表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/120

第1章ー5

 3月14日、カイザーシュラハトの一環として行われるミヒャエル作戦の発動を1週間後に控え、独第18軍司令部はその準備に勤しんでいた。

 気が付けば、14日から15日に日付が変わろうとしている。

 第18軍司令官のフティエア将軍は、司令部の幕僚に幾ら何でも眠りにつくように指示を出そうと、司令部内を見回した。

 幕僚たちは皆、精力的に仕事をしているが、その中に1人、浮かない顔をして仕事をしている大尉参謀がいることにフティエア将軍は気づいた。


「どうした、何か心配事か」

 フティエア将軍はその大尉参謀にそっと声を掛けた。

「ええ、後で個人的に相談したいのですが」

 その大尉は声を潜めて返答した。

「ふむ」

 将軍は少し考えた、もう夜も更けている。

「明朝でも構わないか」

「構いません」

「では、明日9時から相談に乗ろうか」

「ありがとうございます」

 大尉は喜色を浮かべて返答した。


 翌朝、私室に将軍はその大尉を招き入れていた。

「一体、どんな相談事だ」

 将軍の問いかけに、大尉はいきなり爆弾を投げつけた。

「将軍、そもそもこのミヒャエル作戦を発動すべきなのでしょうか」

「何だと」

 将軍は仰天した。


「既に全面的にこの作戦が動き出した後で言うことではないと思わないのか」

 将軍は大尉をたしなめた。

 いきなり大尉を叱りつけなかったのは、将軍自身、この作戦に大いなる危惧を覚えていたからだ。

「分かってはいます。ですが、そもそもこの作戦の発端から思い返してください」

 大尉の反論に、将軍は思いを巡らせた。


 1917年11月11日、ベルギーのモンスで独軍司令部は来春の攻勢計画について会議を開いて話し合った。

 この会議では西部戦線のどこで独軍が攻勢を取るのかが議論された。

 そして、戦略構想について深刻な対立が会議の参加者の間で見られた。


 参加者全員が表だって口には出せないが、内心では承知していたことがある。

 最早、独軍が1回の攻勢だけで英仏軍に対して勝利を収めることは困難だ。

 だが、独軍に何回も攻勢に出て英仏軍に対して決戦を繰り返すだけの余力は存在しない。

 国家戦略的に見て、独に勝算は乏しい。

 だが、軍人として戦うしかない。


 この会議において、参謀次長のルーデンドルフ将軍以下の多数派の参加者は、何とかして独軍が複数の攻勢に勝ち続けることでこそ、独に勝利の道は開けると主張した。

 一方、作戦本部長のヴェッツェル中佐以下の少数派の参加者は、現有戦力では1回の攻勢に出ることが独軍には限界であり、独に残された時間も乏しいと主張した。

 多数派にも内心では、少数派の意見が正しいと思っている者が多数いたために会議は紛糾してしまった。

 大揉めに揉めた末に会議では、5つもの作戦計画が次回の11月27日までに立案されるというてん末がもたらされた。


 11月27日、5つの作戦計画が会議では検討された。

「ザンクト・ゲオルク」英軍の補給拠点ハーゼブルックを目指す計画。

「マルス」英軍集中地アラス一帯を直接衝く計画

「ミヒャエル」サン・カンタン地区への攻勢計画

「アキレス」ランス西方の仏軍への攻撃計画

「カストルとポルックス」ヴェルダンを南北から再度挟撃する計画


 どの作戦計画にも一長一短があり、散々揉めることになった。

 最終的に会議の議長を務めていたルーデンドルフ将軍の裁断により、「ミヒャエル」がこの会議で採用されたのだが、その採用理由は消去法によるというある意味、優柔不断の末に選ばれたという情けない採用理由だった。

 更に他の作戦計画も情勢の変化に備えて一応温存するというある意味、最悪の選択がなされてしまった。

 これで大丈夫か、会議の参加者の多くの内心で不安は更に募った。

ご意見、ご感想をお待ちしています。

ちなみに大尉参謀は、バレバレとは思いますが、あの有名な将軍の若かりし頃です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ