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本編6「会議、高まる緊張」

 大樹はその後、ネーアと村長に連れれて、村長の家だと言う、その辺りでも一番大きな家へと連れられた。その家は巨大な屋根があり、中は集会場のような巨大な部屋が一つと言う、とても単純な作りになっている。

 恐らくは此処で会議などをするのだろうか。部屋の中心には長机と沢山の椅子が並んでいる。

 机の一方、暖炉の側には大きな鹿の角が掲げられており、反対側にはファルベナ傭兵団の旗が掲げられている。これは各自が座る席を現しているのだろう。


「ここでもう直ぐ夕食と非常会議が執り行われる。君はそれまで客室で休んでいなさい」


 そう言うと村長は自分御部屋に忙しそうに戻っていく。


「私も夕食の準備をしてきますので」


 ネーアも大樹を客室へと案内すると、そう言って忙しそうに消えて行った。


「一瞬で一人になってしまったわね」


 客室と言って連れてこられた部屋で、大樹が椅子に腰かけると、タブレットが浮かび上がって話しかけてきた。その声は先程と同じやる気のない声。やる気のないキュウの声である。


「ところがどっこい、あなたにプライベートなんてありませ~ん。寝てる時も○○かいてる時もいつでもこっちから丸見えで~す」

「おいおい嘘だろ!?」

「嘘じゃないわよ。まあ私はそんな汚らしいもの見る趣味は無いから安心して。少なくとも私ってば、あんたらみたいなちょっと運が良いだけの一般人よりもよっぽど存在階級が高いのよ?」


 自信たっぷりと言う風でタブレット先のから狐耳が揺れる映像が流れる。彼女が操作したのだろうか、そんな小粋な演出と共に、タブレットの画面は切り替わった。


「じゃあ今日のレベルアップ行きましょうか」

「レベルアップ?能力が増えるとか言ってた奴か?」

「そうそうそれ。まあ今回はそんな活躍してないからね。かす魔法騎士一人殺害、戦闘勝利、重要人物守護。マイナスは一般人二人死亡。合計すると、まあ2レベルアップが妥当かな。能力までは増えないわね」


 キュウは的確に今回の沙汰を読み上げる。その中には村人の死亡という、大樹にとっては耳の痛い内容も含まれていた。


「ああわかった。でも具体的にレベルアップで何が変わるんだ?」

「今回の場合は火炎放射の効率アップだけ。そんなポンポン強くなるわけないでしょ」


 手厳しい。いや当然である。


「じゃあ行くわよ。ポチッとな~」


 気の抜けた掛け声とともに、タブレットの画面から噴き出た光る鱗粉のような何かが大樹の体を包み込んだ。鱗粉はレモンのような柑橘系の臭いがし、それは一瞬で待機と混ざり合い消えて行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「火炎放射LV2」

・・・火炎放射を口から行えます。使うとお腹がすくので注意

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はいおしまい。またなんかしたら一日の終わりにでも出てくるわ。見られたくないときは先に行っといてね。じゃ~」


 そう言ってタブレットは消える。具体的に火炎放射の効率がどれくらい上がったのか。またもその様な詳しい話はせずに、キュウは消えて行った。きっと彼女にも具体的な事は知らないのだろう。

 勝手にそう解釈した大樹は、小さな溜息をついて椅子から立ち上がると、タブレットをもう一度呼ぶ。球を呼ぶのではなく、タブレットだけを呼んだのだ。

 そして改めてそのタブレットをよく見て見る事にした。タブレットには様々な項目がある。≪きゅうちゃん呼び出し(非常)≫≪現在の能力≫など、明らかに大樹の能力に関係するものから、≪電卓≫≪メモ帳≫など何処にでもありそうな昨日までそろっている。そしてどうやら電池は無くありはしないようで、電池の部分には常にマックスと汚い字で書き殴られてあった。


「ふ~ん。でも案外こういう何処にでもありそうな機能の方が役にたったりしてな。9桁×9桁とか一瞬で出来たらそれだけで金が稼げそうだ」


 そう言って次に大樹はタブレットの中からインターネットの機能を探そうとする。それがあればまさに無敵。大樹は科学関係の話はからっきしだが、ネットの見よう見まねで新技術を作りまくれば、と言う淡い願望があった。

 しかしタブレットは何処を探してもそのような機能などない。


「こんな事でキュウを呼んだらキレられるだろうな」


 そう独り言をつぶやいて大樹は大広間へと向かう。

 気が付くと部屋の外は真っ暗になっている。本当に真っ暗なのだ。この村の周りには小さな明かりが、周りの家々から微かに漏れ出るだけであり、街灯やランプなどは一切存在しないのだから、それは至極当然である。


「ああ大樹さん。今呼ぼうとしていたところなんですよ」


 調理の為か、または恥ずかしさが戻ったのか、村人と同じような服でネーアは話しかけてくる。そのあまりの雰囲気の変わり様に、大樹は一瞬彼女がだれか解らなかった。


「随分雰囲気が変わるもんだな」

「良くそう言われます。あっちの方が人気なんですけど、この服のほうが落ち着きますからね」


 そう言ってネーアは長いスカートの先をもって優雅にお辞儀した。

 この様な地味な色の服で優雅なポーズを決めると、大樹は変身前のシンデレラを連想させる。しかし彼女の服は巫女服の時よりも胸元が開いているデザインなので、彼女の豊満な体が前面に押し出されている。


(この服のデザイン考えた奴は絶対変態だ)


 そう思わず口こぼしそうになった大樹は、無理矢理ネーアの胸元から死線を引きはがして、そっぽを向きながら話を続ける。


「ところでこれからどうなるんだ?会議とか俺が出てもいいのか?それにこの世界じゃ俺はそこらの子供より世間知らずだぞ」

「たぶん大丈夫です。何か判断を仰がれるとき以外は余計な事を言わなければですが」

「じゃあ具体的な国名だけでも教えてくれ。この辺りで一番強くてデカい国、隣接国、あとは此処がどの国に属するかぐらい知っておかないと」


 何となくではあるが、大樹もこの会議に出席しなくてはならない気はしていた。しかし大樹には何の予備知識もない外国人、否、どちらかと言えば宇宙人である。

 

「わかりました。私の私見では、強くて大きい国の名は“鉄鋼のデルタベンケル”という国です。隣接国は“女神のカテリア”、そして“教戒のソルベンリーセ”。私達が所属する国は“アラージム”といいます。国王はグリース3世です」


 ネーアはグリース三世の話をした時、反射的に嫌そうな顔をする。それは先程の先頭の原因の一端が、グリース三世にあるためであろうか。


「アラージム……まあなにせ、なんだか変な事になってるってことは分かった。で、俺はどういう立ち回りをしたらいいのかもまるで分らんのだが……」

「そうですね。傭兵団の皆さんは一応は仲間ですけど、彼らにとって重要なのは、この村が四方を山に囲まれ奇襲を受けにくいと言う点と、先代からの付き合いがあるので信用できると言う点だけです。彼らには我々のように村と心中するつもりなんてありません」

「じゃあとにかく村長の意見にさんどうしつつ、何か言いたいことがあれば隙をみて言えってことだな?」


 そう大樹が言うと、ネーアは静かに頷いた。丁度その時、傭兵団の幹部達が村長宅を訪れたようで、部屋の中が一気に騒がしくなる。ファルベナ傭兵団の中でも、幹部だけがここに呼ばれたらしい。


「やあ、村長。考えはもう決まったか?」

「ああ、とにかく座ってくれ。食事を用意させている」

「でも酒は無いんだろ?まあ今は飲む気にもならんが」


 そう言って騒がしくしながら傭兵団は大樹の目の前を通り過ぎて行く。そしてその最後尾にいたアルスターが、大樹の事を見つけた。すると彼は進行方向を大樹の元へと変える。


「やあダイキ。今から会議だからお前も来いよ。此処の飯は上手いぞ」


 そう言ったアルスターは大樹と肩を組んで、半ば無理矢理に会議の場に引きずり出すと、村長の横の席に大樹を座らせた。

 大樹が見渡すと周りの人々も順々に座っていおり、それぞれの端には村長とアルスターが腰かけている。村長の横にはネーアと大樹が。アルスターの左右には古参兵らしき、体中に傷がある中年の兵士と、黒縁の眼鏡が印象的な、大樹と同じぐらいの年の青年が座っている。


「全員そろったことだし、会議を始めるとするか。議題は言うまでもなく教戒師団の奴らだ。あいつらは今までこのアラージムの地では活動していないはずだったんだがな」

「そうじゃ。儂が生まれたばかりの頃に起こった宗教戦争以来、教戒師団はこの地に入ることを追うより禁じられておる」


 そう言って重苦しい口調で始まった会議に、周りの男達の声が一斉に止んだ。


「このままじゃいずれ俺たちの留守の隙に大部隊を送り込まれることは確実だ。今回は少人数で秘密裏に進めようとしていたようだが、こうなっては向こうさんもなりふり構わないだろう」

「それではどうするんじゃ?攻勢に出るとでもいうのか?」

「まあこのままこの場所にとどまってもジリ貧だしな。それならいっそ攻撃を仕掛けて教戒師団の糞野郎どもを磔にしてやろう」

「そうだそうだ。このままじゃ安心して眠れねえ」


 会議と言ってもすることは決まっているようで、どうやらこのまま教戒師団を攻撃するようである。

 攻撃的な空気を感じ取った大樹だが、それに異を唱えるつもりはない。この世界には自分たちを守ってくれる法律など存在しないに等しい。国の軍隊がやってくるころには、自分たちは死んでいるのだ。


「新しく来た教会騎士よ。君も異論はないのか?」

「ええ。自分もこの状況で守りに入るべきではないと思います。問題はどれくらいの規模の敵が何処に居るかという事です。それが解らなければ戦略が成り立ちません」


 沢山の人間の視線に少々緊張しながらも、大樹はそう言う。すると、周りがざわついた。


「おい、今の聞いたか?」

「ああ、まるで学者様みたいだったぜ?」


 そう言う傭兵団を遮ってアルスターが大樹に質問を投げかけた。


「失礼だがダイキ。君は何処かで高等教育を受けたのか?」

「え……ええまあ。一応」

「それは素晴らしい。実は爵位まで持ってたりしないだろうな~」


 そういうと、村長が目を輝かせた。この世界では高等教育の意味が違うらしい。大樹の正式な学位は高校中退だが、まともな教育を受けることができたというだけでも相当恵まれているという事を、大樹が本当の意味で理解するのはもう少し先の話である。


「神殿騎士様が博識とは百人力じゃな。ではダイキ殿。これから我々はどうするべきだと考えておられる?」


 話は一気に大樹を中心に回り始める。当初は考えていなかった展開だ。集まる皆の視線に、大樹は思わず戸惑ったが、それでも言葉だけは自然と出てきた。

 

「まずは斥候を出しつつ村の防御を固めたらどうでしょうか。戦闘準備中に攻めれたら大変です。四方の山道全てに見張りを置いて大部隊を警戒しつつ、斥候に周囲を警戒させ、なおかつ敵の陣地を把握する、という3段階の斥候を放てばいいと思います」


 大樹の言葉はゆっくりであったが最善案であったようで、傭兵団側の人間はそれがいいと頷いている。


「それが最善手だと俺も思う。異論があるやつはいるか?」

「皆ないようじゃの」


 素早く村長とアルスターが採決を取るが、異論はひとつとしてなかった。


「いや~戦術家?戦略家っていうのか?そんな知識何処で学んだんだ?」


 アルスターは感心したようにそういう。周りに人々も気になるようで、身を乗り出して大樹のほうを覗き込む輩まで居る始末。


「いや、まあ異国の地です。自分は元は異国出身の旅人だったもので」


 この場所でさすがに異世界から飛ばされたといえば、周囲からの信用を失うだろう。そう考えた大樹は適当に話を作りながら話す。


「そう、東の果てとも思える場所から旅をしてきました。この土地に関することはあまり知らないんで、その辺りはよろしくおねがいします」


 なんだか自己紹介みたいだと、大樹が言ったそばから考えていると、ふと自分の背中に柔らかい感触の何かが抱き着いてきた。


「うわぁ!?」

「もう、そんなに驚かないでくださいまし」


 そう言われて大樹が振り向くと、長い髪が彼の顔にかかる。その髪を思わず振りほどくと、目の前にはネーアと同じタイプの煽情的な服を着た、髪の長い女性が立っていた。


「こらリンダ!今会議中だと言っておっただろうが!!」


 村長の怒鳴り声に対して、ふざけたように舌を出すと、大樹の首に腕をからめながらリンダと言われた女性は楽しそうに笑う。


「おじい様。この方がネーアを救ってくれた神殿騎士様なんでしょ?それだけでも凄いのに、先程の話し方はまるで異国の軍師のようでしたわね」

「おいおいリンダ。今みんな仕事中だ。ちょっと向こうへ行ってろよ」

「なによアルスター。貴方よりもこの人のほうが強いかもしれないのよ?村一番の称号が泣いていてよ?それにこれからするのは細かいお金の相談とかでしょう?そんな面倒話にダイキ様を付き合わすべきではないわ」


 そう言いながらもリンダは自分の体を大樹に押し当てる。


「まあそう言われればそうだな。ダイキ殿も慣れない戦闘で疲れていることだろうし、後は俺たちに任せてくれてもいいぞ」

「解ってるじゃないアルスター」


 そういうとリンダは大樹の腕を引っ張って、大部屋から立ち去ろうとする。

 村長もリンダの言うことに一応は納得したのか、そのままその場を離れることを許した。


「今日は客間で寝るんでしたよね?」


 そういって大樹は部屋の外へつれられる。すれ違いざまにネーアの冷たい視線を浴びた気がしたが、大樹はそのまま会議を後にしてしまった。彼は女性の誘惑には強い方ではないのだ。

本筋に向かっています。これから一悶着後に、冒頭部分に戻ります。

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