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殺人鬼

作者: テクラウス

『創り話』第二弾


息抜きに投稿

ちなみに『創り話』はこういう感じのものばかりです



改めてご忠告を


読む時は必ず時間と場所に気を付けましょう

さぁ、今日も『創り話』を始めよう。


まずはいつも通りに舞台設定から創ろうか。


そうだな・・・舞台はあいも変わらず現代だ。


それが一番君たちの心に響くだろうからね。なら舞台設定を創るとか言うなって?


あっはっは、確かにその通りだ。次回からは気を付けるとしよう。


さて…



君は新聞記者だ。


最近、世間では連続猟奇的大量殺人を犯した罪人が、ようやく捕らえられたと大騒ぎしている。


そこで君は、新聞の一面を飾るべく、どうしても話が聞きたいと、殺人鬼との対話を実現させるために尽力する。


その甲斐あってそれは叶うだろう。


勿論、警備の人も同席して居るし、制限時間も決まっている。


その中で君は何を質問するだろうか?


念入りに考えて、考えて、考えて、こう結論付けた。


質問は一つだけ。あとは好きに喋らせてみようかと。


さぁ、お待ちかねの対話の時間だ。


君がその部屋に足を踏み入れると、空気が変わったような気がした。


外はあんなに暖かかったのに、部屋の温度が真冬の脱衣所の様に冷たいのだ。


いや、冷たいと言う表現はおかしいな、


静寂、孤独、恐怖、感情が入り混じっていて良く分からないが、一つだけ確かなことが分かる。


恐怖。それ故に部屋が冷たいと感じるのだろう。


四方を囲まれた密室で、部屋の真ん中に座るそれに対して感じる恐怖。


テーブルは無い。椅子が二つ置いてあるだけ。


君は感情を押し隠して、それの前に勇気を持って座るだろう。


そして、静かにボイスレコーダーで記録を開始する。


それと同時に警備の人が時間を図り始める。ここからは時間の勝負だ。


聞きたいことを恐怖を隠して質問すると良い。


「初めまして。私は新聞記者の○○と言います」


最初は無難な挨拶からか、悪くない。


「今日は貴方の事について聞きに来ました。質問を良いですか?」


「………ああ、構わない。」


殺人鬼は少しの間を空けた後、意外にあっさりと返事をくれるだろう。


「ありがとうございます。では、改めまして、私が聞きたいことは、一つだけしかありません。」


「………」


殺人鬼は君の瞳をじっと見つめている。質問を待っているのか、目の前の獲物の品定めをしているのか、それはわからない。


そして君は、全てを見透かされたような目を逆に見返してこう告げる。


「何故人を殺すのですか?」


そう、考えて出した質問はこれだけだ。人を殺すと言う事。その意味。


「……………」


殺人鬼は、目を瞑って黙った。


黙ってから何分経過しただろうか。空調の音だけが響くこの空間で耳が痛くなるほどの沈黙。


焦りを感じてきた君は、何か言葉を発しなければと口を開こうとするが……


「何故人を殺すのかと聞くか。」


殺人鬼はそうボソリと呟いた。君は返事はせずに声に耳を傾ける。


「普通、記者ならもっとマシな質問を考えてくると思っていたよ。どうしてこんな事を?とか、心は痛まないのか?とか、遺族に対して謝罪の言葉はないのか?とかね。

それを君、何故人を殺すのかときたもんだ。ちょっと考え込んでしまったよ。あまりに馬鹿げた質問、いや、哲学的な質問で真剣に考え込んでしまった。失礼失礼。」


先程の沈黙が嘘のようにベラベラと喋りだす殺人鬼に対して驚くが、話を真剣に聞こうと体を前のめりにする。


「そうだな、逆に問いかけても良いかね?君は人を殺したことはあるか?」


逆に質問を投げかけられた君は、そんな事したことが無いとキッパリと言い切るだろう。


「まあそうだろう。大抵の人は殺人と言う行動に移すことは無い。だが」


と、言葉を切ると、改めて目を見つめられて少したじろぐ。


「無いかね?想像でも良い、頭の中で人を殺したことは?本当に無いと言い切れるかね?」


「だが、それとこれとは話が…」


「ああ、違うとも。私は殺人を現実で行った。だが君も殺人を行っている。頭の中とは言え、紛れもないそれも殺人だ。」


君はそう言われて返す言葉がなくなる。


「確かに実際に行動に移した私は悪者と言われても仕方ない。今の世の中ではそうだろう。

しかし、今が戦争状態なら?

君は兵隊として招集され、戦場に送り込まれて否応なしに敵と呼ばれる紛れもない『人』に向けて重火器を向けるだろう。仕方がないと。これは戦争なんだと。殺さなければ殺されると。

つまりはそう言う事ではないか?今のこの場所は確かに平和だろう。

しかし、真に平和な場所など存在しない。人は頭では何を考えているかわからないものだからね。

頭の中で殺人を平気で行っている奴がいるかもしれない。行動には移さないだけでね。」


君はそれを聞いて何と答えるかな?是と捉えるか?断固として否と言い切れるか?


「人が人を殺す。確かに悪い事なのかもしれない。しかし、事情が変われば平気で殺すようになるだろう。

人は進化するすべを持たない。知力だけで今まで全ての事を凌いできた。もはやそれは進化と言い換えても差し支えないだろう。

しかしだ、動物は共食いをする物もいる。人だって、何かにつけて処刑するだろ?罪を犯した。大罪を犯した。なら裁かれて当たり前。当然の報いだと。

それを決めるのは君達自身だよ。ならそれを決めた君達も殺人者なんじゃないのか?私はそう思うね。」


「だからと言って、貴方が人を殺していい理由にはならないんじゃないですか?」


君は静かにそう反論した。


「そうだな。だからと言って人を殺していい理由にはならない。」


「そうでしょう?」


すこし勝ち誇ってそういう君に対し、動揺することもなく殺人鬼は静かに目を閉じる。

そしてしばらくして…


「確かに…私は人を現実に殺した。だが人を殺すと言う事はそこまで悪い事か。

少子化少子化と言われているが、正直言うと人は増えすぎたと思うのだよ。

野菜を育てるときには間引きを行うだろう?それと同じじゃないかね?

育ちが悪い物は捨てて新しい肥料にする。人もそうだと思うのだが間違っているか?

逆に質問しよう。君は何を悪と定義する?人に害をもたらすものか?自分を害する者か?

それとも、私の様な人殺しか?」


殺人鬼から質問を受けた君は何と答える?


「また難しい事を聞きますね。ですが、私の答えは変わりません。人に害為すものです。」


「ふむ。それもまた正しいだろう。そうなるならば私は君の中では裁かれて当然なのだろうね。

人を殺した。つまり人を害したわけだ。ならばそんな私を排除しなければならないわけだからな。

常人の思考だ。極めて単純。…おっと、馬鹿にしている訳ではないよ?それが素直な反応だってことを言っているだけだ。」


この殺人鬼はどうやらお喋りな様だと君は思う。


「しかしだ、人に害を為すものを悪と定義するならば、ほぼ全ての人がそれに当てはまるとは思わないか?

君は虐めを見たらどうする?止めるか?それとも見て見ぬ振りをするか?止めれば善だろう。止めなければ悪。ならば見て見ぬ振りをした人は悪として裁かれなければならないのでは?」


「それは極端な話ではありませんか?」


君はそう反論するだろう。


「そうだ。物凄く極端な話。しかし悪とはそう言うもんだよ。

例えばそうだな……君は新聞記者だろう?

新聞記者は記事を書くのが仕事だ。勿論色んな情報を調べ上げそれを記事として纏めるだろう。

その中の記事は全て真実か?情報が全て真実なんてものは殆ど存在しないだろうな。

私のこの話を記事にするときにも多少の歪曲をして伝えるのではないか?

確かにそのまま伝えることは出来ないと思うが…それでも真実を歪曲させて伝えることは悪と言えないかね?更に言うならば、新聞記者である君が書いた記事の情報に踊らされた人達が、その嘘の情報で不利益を被ったとしたら?君は悪になるだろう。人に害為すものと定義するならばそうなると言う事だよ。

完全なる悪なんてものは存在しない。誰もが持っている正義と言う名の大義名分をかざして執行しているのだから、それは悪ではなく正義と言っても良いんじゃないか?

しかしその正義は、多くの民衆によって捻じ伏せられる。数の暴力と言うものは怖いね。

君は宗教戦争を知っているかね?宗教の違いや政治的な対立によって起こる戦争の事だよ。

一方は自分の方が正しいと主張し、もう片方も自分の方が正しいと主張する。

どちらも己の中では正義であり、相手の信仰している物が違うから悪に見えるわけだ。

何が正しくて何が正しくないかなどと言うものは結局のところ主観でしかない。

今の現代でいうならば、タバコがいい例だな。タバコは体には害だ。これはもう周知の事実と言って良いだろう。

研究者たちの努力によって体に有害だと解明されたからな。しかし、それを摂取している人にとっては薬になっている。

しかもだ、タバコは国にとって税金に直結している良い対象となってしまっている。

直ちに廃止すれば国は立ち行かなくなるだろう。

代用できる品が増えるのかもしれないが、経済にダメージが入るのは確実だ。

それでも君達吸わない人にとっては害にしかならないから直ぐに止めろと言うだろう。

しかし止めれない事情を考えたことはあるか?ちなみに私もタバコは嫌いでね。なるべくなくしてほしいとは思うが、事情が事情だけに直ぐに止めろとは言えない。

つまりはそう言う事だ。自分の主観だけで物事を考えるなんてのは愚か者のする事だと私は思うわけだよ。君は私が何故人を殺したのかとか考えたことはあるかい?

まあ言ってしまえば、殺したかったから殺した。ただそれだけで理由なんて無いんだがね?アハハハハハハ。………冗談だよ、そう怖い目をするな。ゾクゾクするじゃないか。

君は今の言葉を聞いてこう思わなかったか?この狂人が。とね。

君は、君達は私の過去を知らない。何も知らない。世間もそれには無関心。ただ人殺しだから悪。

何々をしたから悪。悪は許されない。そういう集団心理が働いているんだよ。

そんな事を言う私の過去に付いて少しは興味が出て来たかい?

何故人を殺したのか…それも沢山の人を。勿論私にも理由はある。それを聞いても結局こう思って終わるだろう。『だからと言って人を殺さなくても』ってね。

まあそう思うのは勝手だが、取りあえず私の話を聞いてくれ。ここまで長々と話しているが更に話は続くぞ?準備は良いかね?

では話そう。私が生まれたのは決して裕福ではない貧乏な家庭だった。食べる物も貧しく着る物も貧しい。しかし幸せと言えば幸せ。

数少ない物でやりくりをするのは中々に楽しかったと記憶しているよ。両親は共働きで、私は一人で家にいるか、外で遊んでいるかのどちらかだったよ。

決して裕福ではないが、楽しい生活。それに終わりが来たのは、父親の借金のせいだったかな…。

今の生活に満足しておけばよかったものを、ギャンブルで金を増やそうと躍起になったのがいけなった。

おかげで一家は離散、母は私を置いて逃げた。父親は自殺をした。残された私は孤児院に行く事になったよ。そこからかな、私が人に対して何の興味も抱かなくなったのは。ずっと冷めた目をしていたよ。

しかしある時一匹の猫と出会ったんだ。

その猫は私に警戒心を抱いていてね、何度も引っかかれたりもした。しかし私は何故かその猫を放っておけなかったんだ。

自分と同じで、常に独りで居るそいつに。だからかな、私はそいつと仲良くなりたいと思った。孤児院から食事を盗みそいつにやったりもした。

結局懐くことは無かったがね。何故かって?そいつは死んだからだよ。

いつも通りにそいつの居る場所まで行った私は、そこでそいつの死体を見つけた。

感情が抜け落ちたようになったね。何故って?その猫の傷は人に蹴られたり殴られたりして、最終的に叩き付けられたのか手足が折れ曲がっていたよ。

私はその死体を見てこう思った。『ああ、人って言うのは残酷な生き物なんだ』と。そこから更に人を軽蔑するようになったよ。自分もそんな人なんだと思うと吐き気がした。

こんな生き物がこの世界に居て良いのかとね。だから私は人を殺すようになった。

この世界を我が物顔で生きている人をね。殺す人も一応は選んだつもりだよ?

特に動物を虐めた事のある奴を殺していったかな。

因果応報とでも言って欲しいね。だから私にも罰が廻って来たんだろうね。それは素直に受け止めよう。

しかしだ、これだけは言わせてもらいたい。私は人殺しだ。しかしそんな私を裁く君達も人殺しなんだと。

他人事のように事件を見て見ぬ振りをする君たちも悪なんだと。話が長くなってしまったかね。

おっと、そろそろ時間の様だ。私はこれでお暇させてもらうよ。聞いてくれて感謝する。」


殺人鬼は長い話を終わると、警官に連れられて部屋を去っていく。


君に与えられた30分と言う時間はとっくの昔に過ぎ去っていた。


さて、そんな話を聞いた君はこれを記事にするかい?


それとも歪曲して伝えるかい?


まあ馬鹿正直に書いた所で上の人がそのまま載せるとは限らないわけだ。つまり歪曲して情報を載せる。


上の人も悪だと断罪するか?出来ないだろうな。世間とは、世の中とはそういうものなのだから。



      『既にそういう風に出来てしまったのだから』



君はボイスレコーダーをしまい、茫然自失となりながら新聞社へと向かい、自分のデスク前で悩む事だろう。


悪とはなんだ。正義とはなんだ。その答えは結局自分の中にしか存在しない。


その行動故に殺人鬼は人を殺す。それが正義だと信じて。


君の思う正義と悪は一体なんだろうね?



さて、この『創り話』はここで終わりだ。凄くお喋りな殺人鬼だったね。


しかし、殺人鬼や狂っている人と言うものは、えてしてお喋りが多いと思うんだ。


自分の胸の内を聞いて貰いたい寂しがり屋が多いんだろうね。


そんな話を真面目に考えるのか、狂人の戯言と流すのかは勿論君たち次第だ。


私は考えとしては間違っていないと思うけどね。……そんな私も狂っているのかも?なんて。


君は、君達は、自分は違うと言い切れるかい?


と、あまり追いつめてもかわいそうだ。そろそろ幕引きの時間かな。


それでは、また次回の『創り話』でお会いしましょう。どうか、良い夢を…

私の頭の中は大体こんな感じ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺人鬼の考えが独特なのか、それとも記者の考えが甘いのか、何が正義なのか、何が悪なのか。そういったところを深く考えさせられる文章で、大きく引き込まれました。 視点が、記者でも殺人鬼でもないと…
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