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第1章ー10

 日本軍の将官会議が終わった後、数日の間、山下源太郎提督は考え込んでいた。

 ようやく決心がついた山下提督は、山本五十六少佐を呼び出した。


「どんな用件でしょうか」

 山本少佐は、何故に山下提督に呼ばれたのか、訳が分からなかったので、山下提督に尋ねる羽目になった。


「うむ。新兵訓練を度外視して、最前線にどれくらいの数を我々は送り込める」

 山下提督は山本少佐に尋ねた。

 山本少佐は欧州に派遣された海軍航空隊の第一陣の部隊指揮官である。

 その後も、紆余曲折はあったが海軍航空隊の搭乗員としては第一人者の地位を維持していた。


「それは、山下海軍航空隊司令官からの命令でしょうか」

 山下提督の問いかけを受けた山本少佐は奇妙な笑みを浮かべた後で言った。

「我々は海軍の軍人です。司令官からの命令とあらば、全員が地獄にでも赴きます」

「済まんな。妙な問いかけをした」

 山下提督は思わず笑みを浮かべた。


 そうだ、我々は日本海軍の軍人ではないか。

 海軍元帥1人に戦わせてどうするのだ。

 指揮官が先頭に立って指揮を執るのに、部下が後方に隠れていいわけがない。

 自分の考えることは、部隊の現状を把握したうえで、少しでも多くの部下を最前線に送り込むことではないだろうか。

 もちろん、戦争である以上、補充等の問題を軽視する訳にはいかない。

 そして、さっきの問いかけは部下に責任を丸投げにしたと言われても仕方ない。

 山下提督はようやく決心を固めた。


「海軍航空隊司令官として命令する。戦闘機24機、偵察兼爆撃機48機を速やかに最前線に派遣する準備を整えるようにせよ」

 山下提督の命令に、山本少佐は即座に敬礼して答えた。

「直ちに準備を整えます。搭乗員の選抜についてはどうされますか」

「山本少佐の選任に任せる。その責任は私が全面的に取る」

「了解しました」

 山本少佐は満面の笑みを浮かべて答えた。

 日本海軍航空隊ここにあり、というのを独軍の大攻勢の際に示してやる。


「おい、これを見ろ。このメンバーで最前線に赴く準備を整えろ、とのことだ」

 大西瀧治郎中尉は、最前線に赴くように準備を整えるように選抜された搭乗員に配布された割当表、いわゆる搭乗割を見せながら、草鹿龍之介中尉に笑って言った。

 草鹿中尉は、搭乗割を見て驚いた。


「我が海軍のトップエースの吉良俊一中尉を始め、ガリポリ組全員が入っているではありませんか。それに残り全員もヴェルダン以来の精鋭が多々入っている」

 草鹿中尉は思わず呻いた。

 ガリポリ組とは、ガリポリでの戦闘を経験した搭乗員のことだ。

 残りの搭乗員も多くがヴェルダンでの戦闘を経験した者で、例外の新人もガリポリ組に匹敵すると謳われる技量の持ち主の最精鋭の搭乗員ばかりだ。


「最精鋭の搭乗員に、最新鋭機をかき集めた部隊。今回、最前線に赴こうとする我が日本海軍航空隊の選抜部隊は、紛れもなく質的には世界最精鋭を豪語してもおかしくない部隊だぞ」

 大西中尉は晴れ晴れと言った。


「しかし、これだけの精鋭を最前線に送り込んでは新兵訓練がままならなくなりますし、損耗した場合の補充も大変です」

 草鹿中尉は渋い顔をした。

 1915年以来の大戦の経験は、草鹿中尉に、戦争は一撃では終わるものではない、長いこと続くことを覚悟して戦争は行わねばならない、ということを叩きこんでいた。


「確かにそうだが、林忠崇元帥が戦うのに、海軍航空隊が訓練に励むだけというわけにはいかん。日本の海軍航空隊はここにいる、というのを示そうではないか」

 いつの間にか、傍にいた山本少佐が言った。


 確かに山本少佐の言うとおりだ、日本海軍航空隊ここにあり、というのを示して見せる、草鹿中尉は決意を固めた。

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