表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Heroic〜龍の力を宿す者〜  作者: Ruto
プロローグ
1/118

1:師匠との出会い

 

「お母さん~、薬草取ってきた!」


「ありがとう、クウガ。リンガが戻ったら帰りましょうか」


 何処にでもある、ありふれた母と子の光景。竜人の特徴を持った男の子が無邪気に笑い、エルフの母が慈愛に満ちた微笑みで答える。親子は街の近くにある森に薬草を取りにやって来ていた。この母親が薬師のためだ。女子供しかいないが、この森には動物はでるが魔物は滅多に現れない。ましてや今親子がいるのは入り口付近であった


 母親は手入れされた金色の髪を腰まで伸ばしており、見目麗しい。エルフのため、見た目が若く年齢は判然としない。子の方は角が額に1本、左右から後ろに流れるように2本生えており、髪は母とは異なり銀色で男子にしては髪が長い。歳の頃は5歳ほど


「お母さんー!」


 怯えや恐怖を孕んだ叫びが突如として響き渡った


「リンガだ!」


「クウガはここにいて!」


 叫びを聞き、クウガと呼ばれた少年はそれが弟のものであると即座に聞き分け、母はクウガに待つように言うとその顔を険しいものへと変えながら駆け出した。少年は心配そうに母の走っていった方角を見つめたが、追いかけることはしなかった


 グギャャャャャー!


 母が森の中に消えてすぐ魔物の叫び声が聞こえ、少年は体を震わせた。が、不安そうな顔をしながらも母と弟を待つために耐えていた。すると母が弟を抱えて森から飛び出してきた


「クウガ!リンガを連れて街まで戻ってお父さんに魔物が沢山出たって伝えて!」


「お母さんは!?」


「あたしは少しでも時間を」


 そうしている間に母親の後ろから魔物が現れた


 それは母親よりも大きく、醜く、手に棍棒を持ち、瞳に殺意をみなぎらせていた


 オーガと呼ばれる魔物。それが2体


 片方は右腕の肘から先を失い、血を流していた


「後ろ!」


「ッ!風の精霊よ!」


 お母さんがそういうと風で出来た刃が飛んでいき、魔物を切りつけた


 ザクッ!と音を立てて魔物に傷を与えたがあまり効果はないようだった


「クウガ早く行って!」


 いつもは優しい母が鬼気迫る表情で怒鳴るようにして息子に願う。息子はその迫力に押され、弟の手を引き街にいる父のもとへ駆け出そうとした


 その時


 母親の体は縦に2つになった






 パシャッと血が顔にかかった。体の中の物が溢れて血の匂いが辺りに広がる。お母さんの顔は何が起こったのかわかっていないようだった


「え?」


「お母さんー!!!」


 リンガが叫ぶ。僕は自分の理解が追いつかない


 そこに


「ヒャハハハハハ! いやー、無様ですね~」


 そんなことを言いながら、羽が生えてて、何かの動物の顔、頭の横から捻れた角が生えているやつが空から降りてきた


 一目見て、こいつがお母さんを殺したのだと何故かわかった。それと、僕がどうしたって勝てないという事も


「おや~?ガキンチョが2匹もいますね~」


 ニヤニヤと笑いながら化け物が言う。その笑みは一瞬にして僕から怒りの感情を奪い去り、恐怖に心を染めた。僕は逃げた。リンガの手を引っ張りながら


 逃げる


 できる限りの全力で


 逃げる


 リンガの手を強く握りしめて


 逃げる


 お母さんの死を考える暇もなく


 逃げる


 あの恐怖から


 逃げる


 出来れば、追ってこないでほしいと願いながら


 だけど化け物は追ってくる。空を飛べば、すぐにでも捕まえられる筈なのに歩いて追ってくる。僕たちは走ってて向こうは歩いてる筈なのに距離が広がらず、どんどん縮まっていく


 そして、あっさりと追いつかれると奴は腕を軽く振るう。化け物の爪が当たって傷ができていく。リンガに当たりそうになっても僕の体で代わりに受けてリンガを守る。化け物は遊んでいるようで攻撃を食らっても死にはしなかった。リンガが泣いている。リンガを守りたい。守らなきゃ


 だけどこの化け物は強くて僕は弱い。リンガを……守れない


 涙が出た。傷つけられる体が痛いから?


 そうじゃない。僕は悔しくて涙が止まらないんだ。大好きだったお母さんが死んでしまった。しかも、今はリンガが危ない。それに僕も死んでしまう。何も出来ない。この化け物からは逃げられない。なら戦うしかないのか。だけど戦っても勝てそうにない


 力が欲しいな、この化け物と戦っても勝てるような力が。大切な人を守れる力が


 この状況で生まれた思いはそんなものだった。でももう死んでしまう。化け物が腕を振り上げた。もうお終いだとか言っている。振り下ろされる腕がゆっくりに見える。太い腕に付いた切れ味の良さそうな爪が僕に迫る


 僕は死を覚悟した


 その瞬間


 鈍く大きな音が聞こえた


 と同時に化け物が横に吹っ飛んで行った


 化け物がいたすぐ横、化け物が吹っ飛んで行った反対側に、その人はいた


 蒼いフード付きのマントを着ている人が籠手に包まれた右拳を突き出した状態で。


 そして、フードを下ろして僕の前にしゃがみ込んで


「ボウズ、よく頑張った。後は任せろ」


 と頭を撫でて言ってくれた


 顔は整っていて、黒髪黒眼で切れ長の瞳が印象的な20歳くらいの男の人だ


「誰だ!このグラップ様を吹き飛ばしたのは!」


「俺だよ。この下衆野郎。子供をこんな痛めつけやがって、俺がぶっ殺してやる」


 そう言うと、男の人の姿が消えた。かと思ったら化け物のすぐ目の前にいた


「なっ!」


「フッ!」


 男の人が下から掬い上げるように腕を振るうと凄まじい勢いで化け物が上に飛んでいく


 男の人は流れるように次の構えを取る


 右拳を腰だめにした。すると、右拳に炎が纏わり付いた。そして、膝を曲げて化け物目掛けて飛んだ。今度はなんとか目で追えた


 男の人は化け物に追いつき炎を纏った右拳を突き出した


 右拳は吸い込まれるようにして化け物の胸元に当たると、とてつもない爆発が起き、音と風が辺りに撒き散らされた


 一瞬の、瞬きの間の出来事だった


 化け物は跡形もなく消え去り、男の人は凄い高さからの着地を華麗に決めてこちらに来ると「今治してやる」と言って僕に手をかざすとその人の手と僕の体が光り始め、暖かな光に包まれる感覚と共に傷が治った


「もう大丈夫だな」


 男の人はそう言い残して去っていこうとする


 その後ろ姿は、母に読んでもらった英雄譚に出てくる英雄や冒険者のようで、僕は頭で考える前に言っていた


「待って!」


「なんだ?」


「僕を弟子にしてください!」


 これが僕と師匠の出会いだった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ