100:変われたのは
な、何が起こったの?
たった今起こった事象に対して自分の頭が理解することを拒むように頭の中が真っ白になる
突然聞こえた声
変形する自身の体
何処からともなく自分の手元に現れた魔道具
同時に様々な事が起こりすぎて理解が追いつかない
手元にあるのは魔道具なのかな? 剣の様だけど少し形が変わっている
分からないことばかりだ。だが、何よりもまず、自分は動かなければならない事を思い出し、手元を見ていた視線を上げる
そこで気づいたのは止まった周りの動きと、動くことに対して何ら支障のない自分の体の変化
いや、周りの動きは止まっているように見えているだけで少しずつだが、確実に動いている。時間の流れが遅くなったというのが正しいのかな
自分の身に何が起きたのかは理解できてはいない。けれど、今はそんなことよりも成すべきことがある
この体が動くのなら、今は他のことはどうだっていい
今はあいつらを倒す
〔戦闘の意思を確認。#戦闘補助__バトルアシスト__#システムを起動。#加速__アクセル__#終了まで20秒〕
うーん、やっぱり分かんない。声だって事は分かるけど僕の知ってる言語じゃない
分かんないことばかりだけど後回しにするしかない。この時間の流れがゆっくりとした状況がいつまで続くのかも分からないんだ、今の内にあの男だけでも倒して起きたい
そう考えた時だった
勝手に僕の右腕が持ち上がり、手に持つ奇妙な形の剣を此方に背を向けるあの男へと向けた
突然の事で僕は反射的に腕を下ろそうとしたが殆ど動かなかった
そして、また勝手に人差し指が曲がり、魔道具を使用したのだろう。魔道具から小さな何かが放たれた。それは空気を裂き、この時間の流れが遅くなっているであろう空間でも恐るべき速さで男へと命中した
ここで時間の流れが元に戻る
同時に予想だにしなかった光景が目に映る
眼鏡の男の左腕が肩から千切れ飛んだ
僕の放った魔道具の攻撃で
~~~~~~
ポタッ、ポタッ
これはどういう事だ
何が起こった
予想外の抵抗があったとはいえ、それも少しの損害で片付け、後はここを制圧するだけだったはすだ
なのに何故
俺の腕は無くなった
そして何故
あれは立っている
しかもあの姿は何だ。先程までと気配も違う
本当にあれは先程までのガキか?
俺の血が前に飛んでいる。ということは、俺は後ろから撃たれたという事
俺の後ろにはあのガキ
つまりはどんな手を使ったかは分からんが、あのガキが俺の盾を掻い潜って腕を千切った訳か
「おらっ! さっさとくたばりやがれ!」
この男に命じられて首輪をつけに向かっていた男が立ち上がったフレッドに殴りかかる
馬鹿が。どうやってあの状態から復活したのかは分からんが、あのガキは明らかに先程までと違うだろうが。自分が好んで入った魔王軍とはいえ、こんな馬鹿どもを部下に持たねばならんのは腹立たしい事だ
殴りかかった部下に対してガキは手に持つ奇妙な形の剣を向ける。待て、先程まで持っていたのは短剣じゃなかったか?
パァン! ドサッ
眼鏡の男が、そう一瞬考え事をした間でフレッドに殴りかかった男の頭が無くなった
そうか、俺の腕を吹き飛ばしたのは魔術やスキルの類いでは無く、あの武器か。馬鹿な部下とはいえ、情報が得られたぶんは役に立ったな
だが、得体が知れないことには変わりない。それにこれ以上駒を減らすと面倒だ。あいつを使うか
例の2人が現れた場合に使う予定だったんだが、その2人は此処にはいない。それでもこんなガキに使うのは業腹ではあるが、仕方ないか
「敵を屠れ、マルドロ」
~~~~~~
人差し指を曲げる
この僅かな動作で眼鏡の男の片腕を吹き飛ばし、その後に殴りかかってきた男の人の頭も吹き飛ばしてしまった
こんな武器、聞いたことがない。いや、正確に言えば似た様な物は知っている
銃、それに魔道銃だ。似てはいるが威力が僕の知っているものと明らかに違うのだ
それに勝手に動く体。これに関してはただ怖い
あれだけ躊躇していた人殺しが簡単に成されてしまった。更に言えば、然程動揺もない
自分が何か別のモノになってしまう様で怖かった
だが、今は戦闘中。相手は此方の心情など考えてなどくれない。ましてや待ってなどくれるはずが無い
片腕を失った眼鏡の男が残った右手を前に突き出し声を発する
叫んだ訳でも、力強く言った訳でもなく、ただそれを言わねばならないから言ったという事務的なもの。けれど、それは確かな意味を持っていた
「敵を屠れ、マルドロ」
その短い言葉の後
眼鏡の男の前に魔法陣が展開し、そこから1人の男性が現れた
スケイルメイルを身に纏い、大きな斧を持つ男性だ
顔はヘルムを被っていて見えない
だけど、ヘルムから此方を見る目は虚ろで、本当に行きた人なのか疑問に思うほどだった
それに、その男性はブツブツと何かを呟いていた
前なら聞き取れないのが当たり前だったそれは、今の僕には鮮明に聞こえていた
「すまない。逃げてくれ」
次の瞬間、男性が消えた
続けて僕のこと視界は赤く染まり、読めない文字が視界に現れる。それは警告だっのだろう
目の前に消えた男性が現れた
速すぎて見えなかった。先程も眼鏡の男の速さで見失ったがそれよりも速い
斧が振り下ろされる
絶体絶命な状況だ
だけど僕の体はまた勝手に動く。いや、自動で動くと言った方がいいか。自分なら反応すら出来なかった筈だ。明らかに僕は自動で体が動くことで助かっている
体を守る様にして左腕が頭の上へと動く。そして、左手に持っていた武器が消え、盾が現れた
防御は自動で動くこの体のお陰で間に合った
少なからずホッとしたのだが、それは間違いだった
ガィーン!
斧と盾がぶつかり、全身にとてつもない衝撃が襲い掛かり、足下の石畳の地面がヒビ割れ、陥没した
「がっ!?」
膝が折れ、地面に着く
速く離脱しようとすると、また視界が赤くなる。いや、今度は上の方だけだ。そして再度襲い来る衝撃。斧が再度振り下ろされたのだ
ガゴォン!
先程よりも更に強い衝撃、破壊は周りにまで波及し、建物が崩れる音が聞こえた
そして、また視界が赤くなる。今度は上ではなく右
流石に理解できている。これは危険の迫る方向を指しているのだろう。右を見れば此方を叩き切らんと迫る斧が見える。自動だけに頼らずに今度は自分で防御姿勢をとる
左手で盾を構え右手で支える
先程の斧を盾で受けたことで分かったが今は身体能力まで上がっているようだ
が、それでも目の前の人には押し負けている
足を踏ん張り、盾を両手で構えても簡単に吹き飛ばされた
ドゴッ! ガラガラガラッ
建物にぶつかり、その建物はその衝撃で崩れ、落ちて来る瓦礫に晒される
なんかよく分からない力に目覚めても状況は変わらずにピンチのまま
クウガの好きな英雄譚の様にはいかないな
苦笑が漏れる
こんなピンチでも苦笑い出来る程に僕は強かったかな?
いや、前までの僕。クウガやソウマ達と出会う前の逃げたままの僕なら絶対に無理だった
こんな状況になったらもう諦めていたかもしれない
けれど、今は諦めたくない。逃げたくない。だって、まだ勝負はついてないんだから
それに、倒せなくてもいい。時間を稼ぐんだ。皆んなが逃げる為の時間を
あの眼鏡の男とスケイルメイルの男さえ僕に釘付けに出来ればいい。視界には逃げる人たちと戦っているのはギルド人だろう
なら僕はやれる事をする
瓦礫を蹴散らしながら、スケイルメイルを着る男へ駆ける
スケイルメイルの男へと駆けながら、盾が消える様に念じ、左手に先程の物をと念じる。これだけで盾は消え、手には魔道具が。そして、ありったけの攻撃を放つ
あの眼鏡の男の腕を容易く吹き飛ばしたのだ、多少のダメージは与えられると思っての攻撃だったが、スケイルメイルの男は斧を一振りするだけで全て吹き飛ばした
「くっ」
このまま突っ込んでは危険だと思い、方向を転換した
その瞬間、また視界が赤くなる。今度は下
地面の中からの魔法による攻撃か何かかと身構え、飛びのこうとした
だが、それは爆発や岩の棘ではなかった
地面がほんの少し、爪先が引っかかる程の高さ盛り上がっただけだった
しかし、それは僕にとって致命的な一撃だった
予想していなかったことに対処できず体が宙に投げ出される。それは1秒にも満たないことだが、戦闘においてその間は長すぎる
赤く染まる視界
最初の一撃よりも段違いに速い斧
死を悟った
後悔とか色んなものが一瞬の内に湧き上がって来る。クウガの力になろうと、頑張ろうって決めたのにな
変われても、死の恐怖の中、目を開けて、死を運んで来る斧を見ていることは出来なかった
涙が出た
最後に思ったのはやっぱり、イヴちゃんのことを守れなかった
ヒルダさんとガルドさんとの約束は守れなかった
だから願った
せめて、上手く逃げて、助かってくれる事を
ガギィーン!
「ふー、間に合ったー」
衝撃で吹き飛ばされる中聞こえた声
その声はもう聞くことは無いと思ったもの
ここで聞けるはずのなかった人のもの
目を開けて見えたのは
あのとんでもない威力の斧を平然と受け止め
銀の髪を靡かせる
かっこいい後ろ姿だった




