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本編②の8「貴族、そして二人の道」

「ここはご飯がすごく美味です。やっぱり材料って大事なのですね」


 午後の紅茶(に似た何か)を嗜みながら、直美はそう人心地つく。


「それは結構。それにしても君の教えてくれたこのティーと言うのは中々深い物だね。同じ草でも産地によって味が変わるのか」


 凝り性のギール伯爵がコーヒーのような物を飲んでいるのをみて、試に直美が言ってみたところ、彼にはこの飲料の方が適したらしい。


「ところで君は考えてくれたかね?勿論魔法学を専門に研究する学校への入学の話だ」


 ギール伯爵はそう言うと、直美は意を決して頷いた。


「はい私もその魔法学校で学びたいと思います。ですが、私には今稼ぐ手立てがありません。まずは学費を天体と思うのですが」

「その点に関しては問題ない。魔法に秀でた者なら特待制度があるからね。向こうで扱いは一研究員の物と同じになるので、こっちより幾分格が落ちるが、研究室で飢え死にしないようにはなっているよ」


 そう言ってギールが笑うと、直美もほっとしてい様子。彼女自身も大樹も一文無しと言う点がずっと気にかかっていたが、芸は身を助けるのは此処でも同じらしかった。


「それはよかったです。それで、大樹の方なんですが……」

「大樹君かね?彼はどうするのかな~」


 そう言ってギール伯爵が紅茶のおかわりを自分のグラスに注ぎ込むと同時に、昨日と同じくまたもやノックをせずに扉が大きな音を立てて開くと、彼の娘の一人、ロレーヌが入ってくる。


「お父様!!決めました。大樹を一緒に連れてゆきます!」


 そう言って彼女は大樹をひっつかんでいる。


「行くってどこにだい?」

「決まっていますわ!私と共に王立幹部学院へですわ!!」


 そう言うと、ギール伯爵が注いでいる途中の紅茶をこぼした。


「うぉっと!って王立学院は無理だろう。あそこは国家の将官や貴族、大商人の跡取りが学ぶ場だぞ?」

「だから、そこなら彼の力を十分に!!」


 そう言って大樹は依然白めでぐったりとしている。


「大樹?大丈夫なの?」


 直美がそう言うと、大樹は我に返ったように起き出して、直美とギール伯爵の顔を交互に見ると、急いで姿勢を正す。どうやら寝ぼけているらしかった。


「大樹君。君はロレーヌの言っていることを理解しているのかね?」

「え!?いや、初耳です」

「は~そうか。だろうね。君は王立の学院で貴族や王族、豪商や重鎮の跡取りと一緒にこの国を担って行くための勉学がしたいのかね?」


 そう言うと、大樹は考えるまでもなく首を縦に振った。


「慈悲お願いしたいです!」


 ギール伯爵が椅子からずり落ちると同時に、ロレーヌがしてやったりと言う顔をして。


「ほーらお父様、言った通りでしょう」

「まあしかしだな。まずあそこへ入るには家柄がいるぞ?」


 そう言うと、ロレーヌはギールの部屋一番上。丁度彼の机の真後ろに掲げられた、複雑な木々を示す家紋のような紋章を指差した。


「これで!!」

「いやいや。お前それは無理だろう」

「では教員にでもなればよろしいわ!」


 教員と言うと、ギール伯爵は首を横に振って立ち上がり、ロレーヌにの頭を軽く叩く。


「無茶を言うんじゃない。あの偏屈教師どもの仲間入りなんて無理に決まっとるだろう!?」


 そう言うと、ギールはとても嫌そうな顔をする。


「そう言えばお父様は学院がお嫌いでしたわね」

「当たり前だろう。私は学者が向いている。王族の派閥やなんやで悩まされるのはごめんだ」


 苦い記憶があるのだろう。ギール伯爵は自分の部屋の窓を開けると、そのまま浮遊魔法を使ってフラフラと言ってしまった。


「まあお父様ったら逃げ出すのね。せいぜい帰ってくる前に良い答えを考えてくださいまし!!」


 そう言ってロレーヌは部屋の窓を閉めてしまう。

 その一部始終を見ていた直美は、少しだけ青い顔をして大樹をみる。大樹もその一連のロレーヌの行動に度肝を抜かれているようだった。


「ロレーヌさん。少し大樹と話たいのですが、よろしいですか?」

「ええよろしくてよ。部屋はこのままこの部屋を使うといいわ」


 ロレーヌはそう言うと、自分の仕事は終わったとでも言いたそうな顔でそそくさと部屋を出て行った。

 彼女の足音が遠ざかってゆくのを聞き届けてから、直美はすぐそばにあった椅子に座り直すと、大樹の尋問を開始する。


「ねえ大樹。あなた彼女に何したの?」

「なんにも。元居た世界のお話をなんとなくボカシて話しただけだ」


 そう言うと、直美は標的を変える。


「キュウちゃん!!出て来て」


 そう言うと、大樹の能力の象徴たるタブレットが異空間から飛び出してきて、宙に浮いたまま顔文字と共にキュウの声が響く。


「な~に?」

「キュウちゃん。あなたこの世界ちょっとおかしいわよ。いくらこの世界が剣と魔法のファンタジー世界でも、こう当て続けにこんなこと起こるはずがないでしょう?」

「たしかに。マキナみたいに偶々村の娘が兵士で美人なのはまあ偶然の範囲内としてもあり得ない事も無い。でも、昨日のアレ。悪漢から貴族の娘を救い出して、それで名家と仲良くなるのはやりすぎだろ?」


 そう言葉にしてみると、この一連の動きはもはや様式美の一つである。パンを加えた女子高生が、道の反対側から走ってきた主人公とぶつかり、そしてパンツが見えてキャーエッチからの、実は転校生でしたのアレと同じ部類だろう。


「あ~そ~。やっぱり」

「「やっぱり!?」」

「ごめんなさいね。でも仕方ないのよ。神様の領域の話で難しいから割愛するけどね。要は今は神様の力でじゃなくて、私の力で大樹を守っているわけ」

「それはどういう意味だ?」

「そうね~神様のご加護ってあるでしょ。あれエルちゃん大好きなうちの神様はすっごく強い神様。私は下っ端。下っ端だから加護の加減もいい加減だし加減が利きにくいの」


 キュウがそう言うと、タブレットが冷や汗をかく。


「でね。私ってば生前はあんまりモテなかったくせして、異性愛を司る女神様なわけよ~」

「おいおい初耳だぞ?」

「だって聞かなかったでしょあんた。あんたら私が事務のお姉ちゃんだとでも思ってたの?こんなややこしいし失敗できない業務引き受けるのに。それとも何。同性愛の神様の方が良かった~?あんたの周りをあんたの事大好きな汗臭いおっさんで埋めてやろうか~?」


 そんな怖いことを言いながら、そう言うと、タブレットはいくつかの文章を写しだす。

 なんとなくだがキュウの素の人格が垣間見えているようだ。


~大樹の今の異性吸引率六六〇%~


 その数値は、上下数パーセントの動きがあるものの、660%あたりをうろうろとしている。


「これがあんたの今のモテ度よ。因みに前は二五〇から三五〇程度だったけど、そんな微妙な数位にするのは難しいのよ。で、まあそのせいであんたの周りには女性が増えてるわけ」

「こんな茶番みたいなことあっていのか?お前達がそういう風に好きにできるなら、さっさとエルを助けろよ!!」


 そう言うと、タブレットが大樹の額を思い切り叩く。


「してもらってる分際でふざけんじゃないわよ!!私達は全知全能の神様じゃないの。そんな者はいやしない。私にはそう言う流れを作り出す事しかできないのよ。何しでかすかはあんた等の勝手よ」


 そう言うとタブレットは消えた。


「だ、そうだ」

「――――まあよかったんじゃない?大樹モテモテワールドなんでしょ。私も気をつける事にするわ」


 そう言って直美は何か考えながら部屋を出る。その場には大樹だけが取り残された。


「なあキュウ。それでなんだけど……」


 大樹は一人で再びキュウに話しかける。機嫌が悪いのは解っていたが、それでもこれだけは話しておかなければならないと思う所があるらしい。


「なによ。まあ私からも話さないといけないこと有ったの思い出したからいいけど」

「じゃあそれから先でいいから」

「フン、あまいいわ。初めに言うと、あんたの能力いくつか制限されるから」

「ええええ!?」


 そう言われた大樹は思わず聞き返す。タブレットに書かれた奇跡のような力がなければ、大樹はただのガキである。剣で戦う事も魔法も出来なければ、どうやってエルを助け出すかもわからなくなってしまうだろう。


「そんな馬鹿な!?」

「うるさい。話は最後まで聞いて。何も能力が無くなるわけじゃないわ。今まで見たいにずっと使えないだけ」

「具体的には?」

「そうね。これを見て」


 タブレットの画面が変わり、文字が浮かび上がる。

 内容としては前回のレベルアップに加え、仕様が変わっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ウィークリーギフト下位互換版


この度マイナーチェンジされました以下の能力は、制限が付きます。


「身体能力強化(可変)」……通常使用で一時間。ただし全力仕様で半分の時間になる代わりに、倍の出力を出せます。(体の負担大)


「毒耐性(最強)」……変化なし


「変化魔法(LV2→5)」……変化が自由になりました。ただし剣サイズで一日5回まで。


「付与魔法」……使用不能。


その他

制約魔法……使用不能


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おいおい。付与魔法と制約魔法は何で使えないんだ?」

「私とは分野が違うの。私に付与や制約魔法なんてあんたに彫刻作らせるのと同じよ。無理無理。才能完全になし」

「じゃあ逆に変化魔法は得意なんだな」

「よく分かってるじゃない」


 大樹は頭を捻った。能力が無くなれば、それだけ活躍の場も狭まり、可能な手段も限られる。特に今回は身体強化が限られたのと、付与魔法が無くなったのがきついのだろう。


「わかった。で、俺からのお願いなんだが」

「何?」

「あれだ、ズルさせてくれ!」

「は~?」


 タブレットから怪訝な声が聞こえる。


「だからズル。インターネット!」

「インターネット?」

「そう、元居た世界の知識があればこっちでもなんとかなる。だから少しでいいからネットで検索かけさせえくれ」


 そう言うと、タブレットは少しの間かたまった。

 このゆとり世代が~などと言う叱咤の声がきこえるだろうかと、大樹は本当の所はあまり期待しないでいたが、キュウの声は意外にも良い物だった。


「ある程度制限があるけどいい?」

「……どんなもんかによる」

「ほかの能力が使えなくなるわ。そうね、具体的には毒耐性以外の全部が、使用した日の日が変わるまでかな?」

 インターネットが使えると言うだけで、大樹の未来は幾分明るくなった。

 その知識をこちらの王侯貴族相手にひけらかせば、或は教師にでもなれるかもしれない。


「それって24時間とかじゃなくて、日を跨いだらリセットなんだな」

「そうね。このタブレットの時計機能で1200ちょうどにリセットとしましょう」

「なんていうか随分融通が利くな」


 大樹がそう言うと、矢や言葉に詰まったのち、キュウがバツが悪そうに小さな声で答える。


「最近ぐうたらしてたらインターネット系列の加護が出来るようになりまして……ね」

「それっていつからぐうたらしてたんだよ…………」

「うーん。500年ぐらい?」


 そう言うと、タブレットは恥ずかしそうに真っ赤になりながら消えた。

 ともかくひとまずは、大樹達のおおまかな未来が決まりそうである。


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