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テストが無事終了し、夏休み期間に入ったようだ。

テスト期間中は家庭教師はお休みしていたのであの後どうなったか気になっていたのだけど、結局鈴原さんとは別れたらしい。


「あれから、前より注意して鈴原さんのことを見るようにしてたんです。それで、放課後にクラスのあんまり話したことなさそうな女子と一緒に体育館裏に行くようだったんで、なんだろうと思ってついて行ったら…」


その女子というのは秀一くんと同じ委員会に所属しているらしく、最近良く話すことがあったらしい。

鈴原さんはその子に向かい合うと、こう言った。


「ねえ、わたしの秀一くんに色目使うのやめてくんない?対して可愛くもないくせに図々しいのよ!一旦鏡見て出直してきたら?」


その彼女の醜くゆがむ顔を見て、秀一くんはやっぱりそうか、と思ったそうだ。

その場には自分を除いて二人しかいない。その場の空気に流されて、なんて誤魔化しはもう効かなかった。


「鈴原さん」


秀一くんは隠れるのをやめて彼女に声をかけた。


「え!?秀一くん!?なんでここに…!」

「人の外見をそんな風に言うのは良くないよ。俺、鈴原さんがそんな人だとは思ってなかった」

「違うの秀一くん!あたし、そんなつもりじゃ」


目に見えてうろたえる鈴原さんに、秀一くんは冷たい目を向けた。


「じゃあどういうつもり?もうこういうことはやめて。それと、佐々木さんに謝って。あと陽介にも」

「秀一くん…?」

「もう今後一切、俺にも、陽介にも関わらないで欲しい。これまでありがとう鈴原さん。それじゃ」


容赦なくそう言って、秀一くんは佐々木さん、つまり鈴原さんに呼び出された女子を連れてその場を去ったそうだ。

何それカッコイイ。


「やるね~!秀一くん!」

「怒りが沸点を越えると逆に冷静になることがわかりました…。というか」


完全に面白がってるでしょ、と秀一くんは恨みがましい目をこっちに向けた。


いやー、だってねえ。共学って凄いなあ。そんな少女漫画みたいなことが実際に起こるとは!

別に他人の不幸を面白がる趣味はないんだけど、どうしても興味津々になってしまう。

その佐々木さんとやら、絶対秀一くんに惚れたな。

やれやれホント、キミは罪な奴だよ…。


「それより、国語の成績が上がったんです。杏花さんのお陰ですね。ありがとうございます」


秀一くんはもうこの話は終わりとばかりに違う話題を振ってきた。

ちぇっ、もうちょっと付き合ってくれたっていいんじゃんかー。


「そうなの?それは良かった!」


聞くと平均点よりかなり上の点を取ることができたらしい。

わたしの教え方が良かったのかな?いや、それより生徒の頭が良かったのが勝因だね!


「でもやっぱりまだ不安な箇所があるんですよね…。特に小説が苦手みたいで」


秀一くんはカバンの中からテスト用紙を出してわたしに見せた。

ふむ、それじゃあ今日はテストをいったん振り返ってみようか。


様子をこっそり伺ってみたけど、失恋の痛手はあまり負っていないようだ。

電話で愛を囁き合うぐらいラブラブだったみたいだけど、あんな女子の闇の部分を見ちゃったら100年の恋も一瞬で冷めちゃいますよね。ええ。


秀一くんはこれから夏休みだ。

いいなあ夏休み。1ヶ月以上もお休みがあるなんて夢のようだね!

でも夏期講習も行かないようだし彼女とも別れちゃったから、もしかして秀一くん、すごく暇なんじゃない?


夏休みの予定を聞いてみたら、やっぱり暇を持て余しているようだった。

いや、陽介くんとたくさん遊ぶ計画はあるみたいだけどね?

一緒にゲーセン行ったりカラオケ行ったりプールに行ったりお互いの家を行ったり来たり。

…君たち付き合ってるの?

わたしもお盆休みはたまたま暇だったので、一緒に遊んでやるよと言ってみた。

お姉さん、お金あるから奢っちゃうよ~?

…暇なのは本当にたまたまだからね?


わたしはメーカーに勤めているので、夏季休暇はバッチリ連日9日間もらうことができる。

いやあ、休日が多いのはメーカーの醍醐味だね!

9日で多いだなんて、学生には全くピンとこないだろうなあ。

でもみんながお休みということはそれだけ多くの人が旅行に出かけるわけで、この時期のホテルやら新幹線やら飛行機やらの代金はべらぼうに高い。一番安いシーズンに比べると信じられないほどお値段が違うのだ。だからいっつも長期休暇で旅行に行く気がうせるんだよね…。

でも2泊、3泊したいとなるとこの時しかないんだよなあ。ジレンマ。

今年の夏休みもそうやって悩んでいたらいつの間にか突入してしまっていた。月日が流れるのは本当に早いものですね。


そんなわけで夏休み。実家に帰るぐらいしかやることがないので同じ暇人である秀一くんを花火大会に誘ってみた。受験生を暇人とは呼べないかもしれないけど、たまには息抜きも必要だから、良しとする。


「花火大会、ですか。実は俺、行ったことないんですよね」

「え、ないの?一度も?」


この界隈の花火大会はけっこう有名だから、てっきり毎年誰かと行ってると思ってダメ元で誘ってみたのだけど、まさか行ったことがないとは思わなかった。


「はい。花火がうちのベランダから見えるので、わざわざ出かけることなかったんですよね」


そうだったのか!確かに家から見えちゃうとそれでいっかってなるよね。場所取りとか人混みに揉まれたりとかしなくて済むし。


「そっか~。じゃあ毎年お母さんと一緒に見てるのかな?」


それだったら遠慮しないとなあ。


「…いえ、そういうわけじゃないです。母さんいつも仕事で見逃しちゃってて。一度行ってみたいと思ってたんで、ご一緒していいですか?」


そういうわけで、独り身同士、仲良く花火大会に行くことが決定した。

しかし相変わらず秀一くんは堅苦しい。まだ心を開いてくれていないみたいだ。

なんか寂しいな…。もう結構仲良くなれてきたって思うんだけどなあ。

秀一くん、誰とでもこういう距離感で接しているのかな?

それだったらきっと、わたし以外にも寂しい思いをしている人がいるかもしれないなあ。

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