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二人は神の力を 無色の緋  作者: 夕雲 橙
本文~現代
9/28

七 謎卦

 もし空色みたいな女の子がいたら……どうでしょう、自分はとりあえず関わらないようにします。見ている分にはいいですが、疲れそうです。


 この章まで読んで頂いて有難うございます。


 ニヤリと不敵に笑った空色が、ピリッと絆創膏を剥がす。

「まさか絆創膏が剥がせないなんて、小さな子供でもあるまいし。私に手を出すと、そうね……1.5~30倍程度でお返し。辛さに例えると並で済まないわ、口から火を噴く激辛よ。燃え尽きるわ!」


「ほー、良く分からんが、とりあえず同等以上でお返しだな。で、鏡と消す物を持っていたら貸してくれ。何て書いたんだよ」

 腰に手を当てた空色が、細長く柔らかそうな人差し指をビシッと指す。

「あなたにふさわしい単語よ! 当たったら消してあげるね、幸いにもマニュキュア用の肌に優しい除光液があるから」

「こらこら、それって準備良すぎ。

 本気でいたぶるの慣れてない。何だか俺、友達になったの後悔してきた」

「そうだね、後悔は後からするものだよ。だけど、当たれば消すからそんなに酷くはないよ」

「おいおい…絶対に屈辱的な行為をさせて、言葉を幾つも言わせたいだけだろ」

「あ、あのね、読まれてた。てへっ」

「俺に可愛くしたって効果無い、じゃあ消せ」

「嫌だよ、絶対に当てて欲しいんだから」

「しかたない、こうなったら除光液を作って……出来るか?」

 先だって武器を造り出したのと同じく、除光液を取り出そうとした。

 しかし、御裏は自分の顔に掛ける薬品を間違えた場合を考え、リスクの高さに躊躇した。


 透明な液体の入った小瓶を創り、首を振って手の中の小瓶を消した御裏に、空色が興味深々で尋ねる。

「今のも、手品じゃないよね?」

「まあな」

「聞いていいの? 他人が聞いて、失礼にならない?」

「ヒリン、一言言っておく。お前はすでに失礼を言っている。後でどうやって出すか教えるからさ、額の字を消してよ。どうせ肉とか書いたんだろ」


 空色が唇を尖らせ、斜め上を向いて指を振る。

「ブッブー」

「ブッブーじゃねえよ、楽しそうで腹が立つ」

「冷静になりなよ。簡単だよ、さっき私達が話した事だよ」

「ケダモノか、何て単語をこの女!」

「ブッブー」

「またかよ! それむかつくから止めて」



 それから御裏は思いつくままに単語を並べるが、見事に全て外した。

 思い余って顔を赤くして恥らうような言葉まで言い、外した御裏が悔しさに遊具のトンネルに頭を突っ込んで何か叫ぶ。

「ねえ、もう暗くなってきたよ……そろそろ答え言おうか」

 公園のベンチに腰掛け、夕暮れの空を見上げた空色が除光液とハンカチを取り出す。

 腕を組み公園をうろうろして、真摯な表情で答えを考えていた御裏が拒んだ。

「いや、まだだ! あと少し待て、さっきのは惜しかったんだな。一文字だな!」

 小枝で砂に書いた単語が、公園の端から端までずらりと並ぶ。

 最も手前の単語『人』の字を眺めながら、御裏はまるでドラマの探偵が推理するように、ぶつぶつと呟く。

「答えは難しいようで、実は単純だ。犯人は私の目を欺くために、あえて身近な言葉を選んだに違いない……真実は一つだ」

「ヒントまだ聞きたい?」

「いや、それを聞いてしまえば解けるだろうが、聞いてしまったという後悔は確実に残りそうだ。もう少し、もう少し考えさせてくれ」

「いいよ、命だから、時間がかかるのはしかたないよ。もう下校時間過ぎたね」

 公園の前を、同じ制服を着た生徒達が通り過ぎる。

「また馬鹿にしやがって。もし答えを当てたら、恥ずかしい格好で拭かせてやる」

「……いいから早く当ててよ」

 熱中し過ぎて時間が経つのを忘れた御裏が、額の字が汗で半ば消えかけているのに気が付かず、小枝で天を指す。

「わかった、命だ! 俺の名前書いただろう。自分の名前が意味無く書かれるのって、結構恥ずかしいぞ。お前が好きそうな嫌がらせだ」


「ブッブー」

「あああああ!」

 悔しくて髪を振り乱す御裏の後ろ姿を見ながら、空色が桃色の唇に小さな笑みを浮かべた。御裏をすっかり気に入った、むしろ懐いた空色が、ぴょんとベンチから立ち上がる。

「あのね、もう答え言うね。私、そろそろ帰らないと」

「うううう……おぉ! 気づけば夕方、どうしてこんなに時間が経つのが早い。まさか、また異常な歪みが」

「いやいや、あんたね……そんな性格だから、あんな力持っていても、周りが変になっても耐えられるのね」

 腕を組んで夕焼けを見上げる御裏の傍に立った空色が、小声で答えを教える。

「友だよ、友達の友」

「む?」

 にこりと笑う空色の顔を、怪訝そうに御裏が見返す。

「だから、消して帰ろうよ」

「嫌だ」

 ティッシュと除光液を取り出した空色から、じりじりと御裏が離れる。

「負けて悔しいのはあるかもしれないけどさ、私の悪戯の跡を残されるのも困るのよね。家族に、こんな女がいたって、落書きされた事だけ言われそうだし」

「俺をそんな騙されやすく小さい奴と思うな。友って書いたって言ったな」

「そうだよ」

 額を片手で押さえた御裏が、距離を取って叫ぶ。

「ヒリン、お前がそんな優しい字を書くとは思えない。家に帰って鏡で確認してから消す。嘘だったら明日、学校でお前のどこかに悪戯書きしてやる」

「小学生並の低いレベルな仕返し、おまけに嫉妬深い」

「だから今日は去る。お前、何組だ?」

「2組」

「では明日、首を洗って待ってろ」


 空色がにこりと笑って手を振りながら教えてあげた。

「命、やっぱり頭悪い。鏡くらい作れないの」

「……作れる」

「携帯持ってるよね、自分を撮れば分かったと思うけど」

「……あるよ、携帯」

「実は書いた直後から、それ思っていたんだけど。それを見越して私が嘘を言うと思う?」  

「……ヒリンは計算高そうだからなー、言わないな」

「結論として、命は自分が馬鹿で、ケダモノだと認めますか」

「せめて馬鹿だけにしろ」

「しろ? お願いするときは?」

「……く、くっ、下さい!」

「よくできまちたー、えらいぞー」

 空色がパチパチと手を叩き、御裏の頭を撫でる。


 御裏は不機嫌そうに見返す。

「お前、ぜったいいつか、その性格で痛い目みるぞ。顔がいいのに、性格最悪」

「そうなの、性格が困った人なの」

「否定しないのかよ」

「反対に命はスタイル良くて、顔も割とかわいいのに、単純でだまし易いよね。だけど友達だって思ったのは本当なんだけどな、私の事嫌い?」

「嫌いとかいう問題じゃねえ、ここまできたら敵だ。俺の視界から消えろ」

「ふぅ」

 空色がくるりと後ろを向く。

 夕焼けに照らされて、その後姿は絵巻物の一部のように輝いて見えた。

 何着ても似合いそうだけど、こいつは着物が一番いい、絶対そうだ。

 全く関係無い事を考えていた御裏の耳に、鼻水を啜り上げる音が聞こえた。

「おい、お前泣いてないか」

「ばーか、泣きまねだよ。私がそんな女と思ったの、ばーか」

 そう言うなり、空色が鞄を手にスタスタと公園から出て行く。

「お、おい」

「悪かったわ、さよなら」

 返事も待たず立ち去る空色の後ろ姿に、ぎこちなく手を上げた御裏が小さく声を掛た。

「さ、さよなら……ヒリン?」 


 薄暗い夜道を、瞼を赤くした空色が無言で歩く。

 黒い革靴の先を見つめながら歩き、時折上を見上げてため息を吐く。

「私、駄目な奴だな」


御裏は口が悪いです。

登場人物が騒いでいるお話です。

読了ありがとうございます、ご意見ご感想はどんなものでもお待ちしています。


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