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後日せっちゃんから連絡が来た。


「この前はありがとね!秀一迷惑かけなかった?」

「ぜーんぜん!良い子過ぎるくらいだよ」

「良かった!…それで、例の件、どうだった?」


やっぱり来たか、その話題。

ああ、どう切り出したらいいのやら。

とりあえずわたしはせっちゃんに秀一くんの帰宅後の様子を聞いてみた。

せっちゃんが言うには、特に冷たい態度をとられることもなく、いつも通りの様子だったらしい。逆に普通すぎて気持ち悪いくらいだ。

しかし秀一くんの目は何かを達観してしまったかのように澄み渡り、まるで菩薩のように穏やかだ、とせっちゃんが気味悪そうに言った。


「で、何があったの…?気になりすぎてわたし夜も眠れないわ…」

「あー…、うん、あのね。せっちゃん、秀一くんに二股容疑をかけられてるよ」


もう面倒くさいから直球で言っちゃうことにした。

わたしの胸の中だけに秘めておくのも無理だし、秀一くんが言い出せそうにもなかったし、わたしがさっさと真相暴いてスッキリさせた方がいい気がするんだよね。

まあ、単にずっともやもやしてるのが嫌なだけともいう。


「えっ…!ふ、二股!?それ、本当?きょうちゃん!」


電話の向こうで、せっちゃんの顔がさっと青ざめた気がした。


「心当たり、あるの?」

「ない!それは絶対にない!けど…」


数秒の沈黙の後、


「そう思われても仕方が無い要素があることは認めるわ…」


どうやら自分のこれまでの行動を振り返っていたらしい。


「一回秀一くんとじっくり話してみたら?」

「うん…。そうする。ありがとうきょうちゃん。あと、二股は絶対にないから!」


ほほう。二股は、ないんですね?にやにや。





夏休みが終わった。わたしの。


あーー、これで年末まで長いお休みがないなんて信じられないー!

8月中旬。俺たちの夏はこれからだと言わんばかりに日差しがジリジリとお肌を焼いてくる。

実に強力な紫外線攻撃!退避ー!

この頃腕カバーと日傘が必需品です。ええ。


一方秀一くんは照りつける日差しなんてなんのその。汗をかきつつ涼しげな顔で今週末も勉強しにやってきた。

結局、せっちゃんとしっかり向き合えたようで、今は菩薩から年相応の少年の顔に戻ることができていた。

そしてなんと、せっちゃんには子持ちの彼氏がいるんだそうだ。

彼氏の名前がリョウで、子供の名前がトオル。お子さんはまだ9歳の女の子で、小学4年生。しかもその下に4歳の男の子がいるんだとか。

ということは小学4年生が携帯持ってるってこと…?末恐ろしい世の中だぜ…。


そんなわけで、晴れて秀一くんの疑いが懸念だったことがわかった。

相手が相手なので、デートは大抵向こうの家だったらしいのだが、最近娘のトオルちゃんと二人でデートするぐらい仲良くなり、親子共々自宅に招待していたらしい。

なぜ秀一くんに秘密にしていたのかというと、単に照れくさかったのもあるが、受験生である秀一くんに精神的負担をかけたくなかったというのが理由らしい。


まあ、結果的にはものすごい負担をかけてたような気がするけど…。

うん、気のせい気のせい。


「良かったね、二股じゃなくて」

「はい、それは良かったんですけど…」


良かったという割にはまだ暗い顔をする秀一くん。


「近いうちに俺、妹と弟ができるかもしれない…」


お、おう。家族が増えるのは良いことだと思うぞ?






秀一くんの夏休みも終わった。


9月。文字で見ると秋っぽいけどまだまだ残暑が厳しい。というか夏真っ盛り。

そういえば大学時代は部活で9月に合宿行ってたなー。青春だったなー。

とぼんやり思い出していたら、これまた青春ぽい話が舞い込んできた。


「え?文化祭?」

「はい。俺のクラスも参加するので、良かったら見に来てください」


招待チケットを渡しながら秀一くんがにっこり笑った。

文化祭のポスターで使われているのであろうイラストが可愛くプリントされている。

見ると一般も入れるのは日曜日だけのようだ。


「へー。中学の文化祭なんて行ったことないや。秀一くん何やるの?」

「…ちょっとした喫茶店です」


あれ、今ちょっと間がなかった?


「ちなみに秀一くんはウェイター?」

「そうです。何でわかったんですか?」


そりゃね!ハンサムを客引きに使わんでいつ使うんだって話だよ!

そっかー。自分が中学か高校の時も食べ物系の出し物やったなあ。激盛り焼きそばとか。懐かしい。

聞くとまだ中学生なので調理はせず、ちょっとしたお菓子とお茶を用意しているらしい。

貰ったお金は全額寄付されるのだとか。へー。


「ありがとう。予定が空いてたら行くね」


自分のスケジュールを思い出しながら言うと、秀一くんは一瞬キョトンとして慌てて表情を取り繕った。

ちょっと君、わたしがいつでもヒマだと思ってたでしょ。


秀一くんの学校の文化祭は10月の最後の週に行われる。

本来3年生は受験があるので自由参加なのだが、クラスにお祭り好きが多いらしく、有志で参加することになったらしい。

そのお祭り好きの筆頭が陽介くんで、秀一くんは彼に引っ張られてメンバーに入ることになった。


「…最初は無理やりでしたけど、この学校にあのメンバーでいられるのも最後ですし、思い出作りとしてもいいかなと思って」


うんうん。そういうの大事だよ!

わたしの場合中高が一貫だったから気楽なもんだったけど、クラスで作ったTシャツは一生の宝物だよ。今も大事に部屋着として使ってます。


というわけで、秀一くんはにわかに忙しくなった。


受験勉強に文化祭の準備で少し睡眠時間も削られているらしい。無理するなよ。

聞くと文化祭が終わった後には後夜祭があり、毎年フォークダンスを男女ペアで踊るらしい。

そして曲が終わった時のペアは結ばれる確率が高いのだとか。何それ参加したい!


でもわたしには見える!人数の関係で違う輪に加わってた女子と最後に踊ることになる自分の姿が…!

いや!もしかしたらこっちが男子と同じ輪に入らなければいけなくなって永遠女子同士で踊り続ける可能性も…!切ない!そしてそんな想像しかできない自分が悲しい!


でもいいなあ。そういう盛り上がれるイベントがあって。羨ましい。

素直にそう言ったら、秀一くんは微妙な顔をした。


「そんなに良いものでもないですよ…。俺、フォークダンス苦手なんですよね」


なんか、女子が怖いんです、と、秀一くんが深刻そうに言った。

うん、きっと狩人のような目をしているんだろうね。頑張れ。

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