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第1章ー4

 その翌日、米陸軍司令部を林提督は訪ねていた。

 林提督単独なり、日本人のみの訪問では、人種差別の目にさらされるだろうとして、フォッシュ、ヘイグ両将軍が配慮して、英仏両軍司令部から大佐クラスの参謀将校が林提督に帯同している。

 米陸軍司令官のパーシング将軍は、林提督を少なくとも表面上は歓迎した。


「よくぞ我が司令部においで下さいました。本来なら、こちらから表敬訪問せねばならないところです」

 パーシング将軍は林提督に如才なく言った。

 実際問題として、林提督は西部戦線の英仏日統合陸軍司令部の総参謀長という地位にある。

 パーシング将軍より明らかに格上だった。


「いやいや事実上、一兵も今は私は率いていない身ですので、お気になさらず。何しろ、配下の海兵隊も陸海軍航空隊も全面的に補充と再編制に勤しんでおりますので。一応、名目上は指揮下にある欧州派遣艦隊は地中海で対潜作戦に従事しておりますがな」

 林提督は表面上は謙遜したが、自分が陸海空の日本軍の全部隊を率いる立場にあることを暗に示した。

 少しははったりを効かさないと米陸軍は動いてくれないだろう。


「それで、ご用件はと聞くのも野暮でしょうな。我が米陸軍を前線に投入にしてほしいとの依頼ですか」

「これは話が早い。米陸軍にも協力していただくことで、独軍を完膚なきまでに叩きたいと思いまして」

 パーシング将軍の問いかけに、林提督も撃てば響くように答えた。


「ふむ、私としては反対させていただきます。我が米陸軍は米陸軍として単独で戦わせていただきます。断じて英仏日統合軍司令部の指揮下には入りません」

「それでは、英仏米日連合軍の勝利が遠のきます。我々は結束すべきです」

 パーシング将軍の決意を何とか変えようと林提督は説得したが、パーシング将軍の決意は変わらない。

「米大統領からもそのように指示を受けております。私と言えども米大統領の指示には逆らえません」


 この石頭め、シヴィリアンコントロールの悪い側面が出ている。

 湊川の戦を前にした坊門清忠とウィルソン大統領は同じではないか。

 林提督は内心でウィルソン大統領を罵ったが、表面上は穏やかに流すことにした。

「それなら止むを得ません。ですが、我々英仏日統合軍司令部は米軍の協力を心からお待ちしています」

 林提督はパーシング将軍に丁寧にあいさつをして米陸軍司令部を辞去した。


「何だ、あのイエローは。有色人種の癖に、白人の英仏両軍の大佐を従えるとは何様だ」

 林提督が去る姿を見ながら、パーシング将軍の副官の大尉は聞こえよがしに大声で言った。

 林提督は飄々として黙って去ったが、それを耳にした英仏両軍の大佐が黙っていなかった。


「それは、英仏日統合軍司令部に対する米軍の公然たる侮辱として、我々は受け取らせていただくが、よろしいかな」

 英軍の大佐がまず言った。

「米軍に対して、仏軍から砲撃が加えられても当然の言動だと覚悟されたい」

 仏軍の大佐も抗議した。

「はん。白人の誇りを持たない奴らが何を言う」

 パーシング将軍の副官はせせら笑った。


「いい加減にせんか。お前の言動は明らかに礼を失しておる」

 それを耳にしたパーシング将軍は慌てて副官を怒鳴った。

「あの方は、英仏日統合軍司令部の総参謀長だ。日本海軍の元帥だぞ」

「日本海軍元帥が英仏日統合軍司令部の総参謀長とは、余程、英仏は人材不足なのですな」

 副官は、大声で言い放った。

 英仏両軍の大佐は激怒した。


 この後、英仏両国の新聞にこの副官の発言は、米軍司令部の発言として掲載され、英仏両国民に激怒をもたらした。

 慌てて米陸軍省は謝罪と弁明に努める羽目になり、副官は戦車中隊長に飛ばされた。

 ちなみにその副官の名は、パットンと言った。 

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