短気
コップ1つなんて、すぐに洗い終わる。
お母さんの方を見たけど、まだ話せる状態じゃないみたい。
どうしようかと考えている時に、居間のドアが開いてお父さんが入ってきた。
「あれ?いつ帰ってきたん?」
「今に決まっているやろ。玄関入ってすぐに『ただいま』言ったけど返事がなかった」
不機嫌な顔で言われたよ。
「え、全然聞こえんかった・・・お帰りなさい」
「どうしたんや?」
私の言葉には応じず、居間で横になっているお母さんを見つけると、すぐに聞かれた。
「薬の副作用でしんどいねんて、時間がたてば治るらしいけど」
「ふーん、大変やな」
それだけ言うと椅子に座り、夕刊を読みながら
「風呂沸かしてくれ」
とだけ言う。
お母さんがしんどくても、心配している様子は見当たらない。
仕方がなく、しぶしぶお風呂を沸かしに行く。
・・・と言っても浴槽の栓をして、スイッチ1つ押せば済むんだけどね。
なんか納得できへんな
台所へ戻ると、お父さんが座っている椅子の前に座り、聞いてみることにした。
「なあ、お母さんがしんどそうにしているの見て、心配じゃないん?」
新聞から目線を逸らさずに
「薬の副作用で、しんどいかもしれへんけど、時間がたてば治るんやろ?じゃあ、問題ないやんか」
淡々と言われた。
そりゃ、そうやけどさ何だかな~
私がムスッとしているのが分かったらしく、新聞を読むのを止め顔を上げて
「なんやねん、何か言いたいことがあるんなら、ハッキリ言い!」
怒鳴られた。
「別になんもないわ」
「じゃあ、なんでそんな顔をしてんねん気分悪い!」
それだけ言うと、新聞を置いて居間を出て行ってしまう。
何で怒鳴られなあかんねん。
1人でブツブツ文句を言っていると、お母さんが私の方を見ずに、目を閉じて息切れしながら教えてくれる。
「由真、仕事で疲れて帰ってきたお父さんは機嫌が悪いで、ちょっとでも自分が気に入らんかったら、さっきみたいに怒鳴るから気を付けや。それとな空腹の時や、眠たいのに邪魔されて寝れない時も機嫌が悪くなるからな」
私が知らなかったことを教えてくれて、驚く。
「そうなん?」
「そうやで、1度怒鳴られた後は、話し掛けられるまで黙っとくのが1番やから。お風呂入って、ご飯食べたら、さっきまで機嫌が悪かったのが嘘みたいによくなるからな」
「へ~ じゃあ、お父さんさっき居間出て行ったけど、どこ行ったんかも分かるん?」
「トイレやろ。お風呂入る前は必ずトイレに行くからな」
そう言われて、目を閉じると・・・ 確かに、必ずお風呂入る前にトイレに行く姿が思い出される。
「お母さん、さすがやな」
感心してうなずいてると
「結婚して10年以上たっているから、これぐらいのこと分からなかったら、大変やからな」
「でも、お母さん腹が立てへんの?」
「そんなことで、いちいち腹立っていたらきりが無い」
それだけ言うと、目を閉じたままやったけど、お母さんは少し笑った。




