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炎とマッチ

作者: 道永純生

登場人物(短いのに多いので)

秋葉 圭  主人公

海部 良  フリョウ。サークルの部長、圭の幼馴染

中原 幸恵 サッチー。被害者

志村 拓也 シムタク。月湖荘オーナーの息子

大坪 雅人 ガンジー。騒がしい瞑想者

内海 愛  愛ちゃん。ネコ科の女の子

野村 哲  ボウヤ。愛ちゃんのペット

倉田 翔  イケメンのスポーツマン

 ただならぬ気配に目が覚めた。

 覚醒しきらない頭を置き去りにして、視覚のほうが先に機能しはじめる。ベッドに横たわったまま窓を見やると、ライトブルーのカーテンが橙に色を変えていた。何もかもがぼんやりと見えるのは、どうやら部屋の中に白い煙がたちこめているためらしい。

 とっさに時計を見ると午前二時十分。外が薄明るいせいで、蛍光塗料の力を借りなくても背面の文字が読み取れた。

 急に頭の中で何かがスパークして、がばっと布団を跳ねのけて起き上がった。

 そして数秒後。

完全にパニックに陥って、錯乱状態にある自分に気がついた。無意識のうちに、獣のような悲鳴をあげていたのだ。それを――自分の声と認識し――、そこで初めて、置かれている状況について、まともな解釈ができた。

 つまり――、火事だ! と。

 もともと持ち合わせの少ない冷静さを、どうにか取り戻してみると、つんと鼻を刺激し、目にしみる煙は、もはや我慢できないほどだった。とはいえ、階下からの出火でなければ、ドアを開けて逃げ出す時間ぐらいはありそうだった。急いで出火場所を確認し、決めなければならない。逃げ道は、ドアか、それとも窓か、を。

 一瞬迷ったが、ともかく窓から外の様子を見ようと思った。この部屋には、ほんの一メートル幅のバルコニーがついているので、そこから外の様子を窺うことができる。転びそうになりながら窓際に走り寄り、カーテンを引き、錠を解いて飛び出した。吹きつけてくる熱風を避けるために、思わず手で顔を覆いながらあたりを見回す。

 火元は、同じ二階の隣、サッチーの部屋のようだ。

 手すりにつかまって伸びあがりながら覗き込むと、隣室のカーテンはすでに焼け落ちていて、炎の合間から、部屋の中の様子が見てとれた。

 サッチーは、ベッドの上にいた。目を剥き、舌を突き出し、一条の痣を首に刻んで、横たわっていた。

(サッチー……)

 紅蓮の炎に炙られ、ほてりきった体にもかかわらず、一瞬のうちに鳥肌がたった。わなわなと震える体は痺れきっていて、思うように動かない。

(ああ、サッチー……)

 驚きと恐怖で、大きく喘いでいたので、煙をたっぷり吸い込んでしまったようだ。強く咽せって意識が遠のいていく……。

 そのとき、階段を駆け上ってくる足音が近づき、誰かがドアを激しくたたいた。

「おーい、圭、だいじょうぶか! ここを開けろ」

 よろめきながら、最後の力を振り絞って、ドア口までたどり着き、ノブを回した。

「圭、しっかりしろ」

「良ちゃん」

 幼なじみの良の顔を見た瞬間、体中の力が抜けていって、何もかもわからなくなった。わたしは気を失ったのだ。

          *

 わたしは目を開ける。

 車の中にひとり。

 良のワンボックスカーの後部座席に寝そべっていた。

 通気のためか、わずかに開けられた窓からは、生ぬるい風が吹きこんでいた。そして、その風の音に混じって、外の喧騒が聞こえてくる。人の声、エンジン音、水しぶきの音……。

 近くで、消防車かパトカーのパトロール・ライトが点灯しているらしく、室内は周期的な明滅を繰り返している。

 そうだ、火事にあったのだ。そしてサッチーは殺されていた。

 寒気がして、襟元を掻き合わせようとしたら、良のウィンド・ブレーカーをパジャマがわりのTシャツの上に羽織っていることに気がついた。きっと彼の心遣いに違いない。自分で歩いた覚えはないから、ここまでおぶって連れてきてくれたのだろう。

 Tシャツの下はノーブラだった。

(あーあ、いくら幼なじみでも会わせる顔がないな)

 命に関わる危機がとりあえずは去って、いくらか余裕を取り戻したわたしは、そんなことを考えながら体を起こした。

 月湖荘の駐車場にいた。

 数台の消防車とパトカーが、荘の回りを取り囲むようにして止まっていた。風が強いせいか、まだ鎮火していない。というより、消防車のホースからは、おびただしい水が勢いよく噴射されているにも関わらず、もはや屋根も落ち、壁すらも無くなりつつある荘は、いまだ火勢を失っていなかった。山深い八代湖の湖畔にたたずむ月湖荘、ひっそりと木々に抱かれた白亜色の美しい館は、いまは一分の隙もなく赤く染まっていた。

 近くで良の声が聞こえた。警察に事情を聞かれているのだろう。

「ええ、ぼくたちは大学のサークルの合宿で、昨日の昼からここに泊まっていました」

 刑事らしい背の低い中年の男が、まるでドラマのようにメモ帳を持ちながら、良の話を聞いていた。良の野太い声はよく通るのだが、刑事の声はくぐもっていて、はっきりと聞こえない。

「そうです、この別荘のオーナーの息子が、ここにいる志村君です。彼がメンバーに加わってから、夏の合宿はここに来ています。去年に引き続いて二回目です」

 シムタクこと志村君の他、仲間たちが、強い風にあおられて揺れ震える木立の間から、見え隠れした。ボウヤ、愛ちゃん、ガンジー、倉田さんと、サッチーを除くメンバー全員が、顔をそろえている。なんとか無事に逃げおおせたらしい。

「ええ、逃げ遅れた中原さんは、ここから見ると一番手前の、あのあたりを居室としていました。たぶん彼女の部屋から出火したのだと思います。……はい、確かに彼女は煙草を吸いました。でも……」

火事の原因を探ろうというのか、サッチーの喫煙の習慣が取り沙汰されているようだ。良が代表して警察の質問に答えているのは、わがサークルの部長だからだろう。

「ぼくと野村君は、ずっと一階の居間で、チェスをしていましたが、火が出ているなんて、ぜんぜん気がつきませんでした」

 そうか、良とボウヤこと野村君は、あの後ずっとチェスをしていたのか。わたしたち女の子、つまり愛ちゃんとサッチーとわたしが、居間を出たのは、午前零時を少し過ぎた時間だった。ということは、二時間もの間、チェスをしていた勘定になる。

「先程ご説明したとおり、逃げ遅れた中原さんと、あの車で休んでいる秋葉圭、それからそこの倉田君が、火事の発生当時、二階にいました。ほかのメンバーは一階にいました。ぼくと野村君以外は、各自部屋で寝ていたと思います。大坪君が一時頃トイレに行きましたが、その他は誰も出入りしていません。ええっと、トイレは二階へ行く階段とは逆の方向です。刑事さんが何を考えているか知りませんが、少なくとも、ぼく達二人を残して、みんなが居室に引き上げた零時以降、一階の住人が、二階へ上がっていったりしていないことは確かです。そんなことがあったら、気がついたはずです。なぁ、そうだろう?」

 ボウヤがことさら大袈裟に、首を縦に振る。

 刑事はわたしたちの誰かが放火した可能性を疑っているのだろうか? たぶんそうに違いない。

 サッチーは殺されていた。

 おそらく犯人は、彼女を殺害したうえで、火を放ったのだ。

 常識的にみて、サッチーを殺した犯人はわたしたちの中にいる可能性が高い。ほんの数十戸の集落しか近くには存在しないこんな山奥、消防車だって、きっと十キロやそこら駆ってきたはずなのだ。だから……、信じたくはないが、犯人はわたしたちの中にいる。

(刑事さん、中原さんは殺されていました。火はその犯人が点けたのだと思います)

 わたしは心の中で声に出してみた。

「二時を少し回ったくらいでしたか、あの車で休んでいる秋葉圭が、サルのようなものすごい雄叫びをあげたのです。ええ、彼女だってことはすぐ分かりました。幼馴染なのでピンときました。それでぼくは、びっくりしている野村君を残して、様子を見に二階へ上がりました。そうしたら、中原さんの部屋から火が出ていて、その隣の圭の部屋にも火がうつって、扉の周りが燻り始めていました。ぼくは扉を思い切りたたいて彼女の安否を尋ねました。ああ、彼女が扉を開ける少し前に、倉田君が顔を出したので、すぐに逃げるようにいいました」

 人のことをサルだなんて、聞いていて悲しくなる。けれどわたしには怒る元気がなかった。他のみんなは『君』とか『さん』とか、いわゆる敬称つきで、わたしだけ秋葉圭とか圭と呼び捨てられても、この際どうでもいい気分だった。

 はやく、すこしでもはやくサッチーのことを知らせなければいけない。

 でも……なんだか……こわい。

「それで、気絶した彼女を背負って、階下へ降りてきたのですね」

 風向きの関係か、警察官の声が微かに聞こえた。風貌そのままのかすれ声だった。

「そうです。もはや中原さんのほうは助けられないと判断しました」

 それをしおに刑事の質問は、別荘に関することに切り替わったらしく、志村君がおずおずと前に進み出るのが見えた。

 わたしは、思い切るように深い息をひとつついて、外に出ようと足元を見る。

 靴がなかった。

 この車まで良に背負われてきたのなら当然だった。誰かを呼ぼうと思ったが、億劫だった。というより、サルと誹られているのに、窓に口を押し当てて、大声を出す気にはなれなかった。

 そのとき、ふと犯人に思い当たった。

 さっき良は何といっていたか。

 午前零時から二時過ぎまでの間、誰ひとり二階へは上がらなかったといっていたではないか。わたしは、零時頃、サッチーと部屋の前でおやすみの挨拶をした。つまりこのときまで彼女は生きていたのだ。とすれば、それから二時間のあいだに、犯人は彼女の首を絞めたことになる。そして、くどいようだが、このあいまに、二階へあがってきた人間はいない。ならば、犯人となり得るのは、唯ひとりだ。

倉田君。まさか彼が……。

 いや万に一つは、そうでないことも考えられる。ひとつは、良とボウヤが嘘をついている場合。もうひとつ、犯人が二階の窓から侵入した場合だ。この二つの可能性がどのくらいあるだろうと心の中で反芻してみる。

 どうにもしっくりこない。

 待てよ、もうひとつ。

(サッチーは殺されていなかった)

というのもあった。わたしは動転して自分を失っていたのだ。目の錯覚は十分に疑っていい。つまり、焼け落ちた何かがサッチーの首に落ちていただけではないのか? 酸欠で苦しみ悶えたサッチーは、その死の間際、舌を突き出したのではないのか?

 あれほどはっきりと網膜に焼きついたサッチーの死に顔を、首の痣を、わたしは否定してみた。いや、だめだ。やっぱり殺されていたはずだ。

「おお、気がついたか。早く降りてこいよ」

 良の声が聞こえた。

 はっとしたわたしは咄嗟に応える。

「靴がないのよ。サルじゃないから、降りられないのよ」

 夜明け前、火はようやく消し終えられ、警察の現場検証が開始された。やがて……、太陽が顔を出し、野鳥のさえずりがさわやかな朝の雰囲気を運んできた頃、サッチーの部屋があった辺りから、焼けこげた死体が発見された。死体は骨すらも判別できぬほど炭化し、もはや人間の原形をとどめていなかった。

 わたしは彼女が発見されるまで、荘にとどまっていたわけではない。

 煙を大量に吸っていたため、消火が終わるのも見届けずに、簡単な事情聴取だけを受けて、病院へ運ばれたのだ。

 わたしはサッチーが殺されていたという事実を口にできなかった。自分でも不思議なのだが、喉が詰まって言葉にできなかったのだ。決して煙を吸ったせいではない。あとから思い返してもうまく言えないが、意味もなく芽生えた自らの保身のためだったように思う。

(殺されていたというのが事実なら、早晩判明するに違いない。誰も喜ばないことを、そしてあらぬ疑いをかけられることを、わたしから言わなくてもいいのではないか?)

 わたしはそう思ったのだった。

          *

 一週間という時間があっというまに過ぎていった。その間に起きたことをかいつまんで話すとこうなる。まず、サッチーの遺体だが、当然のことながら司法解剖に付された。しかしながら、炭化した死体からは何一つわからなかった。肺が煙を吸っていなかったことや、気管の咽頭部が潰れていることが、明確に判明すれば、きっと殺人事件になっただろう。

 火事の原因のほうも、あまりに手ひどく焼けてしまうと、判然としないらしい。一応は、サッチーの煙草の不始末だろうということで落ち着いたが、不明というのが率直な見解のようだ。けれども警察もただ手をこまねいていたわけではない。例えば月湖荘の火災当時の施錠状態は判明している。避難口であった玄関を除いて、勝手口、一階と二階の窓という窓が、唯一の例外であるわたしの部屋以外、施錠されていたことがわかっている。勝手口はチェーンもかかっていたという。荘を襲った火災は、激しい火勢だったので、かなりのアルミのサッシが変形したり、ものによると融けたりしていた。それを警察はひとつひとつ丹念に検分して、そういう結果を引き出していた。サッチーの部屋のドア鍵についても施錠されていたことがわかっている。もっとも部屋の鍵は、ノブの真ん中にボタンがあって、そのボタンを押したまま扉を閉めると、ロックされてしまう簡単なものなので、外から施錠することもできるのだが……。

 以上の情報は、愛ちゃんが、自慢の黒髪と甘い言葉で、刑事にしなをつくって聞き出したものだ。彼女は、『ボウヤは金属工学科だけれど、勉強不足だから、きっとアルミの融点が六百六十度だなんて知らないよ』と、シニカルに言い添えて、一方そんなことまでちゃんと調べている警察にやたら感心した口振りで、電話で教えてくれたのだった。

 ということで、月湖荘の火災は、煙草の火の不始末という結果になりそうだった。

 わたしは刑事の来訪をその後も受けたのだが、サッチーが殺されていたことを、やっぱりいい出せなかった。タイミングを逸した証言というのは、口にするのが難しい。毎日、思い悩み、夜寝るときなど、布団をかぶって涙を流しているというのに、どうしたものか、警察に証言することができなかったのだ。

          *

 さらに一週間が過ぎ、九月も半ばになった。

 すでに大学が始まっていた。

 わたしは、火事以来、今日まで大学へ足を向けなかった。夏休みだったせいもあるが、サークルの仲間と顔をあわせたくなかったからだ。

 わたしたちのワンゲル・サークルは廃部と決まった。合宿で人命を失うという不祥事を起こしたのだから、しかたがないことだが、にわか山ガールのわたしでさえ、十年続いたサークルの歴史に幕を下ろすのは、言い知れぬ寂しさを感じた。

 今日は部室の片付けにやってきたのだった。学生課から借り受けていたサークル棟の一屋を、明後日までに明け渡さねばならないのだ。わたし以外のメンバーは、私物をすでに持ち帰っているので、あとは自分のものを回収し、ゴミ出しをするばかりだった。

 良が助っ人に来てくれているはずだった。

 部室のそばまで来ると、もはや不用となった勧誘用のプラカードによりかかって、ぼんやり立っている良の姿を視界の端に捉えた。ほとんど同時に良のほうも、わたしを見つけたようだった。彼はにっこりと笑って手を振った。

 ふいに目頭が熱くなり、涙が流れ出した。

「良ちゃん……」

 走り出した自分の足音だけが頭の芯に高くひびいた。

 彼が間近に迫るほどに、溢れる涙は抗いようがなくなっていた。わたしは、大きな鳴咽とともに彼の胸に体をあずけた。

          *

 海部良、身長一メートル八十センチ、体重八十キロのがっしりとした巨躯。顔の造作はすべてにわたって大づくりであくが強い。ちょうど上野の山の西郷さんをイメージして、そのまま髪の毛を十センチほど均一にのばせば、そっくりの風貌ができあがる。海部の部と良をくっつけて、『フリョウ』と渾名がついているが、社会的には品行方正で、まったく問題はない、一応は好青年である。

 一応とことわったのは、学問の嗜好だけが、並外れて偏向しているせいだ。わたしなどと違って、今時の大学生にしては勉学に勤しんでいるわけで、大いに見込みがあるといってもよいのだが、それでも研究の対象がサルというのはいただけない。今年ようやく四年生になったくせに、すでに院生でも博士課程でないと同行しないようなアフリカ奥地の実地調査に、私淑する教授を追いかけて渡航するような男である。ピグミー・チンパンジーという乱婚型の淫乱ザルが恋人で、そのためならリンガラ語というコンゴの言語さえ熱心に学ぶような変人なのだ。幼馴染で昔からその猪突猛進な性格を知るわたしは、ことあるごとに誤解を招きやすいこの動物行動学者の卵を、何かにつけて庇いだて、対人関係の齟齬を繕ってやっているのだが、本人はどこまで自覚があるのかわからない。

 大学裏の喫茶店、『首を振るピエロ』で、わたしと良は向き合っていた。わたしが人目も気にせず、泣き出したせいで、良に抱え込まれるようにして、近くの喫茶店に入ったのだった。

 落ち着くからと、良が頼んでくれたココアを飲み干し、ことの顛末を洗いざらい話した。

 良は腕を組み真剣な眼差しで、時々相槌を打ちながら熱心に聞いてくれた。

 店内にはメシアンのピアノ曲が小さな音で流れていた。

 話し終えると随分と楽になった。

「うーん」

 良は天井を睨みながらうなり声をあげた。

「つらかっただろう。ひとりで背負っていたのか……」

 良は今まで黙っていたわたしを咎めようともせず、いたわりに満ちた表情でうなずいてみせた。

「これは紛れもなく殺人事件だ。警察に通報したほうがいいのだろうな。でも、その前に、じっくり整理してみよう。身内の事件だからね。全員の行動を思い出して、細大漏らさず確認しなければならない」

 眉間にしわをよせた険しい表情、といっても良の場合どこか締まりのない顔なのだが、彼は真剣な眼差しをわたしに向けて、自分自身をも納得させるように首肯した。

「そうだ、月湖荘の見取り図が必要だ。マスター、紙と鉛筆を貸してください」

 客が少ないので、カウンターの向こう側で丸椅子に座って船を漕いでいたマスターは、突然声をかけられてびっくりして立ち上がり、台所のどこかに向う脛をぶつけて大きな音をたてた。歯をくいしばったマスターが、ボールペンとメモ帳を差し出すと、良はそれをひったくるように受け取って、熱心に荘の見取り図を書き始めた。部屋にメンバーの名前を埋めた図が、数分で出来上がった。(図1)挿絵(By みてみん)

「当日くじで決めた部屋割りは、二階が奥から、中原、圭、倉田、俺。一階が、内海、志村、ボウヤ、ガンジーの順だった。そして俺とボウヤは、深夜、応接間の×の位置にいたわけだ。こんなもんだったよなぁ。どこかおかしいところがあるか? 」

「ちょっと待って。もしも殺人だったら、一番怪しいのは倉田君だよね。彼以外は何かトリックを使わないと、サッチーを殺せないと思うけど」

「いや、倉田ではない。俺はそのことを知っている。彼が犯人だとしたら、かなりアクロバティックな行動をとらなきゃならない。それよりはほかのメンバーのほうが怪しいと思う。それから、『もしも殺人だったら』なんて、前置きは無用だ。これは正真正銘の殺人事件で、犯人は俺たちの中にいる」

 どうしてそうなるのだろう。良はやけに自信たっぷりな口調だが、理由は何故か口にしない。彼と倉田君が、仲がいいかというと、そういうことはない。むしろ浮薄な感じがしないでもない倉田君とは、そりが合わないというのが本当のところではないか? どこかがおかしいのだが、ここで糾すのは憚られた。

 良はわたしの戸惑いなどお構いなく、タイムチャートを一心に書き始めていたが、わたしの視線が気になったのか、乱暴にペンを置いて言葉を継いだ。

「倉田がそんなに気になるのか? ともかく彼じゃない。もちろん断じて俺でもない。一見不可能なように思えるが、倉田以外の誰かが俺とボウヤの目を盗んで中原を殺したんだ。なんだ、そんな呆けた顔をして……。たとえばだ。月湖荘は、志村の家の別荘だ。俺の預かった鍵以外に彼なら玄関のスペア鍵を持っていてもおかしくない。もしそうなら、彼は自室の窓を開けて外に出て、鍵を使って玄関から難なく二階に上がることができた。俺とボウヤは部屋の扉が開閉されれば気がつくが、一階の住人が窓から外に出て、玄関や勝手口へまわって進入したとなると、そうともいえない。どちらも俺たちからは死角になっているから、慎重にやれば気づかないだろう。あいにくこの考えは、十時半頃、おまえと俺で、一緒に戸締まりを見回って、玄関と勝手口にはチェーンをかけたのだから、成り立たない。まぁ、しかし、こんな手口を含め、何らかの方法によって、俺とボウヤの目を欺き、誰かが中原を殺したのだと思う」

 確かに良とボウヤの位置からは、玄関も勝手口も見えないだろう。

(なるほどなぁ、そうか……待てよ)

「もしもよ、十時半前に志村君がサッチーの部屋にすでに忍び込んでいたとしたら……。それならば彼が犯人である可能性は残っているわけね」

「そのとおり、といいたいところだが、それもありえない。十一時頃、麻雀の観戦に厭きたサッチーが、志村の部屋を叩いて、飲もうと誘っていたのを覚えてないか? あのとき、彼は出てこなかったが、部屋の奥からくぐもった声を返していたから」

(そうだった、そんなことがあった)

 良は描きかけのタイムテーブルとわたしの顔を交互に見て頷いた。

(志村君か……)

 志村君の家は大金持だ。お父さんは、名の知れたリゾート開発会社のオーナー社長。別荘も月湖荘のほかに二つも持っている。長男である彼は、いずれはあとを継ぐ御曹司、将来の社長候補の筆頭である。そのうえ真面目で学業も優秀、加えて線は細いけれど眉目秀麗という、神様にえこひいきされているような人だ。

 つまり、一般的な女子の目で見るなら、彼の目にかなうこと、それはいわゆる玉の輿というやつである。彼の周りにはそういう目標を持った取り巻きが、確実に何人かいる。ちなみにわたしは違う。身の丈に合わないうえ、好みのタイプではないから。

「志村君、結局出てこなかったし、あのあとすぐに一階の自分の部屋からよじ登って、サッチーの部屋に行ったとか……、そんなわけないか」

「絶対にありえないとは言わないが、そこまでは考えなくていいと思うな。だいたい志村の部屋の直上は、圭、おまえの部屋だ。バルコニーがついていたおまえの部屋なら、窓さえ開いていれば、ロープを使って忍び込めたかもしれない。だが、さすがに中原の部屋では無理だろう。それに志村はあれで、かなりの合理主義者だ。計画的に殺人を犯そうというのなら、別荘を焼失するようなやりかたはしないだろうな。あいつならもっとスマートで、万一疑われても立証が難しい方法を採るはずだ。だから……、万一志村が犯人だとしたら、きっと突発的な予定外の犯行だったのだと思う」

「同感だわ」

「さてと、やっとできたぞ。どうだい、このタイムテーブル」

 どことなく歴史年表を思わせる図には、左から右へ時間が刻まれ、左隅には縦方向に各人の名前が書き込まれている。そして八人のメンバーそれぞれの行動が大まかではあるが記されていた。

「うん、いいみたいね。何かわかるかしら? 」

「うーん、順を追って、考えてみよう」

 良は昔からの癖で、ペンをくるくる回転させながら、額にしわをよせた。

「まず、おまえとボウヤを乗せた俺の車と、中原と愛とガンジーを乗せた倉田の車が、一緒に連れ立って午後二時半に現地に到着。志村は一人で四時に到着。先に着いた七人は、さっそく湖畔の方へ散策に出かけたわけだ。ここまではいいな?」

「ええ、確かサッチーが志村君の車に乗る予定だったのが、彼の何がしかの事情で駄目になったのよね」

「ああ、そうだった。五時前に戻ってみると、志村がちょうど着いたところだった。それから女性陣を中心に夕食の支度、俺たち男どもは、明くる日のトレッキングの計画を立てた」

「というより女子に食事の支度を押し付けたのよね。手伝ってくれたのはボウヤだけだったわ」

 良がおほんと咳払いする。

「六時から、みんなそろって食事をして、七時ぐらいから俺たち男性陣が後片付け。おまえたちのほうは、順繰りに風呂に入った。その後、八時からは、恒例の宴会をかねた大ゲーム大会となったわけだ」

「そう、あの日は風が強くて、花火ができなかったものね。カードゲームを全員で九時半頃まで、その後麻雀を半荘二回やって午前零時でお開きになった。半荘一回目が終わったところで、一緒に玄関と勝手口のチェーンをかけてまわったのは、良ちゃんがさっきいったとおりね。麻雀の面子は、良ちゃん、ボウヤ、愛ちゃんにわたし。サッチーとガンジーと倉田君はワインを飲みながらそれを観戦していた。ふむふむ、確かにあっているみたい。良ちゃんとボウヤはさらにその後、チェスをやっていたのよね?」

「ああ、そうだ。さてと、九時半ぐらいからは、各人の行動を一人ずつ追ったほうがよさそうだな」

 タイムテーブルの方も、このあたりから対数グラフのように、単位時間あたりの横幅が広げて記されている。同様に、縦方向名前の欄も、愛ちゃん、志村君、ガンジーのところが幾分広いが、これは良が、一階のメンバーが怪しいと考えているからだろう。

「俺と常に行動を伴にしていたボウヤ、それと倉田は後回しにしよう。それじゃまず、被害者の中原からいこう。彼女は、何やら倉田と雑談しながら、ワインをぐいぐいあおって、麻雀をつまらなそうに見ていたな。それで……、午前零時頃、お開きになったときは、かなり酔っていたように思う。俺とボウヤが『次はチェスをやろう』って騒いでいたら、『いいかげん寝たらどうなのよ 』って、据わった目でつっかかってきた」

「そうそう、わたしが持ってきたチェス盤を貸してあげようと思って、二階に取りに行こうと席を立った矢先のことよね。ボウヤと良ちゃん、彼女に怒鳴られて……、ちょっぴり気の毒だった。虫の居所が悪いというのは、ああいうのをいうのかしら。いつもは温厚なサッチーが、めずらしく目を釣りあげていたもの……。で、良ちゃんは、一時避難よろしく、わたしについてきた」

 そうだった。倉田君とわたしと良の三人で、肩を竦めあって階段を上がったのを憶えている。あのとき倉田君がにっこり笑って、『眠れなかったら、後で部屋を訪ねてもいいかな?』と、自室の扉を引きながらいったので、わたしはどぎまぎして、不覚にも棒立ちになったのだ。

 わたしがチェス盤をバッグから取り出す間、良は義理堅くも部屋に入らず、開け放った扉の向こうで、手持ち無沙汰に立っていた。彼にチェス盤を渡したとき、ちょうど階下から足音が聞こえてきて、サッチーがやってきた。一階へ下りる良と自室へ向かうサッチー。彼らは無言ですれ違った。そしてサッチーがわたしの部屋の前を通るとき、おやすみの挨拶を交わしたのだった。それが生きている彼女を見た最後になった。

「良ちゃんがチェスを取りにきたとき、どさくさに紛れて、サッチーを殺せなかったことは請けあえるわ。あなたが階段を降りてゆく足音に混じって、サッチーが扉を閉める音を聞いたことを、はっきりと思い出したもの。でも、あの日サッチーと一番険悪だったのは、良ちゃん、あなたとボウヤだったってことも確かだわ」

「げっ、元気が出てくるときついなぁ。まぁしかし疑いは晴れたわけだ」

 良は、心なしか胸を張っておどけてみせた。

「で、良ちゃんが一階に戻ると、もうボウヤのほかは誰もいなかったのね?」

「ああ、麻雀牌を片付け終えたボウヤが、ぼんやり頬杖をついて待っていた」

 ボウヤこと野村哲は、かわいいやつだ。彼の渾名は、愛ちゃんが『ボウヤ、ボウヤ』と何かとかまっていたことから、そのままついてしまった。彼女はいつも召し使いか舎弟のように扱いつつも、まことに細やかな親愛の情(といっても恋愛感情とは程遠い、仲のよい弟に接するような感じでしかなかったが……)を、この小柄な青年に向けていた。そもそも大学生にもなって、ボウヤなどといわれれば気分を害してもおかしくないはずだが、彼の特技が麻雀で、その道の有名な小説の主人公が、『ボウヤ哲』というらしく、彼自身、妙に気に入っている節がある。確かにボウヤの麻雀は手強い。けっこういい観察眼を持っているのだ。

「じゃあ、次。そうだな、志村の行動を追ってみよう。やつ、今回の合宿は、いやに元気なかったよなぁ。もともとおとなしいほうだが、いつもに増してそうだった気がする。カードゲームだって気乗りしなそうに義務のようにこなして、早々に部屋に引き上げてしまった。それが確か九時半頃だ。その後は火事のときまで、彼とは顔を合わさなかった」

「そうね、体の具合が悪いとかいっていたわね。本当に元気がなかった。彼についてはこの一行以外、空欄を埋めることは何一つないわね」

 わたしは十時半に『中原の問いに返事。在室』と書いてある箇所をなぞっていった。

「それじゃあ、次は大坪、ガンジーの番だ。ええと、ガンジーと倉田は、風呂に入りそびれていたから、九時半からの麻雀タイムに、交代で入浴していたよな。風呂から出てくると、濡れた頭から滴を落としながら近づいてきて、俺の手牌を覗き込み、『ひでぇ手だな』と失礼な一言を残して部屋に戻った。あれがたぶん十時過ぎだったと思う。その後は部屋で、例のアレをやっていたんだろうな。どすん、どすんと、音がしたから。十一時頃また応接間に戻ってきて、俺の代打ちを一局だけやり、その後は最後まで麻雀を観戦していた。間違いないよな? 」

「うん、そんなところ」

 ガンジーこと大坪雅人。変人という意味では良と双璧の男だ。

 このひとがガンジーと呼ばれるのには、二つの説がある。ひとつは、雅人という名の音読み、ガジンから派生したというもの。もうひとつは、『国立博物館の東洋館に置いてある、あちら風の仏像顔だ』と愛ちゃんがいったことに由来し、これが時を経てインド・アーリア系の顔つきだといわれるようになり、泰然自若とした物腰と髭から、なぜかガンジーと呼ばれるようになったというものだ。いずれの説であっても、彼がヨガをやり、瞑想をすることは、インド、ガンジーという連想を補強する。むろん、インド独立の祖、無抵抗主義を唱えたガンジーと、あちら風仏像顔が、同一のイメージを持たないことは、誰もが承知している。別に愛ちゃんの肩を持つわけではないが、さてどっちに似ているかといえば、明らかに仏像の方に似ているのであって、あの偉人ガンジーには全然似ていない。将来は弁護士になりたいという法学部の三回生である。

 良がいった、どすん、どすんの、アレというのは、瞑想のことだ。あらぬ誤解を受けたくないといって、本人は誰にもその姿を見せたことはないが、彼が部屋にこもると、必ず、どすん、どすんと、聞こえてくるのだ。だから……、われわれの間では瞑想は大きな音を伴うものという、変な固定観念が定着している。カルト宗教の空中浮遊では? と、ボウヤが突っ込みを入れたことがあったが、本人は否定している。

「そういえばガンジーが、一時頃、トイレに行ったって、良ちゃんが警察に言っていたけど、特に変わった様子はなかったかしら? 」

「ああ、別に気になるところはなかったと思うな。ものの一、二分で出てきたしね。あの間に何かすることは無理だろう。いや、待てよ。一応調べてみる必要がありそうだな」

 良は何かに気づいたようだった。わたしは執拗に尋ねたが、『よく調べてみないと』と言葉を濁して、しばらく考えにふけった。

 ガンジーはサッチーが好きだった。それは誰もが気付いている。普段落ち着いている分、顔に出てしまうと、どうにも言い訳がきかないものだ。

 わたしは、ブラインド越しに窓の外を眺めた。テニスサークルの一群が通り過ぎるところだった。スコート姿の女の子たちは、自慢げにのびやかな足をさらしている。男の子たちは彼女たちを囲んで、楽しそうに話しかけていた。

「よし、次は愛だ。あいつは麻雀に参加したから、午前零時まで、特に目立った単独行動はない。もし愛が、中原を殺害したのであれば、二階へ上がるための細工は、麻雀が終わってから、部屋に引きこもるまでのほんのわずかな間にしなければならない。あいにく俺は、おまえの部屋に行っていたわけだから、その間、階下で何が行われていたかはわからない」

「そうね、それはそうだけど……、愛ちゃんじゃないと思うよ」

「圭の気持ちはわかるが、公平にいこう」

 内海愛、通称愛ちゃん。

 愛ちゃんはネコ科である。

 長くつややかな黒髪。少し釣り上がり気味で切れ長の美しい眼。細くしなやかな体。色白。そして、気ままで、奔放で、シニカルで、甘え上手で、ときに小悪魔的な性格。どうみてもネコ科である。

 まったく違う性格、まったく違う外見を持つ(といってもわたしも太ってはいない。色黒だけど……)、愛ちゃんとわたしは、とても仲良しだ。

 なんだか性悪のようだが、別に男癖が悪いわけでもないし、友情に薄いこともない。彼女の内面に近づけば、わりと真面目で、きっちりした性格であることも知れてくる。気ままで何も考えていないようでいて、結構計算高いところもある。

 だけど……、男の子の立場にたってみれば、口説けば、落ちそうでいて難攻不落。普通に話していても突拍子もない。なんとも形容しがたい女ということになるだろう。かくいう目の前のサル学者の卵も、ネコは苦手のようである。

「良ちゃん、わたしたちが二階にいた間の愛ちゃんの様子はボウヤに聞くしかないわね」

「ああ。しかし、いいたくはないが、誰をも公平に疑うとしたら、ボウヤとの共犯というのも考慮しなければならないな」

「何いっているの。それでも訊かなければ何もわからないでしょ?」

「それもそうだな、ボウヤに電話してみよう。善は急げ、だ」

 そういうなり、良はポケットから携帯電話を出して。せっかちにボタンをいくつかプッシュし、耳に押し付けた。待つほどもなくぱっと明るい顔つきになって、わたしにOKのサインを送った。ボウヤがつかまったのだろう。最初のほうは、良が一方的に話していたので、どうにかやりとりを類推できたが、しばらくすると良の相槌が多くなって、話の行方は傍からはわからなくなった。

「電話をしてよかった。いろいろわかったよ」

 携帯を切り、良は嬉々としてそういった。

「……?」

「ボウヤから聞いた事実を要約して話そう。まず、俺が圭の部屋にチェス盤を取りに行っている間の階下の動きはこうだ。愛と中原は、みんなが飲んだビールビンやグラス類を片づけていたそうだ。嫌みを一発くれて気が済んだのか、中原はわりと落ち着いて台所と応接間を、行ったり来たりしていたみたいだとボウヤはいっている。愛のほうは、途中で片づけを中原に任せて、少しだけボウヤと話して部屋に戻った。ああ、ガンジーは、俺が二階に行って間もないうちに、真っ直ぐ自室に向かったそうだ」

「そうだったの」

「それから、火災がわかってからのみんなの動きだが……。倉田が走って降りてきて、『二階が火事だぞ』とボウヤへ伝えた。彼らは手分けして、ガンジー、愛、志村のドアをたたいて回った。誰もがそうそう待つことなく扉を開いたそうだ。だが志村が取り乱してしまい、消火器があったはずだとわめいて台所へ向かって、ほかのみんなを心配させたらしい。ほどなく大きな消火器を持って戻ってきたが、もはや無駄だ、逃げようとみんなにいわれて従ったそうだ。で、肝心の玄関のチェーンの状態だが……、鍵を解いたのは倉田。このときチェーンはしっかりかかっていたのをボウヤも見たそうだ」

「じゃあいったいどういうことになるのよ。五里霧中になっちゃったじゃない? やっぱり二階にいた倉田君を疑ったほうが…… 」

「そうだな、八方ふさがりだ。でも、倉田ではないはずなんだ」

「ねぇ、良ちゃんは、どうして倉田君ではないと思うの? 何か知っていることがあるなら、教えてよ」

 良は苦虫をつぶしたような顔をして腕を組んだ。一瞬口を開きかけたが、なぜか躊躇い、俯いた。

「倉田君を庇う理由が、良ちゃんにあるとは思えないんだけどなぁ」

 そうなのだ。気が合うかといえば、倉田と良は犬猿の仲とはいわないまでも、けっして仲がよいわけではない。とすれば、良は倉田が犯人ではない、決定的な証拠を握っているのだ。

 あの日、十時から十二時ぐらいの間に、サッチーと最も喋っていたのは倉田だ。彼らは麻雀をやらずに、一緒に酒を飲んでいた。倉田はあのとき、サッチーを口説いていたかもしれない。

「ともかく彼ではない」

 良は千円札をぼんと置いて、何かいいたそうな顔を見せて、それでも踏ん切りがつかなったようで、脱兎のごとく喫茶店を出ていってしまった。

 おそらくは、わたしの追及をかわすために逃げ出したのだ。

 ひとり残されたわたしは、何がなんだかさっぱりわからない。頬を膨らませて怒ってはみたものの、当の相手はもういない。家へ帰るしかなかった。

     *

 夜遅く、十時頃になって、良から電話があった。

「犯人が判ったと思う。明日十時、『首を振るピエロ』に全員集合ということに決めた。犯人に自首を勧めたい。九時半に迎えに行くから、一緒に行こう」

 ガチャン。

 いいたいことをいい終えると、一方的に切ってしまった。あいつはいつもそうなのだ。やっぱりサルぐらいしかまともに扱えない男なのかもしれない。何事も一途に取り組むのはいいことだが、こんな調子でやられると付き合いきれない。

(しかし……、犯人が判ったって本当だろうか?)

 あれからずっと考えていたが、これだという推理はいっこうに浮かばなかった。所詮は素人探偵だ。良にしたところでわたしと同じレベルだろう。心配になってきた。

 良は倉田君が犯人ではないという。倉田君が犯人だとしたら、こんなに難しいことにはならないのに……。あんなに強く否定する以上、よっぽど確かな証拠があるに違いない。良が彼を庇う理由もまったく思いつかなかった。

 わたしは、倉田君が犯人であればいいのにと考えている自分に気がついて愕然とした。

(……ちょっぴり憧れていた相手なのに……)

 良は、倉田君以外の誰かが犯人だと考えているようだが、わたしには、その誰かを糾弾したくはなかった。むしろ異性としての魅力はさておき、倉田君が犯人のほうがいい。

 親友の愛ちゃん、かわいいボウヤ、真面目な志村君、風変わりなガンジー。みんないい人だし、殺人者のイメージにはそぐわない。それよりはほれぼれとするイケメンのスポーツマンとはいえ、酷薄な感じがしないでもない倉田君のほうが、しっくりくるから不思議だ。

(犯人は誰なのか――)

 良が論理的に推理を進めることができたのなら、わたしにも同じことができるはずだ。わたしは一生懸命頭を絞ったが、いつのまにか睡魔にかられ、ベッドの上にぱたんと倒れこみ、眠り込んでしまっていた。


読者への挑戦

すべての手がかりは開示されています。

サッチーを殺した犯人は誰か?

殺人はどのような手順で行われたか?

そして、あなたが本格ミステリ・フリークなら、この物語の結末まで予想してください。

読者の皆様のご健闘をお祈りいたします。


     *

 翌朝、約束どおり良が迎えにきた。

 玄関を出たところで彼は『わかったか? 』と訊き、わたしが無言で首を横に振ると、首を竦めてからさっさと歩き出した。それから喫茶店に着くまで、わたしは矢継ぎ早に質問を浴びせかけたのだが、彼は苦虫をかみ殺したような表情をたたえて、その都度『あとで』と繰り返した。とうとうわたしも諦めて、口を閉ざしかけた頃、『首を振るピエロ』の看板が前方に見えてきた。良は急に歩調を緩めて、わたしのほうを向いた。

「事実と異なることをいっても、しばらくの間、黙っていてほしい」

 良は鋭い目つきでそういうと、勝手にひとつ頷いて、またそそくさと歩き出した。

 ちょうど十時。

 みんな、顔をそろえていた。

 良はマスターにコーヒーと一言だけ告げて、みんなをひとわたり見回した。そして大きい地声のボリュームを絞りこんで、落ち着いた口調で切り出した。

「急に用件も言わずに呼び立ててすまない。実は……」

 良の真剣さが瞬時にみんなにも伝播した。そして話がサッチーのことだとわかると、すっとその場の空気が重くなった。

「おい、フリョウ、二階にいた俺が、彼女をどうかしたとかいいたいんじゃないだろうな? 俺は火災直後、警察に疑いをかけられて、随分としつこく付き纏われたんだぜ。ようやく警察から解放されたというのに、今度は仲間内で糾弾されるのかよ。まいったな、こりゃ」

 倉田君が良を睨みつけてそういい、フンと鼻をならした。

「そうじゃない。圭が思い悩んでいたことがあって……」

 良はゆっくりと首を横に振り、諭すように語りだした。

 彼の説明は、重要な点で事実と大きく違っていた。わたしがサッチーの死体を、バルコニー越しに見たことは隠され、サッチーの部屋に出入りした足音を聞いたということに捻じ曲げられていたのだ。つまり、下の階から上ってきた者がいることを重要視し、その事実をどう扱うべきか、わたしが思い悩んでいると彼は説明したのだった。

(そうまでして、倉田君が関係していないとする理由があるのだろうか? ひた隠しにする理由が……)

 わたしの発言を制する強い視線を送って、淡々と語る良に、わたしは一抹の不安を感じた。

「……、だいたいのところは以上だ。中原の死因、これは今のところ本人の煙草の火の不始末ということになっている。が、圭から得られたこの事実を厳粛に受け止めるならば、事件の様相はまるで違ってくることがわかってもらえたと思う。誰かが彼女の部屋を訪問して、そしてその後に出火。最悪のシナリオをあえて言葉にすれば、殺人ののちに放火という可能性がある」

 しんと静まり返った中、ここで一呼吸おいた良は、さらに言葉を継いだ。

「何か知っている者がいたら名乗り出て欲しい。どうだ……、誰かいないか? 」

 良はゆっくりとみんなを見回した。誰も名乗り出る者などいなかった。

「自分だ、というのでなくてもいい。知っていることがあればぜひ教えてほしい」

「ねぇ、ちょっと待ってよ、フリョウ。さっきから聞いていると、その……犯人は、一階を居室とあてがわれた誰かということになるのかしら? それって、つまりわたしとシムタクとガンジーの誰かってことでしょ。そんなの、あんまりじゃない?」

愛ちゃんが良に喰ってかかった。ガンジーが後を引き取って、良とわたしを等分に見て続ける。

「それ……、確かなんだろうな、足音がしたっていうのは……。本当に一階から上り降りする足音だったのか? でも……、そうだとすると、おまえとボウヤの目を盗んで、出入りしたことになるぞ。 そんなの、不可能だろう?」

 わたしには答えられない。足音なんて聞いていないのだから。

「いや、あながち無理じゃないんだ」

 良がわたしを見ながら応じた。

 志村君が咳払いをして、緊張した面持ちで割って入った。

「仮に、フリョウがいうように、誰かが中原さんの部屋を深夜訪ねていたとしても、それだけで殺人事件があったというのは、ずいぶんと飛躍していないか?」

 良が厳しい面持ちで首を振った。

「確かにそうかもしれない。しかし……、俺とボウヤの目を欺くには、それなりに手の込んだことをしないといけない。簡単な方法で出し抜くことなんてできないんだ。だから、そうまでして、誰にも気づかれずに 彼女の部屋を訪ねたかったのなら、それは、それ相応の理由があったのだと思う。そして、その後の出火は証拠隠滅のための放火と考えたくもなる。要するに殺人という行為を仮定したら、一連の事実とぴったりと合うんだ」

 志村君は良の言葉に、唇を噛んで目を閉じた。椅子に深く座りなおして、口を開かなかった。

「ねぇ、フリョウは、犯人が誰かをちゃんと推理して、今日みんなを、ここに呼んだんでしょう? ぼくは、それをはやく聞きたいな」

 みんなの沈黙を破って、ボウヤが楽しそうにいった。能天気というか、未成熟というか、この言葉はさしもの愛ちゃんにも顰蹙を買って、『馬鹿』とむげに罵られた。しかし、しゅんとした彼を見て、場の雰囲気が少しだけ明るくなった。

「ボウヤのいうように、フリョウがその気なら、推理を聞くしかないな。……それならしかたがない」

 苦笑いを浮かべて、くさくさした感じではあったが、ガンジーがそういって自分を納得させるようにひとつ頷いた。

「そうね、われらのフリョウがみんなを集めたんだから、我慢して聞くのが礼儀、いや道理というものよね」

 愛ちゃんもコーヒーをすすりながら、同調する。

 わたしはびっくりして、みんなの顔を見回した。誰もが良が話し出すのを神妙な面持ちで待っていた。

「ありがとう。じゃあ、今回の出来事を、俺がどう解釈したか、順をおって話させてもらおう」

 良は、まずスペア鍵があった場合にどうなるかを説明した。スペア鍵があれば、原理的には、一階の者でも、いったん窓から外に出て、玄関から再び入ってくることで、二階のサッチーの部屋へ行くことができる。しかし、当日、夜十時半に、玄関と勝手口にチェーンが下りていたことは、わたしと良が確認している。そして二時過ぎ、火事とわかって、避難するとき、少なくとも玄関については、倉田君が先頭をきって開けるまで、チェーンは下りたままだった。つまり、スペア鍵を持っていても、チェーンがかかっていたので、玄関から二階へ向かう手立てはなかったということになる。さらに警察が焼け跡を調べた結果、勝手口のチェーンが下りていたことも確認されている。

「スペア鍵を持っているとしたら僕しかいない。フリョウの僕への疑いが晴れてよかったよ。チェーンがかかっていては、鍵があってもどうにもならないからね。もちろん僕はスペア鍵なんて持っていなかったけどね。さぁ、これで僕には犯行不能だと、みんなも納得してもらえたのかな?」

 志村君がほっとした表情でいった。

「いや、スペア鍵を持っていれば、ほかの誰より優位であるということが否定されただけだ。つまり、一階のみんなは同じ条件だということさ」

 良は、志村君を見ながら、冷たく言い放った。

「フリョウ、でも、スペア鍵の存在を否定したのはよいとして、同時に玄関や勝手口から入るというのも、否定しちゃったけど、大丈夫なの?」

 完全に推理ゲームと勘違いしているボウヤが、眉間にしわを寄せ、人差し指を額に押し当てながらいった。ボウヤの右隣の愛ちゃんが、すかさずボウヤの腹にパンチを入れる。

「否定したつもりはない。階段を上がった音がしたというからには、玄関か勝手口を使ったに違いないのだ。一方で、部屋から普通に出てきたら、俺とボウヤに気づかれずに二階へ上がることはできない」

「どういうことよ?」

 愛ちゃんが身を乗り出して尋ねる。もともと切れ上がっていて、強い光をたたえる目が、いつにもまして鋭さを帯びている。

「だから、俺たちに見られないように、二階へ上がるには、窓からいったん出て、玄関か、勝手口から入るしかないということだ。だとしたら、重要なのは、誰が鍵を開け、チェーンを外せたか? そして、鍵とチェーンを誰が元どおりに戻せたか? だ」

「馬鹿な、誰も良とボウヤの前を通っていないなら、チェーンだって外すことなんてできやしないじゃないか?」

 ガンジーが良をじろりと睨んでいった。

「大坪、お前なら、チェーンを外せたよ」

「何だって」

 ガンジーがわたしの横で腰を浮かせた。怒りに顔を赤くしながら口を開こうとするのを、わたしはどうにか押し止めた。

 良は腹が立つほど落ち着き払って続けた。

「大坪、おまえは、一時ぐらいに、トイレに行ったよな。そのときに玄関を開錠し、チェーンを外すことならできたはずだ。部屋の扉は外開き、つまり廊下側に引いて開くようになっていた。だから、扉を大きく開けると、その後ろ側、つまり玄関のほうは何にも見えなくなってしまう。ゆっくりと広めに扉を開いて、その扉の裏側に自分の体がすっぽり隠れた瞬間に、早業師のごとく玄関へ行って、鍵をあけ、チェーンを外してから、自分の部屋の扉を閉める。こうして玄関を開放したあとで、自室の窓から外に出て、玄関から二階へ上がる。これならわけなくできたはずなんだ」

「馬鹿馬鹿しい、俺はそんなことしとらん」

 仏頂面でガンジーがそういうと、ボウヤが後を引き取った。

「ガンジー、ただ否定するだけじゃ駄目だよ。もっと客観的、かつ論理的な反論をしないと……」

「黙ってなさい」と愛ちゃんがまたボウヤを一喝して、今度は顔面を手の甲で叩く。

 良がみんなを見回していった。

「ボウヤのいうとおりだ。そこでだ。倉田、火事のとき、玄関の鍵を解いたのはおまえだよな?」

「ああ、俺だ。チェーンならかかっていたよ。俺が鍵を開けたところは、みんな見ていたと思うがね」

 倉田君は首をすくめてふて腐れてみせた。

「ガンジー、そういうことだ。おまえにはチェーンを外すことはできたが、外したチェーンを元どおりに付けることができなかった。つまりおまえの単独犯はありえない」

「うん、確かに論理的に正しい」

 ボウヤが愛ちゃんの顔色を窺いながらいった。

「ボウヤもフリョウも甘いなぁ。ガンジーは同じ方法で、勝手口のほうを開けることができなかったの? 疑うからには徹底的に検証しないと……」

 愛ちゃんの言葉に、良が口元を緩めて頷く。

「俺はできなかったと思う。勝手口の鍵を開けて戻ってくるとなると、扉を開けている時間が、不自然に長くなってしまう。あのときは、そんな感じではなかったよ。なぁ、ボウヤ」

「うん、勝手口のほうでは無理だ」

「となると、ガンジー犯人説はボツね。いよいよわたしかシムタクが犯人ということになったのかしら?」

 愛ちゃんが良に挑むようにいった。

「内海、お前は勝手口のチェーンを外すことができたよな?」

 良がさらりとそういってのけると、愛ちゃんがすかさず笑顔で応じる。

「零時頃、後片付けをしていたときに、勝手口の鍵を開けたといいたいわけね。ええ、わたしにはやろうと思えば、そのくらいはできたでしょうね。でも、わたしも開けるだけしかできない」

「そう、愛の場合も、鍵を開け、チェーンを外すことはできても、施錠することができない。警察の調べでは、勝手口のチェーンは、下ろされたままだったのだからね」

「ねぇ、フリョウ、シムタクは部屋にこもったままだったし、このままでは誰も鍵をかけられない、ってことになっちゃうよ」

 ボウヤがおずおずといった。

「そうかな? 勝手口の鍵は、志村なら施錠して、チェーンをかけることができた。なぁ、そうだろう?」

 みんなの目が志村君に集まった。彼はびっくりした顔をした。

「わかった、避難する直前、シムタクが消火器を取りにキッチンへ入ったタイミングね。あのときはひとりで行ったものね」

 愛ちゃんがいった。良が大きく頷いた。

「でも、シムタクには鍵を開けることができない」

 ガンジーがいった。

「志村、何かいうことはないか?」

 良は腕を組み、目を細くして、志村君を弄るように軽い口調でいった。

「ぼくはなにもしていない」

 彼は口元を歪めて答えた。

 いまにも泣き出しそうな震え声だった。

「なにもしていない? それは嘘だな」

 良は睨みつけたままだ。

 志村君は救いを求めるように、みんなを見回した。しかし、誰も口を開かなかった。

「志村、おまえが中原を殺した、そうなのだろう? 動機はいわなくていい。おまえたちのプライバシーには立ち入るつもりはない。さぁ、答えてくれ」

 良が低い声で訊いた。志村君は一瞬のうちに青ざめた。

「フリョウ、何の根拠があって、シムタクを犯人扱いするんだ」

 ガンジーがそういって咳払いをした。

 良は、天井を見やって、大きく息を吸い、肩を上下させた。

「温厚な中原が、なぜ俺とボウヤがチェスをやるのが気に入らなかったのか? どうして『いいかげん寝たらどうなのよ』と突っかかってきたのか? それは……、彼女が志村の部屋を訪ねたかったからだ。どうしても他人に見られずに志村、おまえと話がしたかったからだ。彼女だって、遅い時間に男の部屋を訪ねるのを、誰かに見られたくはなかった。だから、居間に居座わろうとする俺たちは、彼女にとって、とても邪魔な存在だったんだ」

 良はボウヤを見て、小さく頷いた。

「あの日、午前零時頃、最後まで厨房へ行ったりきたりしていたのは、中原だ。彼女にとっては、勝手口の鍵を開けることなど造作もなかった。そして、みんなより少し遅れて二階へ上がってきた。彼女はいったん部屋に入ってからしばらく待って階段を下り、勝手口から外に出て、志村の部屋の窓をたたいた。志村はしかたなく中原を部屋に入れた」

 良はそこで言葉を切り、みんなを見回した。誰も黙っていた。

 発想の転換。サッチーのほうが二階から一階へ降りてきたという。

 あの日、志村君の車で来なかったサッチー。

 カードゲームが終わったら、そそくさと部屋に閉じこもった志村君。

 良とボウヤを怒鳴りつけたサッチー。

 何もかもが、良が推理するサッチーと志村君の行動に符合しているように思われた。

「志村は自分の部屋に来た中原を、衝動的に殺してしまった。どうしてそうなったかは俺にはわからない。わかりたくもない。ただ……、おそらく中原は、志村に誰にも見られずにやってきたことを話したはずだ。たぶん得意げだったに違いない。志村は中原の来た順路を逆向きに辿れば、誰にも見つからないと気づいた。それで、彼女の亡骸をおぶって外に出て、勝手口から入り、俺たちの目を盗んで、階段を上がったんだ。そして……、彼女の部屋のベッドに遺体を寝かせて火を放った」

「証拠はなにひとつない」

 志村君が能面のように表情のない顔でいった。

「そうだな。しかし、警察が調べれば、じきに見つかるだろう」

 志村君が顔を覆った。そして搾り出すように小さな声でいった。

「彼女に脅された。大きな声を出すといわれて咄嗟に首を絞めたら、あっけなく死んでしまったんだ。だいたいフリョウの推理どおりだよ。完璧だと思ったのに……」

 志村君はさめざめと泣きはじめた。

「マスター、警察を呼んでください」

 ガンジーが、カウンターの向こう側に声をかけた。

     *

 帰り道、わたしと良は連れ立って歩いていた。

 最後にひとつだけ謎が残っていた。

「良ちゃん、倉田君でないことがなんでわかっていたの?」

 良がどうしたわけか真っ赤になった。そして何故かもじもじと落ち着きをなくした。

「いいたくなかったんだが……。あのとき、そうチェスを取りに二階へ上がったときだけど、倉田がおまえになんていったか覚えているか? こういったんだよ。『眠れなかったら、後で部屋を訪ねてもいいかな?』って。おまえは、まんざらでもないような感じで、顔を赤らめた。それで俺……、自分でもなんでそんなことしたのかうまく説明できないんだが……、倉田の部屋の扉に、マッチ棒を立て掛けたんだ。ほら、風が強くなければ花火をしようといっていたから、ポケットのなかにあったんだよ。おまえを救いに行ったとき、マッチ棒はそのままで、倒れていなかった。だから……、扉を開いていない、あいつが犯人であるはずがないんだよ。事件が起きなくても、俺はきっとそれほど時間を違わず、二階へ足を運んだと思う。マッチを確認するためにね」

                              了



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