてるって気付いていない
「はあ。あのさ、お前は俺達のスキルを封印したって言ってたけどよ、なら何で俺達は未だに宙に立っているんだ?」
「は?」
今度のソウマの指摘には流石に引っかかるものがあったのだろう。動きを止め、視線が俺達の上から下へ動き、足下で止まる
「な、何故だ!確かに封神眼は発動した筈だ!それなのに何故お前らはそこに立っている!その靴か!靴に何か能力があるのか!」
やっと気付いたみたい。さっきまでの勝ち誇ったような顔はどこかに行き、理解出来ないと顔にありありと浮かんでいる
「残念。そんな効果はこの靴にゃねぇよ、必要ねぇからな。そもそもお前はスキルってのが何か分かってんのか?」
ソウマの呆れた声が妙にこの場に響き渡る
「当たり前だ!スキルとは主がこの下界の者共に与えた恩恵だ!」
焦りからか、はたまた別の要因か。怒鳴り散らすように言う大天使
「そうだな。神からの恩恵だ。けどよ、別にスキルが無くたって魔法は使えるし、スキルと同じような事は出来るんだよ。まあ、武技の補助は受けれなくなっちまうけどな」
「な、に……?」
ソウマの説明を聞き信じられないという表情を浮かべて固まる
「つまり、俺らは別にスキルは使え無くたってあんま関係ねぇって事だよ」
「……」
ついに完全に固まってしまった大天使
うーん。警戒しすぎだったみたいだな。これならフレッドを参加させても良かったかもしれない。エクストラスキルは封じれないみたいだし。うーん、やっぱり鑑定系か解析系ののスキルは取っておくべきか? 事前に分かってれば、フレッドも安心して参加させれたんだし。いや、そういえばファイオスが【鑑定眼】をもっていた気がする。後で確認しておこう
それにしてもこの感覚は久しぶりだ。スキルの使用不可は以前に経験しているのだ。師匠との修行で。こういうこともあらからと、コルクさんが作ったスキルの使用が出来なくなる空間を作る魔道具で修行を行なったのだ。スキルなどなくても大丈夫なように
まあ、修行の時から苦労するような事にはならなかったので普段の修行とあまり変わらなかったのが印象深いかな
「奥の手はそれだけですか? ならこれで終わりにしましょうか」
終わらせる意思を大天使に告げて構える。ソウマも同時に構えを取る
「ま、待て! 私が悪かった! あ、謝るから見逃してくれ!」
こ、この大天使。最後に糞みたいな事をぬかしやがった。しかも現在進行形で此方に背を向けて逃げようとしてるし
こういう奴、嫌いなんだよね
ソウマも同じ気持ちのようで横目で目が合った
同時にその場を蹴り、大天使に向かって直進
【碧雷】の雷が剣に集まる。ソウマと交錯し、俺は大天使の右側面をすり抜けるように、ソウマは左側面を
すれ違いざまに右回転をしながら右の剣で大天使の左太腿を斬り飛ばし、左の剣が左脇腹から右肩迄を斬り裂いた。そこにソウマの赤く輝く雷を纏った槍が俺が左に持つ剣で付けた斬線と対を成すように振り抜かれ、碧色と赤色の雷がX字に斬り裂かれた大天使を蹂躙した




