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本編②の3「別れ、そしてデルタベンケルへ」

 それからの大樹の動きは、恐らく彼が今までで一番頭を悩ませただろう。

 彼はこの世界へ来た最初から一文無しの世間知らずだったのは当然として、村と傭兵団と言う集団に属する事で、一応は食べてこれたものの。今の大樹の周りには何もなかった。傭兵団は、故郷をなくしたことで、行き場を失た。マキナは良く頑張っているが、もう直ぐ空中分解するだろう。

 来た道を変える間、大樹はずっとそのことを考えていた。

 合流した後の事を考えると心が重かったが、それでもその時はやってきて、傭兵団と合流した時には、数々の絶叫と涙が暴れまわった。


「そんな馬鹿な!!」

「どいてくれ!!家族がいるんだ!!!」


 そう言って暴れ出す傭兵達を鎮めるのは、容易なことではない。

 実際にその一件の後、大樹たちが近くの廃村に陣取って会議をする頃には、何人かの部下がいつの間にか消えていた。


「どうしよか……私は暫く古参の傭兵の中から数人と一緒に、つてで他の傭兵団に厄介になろうと思っている」


 マキナがそう言いだした時に、大樹は本格体に危機感を覚えた。

 今まで隊長と呼ばれ親しんでくれた傭兵達も、飯を食えねばどうしようもないのだ。

 そして次の日、マキナの解散宣下と共に、彼らは渋々ながらも次の傭兵団を探し、方々へ散ってゆく。

 そして元よりアルスターの一件より、目減りしていた傭兵団も、彼女がそう言った日の夜には本当に無くなっていた。


「では、取り敢えずは10年後のエルの救出には付き合ってくれるのか?」


 昼ごろになると、残ったのは大樹にやマキナ・直美など、事情を話せる者達だけとなる。

 いわゆる現代風の戦術的な破天荒さを持つ、勇者殺しの大樹やこの傭兵団を慕って、何人もの傭兵がこの場所に残っていたが、無理矢理大樹たちは解散を命令したのだ。


「私達は協力するつもりだ。でもやっぱり今は明日の食い扶持だな。先立つ金が少しもない。村が焼けたなら貯蓄はゼロだからな」


 そう言ってマキナは林檎を齧っている。


「私は大樹に従うわ」

「たしかに直美は俺と一緒に来たほうがいいだろうな。聞いた限りじゃこの世界の通貨すら知らなそうだし」


 そう言って大樹は直美に数枚のコインが入った袋を投げる。


「問題です。この通貨はそれぞれ大体どれくらいの価値があるでしょう?」


 直美が通貨を見ると、その通貨は金や銀、銅や鉄製のものもあった。彼女はその中でも一番金色の輝きが大きい物を探し出すと、大樹に差し出す。


「これ?違うの?」

「違うな。これはこの辺りじゃクズでパンも買えない。いわゆる敵性貨幣だ」


 そう言って大樹は直美に近づくと、袋の中から黒い金属性の硬貨を取り出す。それは地味な配色ながら、その表面には複雑な龍の文様が描かれており、持った感じもずしりと重い。


「これが俺たちが今から行く国の硬貨で一番価値がある奴だ」

「おいおい。大樹たちは鉄鋼都市へ、あのデルタベンケルへ行くつもりか?」


 マキナは思わず林檎を取り落した。汚れた食べかけの林檎を服で拭きながら、彼女はダイキに詰め寄る。


「あんな都会で何するつもりだ?」

「まだ明確には決まっていないが、取り敢えずは軍人にでもなろうと思う」

「傭兵はいやなのか……」


 そう軍人。それは家柄に関係なく、自身の功績次第では政治面でも有力な地位を築くことのできる唯一無二の一獲千金の大逆転を絵にかいたような手段である。


「なんでその鉄鋼都市?にいくの?」

「あそこは産業が充実してるらしいし、中世ヨーロッパみたいな貴族制の政治をやってるらしいから、色々権力者の融通が利きやすいと思ってな」


 中世ヨーロッパと言われても、マキナには何の事だかわからない。しかし直美にはそれで十分すぎる程事情が呑み込めた。

 事前に大樹が説明された内容が正しいとすれば、デルタベンケルは軍事が充実した国家だということもある。他の国は擬似的な連邦制であったり、宗教色が強かったりするため、そういう場では、大樹のようなイレギュラーな存在は許容されないことが多いのであろう。


「そこで現代知識ひけらかして無双するのね?」

「そういうことだな」

「じゃあ決まりだ。私は今から地形の都合上、アテリアまでは一緒だが、それからは各自別行動だ」


 そう言って大樹たちは馬に自分の装備を括りつけ始める。

 そして大樹たちはデルタベンケルまで。マキナはアテリアまでの道を進む。道中は特にめぼしい会話など交わさなかった。それから大樹たちは約一週間かけて、各地で起こるクーデターの残党狩り、それにここぞとばかりに湧き出した野盗や追剥を避けて通り、時には皆殺しにして道を進んだ。それは国境近になるまで続き、直美などは随分と疲弊しているようだ。

 そして別れ際。もう直ぐ3人の分かれ道と言う所で、ふとマキナは立ち止まると、大樹の方を振り返った。彼女は何やらやる気の目をしている。


「大樹。いきなりだが私は今まで計算でお前と話していた。許してくれ」

「おいおい。いきなりなんだ?制約までしてもう後戻りはできないぞ?」

「いや、それなんだ。制約の呪文について、言ってなかった事がある」


 馬の練習時のあれや、その後の制約までが偽りだったのか。大樹は急に不安になった。しかし、その後のマキナの言葉に、大樹は更に心臓が高鳴る。無論悪い意味で。


「制約の呪文は教戒系の魔術でな、一度制約を結ぶと、制約者以外の性交渉が出来なくなる」


 そういって、マキナは大樹から顔をそむけた。


「えええええ!!!」


 そういって驚いたのは、大樹ではなく直美だった。


「直美も本当にすまない……ついこの前思い出したんだ。軽率だった」


 そう言いいながらもマキナは二人の方へ振り返らない。それは彼女の顔がこれ以上ない程真っ赤だったことに関係しているだろう。


「具体的には……具体的には事に及ぼうとすると、その……死ぬらしい」

「なんでそんな事黙ってたのよ!!」


 直美のつい夕もごもっともである。そう言いたげに、涙目になりながら、マキナは謝り続ける。


「制約の呪文を思い出した時にはなんていい方法だと思ったんだ。この呪文は丁度100年前にこの村に伝わった魔術で、男女交際の際に簡単便利で評判だったって聞いて……」

「で?俺に教えた後に制約に気付いたと?」

「そうだ……」


 マキナの頭からは湯気が上がるようだ。


「じゃあ俺に色々してきたのは……」

「責任を取ろうかと……」


 マキナがそう言った時、丁度道が分かれ道になっている場所にたどり着いた。

 当たりの森はその場所を境に深くなっており、この場所から直線の道を通ると女神のアテリアへとたどり着き、逆に道を剃れて森の中を行くと、山脈の傍を通りデルタベンケルへといく事が出来る。


「とっとにかくそう言う事だ。責任は取る!!取るさ!でも今はまだ……だ。だから、だからお前も遊んでないでエルを助ける手を考えろよ!!」


 マキナはそう言って馬を蹴ると、一気に加速してその場から見えなくなった。それは彼女の、精いっぱいの照れ隠しなのだろう。


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