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ある夏合宿の顛末 1

《注意》

・下ネタ、汚い表現があります。苦手な方はご注意ください。

・この物語はフィクションです。実在の人物、団体名、大学生の行動とは一切関係がありません。

今年の夏合宿は、一味違う。


わたしはシーズンが終了し人の気配がしないビーチで荒く波打つ海を眺めながら一人、覚悟の拳を握りしめていた。

一波乱、いやそれだけで済めば御の字。荒れ狂う波に有象無象のモンスターが潜むこの大海原を渡らなければならないのだ。


とにかく全員無事に生還させる。それがわたしの


「ちょっと夏合宿委員!榎本さん!こっち来てー」

「あ、はーい」


使命だ。





我がテニスサークル『サラダバー』は年に1回夏合宿を実施している。

毎年2年生が適当に選ばれて合宿委員をやらされるんだけど、今年はそのうちの一人にわたしが選ばれてしまった。

ああ、なんでこんなことに。やりたくないよ…。正直言ってやりたくない。

なぜならば。


「飯田さん海に着いたら一緒に泳ぎましょ!わたしこのために新しい水着買って来たんですう」

「海かあ。天候にもよるかな」

「この時期入るのは危ないわよ、あいらちゃん。それより晴れてたらきっと夜は星が綺麗ですよ、飯田さん。見に行きましょうね」

「あ、ずるーい!あいらも一緒に見たい!」

「俺も見たい!りょこちゃん俺も見たい流れ星!」

「代表さすがに流れ星は難しいんじゃ…」

「そんなことないよりょこちゃん俺超大学生級のラッキーマンだから!」

「なんですかそれ」

「じゃあ皆で行こうか」

「やーんあいら楽しみっ!」


以上が合宿地へ向かうためのバス最後尾一列に座った絶賛青春謳歌中のサークル会員の会話である。


今、このサークル一番ホットな話題をかっさらっていっているメンツがそこにいる。くわばらくわばら。

サークル名が『サラダバー』なくせにこの団体には肉食系な人間が非常に多い。

毎年毎年夏合宿では恋の花が咲いたり散ったりしているのだが、今年はもしかしたらそんな生易しい表現では済まされないことになるかもしれないのだ。


少し状況を説明しようと思う。

わたしの友人である同期のりょこちゃんは、一つ上の先輩で副代表である飯田圭介さんがずっと好きだった。けれど飯田さんには1年生のころから付き合っている彼女がいた。3年生の林加奈子さん。物静かで控えめな大和美人である。

とってもお似合いだった二人だったけど、なんとこの春別れてしまったのだ。

それを聞きつけたりょこちゃんは現在、飯田さんに猛烈アタック中。

だがしかし!飯田さんを狙っていたのはりょこちゃんだけではなかった!

1年生の寺田あいらちゃん。小柄で痩せてるのに出るところは出ている童顔のゆるふわ女子である。

正直世の8割の男子はグッとくる体型に性格をしていると思う。サークル内男子のほとんどは彼女にゾッコンだ。

そんな二人に狙われた飯田さん、そしてその親友、代表の東海林(しょうじ)さんはりょこちゃんラブである。それを知っている飯田さんの心中やいかに。

しかも!飯田さんの元カノ林さんは飯田さんを諦めていないとの情報が!

どうなる今年の夏合宿!?


という状況なのである。

…ね、怖いでしょ?いつ爆発するかわからない爆弾を抱えてるようなものでしょ!?


そんな中敢行される夏合宿の勇敢な運営メンバーもここで紹介しておこうかな。


まずはわたし、榎本・無難・杏花。なんのいざこざにも参加していない安全圏の住人です。

次に佐藤・まとも・雄平。少し頼りないけど普通という言葉が似合う一番安心できるメンバー。

それと田中&吉沢のバカップルコンビ。今も仕事もせずいちゃいちゃしている。うん君たちには何の期待もしてないから安心してね。

そして城内・オネェ・龍太郎。自他共に認めるオネェでありサークル内のオカン的存在だ。今はバスに酔ってしまった子達を献身的に介抱してあげている。オカン、まじ頼りにしてるっ!

最後に一ノ瀬・変態紳士・恭弥。サークル内で一番のイケメンなのだが中身が非常に残念なのは会話をすればすぐに分かる。

今誰も座りたがらなかった一番後ろの一つだけ空いた席、あいらちゃんの隣(いくらあいらちゃんファンが多いといってもあそこに座る勇者は誰もいなかった)にじゃんけんに負けて腰かけている。

隣の会話には我関せずで携帯ゲームを手にしているが、興奮したあいらちゃんの肘鉄をガンガンに食らっている。しかしピクリとも動かないその表情は頑なにゲームに視線を注いでいる。

ああ、絶対内心で何かを画策している!あれは危険だ!でももう少し耐えてね!


以上、6名の委員がこの二泊三日の夏合宿を盛り上げます!

というかたぶん勝手に盛り上がるから炎上しないように警備します!よろしく!


という訳で、30名ほどのサークルメンバーは今、貸切の旅館に到着し各々でくつろいでいるところだ。

一日目は特にイベントはなく夜に宴会を開催するのみ。とりあえず買出しだ!


「あ、榎本さん。これから買出しだよね?委員だけじゃ人手が足りないだろうから適当に声かけて来るよ」


出かけようとしていたところでモテモテ副代表飯田さんがそう言って颯爽と何人か連れてきた。

副代表ー!なんて気が利くんだ!悔しいけどこの人がモテるのすごく分かるわー。

もれなくりょこちゃんとあいらちゃんとついでに代表も付いてきてやっぱりねって感じだけど助かるわー。

隣で変態紳士の一ノ瀬くんがポツリと呟いた。


「この人になら…、抱かれてもいい」


うわガチっぽ過ぎるからそういう冗談マジやめて。本気にしちゃうよ?飯田×一ノ瀬で本出ちゃうよ?このサークル意外と腐女子多いからね?

一ノ瀬くんはこういう冗談を真顔で言う人なのでいちいち付き合ってたらキリがない。とりあえずスルーだ。ガッツいたら負けだ。


「飯田さんありがとうございます」

「礼にはおよばん!いいってことよ!」


感謝すると代わりに代表が得意げに答えてきた。なんでだ。




そうして宴会は始まった。


「代表の!ちょっとイイトコ見てみたいー!こっころ込めてえー、ちっから込めてえー、愛込めてっ!!ハイ!ドドスコスコスコ」

「だ、い、ひょう!イイ男!でもホントはどうでもイイ男っ!ハイ!ドドスコスコスコ」

「ご馳走様があ、聞こえないっ!ハイ!ドドスコスコスコ」


消費され続けるビール瓶を片付けては出し片付けては出しを繰り返す。

とりあえず序盤で代表が潰されるいつものパターンである。というかお前らドドスコ好きな。

こんなだからうちは飲みサーだって言われるんだよ…。コール好き多すぎだよ…。

お酒は用量・用法を守って楽しく飲みましょう。間違っても無理に飲ませてはいけません。

うちの場合は代表が自ら潰れにいくからどうしようもないんだけど…。


「ああん、もう!またあの子たち東海林ちゃんをイジメて…。しょうがないわねえ」

「面白がってるんだよ。一定量越えるとアレが出るから。そっとしといてあげればいいのに…」


心配顔のオカン城内と呆れ顔のわたし。

オカンは訳あって2浪しているので、実はこの場で最年長だったりする。だから3年生もちゃん付けで呼べちゃうのだ。というよりさん付けで呼ばれると逆に気持ち悪いから敢えてそう呼んでもらっているらしい。うーん気持ちは分かる。

それはさておき飲まされ続けた代表は、バタリと倒れたかと思ったらすぐにムクリと立ち上がり冷静そうな顔で(真っ赤だけど)ガラリと窓を開け、


「涼子ーーーーっ!!好きだーーーーーーっ!!」


叫び始めた。

やんややんやと騒ぐコール集団に顔をしかめるりょこちゃん。

そしてわたし達はというと、


「オカン」

「分かってるわ」


頷きあって代表に近づいた。


「代表、気持ちは分かりましたからトイレに行きましょう」

「嫌だ!俺は、涼子に、告白するっ!!」

「もう十分してるわ、飲み会の度にね。あなたが覚えていないだけ。さ、東海林ちゃん」

「嫌だ!まだ、涼子に、伝えていないんだっ!!」

「代表、我慢できますか?トイレまで」

「念のためケロリン桶を持ってきてるわ東海林ちゃん、大丈夫?」

「嫌だ!涼子…、俺は、涼子が…っ、グボゲッ」


我慢できなかったようだ。

うーん今回は早かったなあ。旅館からケロリンを拝借しといて良かった。

うずくまる代表にまたもやオカンは献身的に世話を焼いている。

おいコラそこのコール集団!一仕事終えたみたいな達成感に満ちた顔をするんじゃない!代表で遊ぶな!!代表可哀想!!それにりょこちゃんだってこれが始まる度に晒し者にされるんだぞ!!気の毒過ぎる!!


そんな風にして始まった宴会も2時間ほどすれば会場はさっきのバカ騒ぎが嘘のように静まり返る。空き瓶、空き缶、そして屍の山。ああ、平和が訪れた…、と思うのはまだ気が早い。ここからが正念場なのだ。

そう、夜のお散歩タイムだ。

意中の人を仕留めるために酔ったふりをしてちょっと外の空気を吸いに行こ☆なんて言って誘い出し、良い雰囲気を作る。それが夜のお散歩タイム!これでいくつのカポーが成立したことか!

サークルメンバーの動向をチェックするのも合宿委員の仕事!

ということで、屍の介抱組とパトロール組に分かれて業務にあたる。

もちろんわたしはパトロール組だ。りょこちゃんに頼まれてるしね〜。


「シャロウズよりアプリコットへ。ポイント1、2、共に異常なし。どうぞ」

「アプリコット了解。ポイント3異常なし」

「シャロウズ了解。警戒を怠るな」


パトロール組はわたしと変態紳士の担当なんだけど、用意周到な変態紳士がトランシーバー持参してきたおかげで余計な茶番に付き合わされている。

まあいいんだけどね…。これがやりたかったんだね、一ノ瀬くん…。

お散歩コースになるであろう、近くのコンビニにわたしが、海辺に一ノ瀬くんが待機している。

何事もなければいいんだけど、外で酔いつぶれたりだとかそういう粗相があった場合に対処するのがわたし達の仕事だ。決して恋の鞘当てや男女の駆け引きのデバガメをしたいからではない。決してない。


観察を続けること数分。


「シャロウズよりアプリコットへ。ポイント1を2組が通過。ポイント2へ移動中」

「アプリコット了解。様子はどうだ」

「青い果実は夢を見る。すでに悪魔に囚われているとも知らず」


ごめんアプリコットよくわかんない。

えーっと、とりあえず異常なしでいいのかな、うん。


と、通信に気を取られていた隙に1組の男女がコンビニへ入っていったのが見えた、ってあれは飯田さんとあいらちゃんじゃないか!!

りょこちゃんは何をしてるんだ!?

とりあえず連絡を、と思って携帯を取り出したらブブブと震え出した。

りょこちゃんからだ!


「もしもしりょこちゃん?」

「杏花…。いまどこ?」

「コンビニの近くだけど。どうしたの」

「飯田さん…、どこにいるか知らない?」


まさに今コンビニに来てますけど!ゆるふわロリッ子あいらちゃんと一緒に!


「ええっと、コンビニにいるみたい、だね」

「どうせあの子も一緒なんでしょ。わかってる…」


どうやらりょこちゃんは先を越されたようだ。

いつもなら闘志を燃やしてすぐに行く!って言うところだけど今日のりょこちゃんはなんだか元気がない。電話越しにグス、と鼻をすする音まで聞こえてきた。どうした!?


「今日は曇ってて星見にいけないね、って話になって、わたし、さっさとお風呂に入って湯上りの姿を飯田さんに見てもらう予定だったんだけど…。戻ってきたらいなくなってて」


おおう、作戦がなんだか古くさ、じゃなくて古風だけど涼やか美人のりょこちゃんが顔をほてらせてるところは確かにクルものがあるよ!お酒でも顔色一つ変わらないもんね!


「あの子、本当、押しが強くて…。わたし勝てる自信ない。もう無理…」

「りょこちゃん!しっかりして!今からそっち行くから!」


激しく落ち込んでいる様子のりょこちゃんを友人として放っておくことはできない。

とりあえずパトロールは一ノ瀬くんに任せた!


「アプリコットよりシャロウズへ。緊急事態発生。一時帰還する」

「こちらシャロウズ、クソ、やられた!グウ、右腕を…、持って行かれた…ッ!至急応援求むッ!!」


何やらあちらでも動きがあったようだ。

しょうがないなあ。


「アプリコット了解。シュガーをそちらへ向かわせる」

「シャロウズ、了解…ッ!頼む、早く来てくれ!!」


ちゃんとトランシーバーで応答できるってことは、肉体的に何かあったというわけでなく精神的ダメージが極限を超えたってことなんだろうなあ…。

とりあえずわたしは介抱組にいる佐藤くんにビーチに行くよう指示して、コンビニへ向かった。

どうやらあいらちゃんは飯田さんにアイスを奢ってもらったようだ。美味しそうにミルクバーを頬張っている。そのチョイス、あざとい…。


「飯田さん!」

「あれ、榎本さんどうしたの」

「大変なんです!コール集団に次々と皆が潰されてて…!ついにりょこちゃんまで!」

「え、あのザルの涼子ちゃんが?」

「あのワクの涼子さんが!?」


ちょっとワクは言い過ぎでしょあいらちゃん…。


「とにかく大変なことになってるんです!早く来てください!!」


わたしの迫真の演技が功を奏し、飯田さんは慌てた様子で旅館に戻って行った。

浴衣姿で泣き崩れていたりょこちゃんは、心配そうにいつも以上に構ってくれる飯田さんに嬉しそうに甘えたりして(酔い潰れていると勘違いされていることを瞬時に察したりょこちゃんは巧みに潰れたフリをし続けた)二人の仲は急速に大接近!わたし超良い仕事したわ〜。

女の勘で演技であることを見抜いたあいらちゃんの射抜くような視線がとっても怖かったけどね…。この子本当に恐ろしいわ…。



次の日、浜辺で待機していた一ノ瀬くんと佐藤くんは死んだ魚の目で朝食をつついていた。

何があったんだ一体…。



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