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第1章ー8

 フティエア将軍は、マンシュタイン大尉をたしなめはしたが、自分も「ミヒャエル」作戦の危険性についてはマンシュタイン大尉の話を聞く限り、不安しか覚えなかった。

 独陸軍参謀本部に、マンシュタイン大尉の直言を受けて、すぐに自分なりに今回の作戦の危険性を再検討して、自分の意見としてフティエア将軍は打電を行った。

 しかし、その結果は将軍を失望させるものだった。


「最早、「ミヒャエル」作戦は中止不可能である。本作戦を成功させるべく第18軍は全力を尽くせ」

 フティエア将軍が打電してから2日後に届いた独陸軍参謀本部からの返電は、言葉を連ねることで、色々と誤魔化してはいるが、結論的にはそういう内容だった。

 フティエア将軍なりに、その後もいろいろ英仏日軍の情報収集と分析に力を注いだが、その内容は独軍の攻勢成功の可能性を減少させるものばかりだ。

 どう考えても「ミヒャエル」作戦を独軍は発動すべきではない、とフティエア将軍は考えざるを得なかった。


「だが、独陸軍参謀本部から、ここまで言われては是非もない」

 フティエア将軍は天を仰いだ後で、独り言を言った。

「我々はヴァルハラに向かって突撃して見せよう」

 今やフティエア将軍は、「ミヒャエル」作戦の結果について、絶望しか抱けなかった。


「第18軍司令部から言われるまでもなく分かっている」

 フティエア将軍に対する返電を打った後、参謀次長のルーデンドルフ将軍は独り言を言った。

「最早、「ミヒャエル」は成功の公算が少ないことをな。だが、我々は行わざるを得ないのだ」

 ルーデンドルフ将軍は思いを巡らせた。

「わずか1割でも勝算があるならば、我々はそれに賭ける。そして、勝利を掴むしかない」


 ルーデンドルフ将軍の手元には、西部戦線の双方の兵力の概算があった。

 英仏日連合軍については概算だが、独軍については間違いないはずだった。

 英仏日連合軍は、指揮下にない予備の米軍も含めるならば、180個師団を掌握しているはずだ。

 その内訳は主力となる英仏軍併せて160個師団(但し、英軍60個師団が要補充)、それ以外はベルギー軍12個師団、日本軍4個師団、米軍4個師団(但し、米軍師団は、英仏日ベルギーと比較して約2倍の規模を持つ特大師団)だった。

 一方、独軍は192個師団を保有している。

 東部戦線に22個師団、約80万人しか残さない等、無理に無理を重ねての数字だが、兵力的に独軍側が優勢にあるのは間違いない状況だった。

 しかし、この状況は4月一杯が限界で、5月からは米軍の来援により、兵力は完全に独軍が劣勢という状況に転落するはずなのだ。

 しかも、質の面では今でも完全に連合軍に劣っている。

 192個師団を独軍は数えると言っても、その内の数十個師団は塹壕の守備にしか使えない、いわゆる「塹壕師団」というのが独軍の現状だった。

「だから、今しか我々にチャンスはない。そして、今から作戦を変更しては、作戦発動が間に合わない。だから、「ミヒャエル」に我々は賭けるしかない」

 ルーデンドルフ将軍は呟いた。


 マンシュタイン大尉は、フティエア将軍から独陸軍参謀本部の返電の内容を聞いた後、瞑目して思いを巡らせた。

「参謀総長に直訴すべきかもしれないが、最早、どうにもならないということか」

 ヒンデンブルク参謀総長の妻は、自分にとって母方の叔母である。

 その縁戚を頼ろうか、とまで頭の隅で思っていたが、フティエア将軍からの正式な要請さえ拒否される現状ではどうにもならない、とマンシュタイン大尉は諦念を覚えるしかなかった。

「勇敢に戦って死ぬか」

 マンシュタイン大尉はあらためて思った。

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