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第1章ー7

「大尉の言いたいことは分かる。しかし、それならもっと早く言うべきだろう。今頃になって言うことではない」

 フティエア将軍は大尉を叱った。

「分かっています。ですから、将軍にだけ申し上げるのです」

 大尉は反論した後で続けた。


「実は最近の西部戦線の英仏軍の諸部隊の動きを私なりに調査しました」

「ほう」

 将軍は感心した。

 独自に英仏軍の状況を調査していたとは、この大尉は見所がある。


「その結果、この攻勢を行うリスクが極めて高まっていることが分かったのです」

 大尉の一言に将軍は反応した。

「一体どういう点だ」

「英仏日統合軍司令部が既に円滑な行動を開始しており、更に我々の浸透戦術を逆用するつもりなのではないか、と私は疑われてなりません」

「本当か」

 将軍は愕然とした。

 それが本当ならば、英仏両軍の結節点を攻撃しようとする「ミヒャエル」は、正に最悪の攻勢計画に一変してしまう。

 なぜなら、「ミヒャエル」は、英仏両軍が協調できないというのが大前提での攻勢計画なのだ。


「英仏両軍が巧みに協調して、我々の攻勢を迎え撃つことを行ったら、我々は必敗です」

 大尉の懸命の訴えは、将軍の心を動かした。

「大尉の考えの根拠はどこにあるのだ。それを教えてほしい」

 将軍は大尉に問いかけた。


「英仏だけなら、中々協調が出来なかったでしょう。しかし、日本がいます。日本の林提督はチロルで我々の浸透戦術を破っています。林は先日、英仏日統合軍の総参謀長に就任しました。林が英仏を仲裁しているのでは。そして、浸透戦術の破り方を伝授しているのでは、と私には思われます」

「二国だけなら対立した際の仲裁役がいないが、三国なら仲裁役がいるということか。そして、その仲裁役に実績という力がある」

 大尉の言葉に、将軍は唸った。


「米国の将軍にはこの西部戦線での実績がありませんから、仲裁役になっても言葉に説得力がありません。しかし、日本の林提督は違います。ガリポリ、ヴェルダン、チロルと注目される戦域で戦い、常勝不敗と謳われるだけの実績を持っています。その林提督が仲裁役に徹したら」

「英仏どちらにも所属しない第三国の提督の意見なだけに、中立的な意見だと英仏両軍は林提督の意見を共に考えざるを得ない。英仏両軍は日本を仲介として連携を深めているということか」

 大尉の言葉の重みに、将軍は表情を深刻なものにせざるを得なかった。


「その証拠の一端がこれです」

 大尉は同じ場所を撮影した航空写真を何枚か将軍に示した。

 将軍はその航空写真を見て、それぞれの日付を確認した。

 航空写真の撮影内容の変化を理解するにつれ、将軍の表情は険しいものになった。


「明らかに英軍の第1線陣地が単なる警戒陣地になり、第3線陣地が主力陣地になりつつあるな。これでは浸透戦術の強みが薄れてしまう」

 将軍は暫く考え込んだ末に声を絞り出した。

 大尉は黙って肯いてから言った。

「おそらく林提督の指示だと思われます。明らかにこれまでの英軍の防御方法と異なっている」


 将軍は暫く考え込んでいたが、諦念を表情に示してから言った。

「ミヒャエルは引き返し不可能な状態だ。我々は作戦を発動するしかない」

「ですが、失敗に終わる危険が高い作戦を発動するのは」

 大尉が顔色を変えて発言しようとするのを、将軍は押しとどめた。

「大尉の気持ちは分かる。だが、ここまで準備が進んだ作戦を軍司令部の判断で中止することはできない。参謀本部ならできるかもしれないが、作戦発動まで1週間を切った状態で作戦を中止しては大混乱がもたらされるだけだ。我々は作戦を行うしかない。マンシュタイン大尉、分かってくれ」

「分かりました」

 マンシュタイン大尉は不承不承肯いた。

 

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