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二人は神の力を 無色の緋  作者: 夕雲 橙
本文~現代
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三 遭遇

以前投稿した作品ですが、各編がやたら長いので編集しました。


 御裏は名前に聞き覚えがあった。

記憶の底を漁ると、指先にかろうじて刺々しいイメージが引っかかった。


「思い出した。お前があの有名な……名前をどう読んでいいか分からないと三年でも噂の」

「そう、学年が変わるたびに先生も初めは戸惑うの」

「二年のくせに三年の俺にため口……」

「いいじゃない、心で尊敬しているのよ」

 しれっと言いながら空色は生徒手帳を鞄に入れる。


 御裏は言わなかったが美人だという噂を聞いていた、目の前の彼女はじっと見る御裏を首を傾けて見返す。

 確かに美人と呼ばれて噂になってもおかしくない、あと何年かすればさぞいい女になるのは間違いないだろう。

 今でさえ他の生徒とは頭一つ分抜けて目立っている。

 その外見から男子生徒に人気があるが、口と行動と性格に問題ありとの噂も有名だった。

 それもあながちデタラメではなさそうだと御裏は納得した。

 さらには怖い噂も聞いたが、それはそれで目立つ者は、話のネタにされやすいだけだと聞き流していた。

「とりあえず、俺は先輩でも御裏でも呼び方は何でも」

「じゃあ、命」


 呼び捨てにされた御裏が絶句した、目を見開き、至近距離で相手を睨みつける。

「それ、下の名前だけど。俺達は今日初めて会話した仲だけど、馴れ馴れしく接近しすぎてない。それなら、お前の呼び方は緋環でいいんだな」

「できれば……」

 空色が口ごもり、言いにくそうに口をもごもごさせる。御裏が困った顔を見てにやりと笑う。

「人を仲良し友達みたいに呼んで、自分は駄目とか言おうとしたな。それは反則だな」

「いいえ、違うの……できれば……」

「あ?」

「……ロヒリンと呼んで、ね」

「分かった、ヒリン」

「ロヒリンでしょ、一文字少ない。今言ったばかりなのにもう忘れたの。三までしか数えられないの、あんた脳みそ鳥でしょ!」

「そんなに早く忘れるか! 面倒な奴だな、ロヒリンって言いにくい……そうだな、俺が納得する名前を付けてやる。空の色で緋色の環か……」

 御裏が腕を組み、空を仰いで考える。

 ここまで悩むのは、二日前の事件以来だ。

 登校前に洗った筈の服が見つからなくて、おしゃれだと自負する御裏は、学校を休むか汚れた服で行くか悩んだ。

 中間を取って、自分で作った服を着て出た。

「俺が呼ぶとしたら、空気、赤っぽい丸……透明」


 見つめすぎた空が一瞬ぼやけ、ラジオの声が聞こえた気がした。

 歪みのずれが激しくなったのを、御裏はぼんやりと感じ取った。

「色に関する字を取って、カラリン」

 空の字と環を繋げて読み、それっぽく名づけてみた。

「うーん、長考した割には微妙。判定は基準に満たなくて退場かな、優しく面白くないから画面から消えろって伝えてあげる某採点システムって素敵ね」

「要はつまらないのか、何か言い方に腹が立つ気がする……ならば……合わせてカラリンヒリン、そういう名前も出来たが」

「別人になってる、日本人じゃなさそうだよ、センスも日本人じゃないよ。私、呼ばれても返事しないから」

「まあまあ、これは冗談……ヒリンでいいな」

「決定なの?」

「短いのが好きだ、呼びやすい」

「やっぱり野獣かしら、名前を付けて私をペット扱いするなんて。ごめん、生理的にあなたのこと、ちょっと受け付けないみたい」

「……今の話で、どうしてそういう答えになるのやら。変な奴だな、自意識過剰なんじゃない」

 御裏と空色はたわいも無い話を交わしながら歩く。


 駐車禁止の標識が立つ角を曲がり、とりあえずは近くの公園にでも行って休もうという話になった。

「ああーまずった」

 不意に立ち止まった御裏が呟く。

「忘れ物? それとも人生の選択を間違えたの?」

 合わせて空色も立ち止まる。御裏は後ろを振り返り、前を振り返り、何度も道の前後を見渡す。

 御裏は空色の嫌味な突っ込みをあえて無視した。

「気づくのが遅れた、公園までやたら時間かかると思わないか」

「そうだね、人生って後悔した時はすでに遅い場合が多いいんだって。そんな気もするけど、命はまだ若いからやり直せるよ、きっと」

「慣れたらしつこいくらいに良く喋る奴だな……同じ道を延々歩いていた、これもやり直せるのか」


 御裏が道の標識を指す。赤い丸に斜め線、どこにでもある駐車禁止の標識だった。

「あれは、さっき通り過ぎた標識だ、下手な字の落書きが彫ってあったから間違いない。ここいら一体がずれたのか、今回は結構大きいな」

「私もあの標識見た、とっくに通り過ぎたよね。どうなっているの、気づかないうちに道を間違えて、ぐるっとこの辺り一周したってこと?」

「それか、俺達の認識がずれているかだな。閉じ込められたかもな」

 空色もきょとんとした顔で周囲を見渡す。

 つま先立ちで額に片手を翳すと、公園のある方角に何かを発見し、御裏の腕を叩く。

「あっ、向こうから人が来た。朝から変な事ばかりだけど、どこにも閉じ込められていないって、他の人も歩いているよ」


 ジーンズに白い半そでシャツ、耳にイヤホンを引っ掛けた若い男がポケットに両手を入れて歩いて向かってくる。

「ああ……人?」

 御裏が表情が硬くして尋ねる。御裏の目には人の形に四色の陽炎が浮かんで見えた。

 接近する男を見る御裏の目が鋭くなる。

 立ち尽くす御裏に、空色はのん気に背中をバシバシ叩き、いらない説明をする。

「ほら、男の人。人って分かる? 頭と胴体が一つで、手足は一対づつで二足歩行する生き物よ」

 春の暖かい日差しの中、濃い影を落とした若い男は同じ道を真っ直ぐに歩いてくる。

「話しかけても返事はラジオかもしれないけど、どこから来たか聞いてみるね」

 空色が声をかけようとするが、とっさに御裏がその前に出て手を広げ立ち塞がる。

「人に見えたとしても、俺の後ろに隠れろ!」

「な、なによ急に怖い声出して。知らない人に話しかけたらダメって言いたいの?」

 首をすくめて下がった空色は、御裏の右手に光るものが握られているのに気づいた。


「あ……」

 いつ取り出したのか、刃渡り二十センチ程のナイフが、陽の光を浴びて冷たく光る。

 すっと動いた御裏が握手するように手を伸ばし、真っ直ぐ歩く男に対して何気無い動きでナイフを突き出した。

 後ろで眼を見開いた空色の手から鞄が落ちる。

 若い男は真っ直ぐ前を向いたまま動きを止めた。

 イヤホンから漏れるノイズだけが、静まり返った道に広がる。

「滅しろ」

 御裏は男の腹にナイフを捻りこむように柄の部分まで突き刺していた。


読んで頂きありがとうございます。

敵がやっと登場します、次回は戦闘シーンです。


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