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最近、秀一くんがおかしい。
これまでせっちゃんや陽介くんにそういう話題で散々相談されてきたけれど、ここにきてついにわたしも悩むことになろうとは思いもしなかった。
しかもこれまでの相談の通り冷たくされるんじゃなくて、逆に優しくされてる気がする、というか、何か甘いものを感じる、というか、もしかして好かれてる?というか…。
いや、ないない。それは絶対にない!あの理性的な秀一くんが、よりによってこんなおばちゃん好きになるわけがないって!!
じゃあどうしてあんなこと言ってくるんだろ…。
エンドレス。
もう正直苦しい。このグルグルから抜け出したい!!
誰かわたしをこの無限ループから救出して!!
というわけで、自分じゃどうにも解決できそうになかったので、友人に相談することにした。
ちょうど会う約束してたしね。
それにしても、しばらく連絡取り合ってなかったのに急にどうしたんだろう?
「結婚することになったわ」
「マジかー。おめでとー」
「ちょっと。なんでそんなにテンション低いわけ?もっと祝えよ」
えー…。だってそういうこと言われるの4回目だし。
流石に慣れたっていうか?
というか薄々そんな気がしてたっていうか?
この子は大学からの友人で名前は涼子。あだ名はりょこちゃん。
名前の通り涼しげな目元が凛としていて性格もクールな美人。自慢の友達だ。
ちなみにりょこちゃんの彼氏も付き合う時わたしが一枚噛んだ口だ。
あの時は三角関係がこじれにこじれて女子同士つかみ合いの喧嘩になったりして大変だったな〜。
様々な修羅場で暗躍していたわたしです。
しばらくりょこちゃんに最近彼氏とどんなところへ行ったのかやどうプロポーズされたかなどのノロケ話を聞かされる。
幸せそうですなあ。
「そんで、結婚式の友人代表のスピーチ頼みたいんだけど」
「またあ?もう聞く人も一緒だろうしみんな飽きちゃうんじゃないのお?」
「そうだけどさ、彼がどうしてもっていうんだもん」
しょうがないじゃん、と頬を染めるりょこちゃん。
普段気が強いのに相変わらず彼氏の前だと従順になっちゃうらしい。
「でも頼むからもう3つの袋の話はなしでお願い」
「そんなあ!」
「正直寒い」
ヒドイ!毎回一生懸命考えてるのに!!
結婚式の日取りや衣装のことなどを一通り話して会話が一区切り付いたので、秀一くんのことを相談してみることにした。
あくまで他人のふりをしてだけどね!
「あのさ、これは友達の話なんだけど」
「うん?」
どこから話せばいいんだろう。とりあえずクリスマスにプレゼントを貰ったところから始める。
あの時はサプライズって感じでホントに感動したな〜!
そして、またもやバレンタインにチョコを貰っちゃったんだよね。しかもわたしにしかあげてないとか。マジ照れる。
さらに花火大会に一緒に行く約束をして、そんなに楽しかったのか〜、とのほほんとしていたら。
「二人でいられればどこでもいいんだけどね、って言われたらしくて…」
「なにそいつ。どこのジゴロ?」
…ですよねー!!
わたしも薄々そう思ってた!!
「やっぱりその人、友達のこと好きだったりするのかな…?」
「好きってより誑かそうとしてるとしか取れないんだけど。その話からだと」
「それは絶対にない!!」
あの真面目な秀一くんに限って!!
はっ!じゃあ天然タラシってことなんだろうか!
無自覚にあんなセリフを吐ける子だったというわけか!?なんて恐ろしい…!
「はあ?なんで友達のことなのにあんたが断言するのよ」
「え!?えっとそれは、わたしも相手のことちょっとは知ってるからさ!凄く生真面目な人なんだよ〜」
「ふーん。じゃあホントに好きなんじゃない?誰にでもそういうこと言いそうにないんでしょ?」
「う、うん…。まあね…」
ごめん、ちょっとそれは自信がない。
もしかしたら普通に言っちゃってるのかもしれない。
秀一くんが天然タラシなんだとしたら、誰にでもああいうこと囁くのかも。
真剣な目で、優しく微笑んで、二人でいられれば、って…。
ぎゃー!!思い出しちゃった!!恥ずかしい!!
あのあとどんな顔で会話して、どんな風にして帰ったのか記憶が曖昧だ。
動揺し過ぎて粗相ばかりしていたような気がする。そして秀一くんに世話をやかれ、さらに動転して挙動不審に陥りまた粗相、の繰り返しだったような…。
あーーーー!!穴がはあったら埋まりたいっ!!!!
「ちょっと、気味悪いから百面相しないでくれる?」
「あ、ご、ごめん」
思ってることがそのまま顔に出ていたらしい。
慌てて居住まいを正すわたしをじっと見て、りょこちゃんは疑わしげに眉を寄せた。
「ねえ、さっきから気になってたんだけど。それって本当に友達の話なの?あんたのことなんじゃないでしょうね」
「え。ち、違うよ?何イッテルノヨリョコチャンタラ」
「…ま、いいけど。あんたは他人の心の機微には無駄に敏感なのに、自分のこととなると途端に鈍感になるから心配だよ」
「りょこちゃん…」
「あ、心配なのはあんたじゃなくて、あんたに巻き込まれる人たちの方だから」
「はい?」
「佐藤事件を繰り返さないようにってこと」
佐藤事件というのは、『究極のすれ違い事件』の別名だ。
そうは言ってもあれはわたしのせいで起こったことじゃないから、繰り返しようがないんですけど…。
でも、そっか。他人から見ても秀一くんの言動は人を好きにさせるような要素があるんだな。
これは一大事だ。無意識にそんなことされたらたまったものじゃない。ただでさえモテるんだから、無駄に振り回されちゃう子が続出する気がする。
これは注意せねば!
「ところでりょこちゃん」
「何?」
「もし、10歳年下の男の子に好かれたらどうする?」
「うーん…。そうねえ。自分好みの男に育てる、かな?」
流石涼子さん…。伊達に狙った男を思うがままに手のひらで転がしてきていませんね。
冷徹の狙撃手とは彼女のことである。
でも、普通に考えて、良くないことだと思う。
あり得ないことだけど、本当にあり得ない話だけど。
もし仮に、秀一くんがわたしのことを好きだな、って思ってくれているとしても、きっとそれは一時的なものだ。
同年代の女の子たちとはちょっと違っていて、ちょっと目を引くだけ。
たまたま、近くにそういう人がいただけの話で、すぐに同年代の、秀一くんと同じ目線で笑ったり泣いたり怒ったりしてくれる、素敵な女の子が現れるに違いない。
わたしはそれができないんだ。
だって、10年も違う時を生きてるんだもの。
でも本当は、そんなの言い訳だ。
相手に一歩踏み込まないようにするための対策。
自分が傷つかないための、ずるい大人の予防線。
意識して無意識を装うのは、悪いことかな?
可能性には蓋をして。
そうしてわたしは、気づかない振りをする。




