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本編1「生き残り、そして美しいエルフ」

 その後ダイキとマキナ、そして直美は三人の為に配備された馬車に乗った。典型的なRPGに出てくるあの馬車である。二頭立ての馬車には様々な仕掛けが施されており、荷台部分は安定していて、馬車内はゆったりとくつろげる作りになっている。


「今日から1~2週間の間はこの中で過ごすことになる」


 そのためか、ダイキにそう言われた時も直美はあまり嫌がらなかった。


「あんな達の故郷ってそんな距離あるの?」

「ああ、そりゃそうだろ。お前は空をジェット機で飛んできたっていうのか?」


 そう言われた見ると、直美は移動に関する記憶がない。いつも馬車に乗って眠り、気が付いたら戦場だった。


「まあとにかくだ。お前は当分この馬車で過ごすことになる。因みにこの馬車は俺特製だからな。試作品だが現代知識で改良してある。特に馬車の車軸を歯車とか色々使ってだな~」

「おいおいダイキ。そう言う話は置いといて、早く本題に入らないか?今回はまだ私に話していない事もするって言ったから私もここにいるんだぞ」


 絶対に長くなりそうなダイキの話をぶった切り、マキナが話の軸を戻そうとする。


「ああ、すまん。じゃあ直美にはまず俺がこの世界に来てからの話をする」

「なんで?それよりもこの世界の話をしてほしわ。この世界の文化とか慣習とか、知らないでやって大恥かきたくないから」

「まあ聞け。文化や慣習よりは向こうで実践しながら見せるから」


 そう言って強引にナオキは語り始める。それは彼がまだ直樹だった頃の話。この世界に飛ばせれてくる話であった……




 この世界に来る前の中本大樹は大阪に住む高校生であった。成績やスポーツなどに特別な関心は無く、いたって平凡な学生だった。しかし今、彼の日常は刺激に満ち満ちていた。なぜかと言うと、彼は不良の喧嘩以上に危険な生き死にに関わる世界にいる。


「ドゥラァ!!待ちやがれ一千万!!」


 その日もそう叫びながら走ってくる、色とりどりの髪をしたアウトローたちがと、大樹は戦っていた。大樹は始終逃げ続けたが、ついに計算していた裏路地に彼らを連れ込んだ。


「往生せいやぁ!!」


 任侠映画で聞いたようなセリフが跋扈する臭い戦場。それが大樹の生きる場所だ。路地行き止まりに追い込まれたダイキは、湧き出る唾液を無理やり飲み込んで覚悟を決めた。


「勘弁してくれよ。俺が何したってんだ!?」

「うるせぇダボがぁ!!」


 聞く耳持たないと言うよりは、聞くための脳味噌すら持っていないと言うように、アウトローたちは手に持った武器を振りかざし大樹の脳天を狙う。

 しかし、対するダイキはポケットからテーザー銃を取り出し、向かってくる中でも一番派手な格好の男に高圧の電撃を浴びせる。大樹にはまっとうに戦う気などないのだ。


「あッ!?たっくんがやられた!」

「じゃあ弔い合戦じゃ!」


 次に続けと頓珍漢にもそう言いながら突進する残りの数人は、大樹の目の前に引いてあった釣り糸い気づかず、一斉にこける。すぐさまダイキはもう一方の服に入れていたテーザー銃を引き抜き、団子になった男達に打ち込む。


「「ふぎゃあああああああ」」

「まったくアホか」


 大樹は小さくそう呟くと、男達の一人から鉄パイプを取り上げ、一人ずつの頭にフルスイングする。頭蓋骨の砕ける嫌な音と共に、次々と大の男たちが意識を失ってゆく。


「まったくきりがねえ」


 今の行為は正当防衛とは言えない。警察に見つかれば即逮捕確実である。なにせ先程のフルスイングで男達のうち何人かはもう息をするのをやめている。立派な殺人犯だ。


「やげてくで……ハギィッ!!」

「こんな筈じゃな無かったんだがな……」


 大樹は実際この様な、まるで映画のワンシーンを演じるつもりなどなかった。彼はつい先日までごく普通の高校生だったのである。しかし何故かあるときを境に、覚えのない重犯罪者になった事から、彼の日常は崩れた。


「おい、君に逮捕状が出ている。罪状は殺人に強盗・窃盗・多数の暴行・詐欺・横領・その他多くでだ。はようてぇだせ」


 ある日の早朝、突然やってきた警察に大樹はそう言ったが早いか、有無を言わさず警察は彼に手錠をかけようとした。前半の罪はまだ可能性があったが、バイトもしていない高校生がどうやって横領などできるのだろうか。

 それな余りに異常な光景に、驚き思わず目の前の警察の手をすり抜けて逃走したところから、大樹は哀れな追われる身になったのだ。


「えー今世紀最大の重罪犯である前寺大樹は、ほぼ死刑が確定しており、一刻も早い逮捕を国民が待ち望んでおります」


 次の日にはテレビには連日微妙に似ていない彼の顔が大写しになり、国が彼を排除しようと躍起になる。

 そしていつの間にか、被害者遺族の生死を問わないと掛けられた多額の賞金に釣られ、よく解らない裏社会的な連中に追われるようになった。

 その金に目がくらんだ者達と戦っているうちにいつの間にか大樹は物を盗み、人を騙し、脅して、遂には生きるために殺人もするようになってしまった。

 そう、彼は止まる事のない戦いの渦に巻き込まれていったのだ。


「畜生がぁ……まったくなんでこんな事に」


 そう言いながらも今日も今日とて生きる為、意識のない男達の財布から金と武器を抜き取ると、その場から急いで立ち去ろうとする。薄暗い路地には誰が通るでもなかったが、目撃者は少ない方がいいのだ。

 そして大樹の懐が若干温かくなり、その場から足を動かした瞬間、まるで待っていたかのように路地の外側から拡声器の声が響いた。それは最初に聞いた、あの警察の声だった。


「前寺大樹!!!警察だ。居るのは解ってる!2週間も逃げ回りやがって!!今すぐに両手を上げて出てこい。出てこなければ即射殺する!!」


 気が付くと外には大量のサイレンの赤色が煌めいていた。遂に大樹の運も尽きたのか、この裏路地は行き止まりで逃げ場などなかった。


「おいおいなんだよこれが年貢の納め時ってやつか…………。さ~て最後は派手に死んでやるか糞が!!」


 そして死刑宣告にも聞こえるその拡声器の濁声を聞いた瞬間、待ってましたとばかりに大樹は自暴自棄なった。これは数日前から予想していた未来である。


「最後はこれでデッカイ花火あげてやる!」


 体に巻きつけられたのは、無数のC4爆薬。これも彼を襲ってきたものの一人が体に巻きつけてい物だ。


「笑いたきゃ笑え!!ド畜生が!!」

「クフフフフフ。アハハハハ」


 その時、半泣きで路地の外でラストバトルに興じようとしていたダイキの耳元に、何者かの高笑いが響いた。姿は見えなかったが女性特有の妖しい声に、大樹の心臓は嫌な意味で高鳴る。

 この一部始終を見て、この場面で不気味な笑い声をあげる目に見えない物。それはもう彼が知らない間に殺しまくった事になった、見知らぬ被害者たちの幽霊ぐらいしかなかった。


「誰だよ!?ついに幽霊までおでましか!?死神か?」

「ウフフフフ~違うのじゃ~いいからこの穴に入るのじゃ~」


 大樹は馬鹿にされているのか、またはただの空耳かと、ただひたすらに気味が悪くなる。しかし声の主が言っている穴とは、路地の真ん中にったのマンホールの事であろう。それはいつの間にか蓋が無くなっていた。大樹がここへ来たときは確かにそれはあったはずである。不気味な声もそのマンホールの中から響いているようだった。


「さっさとはいるのじゃ~」


 先程の笑い声と同じ、怪しい声がマンホールから聞こえる。大樹は割り切って無視しながら、マンホールの横を通り過ぎようとした。


「ひ~かっかった~」


 大樹がマンホールよこの地面を踏んだ瞬間、待っていたかのような勝ち誇った声と共に、大樹は突如下へと落ちる。いったい何故下に落ちるのか、彼には理解できなかったが、気が付くと大樹の体は地面から離れ、ただ永遠と下へ落ちてゆく。


「嘘だろぉぉおおおおおお!!!!」


 反響した声の具合からしてこの一瞬で相当な距離を堕ちており、大樹の周りはい真っ暗になる。彼は上空を見上げると既に落ちてきたはずの場所は見えない

(死んだ。訳もわからなないまま死んだ。爆弾腹にまき損……)


 大樹は今まで数人の暴漢に襲われようが死ぬ気など全くなかったが、さすがにこれだけの距離を堕ちれば助からないことは知っている。


「このまま落ち続けるのも良いが、地面に無事でたどり着きたいなら、255召喚と唱えろ~」

「だれだぁぁああああ!!」

「はようはよ唱えんと~どうなってもしらんぞ~!!」


 先程の笑い声の主は、そのように不思議な抑揚をつけて大樹をけしかける。


「クソがぁ!!255召喚!!!」


 咄嗟の事に、そして苦し紛れに。大樹は謎の声の言うとおりの数字を唱えた。

 すると辺りの空気が一変し、瞬時に圧縮されて、強く頭を打った時のように意識がもうろうとする。

 そのまま大樹はひどい船酔いのような気持ちの悪さで意識を失った。彼が意識を失う寸前に感じたもの。それは木々の青々とした香り。





「おっはよう大樹!」


 意識が溶け出して前も後ろもわからなくなり、これは何かの悪い夢だったのかと思い始めた頃、彼の目の前がふと明るくなって、それと同時に先程の声が再び聞こえる。


「あいさつせんか?それとも声がでんか?」

「おっおまえは……ここは……!?」

「まあおちつけ。まずお前は周りを見てみい。目の前に移るのは誰ぞ?」


 そう言われて大樹は初めて目を見開いた。

 目の前に広がったのはログハウスのような作りの一室。恐らくは居間に当たる広い部屋は暖かい空気と木材の良い匂いがした。しかし今はそれよりも目の前にいる人物が問題である。

 目の前に居る人物。性格には人間なのかさえ大樹には判別がつかない。


「おいおい。冗談なのか狂ってるのかどっちかにしてくれ」

「まあそういうな。お主が見ているものこそこの世の真実よ」


 大樹が信じたくはなかったもの。それは、自分の目の前で自信ありげに胸を張っている、一人の女。彼女は美しい金色、と言うよりは白か銀色に近い薄い色素の長い髪をたらし、その体には数々の宝石をちりばめたアクセサリーが光る。そしてそれよりも驚かされるのは、その耳が横方向に長く、目鼻立ちからスタイルまでがすべて現実離れして美しいこと。


「えっ……オマエはエルフだろ。エルフっていうんだろ。知ってるぜ。俺もあの映画見たからな。でも今はそう言う冗談に付き合っている余裕はねえんだ」

「この期に及んでまだ現実逃避するかえ。この耳!この美しき姿!!何処から見てもエルフじゃ。映画のセットでもなければ、特殊メイクでもないわ!なんなら触ってみるかえ!?」


 そう言って目の前のエルフは髪を掻き上げてモデルのようにどこかで見た様なポーズをとった。


「そう言うのが嘘くさいって言ってんだろうが」


 大樹はそう言って起き上がろうとするが、その体は言う事を聞かない。


「動くでないわ。その体は5日も眠っておったのじゃぞ。いきなり動かす奴がおるか」

「5日だぁ?俺はいったいあれからどうなったんだ?」

「お前を呼び出したのは良かったが、此処へ来るまでに少しだけ予想が外れてな。家の前に落ちてくるはずが、少し離れた森の辺りから落ちて来たんじゃ。まったく治療に難儀したわ。手も足も全部バラバラの方向を向いておったでな」


 怖いことを言いながら、エルフは悪戯っぽく笑って見せる。


「まあとりあえず、まずは自己紹介といかんか?私の名前はエレオノーラ・ハザマ・プリングルス5世。エレオノーラ、またはエルと呼ぶがいい」

「エル?」


 そのあまりに自然自己紹介と何御曇りもないその目から、反射的に敵意はなさそうだと判断し、大樹も大人しくそれに従う。


「俺の名前は前寺大樹。ここは何処で、なんで俺がここにいるのか。それをまず教えてほしい」

「そうじゃな。お前はいつの間にか戦いの渦にのまれたじゃろう。それはこの世界に落ちる前兆じゃ。そうやってその世界から爪弾きされてここへやってくるんじゃ。タブン」

「タブンだぁ?」

「そうたぶん。今までこの場所に落ちてきた奴らもお前と似たようなもんじゃった。」


 大樹はそのいい加減な言いように、思わず拳を握りしめようとしたが、体は言う事を聞かない。


「今まで何人も落ちて来たんじゃ。因みにあそこにあるテレビにこれから落ちるものが写るんじゃ。だからお前の顔も名前も知っておる」


 エルはそう言って部屋におもむろに置かれているテレビを指差した。


「ああ、因みにテレビはあるが、この世界はお前の居た場所とは違う。人間に関しては、不法と言うか無断と言うか。まあ理由は私にもわからないが、とにかくお前たちの世界の人間はたまにこちらへ落ちてくる。まあ落ちてくるときに大半の人間は即死するじゃが。だいたい途方もなく上から落ちてくるからな。しかしまあたまに何とかなりそうなやつも落ちてくるんじゃ」

「で、そいつらは……」


 そう言うとエルは窓を指差した。外は日本の春のように桜に似た綺麗な木が辺り一面に咲き誇り、そして周囲は深い森に囲まれている。そして森が一段と深くなる境界線辺りに、幾つもの十字架が刺さっていた。


「お前等の世界ではああするんじゃろ?先祖代々私たちはああやって降ってきた不幸な物達をああやって葬ったのじゃ」


 悲しそうな顔でもしているかと思い、大樹はそう話すエルの顔を見ると、本人はそれがまるで自然現象だとも言いたげに、迷惑そうな顔をしていた。


「考えてもみろ。お前らの世界の雨と同じように、この場所には定期的に人が落ちて来るんじゃぞ。迷惑千万じゃ」

「いったいどれくらいの頻度で落ちて来るんだ?」

「10年から100年に一度な」


 そもそもからして、エルフの時間間隔は人間とは違うものらしい。しかしそれでも大樹に疑問は残る。

「じゃあ俺は運が良かったのか」

「ああ、運が良かった。偶然にも木々がクッションになり、偶然にも私の回復呪文が間に合い、偶然にもお前と私の血液型があったんじゃ。よかったな」

「そうか、それは礼を言う」


 大樹は素直に感謝するしかない。エルはそこまでしてかれを助けたのだ。良く見ると彼女の家は嵐のように散らかっており、彼女自身も隠そうとはしているが疲労の色が濃い。


「それでじゃが、まあ先ずは傷を癒すがよい。何かあったら呼べ。それまで私は眠らせてもらう」


 彼女はそういうと、さすがに限界と言いたそうな目を擦りながら、隣の部屋へと消えて行った。


「いったいこれは……いや、今は仕方ないか…………」


 そう言って大樹も再び目を閉じる。この時にはまだ、その後のことなどどうでも良かった。兎に角彼にとっては久しぶりの、本当に久しぶりの安眠なのだ。


ついにお話をはめることができた。チートするぞぉ!!

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