異世界1「異界異形の生物の挽歌」
ここは異界。大樹の居る場所とは異なるもう一つの世界。大樹の元居た場所とも違う世界。
この世界ではいま、真の闘争を求め進化してきた種族が、今まさに己の持てるすべての武力を持って、連合軍を破った瞬間だった。敵陣は破砕され跡形もなく、死体の山が各地で燃え上がっている。その中には男も女も関係はない。
「大佐!ヘルゲ大佐殿!!」
あたりの臭いは死臭どころではなく、素面ではそのまま口で呼吸できない。ガスマスクらしき何かを付けた人型の生物、恐らくはこの戦争で勝った側の兵隊が、その燃え尽き爛れた戦場で人を探していた。
「ああ、大佐殿そんな所におられたのですね」
その兵隊はとある死体の山で芋を焼いている男の前で立ち止まると、そう言って優しそうに声をかける。その男はこの悪臭の前にガスマスクもつけず、素顔素面のままで戦場を跋扈する。その大胆不敵さから付いたあだ名が蹂躙大佐。この男こそ、今この軍で最も強く残忍な大隊を指揮する立場の者だ。
「なんだ騒々しい。おれは殺した死体で焼いた芋が大好きなんだ。この私服の瞬間を邪魔しないでくれるかね?エリス伝令伍長」
「馬鹿なこと言わないでください。最終戦争に勝利したんですよ?その立役者たる大佐がこんな所でフェチズムを披露している暇があるとお思いで?」
そう言ってその兵士はヘルゲ大佐と呼ばれた男の肩を引っ張ろうとする。しかし大佐と呼ばれたこの男と、兵士の体格は倍の差がある。
兵士が小さいのではない。この大佐と呼ばれる男が巨大なのだ。
そしてそれだけではない。この大佐と言う男。眼帯に顔中の傷に目が行きがちだが、それ以上にその顔全体に毛が生えている。型の周りに生えた鬣のような物と合わせてみると、その姿は大樹の元居た世界で百獣の王の名で親しまれている、ライオンそのものであった。
「なにが最終戦争だ。この世界に生きる我々以外の全ての生き物を隷属させたのは心底楽しかったが、これでもう終わりだぞ。もうこれ以上大きな闘争は存在しない。いや~やってる最中は楽しくて気がつかなんだが、これはとても悲しいことだぞミレーナ曹長」
ヘルゲ大佐はそう言って心底つまらないと溜息をつくと、死体の燃える炎で炙るのを止めて、その世界で最も冒涜的な芋にかじる。
そして中身がの味を暫く舌で転がすと、不味そうに吐き出す。そして面倒くさそうに腰を叩きながら、ゆっくりとヘルゲ大佐は立ち上がる。その巨躯では何かと不便だと言わんばかりにその歩き方決して機敏ではなかったが、何千何百と言う兵士の歓声を受けるのにへっぴり腰で歩くわけにもいかず、渋々姿勢を整えると、そこには二本足で立ち上がった巨大な百獣の王が立っていた。
「じゃあ行くか。国王陛下はなんと?」
「今回の武勲により大佐は少将になるとのことです」
「そうか。私的には大佐の方が語呂がいいから好きなんだがな」
「それを国王に言える物なら言ってください」
くだらない話に聞こえるが、彼らこそ歴戦の兵士。その言葉とは裏腹に、二人とも残党兵の玉砕攻撃を警戒していた。
「覚悟ぉぉ!!」
「獅子顔に死を!!」
案の定、死体の山に隠れていた、敵兵が二人、手に長剣を構えて踊り出す。彼らはヘルゲ大佐一人に的を絞ると、彼の横腹を貫くべく突進する。
「な。でただろ。このもぐら叩きほどつまらんものもない」
話している途中で邪魔するなとばかりに、ヘルゲ大佐はエリス伍長を左手で救い上げると同時に、その足で足払いならぬ回し蹴りを食らわせようとする。
もちろんこの男の体を、長剣の攻撃でも殺し切ることは可能だろう。しかしヘルゲ大佐はこの玉砕兵の攻撃を避けようとはしなかった。彼の回し蹴りによって一人の兵は明後日の方向へ飛んでいき、全身の骨が折れて絶命した。しかしもう一人はヘルゲ大佐の懐に潜り込むと、その腹に長剣を突き刺す。
「ッグハ!?」
そう言ってやられたとばかりにヘルゲ大佐と、してやったりという顔をした玉砕兵。
しかしヘルゲ大佐は倒れようとも、血を吐こうともしなかった。
「痛かったぞ。よくやったな戦士よ。俺の傷となりお前は生き続ける」
そう言ったヘルゲ大佐は、玉砕兵の頭を掴むと、そのままそれを握りつぶす。
丁度その頃、はるか上空に投げられたエリス伍長が地面に近づき、そのまま落ちると言う所で、彼女を投げたのと同じ手が、彼女の体を柔らかく包み込んだ。
「もう、大佐!こういう事やる時は一声かけてください」
「三途の川が見えたか?そりゃよかった」
ネコ科の動物が高い所から落ちても怪我をしないように、彼女もまたいざとなればその体に備わった柔軟性の高い筋肉を稼働させ、難なく地面に着地したことだろう。
しかし彼女は大佐を信じていたため、その様な無粋な事はせず、単純に無重力飛行を楽しんだのだ。
「ではさっさと行こうか。今回の戦傷もしっかりと貰ったことだしな」
「その伝統は本当に感心しません。戦のたびに怪我をしなくてはならないなんて」
ヘルゲ大佐の異名として、傷男と言う物がある。この男は戦場に行くたびに体の何処かに傷を残し、その戦場を体に記憶すると言うのだ。
幾戦を経て傷だらけになってもまだ死なず、このように大佐職となり最前線に出る事は無くなっても、この男はいまだにそのジンクスを守っていた。
「まあ気にするなよ。もうこの傷が増える事も無いんだからな」
この後、ヘルゲ大佐は往生へと帰還し、見事ヘルゲ少将となった。
しかし彼は後日秘密裏に少将の階級を辞退し、再び大佐職に舞い戻る。彼としては、まだ戦場を捨てる事は出来なかったのだろう……
この話のダークファンタジー分




