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第1章ー14

「マルス」によって、サン=カンタン地区への北からの英軍の反攻は横撃を食らうことになり、独軍は失敗と結果的に判断したが、英仏軍協同による包囲殲滅作戦に狂いが出たのは事実だった。

 だが、北からは英軍が、南から仏軍がサン=カンタン地区に突出してきた独軍を包囲殲滅しようとしている状況の大勢に変わりはなかった。


「ふむ。独軍は扇状に展開しているのか」

 林提督は、英仏日統合軍司令部に詰めて、部下の英軍の参謀将校から独軍の現状の報告を受けていた。

 フォッシュ将軍も、ヘイグ将軍も自軍を督励するとして、司令部から出かけている。

 林提督の見立てでは、両将軍とも自軍がより戦果を挙げることで、相手に対して優位な発言権を得たいと思いがあるために、そのような行動に出たようだった。

 ここまで英仏に競争心があるとは、林提督は英仏の長年の因縁の深さから来るものだろうと思いつつ、何とかより両軍に協調してほしいと思わざるを得なかった。

 その代り、自分より上がいない以上、林提督は、英仏軍に「要請」する権限が当然ある。

 林提督は、その権限をフルに使わせてもらうつもりだった。


 独軍は「ミヒャエル」が当初、英軍の第1線を順調に突破する等、好調に進んでいることに見えたことから、握り拳を平手にしてしまっていた。

「ミヒャエル」の北側を担当する第17軍右翼は、北西のサン・ポールへ、左翼は西方のドゥレンスからアベヴィーユを目指した。

 中央の第2軍は西方に向かい、ソンムからアミアンを目指す。

 南側の第18軍は全軍で南西に向かい、仏軍の反攻に備えられるように急進する。

 ルーデンドルフはそのように命じていたのだ。


 これについて、第18軍参謀だったマンシュタインは後に批判した。

 これによって、独軍は英軍に致命傷を与える最後のチャンスを自ら放棄したと。

 確かに南からの仏軍に対処するために第18軍を向かわせたくなるのは分かるが、そのために「ミヒャエル」に投入された約4割の部隊が遊兵となってしまった。

 せめて、第18軍の一部でも英軍の攻撃に向かっていたら、戦況は変わっていたのではないかと。


 このために、英軍は確かに損害を出しはしたが、多くが撤退に成功してしまった。

「ゴフ将軍率いる英第5軍は損害を被ってはいるが、大規模な反撃が可能であると報告があった。南方から独軍に攻撃を加える仏第6軍11個師団は攻撃準備が整った。英仏日統合軍司令部総参謀長として、各軍司令部に「要請」を行う。総反攻を開始せよ」

 林提督は「要請」を行った。


「士官学校の林先輩からの要請である。後輩として私は謹んで承ろう」

 仏軍のペタン将軍は、冗談交じりにそう言って、第6軍を率いて南方から反攻に転じた。

 その後ろでは、フォッシュ将軍が全仏軍を督励していた。

「何としても英軍以上の戦果を挙げて、独軍を敗北に追い込め」


「畜生、弾も食料もない状況で、負傷兵を抱えて、どこまで抗戦できるというんだ」

 最前線の独兵の多くが悲鳴を上げながら、後退を開始した。

 第1線を突破した時点では勝利を自分達は確信していた、しかし、それは罠だったのだ。

 第2線、第3線と自分達が攻撃していくにつれ、英軍の火力支援は強化される一方になり、我々独軍の火力支援は細る一方になった。

 そして、「荒地」を進軍することは困難を極め、突撃部隊の将兵の多くが空腹を抱えて、弾薬不足に悩みながら前進することになった。

 更に悪いことがあった。


「扇状に前進したということは、部隊が進むほど必然的にばらけるということだ」

 林提督は冷たく言った。

「独軍は殿軍を集めるのさえ困難になる。殿軍がいない以上、後退する部隊は追撃する英仏軍の好餌になる運命が待っている」 

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