本編14「決闘、納得がいかない」
その後、大樹は過去に教会騎士団側に居た人物にに、一通の書簡を持たせて敵陣へと放った。彼らならば相手方の場所を知っている事だろう。
「村長からの手紙だ。俺は果たし状持って来た使者だ」
そう言って教官と言われた老兵士と、その奥にいる教会騎士団の幹部に手紙を渡す。
大樹は使者と言えば着られないのではないかと考えての事で、この男は一切の部位を身に着けていない。これは昔見た三国志かなにかで見た光景を思い出したと言う、単なる思い付きでの命令だ。しかし、大樹は裏切者の命は軽いと考える。
それが例え計算高い外道の行為であっても、一番大事なのはマキナの命を第一に考えての事だ。
「この者を切れ」
「しかし閣下。使者を殺すのは世界盟約違反です」
使者を外で一旦待たせ、その間に幹部騎士と教官が話し合っている。
「しるか。こんな田舎の神狩りが戦争行為である物か。お前はかつての部下が切りたくないだけだろう?」
「……それもありますが、こやつを切っては相手を刺激します。ここは一騎打ちに乗ったふりをして、その間に村に攻め込むべきです」
「そうか。向こうは一番お手練れを送ってくるだろうからな。その間に奇襲をかければ勝てる」
「いかにも。こちらからは私が向かいます」
「わかった。我々はその間奇襲の準備といこう」
そう言うと、幹部騎士は席を立ち、使者に対面する。
「よろしい。お前の勇気と村人の考えを組んで、一騎打ちを認証しよう」
「ありがとうございます。それでは言った通り、西の草原にて、自国は今日の夕時」
そう言うと、使者は大汗をかいて逃げて行った。この瞬間が、彼にとって今までで一番の死地であった事だろう。
「それでは私も準備がありますので」
「わかった。相手の首は持って来いよ。その首を持ってお前を上級騎士にしてやるからな」
「はい、ありがたき幸せです……」
そう言って教官は準備えと取り掛かる。しかしそれは準備とは名ばかりの、死に装束への着替えであった。
その後、大樹は傭兵団と別れ、一人マキナの教官との決闘に向かう。手には先ほどの剣を携え、腰には隠し武器が一つ。
「おう、お前を待っておったよ」
「待たせてすまなかったな」
大樹は決闘にうってつけ、傭兵団の者達が口々に言っていた、丁度辺りの見晴らしの良い、殺風景な草原にたっている。
教官の後ろでは、薄いローブの上から縛られて目隠しをされたマキナが彼女の馬と一緒に座っていた。
「決闘の作法は分かるか小僧?」
「決闘に作法なんてあるのか?正々堂々か?」
「いや違う。戦士同士の戦いでは、勝った方が必ずとどめを刺すのだ。正々堂々などは、お坊ちゃまの童貞騎士様が信じていればよい」
そう言って教官は剣を抜く。その剣は既に他人の血を吸っているようで、その剣は赤黒い何かに濡れていた。
「わかった。じゃあ始めようとしよう」
対する大樹も剣を抜いた。しかし大樹は最初から剣で戦う気はない。プロボクサーとわざわざ殴り合いする馬鹿はいないのだ。
「今から魔法を使うが、悪く思うなよ」
そう言って大樹は構えると、その剣を顔の線から話すと、昨日やったのと同じ要領で火炎を吐こうとする。
「デロッ!!」
大樹の口からまたもや放たれた赤茶けた液体は、放射状に教官の体に迫る。
しかし教官はその体を捻ると、それを紙一重で躱し、そのまま一気に教理を詰める。この大樹は、この急速に距離を縮めるこの技は、技術ではなく魔法であることに気付いた。
「引火する事をお忘れなく!」
大樹は周囲の火炎を草むらに引火させ、一気に周囲は火の海となる。マキナは数位が日に囲まれたことを肌で感じる。
そして教官は大樹に近づき、自分御間合いまで距離を詰めると、渾身の刺突攻撃を加える。
「ジェアー!!」
彼の年からは考えられない、精魂の籠った掛け声とともに、その切っ先は高速でだ期に迫る。しかし、彼の剣速よりも、大樹の攻撃は速かった。何故ならば彼の攻撃は音速を超えていたのだ。
パン。その乾いた音は、教官が自分の攻撃が確実に決まったと感じた瞬間、彼の左目に怪我をした時と同じ、どうしようもない熱さを感じさせた。
それでも彼の攻撃は慣性の法則に従って、大樹の左胸を突き刺すはずだったが、彼の攻撃は空を切る。
手に持ったデリンジャーと言う型の二連式小型拳銃の引き金を引くと同時に、大樹の放った弾が命中した、教官の左目の方向に横跳びしたのだ。
「グッ!?」
教官は空振りした感覚と共に、突如機能しなくなった自分の左目を手で覆う。すると、今度は彼の鎧に何かが当たる感覚がした。
「チクショウ外れたか!」
大樹が放った二発目の弾丸は明後日の方向にそれた。それは彼の撃った口径の弾では、教官の来ていた軽装甲の鎧すら貫通しない事を証明している。
「なにやら隠し玉を持っているようだな。次はどんな手品を魅せてくれるんだ?」
「いいや残念ながらこれが最後だ」
その次の瞬間、教官は火炎の巻き起こる音に混じって、幾本もの矢が放たれる音を聞いた。その音は火炎を垂直に切り進み、教官の体に突き刺さる。
「伏兵か!?」
火炎の外では大樹の指示によって傭兵団が弓を放っていた。彼らの横には手足を縛られたままのマキナが保護されている。
「上手くやったな小僧」
「いいや。あんたはきっと使者が来た時点で、アルスターが失敗した事を知っていたんだろ。いや、まず俺たちの存在が知れた時点で直ぐ行動に移さなかったことから考えると……」
「フッ。下手に勘ぐるな。負ける側についた奴が悪いのは、いつの世も同じよ」
そう言って崩れ落ちる教官に、大樹はゆっくりと近づく。
教官は既に剣を取り落しており、火が回っている事からも、意識が朦朧といるようである。
「お前の慈悲はいらん。私は名も知れぬ一人の教官として死ぬ事を望む」
「卑怯な手を使って負けたんだぞ。恨み言の一つも聞いてやるよ」
そう言って大樹が、教官にとどめを刺そうとすると、まるでそれを待っていたかのように、教官は唇を無理矢理引き上げる。
「小僧。若いの。お前は冷徹になりきれてないぞ……こういう場合はな。トドメも後方の弓矢に任せるんだ。劇やおとぎ話のようなカッコいいトドメは大きな隙だぞ?」
そう言うと、教官は腰に取り付けてあった小さな投げナイフを大樹に向けて投げた。彼の筋力は十分にナイフに伝わりはしなかったが、それでも大樹の方には飛んできた。
「往生際が悪い!」
大樹はそれを避ける為に一瞬意識をナイフに集中すると、直後に大きな力に体が引っ張られ、火炎の向こうへと吹き飛ばされた。吹き飛ばされる中、咄嗟に大樹が教官を見ると、彼は無理に立ち上がって、そして大樹の方を向いている。そして、大樹が炎の向こうに飛んで行ったのを確認したのち、彼の体はその細胞の一つ一つが爆発し、跡形もなく消えた。
「ぐあああああ!?」
大樹はそのまま草原に叩きつけられる。あまりに短い間の出来事に、大樹の脳味噌は何が起こったのか直ぐには理解できなかった。
「大丈夫か~?」
そう言ってノルドやジークの部下たちが駆け寄ってきて初めて、大樹は自分の勝利を確信した。
「ダイキ!!」
保護されていたマキナが、大樹の元へ駆け寄ってくる。
「教官は?」
「ああ、死んだ」
自分が殺したとは、大樹はどうしても言えなかった。
「いや、いいんだ。村を裏切った責任を取ったんだから」
その言葉に大樹は心が痛んだ。彼の言動からすれば、彼は今回の沙汰がどうなるのか知っていた風である。そう、彼は大樹が居なければ、大樹に成り代わって、教戒騎士団の幹部を最高のタイミングで殺していた事だろう。
「それで村はどうなったんだ?」
「村か。それはまた後で話すよ。兎に角村へ帰ろう。教会騎士団の方は、ノルドとジークが何とかしてるはずだ」
「そんなにうまくいったのか?」
「ああ。こっちはとっても上手くいった。むこうもきっと同じだろう」




