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本編②の5「手続き、そして初仕事」

 王都と言うからには、その規模は町や村の比ではない。大樹はそのデルタベンケルの主要都市の、その正門を見たときは、その余りの巨大さと規模の大きさに感動する事しかできなかった。正門の前でただ立ち尽くすと言う、いかにも田舎者がしそうなポーズをとって、大樹と直美はその眼前の風景に呑まれる。


「すっげえな。俺は大阪の街を見慣れてるつもりだったが、こりゃすげえや」


 大樹は思わずそう言うと、直美もそれを肯定する。


「東京、というかあっちの町づくりとは根本的に何かが違うわね……」


 そう言って直美はあたりをもう一度見回す。

 すると、彼女の目にはこのデルタベンケル正門前は彼女の視界いっぱいに広がる。それでなくても観光名所のようなもので、ギリシャ的な芸術的装飾や、大きな正門にかかる巨大な黒い大鷲の国旗は、正しく畏怖と栄光を象徴するようである。その中をまるで大樹たちが元の世界に戻ったのかと思うほどの大量の人間が闊歩しているのである。


「おい、そこでとまんなよ田舎者」


 ロオリにそう言われて初めて二人は正門の光景から目を離すと、彼らの視界に再びロオリがうつる。彼はここ数日のたびにかかった賃金を大樹からせしめていたが、どうに帰りたそうにしていた。


「まったく初めて通二人とも。やんごとなき身分はどうした?」

「あ、あれだ。なにもデルタベンケルの大物とは言ってないだろう?」

「じゃあ敵国の重鎮を亡命させてるとでもいうのか?」

「まあお前にはいえんな」


 大樹がそう言ってごまかすと、しょうがないと言った風にロオリは正門の脇にある詰所へ駆け寄ると、中の門番と少し話して戻ってくる。


「ここから少し歩いたところに登録場所があるからな。そこでお前らは仮住民登録をしてもらうぞ」

「住民にしてくれるの?」


 直美がそう聞くと、更に怪しいと言った顔でロオリが言いなおす。


「仮といっただろ。あんたの身分にゃこの際聞かねえがな。あんまり世間知らずだと詐欺に遭うぞ」


 俺がいてよかったなと続けながら、ロオリを先頭に三人は登録所と呼ばれる場所へ向かう。


「ここの奥のカウンターで、登録してもらえ。それが終わったら俺とはお別れだ」


 そう言ってロオリは登録所の前にある階段に座り込む。


「じゃあいくか」


 そう言って大樹達が刀っ麓所の中に入ると、その中にはいくつかの椅子とカウンターがあり、その中では各椅子ごとに何人かの列が出来ていた。


「並ぶのね。なんか公務員ちっくね」


 直美がそう言ったように、この施設はとても機械的な流れ作業を行う場でだった。

 二人ともせきにつくと、カウンター越しに座る担当者が右腕を出せと言い。手を出すとそこに刻印のような魔法をかける。その刻印は一瞬だけ大樹たちの目に緑色の文字列に移ったが、次の瞬間にはその印は肌に溶けて行った。


「これ以降あなたデルタベンケル仮市民の称号の名のもとに行動します。あなたはデルタベンケル法によって裁かれ、一定期間内の収益の一部を含むベンケル税を支払う事により、またはハイ終わり次の人」


 担当者がそう言うと、大樹の座っていた場所にまた次の人が座る。


「なんか機械的だったな」


 大樹がそう言うと、ロオリは階段から立ち上がって二人を見比べる。


「じゃあ俺の仕事は此処までね。やんごとなき人によろしく~」


 そう言ってロオリはそのまま帰ろうとする。


「まってくれ。せめて何処に何がるかくらい教えてくれよ!」

「いやだね。おれは関所の門番だ。観光案内は仕事じゃない」

「追加で金払うからさ~」


 そう言って大樹がロオリの肩に触れようとすると、そのままロオリは彼の手をまるで見えてるかのように避けると、そのまま振り返らずに立ち去った。


「なによ~」


 直美はそういって地団太を踏むが、それでもロオリは振り返らない。


「そう怒るなよ。多分こっちじゃそう言うもんなんだろ」


 今更文化の違いには驚かないと言う気概で、大樹は改めて周りを見渡し。そこにある物を分析しようとする。これは異文化異世界で生き残るために大樹がおぼえた鉄則である。

 大樹はまず目の前の登録所周りに立ち並ぶ露店に目を向ける。露店は一定の規則的な配分によって各自好きな物を売っており、それを庶民たちが自由に商売をしている。


「おい見ろよ。この国は楽市楽座らしいぞ」

「楽市楽座ってあの信長の?」


 楽市楽座とは、かつて日本の織田信長がかつて自国の領土において行った政策である。その名前がさすように、この露店に格式ばった雰囲気はなく、本当に何を売ろうが自由の様である。


「国って言ったらもっとこう格式ばったイメージがあったがな」

「まあ私達の知ってるのに近い方がいいわ」


 そう二人が話していると、一人の男が近寄って来た。その気配を感じ取って大樹は目の端でずっとその男を追っていたが、ついにそいつは自分たちの前まで来ると、ちょっとオニイサンとでも言いたげに手を振りながら、彼らの目の前に躍り出る。


「ちょっとにいさんねんさん。あんあたら見たところここはじめてだね?」


 見るからに怪しい金色のネックレス。にやりと笑ったその歯もまた金色である。


「あんたは?」

「俺?おれはこの辺りである商売をしてる男さ。名をヒューイックってんだ」


 そう言って男は直美の胸に下品なその視線を向けるが、直美は幸いにして気づいてはいなかった。


「で、なんのようだ?」

「ようって程の事は無いんだがな。ちょっと二人にいい話があってさ。ほら、こいつを見てくれ」


 そういってこの胡散臭いヒューイックは、勿体なげに持っていたカバンから、一つの置物を取り出すと、大樹達にその安っぽい笑顔を振りまく。


「これはとある職人が作ったもんなんだが、この中にはちょっとした細工がしてあってな。中に大事なブツが入ってる」

「それで?」

「このブツを今から言う場所に運んだら、ちょっとばかり報がもらえるって寸法さ~」


 どこの世界にもこういった人種は存在するようで、いかにもな解りやすい嘘をはき、何も知らぬ田舎者を、体の良い運び屋に仕立てる輩だ。

 おそらくは大樹達が登録所を出るまでの間、その成れない雰囲気を見て仕掛けてきたのだろう。


「大丈夫なのソレ?」

「決して非合法の物ではないと約束しまさぁな」


 満面の笑顔は、時としてこの上なく怪しく映る事を、この男は知らないのだろう。

 しかし大樹は大樹で、そのブツとやらを受け取ろうとする。


「え?受け取るの?」

「まあ見てろって……」


 大樹は直美に小声でそう言うと、ヒューイックの目の前に手を指し出す。


「やる。で、前金くれないのか?」

「前金だ~?」

「だって渡す先の奴が怖い人だったら嫌だもんな~」


 さすがに今の段階で事を荒立てる事は得策ではないと、わずかに表情に出しながらヒューイックは思案したが、その鞄の中から、小さな袋を取り出すと、それを大樹に向かって投げた。


「そのまま逃げたらギルドが容赦しないぞ……?」


 ギルド。組合。やはりこの世界にも、大きな国にはそう言った組織があるのだと、実戦で覚えてゆく主義が身についた大樹は考えながら、分かった分かったと頷いて、ブツを掴むとそのまま直美と一緒に行こうとする。

 するとヒューイックは直美の前に立ちはだかった。


「やっぱり怖いな。怖い怖い。あんたに持ち逃げされたら俺が主人に怒られるからな。この嬢ちゃんはここで俺と居てもらおうか」


 そう言われた直美は大樹と一瞬目を合わせる。


「ノープロブレム。ユーキャプチャーヒム」


 大樹がそう言うと、直美は仕方なくその場にとどまった。


「今なんて言ったんだ?」

「祖国の言葉で挨拶みたいなもんさ」


 そう言って大樹はヒューイックに示された場所へと足を進める。

 それ当時に、彼の後を付ける影を二つも見つけたが、大樹は何も気にしないと言った風で前へと進む。

 そして目的地へと近づいた頃。細い裏路地を通り過ぎようかと言う時に、彼の目的の者達はやってきた。


「おい。お前止まれ」


 通りを過ぎたあたりで元の世界で大樹の命を狙っていたのと同じ類の人間が、大樹の行く手を阻む。


「あんあたらは?」

「ここで道はおしまいだ。何の様か知らないがな」

「ブツを持っている」

「ブツ?」


 男達に大樹がヒューイックから預かった物を見せると、男達は大笑いする。


「馬鹿が。それはただのガラクタだ」

「お前の女は今頃俺たちの仲間が連れ去ったって寸法よ」

「そうだ育ち過ぎた男の奴隷は売れんからな」


 そういった男達の一人、その中でも一番巨漢の男の指が、大樹の投げた一輪の花で切断される。正確には大樹が持った瞬間は一輪の花だったが、その花は巨漢の目の前で鋭利なナイフに変わり、そのまま巨漢の指を落としたのである。


「こいつ魔法使いだ!」

「逃げろ!!」


 指のあった場所から鮮血を吹き出し、暴れる巨漢を担いで、残りの二人は大急ぎでその場を離れる。


「そうか。今の感じからすると、魔法使える奴は相違ない感じか。今から考えればそう難恁麼使ってなかったもんな~」


 大樹は一人納得すると、投げたナイフを拾ってから再び元の一輪の花に変えて、元来た道を引き返す。

 あとは直美が上手くやってくれれば、何とかなるはずだと考えながら。

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