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大学時代の女友達との間では、この一連のできごとを『究極のすれ違い事件』と呼んでいる。


彼の名は佐藤雄平。


わたしの第一印象は見た目普通だけどちょっと天然入ってるほっとけない子、だった。

同じサークル、同じ学科、ゼミまで同じだったこともあり、必然的に一緒にいる時間が長かった。

奴が少女漫画好きだったこともあり話題には事欠かなかったし、わたしが世話焼きタイプ、奴は抜けてるタイプなので相性も良かったんだと思う。

しょうがないなあ、とかいいながら色々とやってあげた記憶がある。授業の代返とか。


そんなこんなで大学卒業した後もしょっちゅう連絡を取り合うほど仲が良かった。

わたしの友人はみんな彼氏がいてラブラブだったので一緒に遊んでもらえず、仕方なく奴と色々なところへ行った。動物園とか。

でもお互い仕事が忙しくなって半年ぐらい音信不通になり、久しぶりに呼び出されたと思ったら衝撃の一言が待っていた。


「俺たち、別れよう」


いきなりどうした。




「いやー、あの時は今世紀一番の驚きとはこのことか!と思ったよねー」

「…」


笑いながら見ると秀一くんは真顔だった。

え!?ここは笑うところだよ!?




どうしたらそうなるのか分からないが、奴の中ではもうしばらく前からわたしと付き合っていることになっていたらしい。


ついでに友人達の中でもとっくに付き合っていることにされていた。

だからどうしてそうなった!?


寝耳に水の言葉に絶句しているわたしをどう思ったのか、佐藤雄平は辛そうにうつむいてこう言った。


「ごめん。好きな人ができたんだ。今は、彼女を大事にしたいと思ってる。だから…、ケジメをつけさせて欲しい」


それはもう、唖然とした。

唖然としすぎて顎が外れるかと思った。

なに、もしかしてこれって、いわゆる修羅場という奴ですか?

しかも好きになる前に振られるどころか、付き合う前に二股かけられてるんですか?


え?え?どういうことなの?


混乱しすぎて頭痛がしてきた。

こめかみを押さえながらわたしは恐る恐る聞いてみた。


「…えっと、わたし達って、いつから付き合ってることになってたのかな…?」

「え?それは…2年生の時の夏合宿からだから、4年になるかな…」

「4年!?」


なん、だと…!?


全くこれっぽっちもそうなった記憶がない!!ガッデム!!


とりあえずその時は何が何だかわからなくて、別れたいという申し出に「あ、じゃあそういうことで」と軽く受け流して逃げるように帰ってきてしまった。


あの時の、わたしのあまりにもあっさりした態度に物足りなさそうな表情をした佐藤雄平の顔が忘れられない。

今思えば水でもぶっかけて「この裏切り者!!」とか言ってやれば良かった。

別に何の恨みもないけど、きっとそういうのが相応しいシチュエーションだったんだよね?

むしろ求められてたよね?

惜しいことしたわー。


その後すぐにお互いを知っている仲のいい女友達に電話して事の次第を説明したら、大爆笑された。


「あ、あはははは!!なんじゃそりゃー!!面白すぎて顎外れるわ!!!!」


なんじゃそりゃはこっちだよ!

顎外れそうになったのもこっちだよ!!


とにかくなんでこんなことになったのかヒントでもいいから何か知らない!?

と必死に聞いたら、佐藤雄平が2年次のサークル主催の夏合宿を終えた後、「杏花に告白されて付き合うことになった」と話していたという。


し て ね え ! ! ! !


なぜよりにもよってわたしから告白したことになっているんだ!?

知らないうちに、好きになる前に告白したことになってた!

オラ、ちょっと意味わからなくなってきたぞ!


ということで、佐藤雄平の激しい思い込みと勘違いが、『究極のすれ違い事件』という悲劇を生み出すことになったのであった。




「事実は小説よりも奇なり、ってこのことだよねえ…」


しみじみうなずいていると、ずっと真顔だった秀一くんがため息をついた。


「その、佐藤さんも佐藤さんですけど、杏花さんも杏花さんですよね…」


え!?どういうこと!?

奴と同列だなんて聞き捨てならないぞ!?


「いやだって普通気づくでしょう…。2人でいる時そういう空気にならなかったんですか?」

「そういう空気って?」

「だ、だから!恋人同士みたいな…、そういう雰囲気です!」


自分で言い出したくせに赤くならないでよ…。

わたしはうーん、と考えてみた。


佐藤雄平と一緒にいる時、どんなだったっけ?

完全に過去のことにしてしまったのであんまり覚えてないなあ。

ほら、人間って忘れる生き物じゃん?

それに特に甘い空気になったことはないよ?手をつないだりもしてないし。もちろん体の関係もない。

ごくごく普通の友達同士の距離感だったと思うんだけど…。


「付き合ってる時はどれくらいの頻度で会っていたんですか?」

「え?社会人になる前はほぼ毎日一緒だったけど、あ、ゼミもサークルも同じだったからね?社会人になってからは大体週に1回くらいかなあ」

「それ完全に付き合ってますよね?」


どうしてよ!?


秀一くんの断定し切った言いようにわたしは慌てた。

ちょ、秀一くん、わたしの味方になってくれないの!?

軽いジョークのつもりでこの話をしたのにめっちゃ真顔で聞いてるし!ビックリするわ!


「杏花さん…」


秀一くんは改まった様子でわたしを見据えた。

凄く真剣な顔をしている。

問題集を開いてる時よりも真剣な表情だ。どんだけ!?


「は、はい…」

「男女の友情は成立しません」


女友達と同じこと言われたー!!


10も年下の男子中学生に諭される24歳独身女。そう、わたしだ。


「そ…、そんなことないもん」


目を合わせられないけど一応小声で反論しておく。

男女の友情アリ派ですよわたしは!


秀一くんは頑なに否定するわたしに呆れたのか、また一つため息をついてカバンから勉強道具を取り出し始めた。


「でも、これでよくわかりました」

「え?」


なにが?


「杏花さんが、超のつくほど天然で、鈍感なことが、です」


そう言いながらちょっと睨むように見られた。なぜに?


いやでもちょっと待ってよ、この話からどうしてそういう結論になるのかな!?

天然なのは佐藤雄平の方で、究極のすれ違いになってしまったのはわたしが鈍感だからじゃなくて、佐藤雄平が思い込みが激しすぎる勘違い野郎だったからなんだよ!?


ねえ秀一くん!聞いてよわたしの言い分を!ねえってばー!


その後秀一くんは黙々と問題集を解き、さっさと帰ってしまった。

全く聞く耳を持ってくれなかった。

お姉さん悲しい…。


あ、でも一言だけ、そんな別れ方をしたくせにのこのこ会いに来るなんて最低です。また佐藤雄平が来るようなことがあったら連絡してください、と帰り際に言ってくれた。

いやー、お姉さんちょっとときめいちゃったよ?

さすが秀一くん。


そこに痺れる憧れるう!



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