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序章3「交渉終了、そしてハッタリの戦士」

 天幕を立ち去った大樹は、この世界の物たちが知る特務隊長ダイキに戻っていた。

 そして彼はおもむろに目を細めて目の前を見つめると、先程自分を切り付けた短剣を抜く。これは彼が節目節目に行う重要な防犯であり、今の所この辺りでの効果は抜群である。


「おい。居るのは解ってる。隠れてないで出てこい。男なら武人として正々堂々勝負しろ!!臆病者どもがぁ!!」


 ダイキがいつもの様に、さも武人の誇りを逆なでするように声を震わせると、しばらくの沈黙が訪れる。その沈黙は天幕の向こう側で馬鹿騒ぎをする者達の声を、遠くの木霊のように響かせた。

 そしてそのダイキのがもう一歩踏み出した時、まったく音のしない近くの茂みの裏から、数人の覆面をした男が現れた。すの全員が先程戦った相手側の兵士と同じ格好をしており、顔の覆面が逆に印象に残る。


「ご慧眼まことに驚きました。まさか我らの存在が見破られていようとわ」

「ふんッ。やっと出て来たか」

「こうなれば問答など無用。我らの欲しいのはあなたがたの首のみ。いざ尋常に勝負」


 そういって出てくるが早いか、そう言って男達は各自腰の剣を抜くと、一斉にダイキに飛びかかった。その行動力は明らかに特別な訓練を積んでいる。


「しっかしこの世界の武人は本当に大馬鹿ばっかだな。お前らでもう3回目だぞ」


 大樹は極めて冷静に、そう言いながら手に持った短剣を男達の一人に投げる。この動作もいつもの事である。


「笑止!!」


 向かってくる短剣を男の一人が弾いた瞬間、周辺の空気が仄かに暖かくなった。それと同時にダイキの体の周りに赤色の風がまとわりついた。


「魔術か。だが我らの方が早い!!」


 男達の中でも一番早かった一人が、そう言って手に持った短剣をダイキの喉元へと突き立てる。しかしその短剣はダイキに当たる前に先から順に溶けていき、その溶解は男の体へと続く。


「なにぃいい!?」


 ダイキはそのまま溶けるナイフと余りの事に硬直した男に小さく一歩近づき、大きく息を吹くと共に右手を前にかざす。すると彼の目の前の者が引きずられるようにダイキとは反対方向へと飛んでゆく。

 飛んでいく際、男達は例外なく火達磨になっており、その全員が声も上げずに絶命したようだ。そして一瞬で出来上がった死体の山が地面に落ちた瞬間、巨大な爆発音が辺りに響いた。


「なんまんだぶ~」


 瞬時に出来上がったグロテスクな死体の山を見て、ついついダイキは両手を合わせた。戦場においてはそうもいかないが、それでも冷静な状態で直接人を手に駆けるのは慣れない物である。

 そして以上がダイキの防犯方法。要は暗闇に向けてハッタリをかますのだ。もし相手が今回のような馬鹿どもならば、火炎呪文で丸焼きに。

 逆に冷静なものは気づかれていたのかと思いただちにその場から立ち去る。

 このようにダイキはこのあたりに来てから幾度となく藪をつついていたが、いまだ蛇が出てきたことはなかった。


「体長がまた斥候を焼き殺したぞ!!!」

「こっちだいそげぇ!!」

「良かった無事だ。体長は今日も無事だぁ!!!」


 しかしこのハッタリにも弊害がある。

 宴会モードムードから一転、巨大な爆発音を聞いた傭兵の皆が、そこいらへ放っておいた剣を抱えて走ってくる。


「楽しいんでるのに水を差してすまんな。死体の山は俺が片付けとくから、お前らは戻って良いぞ」

「そうはいきませんよ。みんな、もう一回当たりを警戒するぞ。天幕近くまでいたんだ。まだまだ潜んでるかもしれねえ」

「お前等だいぶ酔ってるだろうが。今日は大丈夫だって言ってんだろう。それに雑兵用のトラップはしかけてるから。こういう専門家はめったにいないんだって」


 ダイキの言葉もむなしく、傭兵たちはやる気になってしまった。彼の能力は調節が利き難いのだ。辺りに響いた爆発は、全兵隊の注目の的である。

 血の気の多い連中は、一度のその心に戦いの火を入れるとなかなか元には戻らなものなのだ。それから一通り周りを巡回した兵士たちは、何を思ったか傭兵団は深夜の格闘大会を開催し、それが終わるころには日が昇っていたと言う。


 

 そうこして翌朝直美が起きると、周囲の天幕は次々と片付けられ、彼女の天幕の周りは閑散としていた。徹夜後の兵の動きは二日酔いもあってか至極のろまだが、それでも昼過ぎには片づけもだいぶ進んだ。


「まだこっちに来て間もないのか。それとも向こうじゃお姫様扱いされてたのかは知らんが、じつに遅いお目覚めだな」


 彼女の前には椅子に腰かけたダイキがいる。かれは遅めの朝食をとりながら、ずっとそこで直美を見ていたのだ。


「もしかしてずっと寝顔見てたの?」

「短気な荒くれ傭兵どもにつまみ食いされるかもしれないからな。この辺りで一番信用のおける見張りとしてと交代したんだ。マジでVIP待遇だぞ」


 そう言ってダイキは直美にパンと皮袋に入った水を投げた。


「それで昨夜の返答を聞きたい」

「うんわかってる。その制約乗ったわ。でも条件が幾つかあるの」


 この展開をダイキは予想していたようで、大して彼女の返答に驚いたそぶりも見せない。


「条件てのは?」

「まず第1に、私が元の世界に帰るとき、向こうで一生暮らせるだけの金銀財宝を持たせて。帰ったら年だけ取って無一文なんて絶対に嫌。第2にこの世界の事や、諸々の事情を私にだけは全部教えて。隠し事は無し。第三は1度だけ命令の拒否権をもらうわ。最後は……そうね、私こういう硬いパンは凄く嫌いなの。後は臭い獣の肉もあんまり好きじゃないわ。贅沢でも何でもいいから、できるだけいい生活がしたいわね」

「わかった。それくらいなら問題ない。食料には善処し、隠し事はせず、元の世界に帰るときは金銀財宝を持たせる。これでいいな?」

「あとエッチな命令禁止。これを忘れるなんて危なかったわ」


 直美はすこし赤くなりながらそう言う。


「OKOK。エッチな命令禁止。そんなこと考えてもみなかった~」


 ダイキはそう言いながら立ち上がると、直美の両手を優しく、しかし絶対に抜けないようにゆっくりと握る。


「ちょっと何すんのよ」

「だから言ってた制約の儀式始めるんだよ!黙って目を閉じろ」


 暴れようとした直美だが、そう言われては仕方なく、そのままゆっくりと目を閉じる。


「制約呪文開始。――――それで以上。これらの制約を破りし者は、神々の罰を受け死に至る。汝相違ないな?」

「……?」

「OKなら相違ないって言え」

「そ、相違ない!」


 これ思って制約の完了とする。そう言ったダイキは一瞬迷うと、もう一瞬迷って躊躇ってから、直美の顔に自分の顔を近づけ、そっと彼女の唇にキスをした。


「ハウッ!!!!」


 またしても直美の悲鳴は声にならない。そのままキスは続くこと10秒。嫌がろうにも手は塞がれていて、足には鎖が絡まっている。


「ぷっは~終了終了おつかれさん」


 ゆっくりと唇を離したダイキは、そう言って顔を合わせようとしない。その顔は先程の直美のように真っ赤になっている。


「もうなにすんのよ!?するならするって言ってよ!!」

「仕方ないだろ!元々はこれは結婚する男女用の奴の改悪版らしいんだ。キスぐらい我慢しろ」

「あああああもう。ファーストキスどうすんのよ!!」


 その後どうなだめすかしても、直美の複雑な感情の爆発は収まらないようで。半泣きの状態で鎖を引き千切らんばかりに暴れる為にダイキはその場から退散した。

 そして急いで天幕を出たダイキは目の前に誰かが立っているのにも気付かず、そのままぶつかりそうになる。


「冷静沈着を心掛けてるんじゃないのか?随分と恐ろしいな」

「いや、女の涙には弱いのが男の常ってもんだな」


 ダイキがぶつかりそうになったのは、整った目鼻立ちと、強いまなざしの金髪の美女、マキナ団長だった。


「まさか泣かせたのか。女の捕虜を売春宿に売り飛ばしたりするやつがか?」


 制約をした。ダイキはそれだけを言う。この場合の言い訳は虚しいと前回の失敗からよく理解していた。


「そうか。あのことも制約をしたのか。きっと私と同じ文言ではないんだろうな重婚野郎。まあ詮索はせんが、ここは先輩が説得してやろうかな」


 そう言ってマキナは入れ違いに天幕へと向かう。


「お前に言ってることは全部言っていい。適当にここのルールを教えてやってくれ。撤収の指揮は俺が引き継ぐからよ」


 マキナはその言葉を背中に受けて、そのまま天幕へと入っていた。

 彼女はダイキを気遣い、ダイキは気遣う。戦場での緻密な連携は、平時においてはまるで仲睦まじい夫婦のようであった。


読んでくれた人ありがとうなり。序章は今回で終わり、次回より本格的にこの世界の話をします。その過程でダイキのこれまでのいきさつも描かれるはずです。

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