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かき氷を買って戻ってくると、秀一くんが男女の集団に囲まれていた。
どうやら同級生と鉢合わせたらしい。
「秀一なんだよそのお面!ちょっとキモくね?」
「わたしこれ知ってる!萎えキャラコンテストで一位になったって有名なご当地キャラクターでしょ?」
「やだ~。確かに萎える~!」
秀一くんは男女関係なく人気者らしく、全員が親しげにわいわいと盛り上がっている。
特に女子は嬉しそうだ。頬が上気してるの、お姉さんは見逃さないよ?
「柏くん、もし良かったらこの後わたしたちと回らない?」
可愛い浴衣を着た一人の女の子が思い切ったように誘った。
おっ、さすが!モテるね~色男!
「ごめん、今日は親戚の人と来てるんだ」
秀一くんは困ったようにそう言った後、ふと顔を上げてわたしとバッチリ目があった。
「あ」
おおっと秀一くん!そうあからさまに反応しないでよ!挨拶しなきゃいけなくなるじゃないかー!
つられて全員私の方に目を向けてきたので、わたしは仕方なく輪の中に入って行った。
「こんばんはー。秀一くんの同級生かな?えーっと、秀一くんがお世話になってます」
一応保護者面してみたりして。
「こんばんは!なんだよ秀一~。お姉さんとデート?」
元気に挨拶してくれた後、からかうように一人が秀一くんを小突いた。
そんなんじゃないよ、と秀一くんが赤くなりながら否定する。
おいおいそこで赤面したらあらぬ誤解を招いちゃうじゃないか!
女子が睨んでるよわたしを~!
「ふーん?じゃあ邪魔できないなー。みんな行こうぜ!」
ごゆっくり~、とニヤニヤしながら男子が囃し立てて同級生の集団がゾロゾロと去っていった。
見送る秀一くんはまだ少し顔が赤いけど、特に気にはしていなさそうだ。
でもなあ。やっぱりこっちは気になっちゃうなー。
「良かったの?」
「え?」
「いやー、ほら、友達と一緒の方が良かったんじゃないかなーって」
こんなおばさんよりやっぱり同じ年頃の子と一緒にいた方が楽しいんじゃないかなあと思ってしまうわけですよ。
そう言うと、秀一くんは虚をつかれたような顔をした。
「そんなことないですよ?十分楽しいです。たぶんあいつらといたらこんな経験できなかっただろうし。それよりかき氷溶けちゃいますよ?」
優しく微笑んで、秀一くんはかき氷を指差した。
ぐぐ、秀一くん、キミって奴はホント罪な男だよ…。
ちょっとキュンとしてしまったじゃないか!
わたしは誤魔化すようにかき氷を口に運んだ。
くーっ、歯に染みるー!
花火が打ち上がった。
早く来て場所を確保するほどの熱意がなかったので、何となく、立ち止まりやすいところで二人で立って眺める。
打ち上がって、弾けて、無数の光がどんどん降り注いでくる。
毎年見ているけど、やはり凄い迫力だ。じっと見つめていると、花火に呑み込まれてしまいそう。
「すごい…」
秀一くんはじっと夜空を見上げたままつぶやいた。
「きれいだねえ」
「近くで見るとこんなに大きいんですね」
驚きました、と秀一くんが感心したように言った。
「家で見るのとはやっぱり違う?」
「全然違いますよ。音の臨場感とか、花火の大きさも違いますし、何よりここの雰囲気が、祭りだー、って感じで」
確かに家で静かに見るのとは違うよね。
たーまやー、なんていう人はまずいないだろうしねえ。
しかもこのうだるような暑さ、ざわざわと賑やかな人の声、かすかに聞こえるお囃子の音が、夜の闇に吸い込まれて花火と一緒にパッと咲いて、わたしたちを包み込んでくるような。
暑いけど、温かい。じめじめしているけど、スカッとする。
この感覚は実際に祭りを体験しないと味わえないのだ。
「来てよかった?」
改めて問いかけると、秀一くんは笑顔で頷いた。
「はい!ありがとう、杏花さん」
遠慮も気遣いもない、本物の笑顔だった。
…初めて見た。
「来年は彼氏と来れるといいですね」
「お前もな」
ちっ、ちょっと感動して損した!
帰り道、変わり種の花火の中にどれくらいキャラクターの顔を見つけたかという話で盛り上がりつつ、秀一くんはまたいつもの気遣い屋に戻って頭を下げた。
「すいません、また母さんが無理言ったみたいで…」
「だからあ、全然無理じゃないってえ。夏だし!たくさん布団いるわけじゃないしさあ」
「でも…、あの…」
まだうだうだ言っているので黙らせるために飴細工を口に突っ込んだ。
綺麗なペガサスだったけど、仕方ない。それ舐め終えるまで黙っててね?
家に帰り着き、屋台の戦利品を降ろしたところでやっとペガサスをただの棒にした秀一くんが口を開いた。
「杏花さん」
「はい、これタオルね。先にシャワー浴びといで」
「でも、」
「シャンプーとかリンスとか全部その辺にあるの使っていいから。それじゃごゆっくり~」
靴を脱いだだけで自分の荷物も持ったままの秀一くんを強引に浴室に押し込んだ。
こうでもしないとまた遠慮の虫が騒ぎ出すんだもんなあ、秀一くん。
あんまり強引なことしたくないけださ。だってこれじゃわたしのお母さんみたいじゃないか!
ここだけはお母さんに似てないって自負してます。ええ。
寝床の準備などして待っていると、ほかほかの秀一くんが憮然とした表情で出てきた。
あらあ、濡れ髪が可愛いねえ。によによ。
「杏花さん、俺の話ちょっとは聞いてくれてもいいじゃないですか…」
「えー、だって面倒臭いんだもん。はい、ドライヤー」
「だからって。ありがとうございます」
「しつこい男は嫌われるよ?じゃ、わたし入ってくるから漫画でも読んでて」
一度浴室に入って、一応釘を刺すために顔を出した。
「覗いちゃダメよ?」
「覗きませんよ!!」
ちょっと顔を赤くして、秀一くんはそっぽを向いてドライヤーの電源を入れた。
怒らせてしまったらしい。可愛いなあ。
でもそんなに全力で否定しなくても…。
繊細な乙女の心が少し傷ついたよ?




