表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人は神の力を 無色の緋  作者: 夕雲 橙
本文~現代
8/28

六 落書

 前章からこの章まで会話メインです。

 二人の性格を察して、優しい目で見守ってあげて下さい。


 これからも、このお話をよろしくお願いします。

 空色が首を傾ける、肩から腰まで覆う黒髪が滝のように流れ包み込み、白い肌に映える赤い唇が何かを噛んだような表情をした。

 動かない御裏をじーっと、黒い瞳で見つめる。

 色気がある瞳と表情は、まるで獲物を狙う猫のようだ。

「ね、いつまで寝転んでるの。どう足掻いても結果は、命の怒られ損だよ」


 御裏は額に皺を寄せて睨み、チィと舌打ちしてふて寝をする。

「いや、怒ったのと俺が落ち込んだのもお前の……はぁ、もういい」

「ほら、立ったら。そんな短い制服で土の上に寝ていたら、砂が入って下着まで土だらけになっちゃうよ。あ、ちゃんとシート敷いてる」

 御裏の体の下には、半透明のビニールシートがいつの間にか敷かれていた。

「服は必要御以上に汚さないっての……だけど。だけど、実はちょっと嬉しかった」

「ふーん、いじられてMに目覚めたの。少しは人間らしくなったって言っていいのかな」

「まったく、チクチクといつまでも。あのな、今日この状態で、まともに会話出来る人間がいたの久しぶりでさぁ」

 土の上で両手を伸ばした御裏が、首だけ曲げて空色を見つめる。

 してやった、細い足を両手で抱え、得意げに空色が笑う。

「抑えてるから見えないよ、御裏Mさん」

「イニシャルと掛けてるのか、上手いな……頼む、少しでいいから俺にまともな会話させろ。今、続けて言ったらすごーく感動する話だったぞ」

「ふーん、残念だったわ、惜しかったわ。とは思わないけど、どうぞ」

「むかつく、顔がいいのが残念。もういいや」

「うわぁー、最高の褒め言葉だわ。私嬉しい!」



 御裏は口喧嘩してもしかたないと、眉間を指で抑え反対側を向いて語る。

「あ、あのなー…………いいやもう! 

 俺も自分だけが、一人だけが、あんな世界の中で違うんじゃないか。どう考えてもおかしいのは周りだよ、だけど誰もそれに気づかない。じゃあ、変になったのは俺か? 

 そればっかり考えてさ、だんだんと自分が異常だと思いかけていたんだ。そんな時、俺と同じく浮いているヒリンに出会えた」


「そんな……」

 空色が揃えた指で口を押え、首を振る。

「いや、そんな心配し過ぎだって思うだろ。だけどさ、ずっとあの状況に何度も会ってみろ。どっちがどっちを、ずっと答えが分からず繰り返しているんだぜ」

 御裏の訴えに、長い睫で何度も瞬きした空色が潤んだ瞳で、優しく子守唄のような声で話しかけた。

「とても自己分析が出来ているよ。自分が頭悪いの分かっているって、頭悪いのに少し驚いた。不思議だね。私が否定したいのは、今の台詞では同類にされそうな箇所だよ」

「お前俺をバカに……もういい」

 自分の手を腕枕にして不貞寝した御裏の肩を、空色が優しくゆする。

「あ、ちよっと攻撃止めるの忘れていた。ごめんね、私もつい安心しちゃって……いつもの癖で」

「ついって、いつもかよ」

 こいつ、絶対に友達少ないだろうと思った御裏が、手で顔を隠して苦笑する。

「これって、私が心を許している証拠。だから、怒ってもいいから無視しないで」

 相手するのに疲れてきた御裏が、無言で寝たふりをする。

「ごめん、本当に怒った? 命、私の事嫌いになった?」

 反応を示さない御裏の態度に、顔を曇らせた空色が離れ、ブランコに座り直す。

 暫くの間、無言でブランコを揺らしていた。鎖の軋む音だけが、空色の心の声のように悲しく、動きに合わせて揺れるように聞こえる。

「……寝る。眠たいから寝ている、喋りたくないだけだ」

 御裏が独り言のように喋った。

 

 俯いていた空色が顔を上げる、校舎で出会った時のように目の端に涙が浮かんでいた。御裏は知ってか知らずか話を続ける。

「これも独り言だぜ。俺も人前でこれ言うってのは、ある程度気を許している証拠だ」

「命……あんたが、たとえケダモノでも、女性の下着愛好家でも、ナイフ振り回す奴でも――」

 空色が寝転んでいた御裏に、内容は酷いが優しい声で話しかける。

「――私、友達になってあげてもいい」


「何それ……好きにすれば」

「うん、好きにする。

 あんたが、例え同姓の下着見て興奮する奴でも、銃マニアだとしても、超能力者だろうが地球外生命体だとしても。

 毒舌や説得や実力行使が出るかもしれないけど、それは人として当然の反応なの、条件反射、火事や事故が起きれば逃げるようなもの、本能なの嫌っていると思わないでね」

「あのなぁ、お前の中で、俺はどんな立場なんだろうか」

 寝返りを打った御裏が片膝を立て、適度に筋肉が付き引き締まった長い足の砂を払い落とした。

 海賊旗に書かれているような、黒地にピンクのデスマークが入った爪で空色を指差す。

「友達になりたかったら、まず人として扱え。それに俺はお前のパンツ見て興奮しない、少しファッション的な興味があって気になっただけだ」


 空色は御裏の肩を恐る恐る叩き、黙っていてあげるからと真剣な眼差しで問う。

「誰のだったら興奮するの」

「そりゃ……いるかよ、そこまで突っ込むとヒリンが馬鹿みたいだぜ」


 空色は余裕を見せようと長い髪を書き上げ、静かな笑みを浮かべた。

「ふ……馬鹿と言われた、やっとこれで同格。何て思わないでよ、こっちが少し合わせたんだから」

「お前、本気で俺と友達になる気あるのか? 優しい振りしたいじめっ子か?」

「真面目な話だけどね、命と話していると、目を閉じればカッコいい男の子と接しているみたいで、何故かこういう流れになっちゃって」

「口調が雑な野郎だからな」

「それでいいと思うよ、似合ってるよ」

「そうかい、それじゃお互い納得したところで。俺は黙っていいか?」

「しかたないな、私に他人の沈黙を我慢するように頼むなんて。許容量が少ない言葉が切れても、友達だからいいか。傷つくといけないから、気づかないように黙るね」

「いいかげんにしろ、無茶苦茶ばかり言いやがる。友達の為に、お前が黙れ」

 御裏は人差し指と親指で環を作り、指の隙間に浮かび上がった肌色の物体を、人差し指で弾いた。

 絆創膏、主に傷の応急手当に使われる医務用品。

 突然飛んできた絆創膏に口を塞がれ、空色は目をパチパチさせて固まる。

 その表情を見た御裏が、大笑いしながら砂の上で転げ回る。

 笑いすぎて苦しくなり、ブランコの板にもたれて咳き込んだ。

「あぁー笑った笑った」

 掠れた声で御裏が話しかける、空色は絆創膏を貼られたまま静かに御裏を見ていた。

「悪い悪い、取ってもいいぜ」

 空色が取れないというジェスチャーを手で示し、御裏が笑いすぎて苦しい脇腹を押さえて近づく。

 絆創膏に手を伸ばした御裏の額を、見えない角度から伸びた空色の手に握られた、冷たい物が何度か素早くなぞった。

 とっさに身を引いた御裏が額に手を当てる、手のひらに黒いインクの滲みが付着していた。


 手のひらに付着したインクの意味を考えていた御裏が、ハッとした顔で尋ねる。

「お前っ! まさか!」


 お疲れ様です、読んで頂きありがとうございます。

 またしても章のほとんどが会話で終わります。


 いくら思い入れがあった作品とはいえ、改めて読むと本当に偏っています。

 だからこそ自分は気に入っているのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ