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本編2「会話、そして経緯とこれから」

 翌朝、目覚めると目の前には暖かいスープとパンが置いてあった。目の前には微笑むエルフの美女。の形の良い胸。最高の眼ざめである。


「起きたか。遅かったな~」

「おはよう。じゃあいただきます」


 目の前の朝食が放つ食欲をそそる良い匂いから、まるで復活した空腹から逃げるようにして、大樹は痛む体を引きずって起き上がると、食事を口へと放り込んだ。スープには様々な色の野菜と、細切れの肉が入ったクリームスープ。そしてパンはしっかりとした形の小麦パン。いずっれもひとりで作れるものではない。


「この世界にもスーパーかコンビニがあるのか?」

「そんなもんあるわけないじゃろ。全部これは私への供物じゃ」


 供物、お供え物。それは通常人間同士でもらったり貰われたりするものではない。


「おまえは神様なのか?」

「違う。じゃが現地民は神と同一視しておる。最近入ってきた新しい神のせいか最近若干貧しいがな」

「なんだよここには神様って珍しくないのか?」

「詳しくは知らんが、我々エルフはこの地に住んで長くなるらしい。いつの間にか神に仕立て上げられたのがここ200年あたりじゃ。きっと魔法や薬で伝染病を治療した辺りからじゃ」

「おいおい、ずっと考えてたんだが、お前のその“らしい”とか“たぶん”ってのはいったいどういう事なんだ?」


 エルは出会ってから詳しいことを全ての話には曖昧だ。それに気づかない大樹ではない。


「それがのぉ~私は子供のころ神様に会うという無茶をしたんじゃ。正真正銘この世界を作った者達に会うために。それで結果的には会えたんじゃが、紆余曲折をへて俗にいう浦島太郎?になってしまったんじゃよ。あちらの世界での2週間はこちらでの500年~と言う具合じゃ」

「おいおい会えたのかよ!?」

「うむ。正確にはその一柱にじゃが。まあその一人が問題での。帰るときに戯れから宿題を出されたんじゃ」


 段々と不穏な話になり、大樹は嫌な予感がする。今までの話と自分が完全に無関係であると言う確証が持てないからだ。


「おいおい、まさかそれに俺が関係してるんじゃないだろうな!?」

「—――残念ながら大当たりじゃ。このテレビもその神からもらった。お前のような物達が来るようになったのは私の生まれる前からじゃが、このテレビのお蔭で若干の干渉も出来るようになった。それに特定の周波数を言う事で特定の場所にこれることもな。何処までが神の仕組んだ暇つぶしなのかは解らんが、それでもお前を私得た」


 そういってエルは大樹に笑いかけた。

 彼女の言う事が本当かどうか。それを大樹は判断できない。しかし彼女の必死の献身と、この笑顔だけは確実に本物である。


「まあよかったじゃないか。俺を追う奴らもこっちまで追ってはこないだろうし。で、俺に何をしてほしいんだ?何か用があるから呼んだんだろ?」

「ああ。要はある。まずは外の世界へと出たい。あとは子供じゃ。子供が欲しい!」


 唐突にエルはそう言うと、大樹の手を握りしめる。


「そんな馬鹿な。いくらんでも会ったばかりでそれは!?」

「馬鹿が!何も今すぐお前とではない。我々エルフは繁殖が難しいんじゃ。だから私の居ない間に一族はみな年老いて死に絶えた。それに私は外の世界に出てみたいんじゃ。この狭い世界の外に出て、素敵な出会い~とか血沸き肉躍る~とかしてみたい」


 まるで夢見る乙女と言うように、エルは目を輝かせてそう言う。その姿はまるで女神の様だが、大樹の想像以上に彼女は純粋乙女思考だった。


「出たければ好きに外へ出ればいいじゃないか。此処にはお前ひとりなんだろ?」

「それがそうもいかん。世界の外は未知で、私はエルフじゃ。外に出た瞬間どうなるか分かった者ではない。外へ出た瞬間エルフ狩りにあって、剥製にされて貴族の居間に飾られたらどうする。だからお前には外に私の居場所を作ってほしいんじゃ」


 居場所。いまや大樹が失ったものを、エルは今欲している。


「居場所か。まあお前には借りがあるしな。で、外の世界はどうなってるんだ?まず言葉は通じるのか?」

「言葉なんか簡単じゃ。私がおぼえたこの呪文。共通言語1があればの」


 そう言ってエルは右手を大樹にかざす。すると淡い黄色の光が大樹を包み込んだ。しかし大樹は体の変化を感じる事が出来なかった。


「どうじゃ?この呪文を寝てる間に駆けさせてもらったからの。もう外へ出ても何ら困らないはずじゃ」


 そうできて当然と言うように、エルはそう言うと話を続けようとした。


「おいおい、ちょっと待て!?今ので本当にできるのか。まさか外の奴らもそういうことできるのか?」

「当たり前じゃ。この世界は俗にいう剣と魔法のファンタジーじゃ。魔術師もドラゴンも存在するらしい。まあテレビや冷蔵庫はないかわりかの」

「あ~そう。この際だから聞いておくが、他に何か言っておくことは?」

「ああえ~とな。あれじゃ、あれ。この場所に毎週貢物を持ってくる。巫女がおる。そいつにお前を紹介しておこう」


 そう言うとエルは玄関へと走ってゆくと、森に向けて声を張り上げた。

 大樹は今までの話で体力を持っていかれ肩を落とす。自分の境遇にやっと実感がでたのだ。


「おいネーア!ちょっとこっちへ来い」

「は~いただだいま~」


 玄関から顔を出したエルがネーア叫ぶと、森の境目辺りから返事がする。几帳面そうなハリのある女性の声だ。


「なんでしょうかエレオノーラ様」

「例の男が目を覚ましたのでな。挨拶しておけ」

「まぁ。目覚められたんですか?」


 そういって大樹の横たわるベッドに現れたのは、大樹と同じぐらいの年齢の黒縁眼鏡をかけた長い黒髪の女性。彼女のその服装は、神社でよく見かける巫女の服そのものである。


「ちょと待てその服装はなんだ!?」

「この服装ですか?この服装はエレオノーラ様が下さった服ですが?」


 そう言うとネーアは大樹の前でくるりと一周回って見せた。その後ろでエルが良くやったと頷いている。テレビのみで得た現代日本の知識は偏っているようである。


「は~。俺の名前は前寺大樹。大樹でいい」

「私はソルネーヤの村で、代々この神殿を守る一族。ネーア・シュテインです。どうぞネーアとお呼びください」

「どうじゃ。この子は私が思うに案内役に最適じゃ。ネーア、お前はこれからこの男の木津が治り次第と村へ降りてもらう。そこで計画の第一段階を始めるぞ。以上じゃいってよろしい」

「わかりました。また何かあったらお呼びください」


 長い年月が作り出したある種の主従関係は、数々の暗黙の了解を作り出しているのか、それだけ言うとネーアは自分の仕事場へと戻っていく。


「森の入り口に家があっての。その周りの掃除や、参拝者への案内じゃ。因みにこの場所は神域扱いされておるからの。彼女以外の人間はめったに入ってこない」


 エルは少し悲しそうなしてそう言うと、頭を振って忘れようとする。そして何かを思い出したかのように耳を急にピクピクと動かすと、大樹の元から急いで離れる。

 そして部屋のあちこちをしばらく探し回り、首飾りを手に持って戻ってきた。


「忘れておった!これゃこれ。すっかり忘れておった。これをお前に渡せと神様に言われておったのじゃ」

「神様にこの首飾りをか?そういうことはもっと早く言ってくれよ!」


 エルの持ってきたそれは、黒い大きな石がはめ込まれたネックレスで、その吸い込まれるような黒が一層目立っている。この世の物ではないという解り易い雰囲気をまとっている。


「これは黒色鉄鉱石とかいったっか。これを付けると何やら良い事が起こるらしい。向こう側から得た協力者にこれを渡せといわれたのじゃ」


 そう言ってエルは大樹にネックレスを手渡す。少しためらったが、大樹はそのままそれを受け取った。

 そして大樹がそれを受け取った瞬間、そのまま彼は動かなくなった。貧血でも起こしたかのように目を閉じると、テーブルに突っ伏した。


「ん?どうした大樹よ?お~い?」


 そのまま大樹はその場に崩れ落ちた。


「心臓は……まだ動いとる。異常はない。また神様の悪戯か……」


 そういってエルは大樹をベットに寝かせる。


「大丈夫じゃよな。大丈夫よな……」


 エルにはそう言いながら、大樹の顔を眺める事しか出来なかった。

 しかししばらくしても起きないので、仕方なくエルは大樹を抱き起すと、その体をベッドに再び寝かせようとする。


「むッ。重いな~」


 そういってエルがベッドに大樹を横たえた瞬間、ダイキの両腕がエルの肩をつかむと、そのまま強引に押し倒す。あまりに突然の出来事に、エルの体は固まってしまった。


「キャアッ!何をする!?正気か?」


 そういってエルは無理にでも振りほどこうとするが、大樹の力はけが人とは言えないほど強かった。


「オイマテ服を脱がせようとするな!耳に息を吹きかけるなぁ~!!」 


 必死の抵抗も虚しくエルのの体は成すがままにされる。


「これは、さては神様!!あなたの仕業でしょ!!いい加減にしてくれぇ~キャアアアアアア!!」


 そういってエルがいうと、意識のない大樹が目を閉じたまま舌を出して挑発する。


「好きアリ!」


 エルは一気に左手を抜き、そのまま平手打ちを食らわせる。張りのある痛そうな音と共に、大樹は糸の切れた人形のようになって、エルの上に倒れる。


「どっけぇ~」


 エルはそう言って大樹を揺り動かすが、その声は大樹には届かないのであった。そして大樹はタイミングを見計らったかのように、少しだけ身動きした。その位置が本当に悪い位置で、エルの唇はきっちりと大樹の唇と重なってしまう。


「ム……!?」


 言葉にならない悲鳴は、幸運にもネーアには聞こえなかったようである。

一回消えちゃったアル。もったいな~いね。

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