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3月になった。
秀一くんの第一志望の高校の合格発表も間近だ。
なんだかこっちまでドキドキしてきたー!
試験が終わって秀一くんに感触を電話で聞いてみたけど、なんだかイマイチな反応だった。だ、大丈夫かな!?
ちなみに陽介くんは海よりも深く落ち込んでいるらしい。いつも元気な陽介くんが落ち込んでるだなんて…。やはり道真様の恩恵も限度があったんだろうか。
ああ、ソワソワしちゃう。
あ、部長わたしまだこの仕事終わってないんで押し付けるのやめてください。
ソワソワしながらも仕事は山積み。わたしにできることはもはや何もないので、目の前の仕事をやっつける他ない。
この前電話をした時にどういう結果でもメールを送ってくれると言ってくれたので、祈るように待つのみだ。
神様仏様どうかお慈悲をー!
そして結果発表当日、怖くて仕事中携帯を見れず、お家に帰った後で恐る恐る受信BOXを開くと、メールが2通来ていた。
秀一くんと、せっちゃんだ。
あわわ、どっちから開こうかな!?
なんで二人とも件名なしなの!?焦らしてるの!?
深呼吸を3回繰り返して、まずは秀一くんのメールから開くことにする。
南無三!
『無事合格しました。ありがとうございます。陽介は…、今度会ったら話します。』
や、やった…!!秀一くんやったね!!
あー良かった!これで責任は果たせたよー!
と一瞬喜びで胸いっぱいになったものの、最後がもの凄く気になるんですけど…。
え、陽介くんどうしちゃったの!?
ひとまず次にせっちゃんのメールを開く。
『第一志望に合格!きょうちゃんのお陰ね。本当にありがとう!今度お礼に美味しいイタリアン奢っちゃう☆』
合格発表の掲示板の前に立つ秀一くんの写真も添付されていた。
やだはにかんでる!可愛い!
流石にホッとしてるみたいだ。良かったね。
ついつい嬉しさにニマニマしてしまう。ああ良かったなあ。しかもせっちゃんがイタリアン連れてってくれるって!美味しいところいっぱい知ってそうだから楽しみだ!
だがしかし、やはり陽介くんのことが気になるんですが…。
いてもたってもいられず、秀一くんに電話してしまった。
ちょっと夜遅いけど、良いよね!?寝てないよね!?
案の定秀一くんはまだ起きていたみたいで、すぐに電話に出てくれた。
「秀一くん、ごめんね夜分遅くに。メール見たよ!本当におめでとう。頑張った甲斐があったね!」
「ありがとうございます。杏花さんのお陰ですよ」
「そんなそんな、秀一くんの努力が実を結んだんだよ〜」
驚くほどストイックに勉強してたもんねえ。ホント尊敬しちゃう。
「あの、それで、あまりにも気になるんだけど…。陽介くんは?」
「…ああ、やっぱり気になりますか」
そりゃあね!しかもあんなお茶を濁すような書き方されたら誰でも気になるよ!
「実は陽介、補欠合格だったんです」
「ええ?補欠?」
「はい。だからまだちゃんとした結果が出てなくて。すぐに決まると思うんですけど…」
なんだそっか!だからあんな風にしか書けなかったんだ!
ちなみに陽介くんは滑り止めの高校にはもう合格しているので、ひとまず受験自体は終了しているらしい。
「そうなんだ。受かるといいね…」
「ええ…、すみません。もったいぶった言い方しちゃって」
少なからずホッとしていると、申し訳なさそうに秀一くんが謝ってきた。
「あはは、何があったんだと思っちゃったよ」
「本当は陽介のことは書かないでおこうかと思ったんですけど、杏花さん絶対知りたがるだろうな、と思ったので」
「まあねー。思わず電話しちゃったし!」
「そうですね。予想通りです」
「え?」
電話の向こうで、クスリ、と小さく笑う気配がした。
「あんな風にメールを送れば、絶対電話してきてくれるって思ってました」
うっ、なぜに囁くように言うか!?
まるで「杏花さんの声が聞きたかったんです」とでも言いたげじゃないか!絶対気のせいだけど!
またもや心拍数が上がってしまった。なんか最近こんなのばっかだな!?
えーっと、あー、そうなのー、と返事に窮してしどろもどろなわたしに、秀一くんはまた笑って爽やかに「それじゃあ、お休みなさい。杏花さんも仕事頑張ってくださいね」と言って通話が切れた。
なんだろうこれ…。手のひらで転がされているような気がする。
しかも中学生に!10も年下の子に!
理不尽!




