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結論として、わたしの大学受験の時の知識が役に立ちそうだったので、このまま週一回個人指導を続行することになった。
国語は明確な答えがない教科だって思われがちだけど、実は論理的に考えればちゃんと答えが用意されているんだよね~。
それをしっかりと見つける目を養うには、トレーニングが必要なのだ。
でも秀一くんは頭がいいからきっとすぐに成績が伸びて、あっという間にお役御免になるような気がする。
次の週、さっそく秀一くんがやって来た。今回は一人だ。
緊張気味に教科書を広げる秀一くんの横顔は、やっぱりハンサムでニヤニヤしてしまう。
イケメン、ってより、ハンサム。このチャラくない正統派って雰囲気がイイね!
こりゃー女子が放っておかないよね~。
わたしの少し不躾な視線に気づいたのか、秀一くんが不審そうにわたしを見た。
おっとごめんね。怪しい者ではないよ。
「あの?」
「なんでもないよー。じゃあ始めようか!」
やってみると、やっぱり秀一くんは頭がよくてすぐにコツを掴んだようだ。
流石だ。せっちゃんも頭が良かったから、これも家系かねえ。
ちなみにうちの親の成績は普通だったみたいで、わたしもそれにならって普通の成績だった。…家系だねえ。
一休みするためにお茶を入れてテーブルに置いていると、秀一くんが改まった様子で声をかけてきた。
「あの、杏花さん」
「ん?なあに?」
少し思いつめたような顔をしているので、お、これは重い話が出てくるかな、と身構えた。
「迷惑、じゃないですか?勉強見るの」
「え?」
想像もしていなかった言葉がかけられて、わたしはキョトンと秀一くんを見返した。
「だって、杏花さん、働いてるでしょ?貴重な休日を俺なんかのために潰しちゃって…。こ、恋人だっているでしょうし、友達と出かけたりとか、予定入れづらいんじゃないかなって…」
グサリ。
…秀一くん、君はまだ知らないんだね。優しさが、時に人を傷つけるということを…!
「あー、えっと、そんなことに気を遣わなくても全然いいんだよ?わたしは全く無理してないから!」
「でも」
「友達はみんな休日が合わなくて土日あんまり遊べないんだ。恋人も…いないし…」
尻すぼみになるわたしの言葉。
ええ、わたし暇人なんです。仕事はしてるけど、プライベートは暇人です。彼氏、募集中でーす!
それを聞いた秀一くんは戸惑いと驚きをブレンドしたような顔をした。
「えっ、そうなんですか?…えっと、杏花さん綺麗だからてっきり恋人がいると思って…」
中学生に気を遣われる24歳独身女。
その時、秀一くんの携帯がブブブと鳴りだした。
どうやら電話の着信らしい。
気まずい雰囲気の中、「すみません」と一言謝って秀一くんは携帯を手に取った。
「もしもし?…うん、今勉強してる。え、今日?今日はさすがに…。明日じゃダメ?…うん、じゃあ明日の1時に。うん。…え、ええ!?ここ外だから無理だよ!え、ちょ、待って、ちょっと待って」
秀一くんはわたしをチラッと見てそそくさと玄関の方に足を向けた。
むむ?顔が赤いぞ?
耳をすましていると、聞こえてきてしまった。
「す、好きだよ。じゃあ!」
赤い顔のまま、秀一くんは戻ってきた。
「……」
「……」
今わたし、ゴルゴみたいな顔をしていると思う。
「彼女、かな?」
「…は、はい…」
今時の若い子は凄いんですのねえ。おほほ。
根掘り葉掘り聞いてみると、去年のクリスマスの時期に彼女の方から告白してきて付き合うことになったらしい。
秀一くんの方はあんまりその気はなかったようだけど、周りのお膳立てが凄かったみたい。
なんでもお相手は学年一の美少女で、お前そこで断ったら処刑もんだぞ、とドヤされたとか。
写メを無理矢理見せてもらったら本当に可愛かった。うわー、お似合いのカップルなんだろうなあ!
「あの、こんな話聞いて楽しいですか…?」
「楽しいに決まってるじゃない!」
だってわたし中高一貫の女子校だったんだよ!?
こういう青春ドラマに縁がなさすぎて、最終的に干からびちゃいましたよ!はっはー!
…はっはー…。
ああ、彼氏に自転車に乗せてもらって川辺を走って見たかったなあ。制服デートは永遠の憧れです。
「で?で?今はラブラブなんでしょ?彼女のどんなところが好きなの?」
くのくの~と肘でつつくと、満更でもなさそうな秀一くんが顔を赤らめてうつむいた。
「えっと、健気なところ…ですかね…」
KE NA GE!!
一度は言われてみたいフレーズだわ!
聞くと彼女からは毎日用事がなくてもおはようからおやすみまで、暮らしを見つめるようにメールが来て、時々お弁当も作ってくれるらしい。
今みたいに突然電話がかかってきて無茶言われることもあるらしいけど、可愛さ余って可愛さ100倍というかなんというか、もうメロメロのラブラブだ。
お弁当はポイント高いよねー!せっちゃん忙しくてなかなか作れないだろうし。
「そっかそっか。幸せそうでなによりだ」
「杏花さんもすぐに恋人できますよ」
…うん、気の遣い所を間違えてるよ?秀一くん。




