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クリスマスが過ぎると、浮かれた雰囲気はなりを潜め、まったりとした空気が流れ出す。とうとう年末だ。
今年も残すところあとわずか。みなさん悔いなく一年を過ごせましたか?
仕事納めの日もなんとか終了し、盛大な宴会という名の戦場を駆け抜けたわたしは今、飛行機の中にいます。
飛行機は苦手じゃないけどさすがに気持ち悪い…。ゲロったらどうしてくれる。部長め…。
自分じゃわからないけど、きっとすごいアルコール臭してるよね?ごめんなさいねお隣さん…。
例年だともう実家に舞い戻ってゴロゴロしているところだけど、今年は一泊二日の弾丸一人旅を計画してみた。行き先は九州だ。修学旅行以来だな〜。懐かしい。その時は長崎に行ったんだっけ。カステラ美味しかったな。
今回の行き先は福岡だ。目指せ太宰府天満宮!
秀一くんにお守り渡したいなと思ったのと、前々から行ってみたいと思ってたのとがあって実現した今回の旅行。今、若干なぜこの日程にしたのかと後悔してるけど、病は気からとも言うし、楽しまねば!その心意気が大事だ!がんばれわたし!
それにしても年末の飛行機ってお高いね。実家が遠い人は大変ですなあ。
太宰府天満宮は人で一杯だった。
修学旅行シーズンよりはマシなのかな?でもやっぱり受験生は参拝しにくるのかなあ。
とりあえず御神牛の頭を執拗になでなでして、橋を渡ってお参りした。
秀一くんも陽介くんも、無事志望校に合格できますように。
特に陽介くんはなんだかヤバイらしいのでどうかお願いします道真様…。
真剣にお祈りしすぎて後ろがつかえていることに気づくのが遅れた。あ、すみません…。
でも、これでバッチリだ!
ここまでして不合格になったら全部道真様のせいだからね!
罰当たりなことを考えつつ、帰路に着く。
お守りも明太子も通りもんもバッチリ買えた。思い残すことは何もない。
さらば福岡!
今度はもう少しゆったりした旅にして訪れたいな。
あっという間に年が明けて、新年の挨拶がてら秀一くんの家を訪問した。
「久しぶり!って言っても2週間ぶりくらいかな?明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。すみません、わざわざ来てくれたのに何もなくて」
秀一くんはお茶を出しながら申し訳なさそうに眉を下げた。
今日は正月だというのに秀一くんは一人だそうだ。なぜかというと、年明け早々、せっちゃんは彼氏と初詣に行っているからだ。秀一くんも誘われたらしいが丁重に断ったのだとか。まあ、めちゃくちゃ居づらいよね…。気持ちは分かる。
「いいのいいの!これ渡したらすぐ帰ろうと思ってたから」
カバンから例のお守りを取り出して差し出した。
「はい、これ。学業成就のお守り!良かったら持ってて」
「わざわざ買ってきてくれたんですか?ありがとうございます」
お守りを両手で受け取って、秀一くんは嬉しそうに笑った。
くー、癒される!美少年の微笑み!
「日本一ご利益あるはずだから。心強いでしょ?」
「え?」
秀一くんはキョトンとしてお守りを見た。裏側に書かれた「太宰府天満宮」という文字を見て目を丸くする。
「え!行ってきたんですか!?これのために!?」
「や、前から行ってみたいと思ってたから旅行ついでにねー。いいところだったよ?」
二日酔いどころか三日酔いして気持ち悪くて観光どころじゃなかったことは伏せておく。自業自得だし。とほほ。
「ありがとうございます…」
秀一くんは感動したのかお守りをギュッと握りしめながらもう一度お礼を言った。
こんなに嬉しがってくれると買ってきた甲斐がありますなあ。
こうしてみると、出会った頃に比べてかなり打ち解けたよね。最初はすごく硬かったもん。なんとなく警戒されてたしね。
最近は口調も砕けてきたし、お姉さんはなんだか嬉しいです。
えへへ、とお互い笑いあって、わたしはもう一つお守りを差し出した。
「こっちは陽介くんにね。学校で会ったら渡しておいてくれないかな?」
「…。ああ、そうですか。わかりました」
あれ、一瞬で笑顔がかき消えたぞ?
初期の硬い表情に戻ってしまった!
打ち解けたと思ったのは勘違いだったんだろうか…。ガッカリだ。
せっちゃんと食べてね、と言添えて明太子と通りもんを渡して、お暇することにする。
「ごめんね、勉強してたんでしょ?邪魔しちゃって」
「邪魔だなんて。久しぶりに会えて嬉しかったです」
「あはは、大げさだな〜」
たった2週間会ってなかっただけじゃん!
笑い飛ばすと、秀一くんはフッと口元だけで笑った。
あれ、秀一くんってこんなに大人っぽい表情をする子だったっけ?
「杏花さん、クリスマスの時にした約束、覚えてますか?」
唐突に、秀一くんは口を開いた。
「え、約束?」
わたしは靴を履いて立ち上がりながら首を傾げた。
約束、約束って…。ああ!合格したらお願い一つ聞くっていうあれか!
「やだな、もちろん覚えてるよ〜」
「その反応、絶対忘れかけてたでしょ」
ギクリ。いや、そんなまさか。
私の目が明らかに泳いだのを見て、秀一くんはため息をついた。
「約束ですからね。覚えててくださいよ?」
「お、覚えてるよ!」
むしろ忘れてなかったよ!
ムキになって答えると、秀一くんは目を細めて笑った。
ちょっとドキッとする。秀一くんの目が、なんだか今までと違う光を湛えているような気がして。
知らないうちにこうやって、みんな大人になっていくのかな。
わたしは置いてけぼりだなあ。
帰り道、ちょっとだけ寂しさを覚えながら空を見上げる。
…あ、置いてけぼりとは違うな。
そもそも秀一くんとわたしは、同じステージに立っているわけじゃないんだから。




