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年末が近づいてきた。
つまり、忘年会シーズンである。
最近毎日飲み会で、午前様になることもしばしばで、もうお姉さんヨレヨレです。
精神もお肌もヨレヨレです。
どうしてこう、うちの部署は事務のくせに飲みが体育会系なんだ。
どれもこれも部長のせいだ。
部長め…、いつか駆逐してやる。
さらにこの時期になると、毎年会社関係だけではなく大学時代の友人との集まりもある。
この間わたしの計らいで見事結婚した友人たちなどで久しぶりに飲んだ時、個人指導塾のことを話したら、羨ましい、少し分けろ、ナニ教える気!?などなど散々だった。
うるせえ、何妄想してんだ特にこれと言って特別なことはないわい!国語しか教えてないわい!ぺっぺ!
ということで、もしかしたらアルコール臭漂わせてるかもしれないけど、ごめんね?
と内心謝りながら今日もお勉強である。
最近、なんだか二人の様子がおかしい。
陽介くんからの相談通り、確かに秀一くんは気が立っているようだ。
そこはかとなくイライラとした空気を醸し出している。
絶対気のせいじゃない。
しょっちゅう眉間にしわ寄ってるし。
一方陽介くんはなんだか妙にソワソワしている気がする。
ぼんやりしていると思ったら凄い話しかけてきたり、時々視線を感じたりする。とても忙しない。
こらこら勉強にもっと身を入れなさい?
二人の関係もやっぱりギクシャクしているようだ。
陽介くんはいつも以上に秀一くんに懐いている様子だけど、秀一くんはかなり冷たい接し方だ。目も合わせようとしない。
あんなに仲良かったのにどうした!?
困ったなあ。本番まであと2ヶ月だよ?
これで受験に失敗したら全て私の責任になってしまう…!
それに何より二人のいちゃいちゃ、じゃなかったじゃれあいじみた会話が聞けないのが悲しい…!
とはいっても原因がわからないのでどうしようもない。
二人で解決してもらうしか道はないのか!?
そんな感じに悶々としていたら、こちらにもトラブルが舞い込んできた。
少し前に付き合っていたことになっていた元カレ(笑)から連絡が来るようになったのだ。
ああ…、憂鬱。
もう完璧縁が切れたと思っていたのに。
なんだか仕切りに食事に誘われるんですけど…。
めんどくさい。
なんてことを考えながら、のらりくらりと忙しい、飲み会があるなどなど言いながらかわしていたら、土曜日、いきなりその元カレ(笑)が家まで押しかけてきた。
警察呼ぶぞ。
「杏花、やっぱりまだ怒ってるんだ…?」
「…」
「俺が間違ってたんだ、やっぱり俺には杏花しかいない…!」
「…」
「ごめん!杏花!お願いだからもう一度だけチャンスをくれ!!」
「…」
以上、チェーンをかけたまま5cmほど隙間を作ったドア越しに聞こえてきた声である。
ああ、そうだった。
こいつは昔からとんだ勘違い野郎なんだった。
綺麗さっぱりわたしの中でなかったことになった存在だったのですっかり忘れていた。
チャンス以前の、怒る以前の問題なんだけどなあ。この子ホントに頭悪いなあ…。
というかもうすぐ秀一くん来るから早く帰って欲しいんですけど。
ああでも口をきくのも体力がいるから黙ってたいな…。
「杏花、頼む!ここを開けてくれ!」
「あの、すみません、この家に何かご用ですか?」
と、思っていたところへ秀一くんの声が聞こえてきた!
やべえ、秀一くん意外と早く来ちゃった!
恥ずかしいとこ見られたー!
口をきくかどうか迷ってる場合じゃない!
秀一くんにこのバカがうつる前に追い出さないと!!
「君は…?」
「佐藤くん見ての通り来客だから。帰って。ちなみにまた来たら今度こそ警察呼ぶ」
「きょ、杏花…?」
「黙って帰れこの勘違い野郎」
ぎゃ!焦るあまり汚い言葉が飛び出した!
秀一くんの前では模範的でありたかったのにー!
わたしの言葉に元カレ(笑)はちょっと考えるような間を取ってから、悲しそうに「わかったよ…」と言って帰っていった。
その時秀一くんに「お幸せに」とかほざいてたように聞こえたけど気のせいかな?
また妙な勘違いしたんじゃないだろうな…。
でも、よし、とりあえず帰ってくれた。良かった良かった。
ホッとしながらドアのチェーンを解除する。
妙な現場を目撃してしまった秀一くんは、ちょっと気まずそうな顔をしながら恐る恐る聞いてきた。
「いいんですか…?あんな風に追い出して」
「あ、いいのいいの。気にしないで!さ、どうぞー」
わたしの満面の笑みに何かを察したのか、秀一くんはその場では何も追及することなく「お邪魔します」とだけ言ってあがってきた。
「あれ?今日は陽介くん一緒じゃないの?」
「え、…ああ、なんか今日は用事があるみたいで…」
「へー」
最近はいつも二人で来てたけど、うーんやっぱり仲がこじれ過ぎたのかな?
本当に大丈夫なんだろうか…。
いやそれよりも、さっきのことやっぱり聞かれちゃうかな〜。でも秀一くん大人だし、見なかったことにしてくれないかな〜。
どうかな〜?
「あの、さっきのことですけど」
げ、やっぱり聞いちゃう!?
わたしの顔があからさまに引きつったのを見て、秀一くんは拗ねた顔をした。
「聞かれたくないんですか?」
「う。うーんまあねえ…」
「でも、俺には聞く権利があると思いません?お幸せにとか言われちゃったし、杏花さんには俺のことずいぶん知られてますけど、俺は全然知らないんですよ?」
それって不公平ですよ、とジト目で見られてしまった。
ぐう、確かにあんな現場見ちゃったら聞かずにはいられないよね…。気持ちはわかる。
それに秀一くんを突っつきまわして元カノのこと根掘り葉掘り聞き出してるもんね、わたし。
しょうがない、今や笑い話だからネタの一つとして秀一くんに提供するか。




