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陽介くんがしょっちゅう遊びに来るようになった。


土曜日の家庭教師の日に一緒についてきたり、たまに平日にも、次が気になって夜も眠れないです!というメールとともにやってきたりする。

なんだか秀一くんより定番化してきたぞ?


漫画を貸すのはいいんだけど、陽介くん、ちゃんと勉強できてるのかなあ。

すごく心配だ。

ここは大人として言ってあげた方がいいのかもしれない。


漫画はとても危険な誘惑である。

わたしも大学受験の時、年末のまったりとした空気に感化されてベルばらを全巻再読するという暴挙をしでかした。

あれはいけない。ちょっと本棚を整理しようと思っただけだったのにいつのまにか読みふけっている自分がいた。

オスカル様の魅力には、誰も抗えぬのだった…。


関係ないけど、いざ勉強を始めようとしたら無性に部屋の掃除がしたくなるのはどうしてなんだろうね?


だから今読んでるシリーズが終わったら、もう漫画はおよしと言ってあげるのが優しさなのだ。

読了後の満足感以上の虚しさと焦りが半端ないよ?




そう思っていたところへちょうど陽介くんがお邪魔していいですか?というメールを送ってきたので家に来た時に切り出すことにした。


「ということで、陽介くん、受験勉強は大丈夫なの?」

「うう、すんません。心配かけて…。でも俺には二人母ちゃんがいるから大丈夫です」

「え?二人?」


どういう意味だ?

陽介くんは気持ちやつれた顔をしながら力なく笑った。


「俺の本当の母ちゃんと、秀一のことです。二人とも毎日口うるさいんですよー」


めちゃくちゃ見張られてるんで、漫画は一日30分しか読んでません!

だから読むのがめちゃくちゃ早くなりました!

と陽介くんはげっそりしながらも少し誇らしげに語った。


ああ、うん…。秀一くんがガミガミ言ってるのが目に浮かぶよ…。

可愛さ余って厳しさ百倍みたいなね。

誰にでもそう、ってわけじゃなさそうだから、陽介くんのことがよっぽど好きなんだろうな。

ぐふふ。


「ときに杏花さん、ちょっと相談があるんですけど」


陽介くんが改まった様子で相談を持ちかけてきた。

いつになく真剣な表情だ。


なんだなんだ。もしや恋の相談か!?

君にまで恋ってなんなんですかね?とか言われちゃったらお姉さん困っちゃうぞ!


「秀一が、最近ちょっとおかしいんです」


聞くとどうやら最近の秀一くんは一段と陽介くんに厳しくなったというのだ。

受験が近づいてきたというのもあるかもしれないけど、それにしてもなんだかイライラしていると。


陽介くんは、自分が秀一くんの元カノのことが好きなのを知ってしまったのではないかと疑ってるらしい。


「俺、ずっと秀一に言えずにいたから、怒ってるのかもなって。だからって今更カミングアウトもできなくて…」


あー…、うん。そっか、まずはそこを疑うのね。

わたしにとってしばらく前の話題だったから、すっかり忘れていた。


でも、確かに予期せぬタイミングでしばらく前に知っちゃってかなり落ち込んでたけど、秀一くんの態度が前より厳しくなったのが最近なら、そのことが原因じゃないんじゃないかなあ。


「杏花さん、何か秀一から聞いてます?」


えーっと、とりあえず元カノの一件は知らないことにしておこうかな。二人の問題だし。


「思い当たることは特にないけど…。それにしても陽介くん、辛い恋をしていたのね…」


とりあえず今知りました風の痛ましげな目で見つめたら、陽介くんは慌てた。


「いや!好きって言っても憧れっていうか!実際秀一とお似合いだったし、俺の出る幕はなかったっていうか!あ、でもすぐに別れちゃったのは意外でしたけど…」


まるで尻尾が垂れた犬みたいにしゅんとしてしまった。

恋敵とはいえ、秀一くんのことを応援していたんだな。泣ける…。

陽介くん、君は本当にいい奴だ!


「それに、俺、鈴原さんには嫌われてるんです。女子にブサイクって言われてるし、秀一と違って勉強もできないし…」


なんと陽介くんは、自分が女子からどんな評価を受けているのかを知っていた。

秀一くんよりよほど察しがいい!

というより秀一くんが鈍いだけなのか?

まあ、女子は秀一くんがいる前で悪口を言わないようにしていたんだろうけど…。


でも、そういう風に陰口を叩かれているって知っているのに、陽介くんは明るい。

文化祭に行った時もクラスで楽しそうにしていたし。

傷つかないわけないのに凄いなあ。


「陽介くんは全然ブサイクじゃないよ!もっと自分に自信を持っていいと思うよ?」


本気でそう言うと、陽介くんは困ったように笑った。


「またまたー。お世辞はよしてくださいよ。自分のことは自分がよくわかってますから」

「バカ、お世辞じゃないって!」


全然わかってない陽介くんがもどかしくて、ついつい語気を荒げる。


「陽介くん、めっちゃ友達思いじゃん!秀一くんをそうやって気遣ってるし、秀一くんのお節介も邪険にせず受け入れて!普通だったら喧嘩になるところだよ?それに秀一くんの元カノを譲ったのも秀一くんのためを思ったからでしょ?陽介くんは優しくて強い人だと思うよ。それに陰口言われてるの知っててクラスを引っ張って文化祭に参加するなんて、誰もができることじゃないよ」


思いつく限り言いつのって、わたしは陽介くんをまっすぐ見つめた。


「そんな人が、ブサイクなわけない」


だからもう、YOU秀一くんと付き合っちゃいなよ!


というのは伏せておく。


陽介くんはポカンとあっけに取られたようにわたしを見て、しばらくして、いつもの元気はどこへ行ったのか、その顔のまま蚊のなく声で「ありがとうございます…」とつぶやいた。


そのあと陽介くんはぼんやりした顔のまま漫画を手にしてフラフラと帰っていった。

あんな状態でちゃんと帰れるかな…?心配だ。


どうやら陽介くんも褒められ慣れていなかったらしい。

可愛いなあ。


いいところがあったらどんどん指摘してあげなきゃ!

人は基本的に褒められて伸びるものです。


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