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バレンタインデーのお礼に、秀一くんとスイーツビュッフェに行くことになった。
高級チョコとスイーツ食べ放題どっちが良い?と聞いたところ、一切迷うことなく食べ放題が選ばれた。流石育ち盛り!
ホテルのビュッフェは中学生的には行きづらいかなーと思ったので、学生御用達チェーン店の「スイーツパラディーゾ」に予約してみた。
ここなら若者ばかりだし、スイーツ以外のものもあるし、リラックスしてガッツリ食べられるでしょ!
一度も来たことないって言ってたし、ちょうどいいや。
と、思っていたのだけど。
だがしかし、すっかり忘れていた。
お客さんの7割はカップルであるということを…!
しかも通された座席がカップルシートだった。向かい合うんじゃなくて隣り合う席だった。焦る。
そしてもちろん隣も、その逆の隣もカップルだった。あーんとかしてた。やめろ。
「…なんか、すごいところですね…」
秀一くんはもの珍しそうにデッコデコに彩られたスイーツな内装を眺めている。
ああ、失敗した…。どう見てもわたしと秀一くんじゃ、カップルに見えないよね?下手したらわたし犯罪者だよね?うまく兄妹に見えればいいんだけど…!
「そ、そうだね…。なんかごめんね…」
思わず謝っちゃう。
感謝のつもりがとんだ被害者にしてしまった…!
「え?何がですか?それより取りに行きましょうよ。仕組みを教えてください」
秀一くんは何も気にしてなさそうに笑っている。
いやいや!絶対わかってて気を使ってるでしょ!もう!
秀一くんの紳士っぷりが憎い…!
ここでスイーツを喰らう極意は、甘辛菜、を繰り返すことだ。
つまり、甘いもの、次にしょっぱいもの、そしてしょっぱいものは脂っこいので野菜も一緒に食すのだ。
これでエンドレスで飽きずに食べ続けることができる。しかも気持ち的にこれはデブ食ではない!という幻想を抱くことができる。
ええ、分かってます。そんなのつかの間の幻だって。次の日体重計に乗って絶望にくれることになるって。
でもやめられない止まらない。それがスイーツビュッフェ!
天国という名の地獄!
とはいっても、20も半ばになってくると10代の頃の食欲を発揮するのは難しくなってくる。
「もう、限界…」
わたしは背中を丸めて目の前のお皿に盛られたケーキから目をそらした。
「え?杏花さん、まだそれ3皿目ですよね?」
秀一くんは元気に唐揚げにパクつきながら目を丸めた。
ちなみに秀一くんは今ので5皿目だ。驚異的なスピードでメニューを制覇している。
10代の胃袋、恐るべし…。
「うう、想像以上に食欲が落ちてる…。もうちょっとイケると思ってたんだけど…」
現役の時はこの倍以上お皿に山盛りで食べてたんだけどな…。
「無理しないでくださいね。それ食べれなかったら俺が貰いますから」
なんて頼もしい…!
秀一くんは全く平気な顔で店員の「激辛アラビアーター!どうぞー!」という言葉に反応して立ち上がった。
「新しいのが出たみたいです。ちょっと取ってきますね」
と言って颯爽とパスタの列に並んだ。
ああ、君の後ろ姿が眩しい…。
これが、10代の輝きか…!
秀一くんはパスタを貰うついでにわたしにホット烏龍茶を取ってきてくれた。なんて気が利くの!
烏龍茶は脂肪を分解する働きがあると聞く。
これで少しは回復するかも!プラシーボ効果って奴だろうけど!
「あ、意外とそこまで辛くないな」と言いながらアラビアータを食べる秀一くんを眺める。
秀一くんもこの春から高校生かあ。時が流れるのは本当に早いな。
出会った頃はわたしと同じくらいの背丈だったけど、この1年で少し見上げないと目線が合わなくなってしまった。
あっという間に大人になっちゃうんだろうな。
そしてわたしもあっという間におばちゃんだなあ。
色んな未来が待ち受けている秀一くんが少し羨ましい。
高校も大学も楽しいことでいっぱいだもの!
恋だとか友情だとか、そういう青春ぽいものがたくさん詰まった生活を送っていくんだろうなあ。
もちろん楽しいことばかりじゃなくて、辛いこともあるだろうけど、全部ひっくるめて最後にはキラキラした思い出になっているに違いない。
ああ輝かしき青春の日々…!
気配を感じたのか、ふと秀一くんと目があった。
「…?なんですか?」
「いや、なんでもー。これから高校生かー、ってしみじみしてただけ」
「はあ」
秀一くんは怪訝な顔をして、空になったお皿を重ねた。
え、もう食べちゃったの!?
「それより杏花さん、覚えてますよね?」
「何が?」
「何が、じゃありませんよ」
あの約束のことです、と秀一くんは不満そうに眉間にシワを寄せて言った。
「あ、合格したらって奴だよね?覚えてる覚えてる!」
あ、危ない!そうだった!
第一志望校に合格していたら、一つお願いをきく。
そんな約束をクリスマスの時にしていたんだった!忘れてないよ!ホントに!
ごまかし笑いをするわたしに、秀一くんは疑わしそうな目を向けてくる。
ホントだよ〜!!
「もう、なんでも言って!できる範囲で頑張らせていただきます!」
ドーンと来い!と胸を張ると、秀一くんはニヤリと笑った。
「なんでも、ですか?」
ぎゃ、何か良からぬことを考えているな!おぬし!
その悪い笑みに若干怯えていると、秀一くんは苦笑した。
「…そんな警戒しないでくださいよ。無理なことは言いませんから。簡単なことなんです」
…?簡単なこと?
「また今年も、一緒に花火大会に行ってください」
…えっ。
「そ、それだけ?」
「はい?」
「本当にそんなんでいいの?」
「それが、いいんです」
秀一くんはおかしそうに笑った。
な、なんだあ!
もっとなんかこう、凄いこと要求されるのかと思った!紐なしバンジーとか!
最近の秀一くん、何を言い出すかわからないんだもんなー。あー焦った!
「そっかそっかー!そんなに楽しかったんだ!花火大会!」
わたしが教えた大人の遊び方に病みつきになっちゃったのかな〜?
ニヤニヤしていると、うーん、と秀一くんは顎に手を当てて考えた後、すっとわたしに顔を近づけてきた。
「確かに、あの時は楽しかったですけど」
ち、近い!
思わずのけぞるわたしの反応を見て、秀一くんはそれはそれは綺麗に笑った。
「別にどこでもいいんですよ。杏花さんと二人でいられれば」




