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プロローグー5

「日本にあれだけ、戦車や戦闘機を贈るとは、仏も気前がいいですな」

 1918年2月に英海外派遣軍司令官のヘイグ将軍は、仏陸軍参謀総長のフォッシュ将軍に語りかけていた。

「いやいや、英も日本に対して気前がいいでしょう。戦車を贈り、対潜用の聴音機を供与しましたな。米国も日本に便宜を図っているとか。日本は仏英米全てに愛されています」

 フォッシュ将軍もヘイグ将軍に皮肉交じりの口調で返した。


「はは、ガリポリ作戦で救われたチャーチル軍需相以下、日本にはいろいろ恩義のある方が英国上層部には多いのですよ。恩義にはきちんと報いねば。それに優秀な弟子には師匠からいろいろ贈り物をすべきでしょう。日本海軍は我々英海軍の優秀な弟子ですからな」

「それを言われるなら、日本の海兵隊は仏陸軍の優秀な弟子ですからな。戦闘機や戦車を贈らねば。ヴェルダン要塞死守で大量の血を日本の海兵隊が流してくれた恩義を、仏陸軍は忘れません」

 ヘイグ将軍とフォッシュ将軍は、お互いの腹を探りつつ、日本を褒め合った。


 先にフォッシュ将軍がしびれを切らした。

「今年の内に大戦を終わらせねばなりません。最早、仏には兵は無く、士気も堕ちつつあります。英も同様では」

「そのとおりです。今年中に戦争を終わらせましょう」

 ヘイグ将軍も同意した。


「日英仏各軍情報部の情報交換により、西部戦線で独軍の大攻勢が発動されるのは間近いと判断されています。この際、西部戦線全体を統括する司令部を設けるべきです」

 フォッシュ将軍は提案した。

「その最高司令部の司令官は、あなたがなられるおつもりですか」

 ヘイグ将軍は問い返した。

「私が最もふさわしいと思いますが」

 フォッシュ将軍は反問した。


「ふむ。私ともう一人を副司令官なり、総参謀長なりに入れるなら英軍は同意しましょう」

 ヘイグ将軍は逆提案した。

「もう一人とは誰ですか?」

「海軍の提督ですが」

「性質の悪い英の冗談は止めてください」

 フォッシュ将軍は眉を顰めて言った。


「仏の将兵は同意する、いや、大歓迎すると思いますがね」

 ヘイグ将軍は平然と受け流した。

「ほう、具体名を上げてください」

「日本の林忠崇提督ですが、何か問題がありますか?」

 その名前を聞いた瞬間に、フォッシュ将軍は爆笑した。


「はは、確かに彼は海軍の提督だ。だが、彼ほど仏陸軍の将兵に慕われる外国人の将帥は、ひょっとするとハンニバル以来かもしれませんな。確かに彼なら仏陸軍の将兵は歓迎するでしょう」

 フォッシュ将軍は笑いが収まらないまま言った。

「失礼ながら、昨年のニヴェール将軍の失敗により、仏陸軍の将兵は攻撃に出ることを怖れるようになっています。あなたが声をかけても、中々仏陸軍の将兵は攻撃に出ないのでは」

 ヘイグ将軍は皮肉な口調で言った。

 フォッシュ将軍は肩をすくめながら同意した。

「いや、確かに仏陸軍の攻撃精神は地に堕ちています。攻撃に出て明確な勝利を収めた将帥が率いねば、仏陸軍の将兵は攻撃をためらうでしょう。林提督は確かに適任だ。よろしい、その条件を呑みましょう」

 ヘイグ将軍は腹の中で舌を出した。


「全く攻撃馬鹿だからな。フォッシュは」

 自分のことを棚に上げてヘイグ将軍は思った。

 だが、独軍の最後の力を振り絞った攻撃を迎え撃つのに、英仏両軍をまとめた司令部は必要不可欠で、しかも総司令官はフォッシュ将軍しかいないのも事実だった。

 ヘイグ将軍が悩んだ末に、緩衝材として思いついた人材が林元帥だった。

 彼なら仏陸軍士官学校を優秀な成績で卒業した経歴を誇り、しかも連合軍で陸戦を指揮する将帥の中では最年長でもある。

「林ならフォッシュの無理な攻撃を止めてくれるだろう」

 ヘイグ将軍はそう考えた。

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