本編13「儀式、アルスターの誤算」
「これより告罪を受け付ける。今この場でエレオノーラ様に告罪を行う勇気のある物は前へ出よ。これは最後の機会である!!」
大樹は委縮した村人と傭兵団の前で声を震わせた。今この場において、の大樹の声は神の言葉と同義であるとすらいえる。周囲のざわつきは傭兵団の方が大きい。
「う、俺は。俺は……」
「いったい何を……」
ここまでできれば、群集は今や大樹とエルの虜である。
すると押しの弱そうな傭兵の一人が、群集の中から一歩前へ出る。
「俺……いや、私は罪を犯しました!」
随分と心の中で躊躇ったのだろう。その傭兵は目から大粒の涙をためている。
「私は、エレオノーラ様を教戒、教会騎士団に売らないかという誘惑に乗ってしまいました!!」
その言葉のあと、再び静寂が訪れる。村長もその展開は予測していなかったようで、目を見開いて絶句している。
「お前は一番先に告罪を行った。それは勇気ある行動である。エレオノーラ様を蔑ろにしたお前の罪は重いが、その勇気に免じて、以下の罰を下す!!」
「はっはひッ!!」
この気の弱そうな傭兵の前に、大樹はゆっくりと近づくと、その傭兵の腰に掛かった剣に触れる。
「フレーミングフラワー!」
大樹がそう叫ぶと、剣全体が大きな光を発すると、瞬時に大きな赤い花に変貌する。
「魔術、いや奇跡だ!」
「神殿騎士様の奇跡だ!!」
周りの村人の何人かが騒ぐ。
その声を舞って大樹はさらに続ける。
「お前には罰として、傭兵としての職を奪う。今よりお前はエレオノーラ様の勇気ある神官の一人だ!」
そう言って大樹は剣を花に帰られた、元傭兵の肩を叩いた。
「ふざけるんじゃない!!!」
ここで神官たちが拍手をすると、周りの何人かが、一斉が座り込む彼の周りに立って勇気づけている。
そして、号泣する元傭兵を見ていた一人が、突如群集を割って大樹前に踊りでた。
「アレスターさん。貴方も告罪ですか?」
「なにが告罪だと!?」
「告罪ではないと?」
わざとらしく大樹がアレスターに指差すと、劇場に駆られたのか、アレスターは剣を抜く。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!!」
アレスターの剣撃は鋭い太刀筋も合間って、高速で大樹の内臓を刺し貫こうとする。
しかし、大樹の周りの袋を被ったジーク改め、神官達が盾となって立ちはだかる。
「邪魔をするな!!」
そう言ってアルスターは剣を振り上げようとするが、目の前の男達を見て動きが止まる。
「お前等はジーク。それにノルドか?」
「今は違う。俺たちに知れないよう上手くやってたつもりらしいが、詰めが甘かったな」
ノルドとほか数人が一気にアルスターに詰め寄ると、遠方では弓が構えられる。
「クソが。どうしろってんだ?このままだといずれそこの化け物はもっとヤバイ奴らに目をつけられる。だから処理使用たとしただけだろうが!俺は村の為を思ってやったんだ!!」
「お前がそう思おうと、どうしようと、儂らの目には裏切りにしか映らんよ。残念だアルスター坊や」
村長の口調からアルスターはこの幼いころからこの村に居たのだろう。しかし彼は容赦なく傭兵団によって縛られる。
「もう少しだっただろうが。残念だったな。傭兵団に裏切者がいるって時点で、主要人物は全員的だと思ってたよ」
大樹はアルスターに小声でそう言う。この時のアルスターの顔を表現できないほどに醜くゆがんでいたが、なにも大樹も嫌がらせをしたわけではない。挑発である。
「ここで、おまえは処刑させてもらうよ……」
そう言って大樹が更に鎌をかけると、アルスターは恨みがましい目で大樹を睨む。
そこで話が終わればよかったが、それだけでは済まなかった。
「みんな動くな!!」
アルスターに皆が気を取られている隙に、リンダがネーアに近づいていた。彼女は手に短剣を持つと、その切っ先をネーアの首元に向けている。
「アルスターの縄を解け。私達を自由にしろ!」
「リンダ。お前……」
信じられないと言った顔の村長。しかし反対に大樹は一層冷静であった。なにせ彼は彼女に媚薬の類の強烈な毒を盛られたのだ。今になってみると不自然すぎる。
彼女を見るたびに、大樹はハニートラップの恐怖を感じながら、それでも余裕ぶって彼女を見据えると、交渉のテーブルに着いた。
「で、話はそれだけか?お前たち二人を自由にすれば、ネーアは解放すると?」
「ええ。貴方達が追ってこなければ、この子は村のはずれで開放するわ」
「ああそう」
大樹はそう言って剣を捨てる。それに従ったように、周りの人間も武器を捨て、アルスターの縄を切った。
「助かったよリンダ」
「いいのよ。いつかはこうなると思ってたから」
解き放たれたアルスターは、リンダの口に熱いキスを交わす。
それを見た村長は失神した。
「そんな。リンダとアルスターが」
「禁忌だ……」
村人が口々にそう言うのを気にせず、二人は一通りやらかすと、近くの馬に二人乗りをすると、ネーアを突き飛ばす。
「じゃあな田舎者ども。俺は今から教戒騎士団だ!」
そう言った後。それが彼らの最後だった。
その後、二人は村を出た瞬間、馬の荷袋に入っていた爆発物の爆発の熱に呑まれ、その体ごと爆発四散する。その光景は、あえて村人に見せなかったのは、大樹の配慮だ。
大樹の仕掛けた爆弾は、何もその場所だけではなかったのだ。大樹の体に巻きる付けられていた大量の爆弾の一部。その中でも手榴弾の形をしたものが、アルスター達の乗った馬の鞍につけられていた。
爆発は簡単な仕掛けで、細い紐が馬の留め具と爆発ピンが繋がっていたのだろう。
「ネーア大丈夫か?」
「ええ。でも向こうで爆発音が……」
「それなら心配ない。あれは……あれは後で俺と傭兵団が片付けておくよ」
そう言うと、ネーアも何かを悟ったのか、小さくうなずいて群集に戻っていった。
「それだけじゃないよ。まだ終わっていないんだ」
大樹は寂しそうにそう言う。まさかリンダは敵方とはわかっていたが、それがアルスターと恋仲だとまでは予想していなかった。やっと結ばれた二人を、無残に爆殺した事に対して、彼の胸は鈍痛を感じている。
「おい、皆。まだ教戒騎士団が残っているぞ。少数の騎士など我々で蹴散らしてやろう!!」
「おおおおおお!!!!」
先程の事がまるで白昼夢であったかのように、何事もないといった表情を作って、大樹は村人と傭兵に語りかける。彼らからしてもこの顛末は衝撃以外の何物でもなかったが、それでも強引なリーダーシップにはこの手に人々は弱いと、大樹は今までの観察から知っていた。
「まずはマキナの救出だ。今や村長の血をひく者は彼女しかいない」
「しかし、彼女を人質にエレオノーラ様を渡せと言われたらどうする?」
覆面の一人、大柄なノルドが大樹に近づくと、耳にそう囁く。
「大丈夫だ。それも考えている」
「どうするんだ?」
「まあいくつか策はあるが、まずは一騎打ちだな」
この国にも一騎打ちの文化はあるらしく、ノルドはそれを聞くとそれ以上は聞いてこなかった。




