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秀一くんの卒業式は平日に行われた。

せっちゃんの話だと、平穏無事にとはいかなかったらしい。

式が終わってすぐ、陽介くんと談笑する秀一くんに向かって女子が殺到、大乱闘となり、どうやら身ぐるみ剥がされたらしい。

というのは大げさだと思うけど、ボタンというボタンは全て奪われそれだけでは飽き足らず、ペンや消しゴムなど細々としたものまで本人の困惑を置き去りに全て持ち去られたのだとか。

うーん凄い。さすがジゴロ…。

せっちゃんが身ぐるみを剥がされた後の秀一くんの姿を写メって送ってくれた。

おおう…。本当にボタンが一つもない!寒そう!

でもそんなことより秀一くんの表情がいつかの菩薩みたいになってるんですが。戻ってこーい!


というわけで、秀一くんは無事に卒業した。

ちなみに陽介くんはギリギリ繰り上げ合格し、晴れて秀一くんと同じ高校に通うことができるらしい。良かったね陽介くん!これで二人のラブラブっぷり、じゃなかった仲良しっぷりも永遠だね!





その週末、せっちゃんと秀一くんが菓子折りを持って家に来てくれた。

大したことしてないのに悪いな〜。でもこのえびせん大好きだからありがたく貰っときます!


「改めて、ありがとうねきょうちゃん。ほぼ毎週勉強を見てくれてたでしょ?おかげでこうして合格できました。ほら秀一も!」

「ありがとうございました。杏花さん」


二人して頭を下げられる。

ひー、やめてよ二人とも!本当にわたし何もしてないから!秀一くんが優秀すぎてすぐ教えることなくなっちゃったから!

慌てるわたしに、せっちゃんは首を振った。


「ううん、大変だったと思うわ。だって毎週人を呼ぶってけっこう疲れることじゃない?部屋も掃除しないといけないし。わたしも一人暮らしの経験あるからわかるの」


ま、まあ、掃除はわりかし…、いや結構、面倒だなー、いっかな汚くてもー、とか思ってました。はい。でもなけなしのプライド的なものがそれを許さなかったよ。だらしないって思われたくなかったし、秀一くんめっちゃ主夫だからそういうの気にしそうだったし!

わたし、この数カ月で女子力を学んだよ!ありがとう!

ただし秀一くんが来なくなってからあっという間に汚くなって、昨日慌てて片付けたのは内緒にしておく。


「本当にありがとう。感謝してる」


せっちゃんはニッコリ笑ってお互い仕事が落ち着いたら早速イタリアン行きましょうね!と言って帰って行った。これから会社らしい。うわ、わたしより忙しいじゃないか!


「デートなんですよ。これから」


仕事はついでで、本命は彼氏とのデートらしい。秀一くんは呆れたように母親の後ろ姿を見ながら教えてくれた。ラブラブですなあ。





せっちゃんが卒業アルバムを持ってきてくれていた。

せっちゃん自身は時間がないので先に帰っちゃったけど、よかったら見てねと置いて行ってくれたので、せっかくだから見せてもらうことにする。


ねえ秀一くん、嫌そうな顔しないでよ…。ちょっとちょっと、なんで勝手に見れば?っていうスタンスなのよ!一緒に見ようよ!そして解説してくれ!!

嫌がる秀一くんを無理やり隣に座らせて、アルバムのページをめくる。


うわー、自分の以外のアルバム、初めて見る!こういうのドキドキするよね。ちゃんと自分が写ってる写真あるかな的な!『ウォーリーを探せ』を思い出しちゃう。

秀一くんはいるかな〜?

探してみると、出るわ出るわ、秀一くんのベストショット。リレーの時のゴール写真、修学旅行の時の浴衣写真、もちろん文化祭の猫耳写真もバッチリ収まっていた。秀一くんが写り込んでる写真が異様に多いのだけど、何か特別な陰謀を感じる…。気のせいかな?

そして秀一くんが写っている写真には必ず陽介くんの姿もあった。時々見切れてるけど。

うふふ、二人はいつも一緒なのね?

それにしても1年生の時の秀一くん可愛いなー!まだあどけない顔立ちで、女の子って言われても納得できる。今はそうでもないけど、でも女装させたらけっこうイケるかも…。

いかん、ニヤニヤしながら本人と見比べてしまった。もの凄く嫌そうな顔をされた。悪気はないのだ。すまん。

わたしは最後の1年しか知らないけど、中学3年間、とても楽しく過ごせたようだ。どの写真もキラキラしてるな〜。


「運動会はいつもリレーに出てたの?」

「いえ、そういうわけでは。この写真の時はアンカーでしたけど、これは元々出る予定の人が怪我しちゃって、代理で出たんです。すごく緊張しました」

「へ〜!それで一位だったんだ!凄い!」


わたし足遅いから尊敬しちゃう!

身を乗り出して褒めると、秀一くんはちょっと赤くなって目をそらした。大したことじゃ…、とか言ってるけど、いや凄いよ!わたしだったら勢い余ってバトンを落としてそれを拾おうとして転ぶ自信がある!


「これは何をしているところなの?」

「1年の時のオリエンテーションキャンプですね。カレーを作ったんですけど、陽介がじゃがいもの皮を剥くとなぜかサイコロ並みの小ささになっちゃって…」


どうやら見かねた秀一くんが陽介くんを指導している時の写真だったようだ。

もの凄く近距離で二人が真剣な顔して何かやってるから気になっちゃいました。うん。


「修学旅行は京都か〜。定番だけど良いところだよね」

「そうですね。豆腐が美味しかったです」


豆腐か〜!わたしは胡麻豆腐が好きだな〜!


「色々なところ見学したんでしょ?どこが一番良かった?」

「京都って名所だらけなんで迷いますけど…。行った中では嵐山が一番好きです。風情があるし、自然が気持ち良くて」


川下りが意外とスリリングで面白かったですね、と懐かしそうに秀一くんは話した。

そっか〜!楽しい修学旅行だったんだね。夜は友達とまくら投げしたり、恋バナに花を咲かせたり、女子部屋覗こうとしたりしたのかな?素晴らしき共学。夢が広がるぜ!

妄想を膨らませながら頷いていると、秀一くんはわたしを見て目を細めた。


「また、行きたいですね…。今度は杏花さんと一緒に」


…。


ひー!また来ましたわ!!この天然タラシ!!


わたしは心の中で仰け反りながら決心した。

無自覚なんだろうけど、見方によってはその言い方、誑かしてるように見えるんだからね!これは言ってあげないと!!


わたしは秀一くんに向き直った。


「あのさ、秀一くん」

「はい?」

「そういうこと、誰にでも言ってるの?」


キョトンとしている秀一くんにわたしはガツンと言ってやることにした。


「一緒に行きたい、とか、二人でいたい、とか、そういう台詞、言われた方は自分に好意を持ってるんじゃないかって勘違いしちゃうんだよ?相手がわたしだからそういうことないけど!これから気をつけた方がいいよ」


お互いのために!と半ば真剣に言うと、最初ポカンとしていた秀一くんが、スッと俯いて次第に小刻みに震え出した。

あ、ヤバい。ちょっと言い過ぎたかな?でもホント、これは余計なトラブルを招かないための貴重なアドバイス、


「杏花さんがそれを言いますか…」


感情を抑えた声で、秀一くんが呟いた。


「え?」

「杏花さんが、それを言うのか、って言ってるんですッ!!」


顔を上げた秀一くんは、これまで見たことがないほど怒っていた。

ギリ、と睨まれる。

いつも理性的でよっぽどのことがない限り感情を表に出さない秀一くんが、怒っている!


だけど理由がわからない。言い方がまずかったんだろうか!?


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